第12話 ラブレターの謎
大野は何から主張しようか迷ったが、ホームルームでも問題となった桂のCDから主張することにした。
「私達がホームルームの時間にした推理は瀬川君から聞いていますよね?」
「ええ」
「あなたが言うとおり、私が事件の犯人なら、どうやって私は桜井君のCDを盗んだんですか? 桜井君のCDは体育の時間、B組にあったはずですよね。B組はA組と違ってしっかりと施錠されていて、体育の時間は入れなかったはずです。この謎をどう解きますか?」
大野の言う通りである。桂のCDも盗まれたことが、事件を不可能犯罪にしている原因の一つである。しかし、その疑問に珠姫が明快な回答を打ち出す。
「それは簡単な話よ。――盗まれたCDの中で、うちの桂のCDだけは別の時間帯、つまり、もっと早く盗まれたのよ」
「……。説明してもらえますか?」
珠姫の回答に、苦々しい顔をしながら大野は説明を求めた。
「あなたは、いつも桂が体育の時間に通学鞄ごと移動することを知っていたのね。今回の事件で犯人がクラスの人間であることが露見することまでは想定の範囲内だった。もし、桂のCDを盗まなければ、犯人が女子に限定されてしまうおそれがある。そこで、桂のCDを盗むことができたら、事件の推理を大いに撹乱できるとあなたは思ったはずよ。予想通りの展開になって、さぞかし気持ちよかったでしょうね」
「何を言っているのかはわかりませんけど、私はどうやって桜井君のCDを盗んだって言うんですか?」
大野の問いに珠姫が答える。
「あなた、桂に偽のラブレターを送ったわね」
「うっ!」
「あなたは朝早く学校に来て、桂の靴箱にラブレターを入れた。『1時間目と2時間目の間の休み時間に屋上で待っています』という内容の文面だったんだっけ。呼び出す時間は不自然だったけど、大の女好きの桂なら何の疑いもなく行くでしょうね。実際に桂は行ったみたいだし。そして、桂が席を離れた隙に、桂の鞄からCDを盗んだのね。桂の席は窓際の一番奥だから窓を開け閉めする振りして、意外と簡単に盗めたでしょう。これがあなたの第一の問いに対する答えよ」
「ぐっ……」
「残ったCDを体育の時間に盗んだ。これでCDは全部盗まれたことになるわ。さすがに、10分という短い休み時間に、好きな相手を呼び出して告白するのは不自然過ぎるわ」
一つ目の大野の主張を珠姫が華麗に論破する。
「それでは、お次をどうぞ」
珠姫が大野に次の主張を言うように促す。最初の主張に対する、珠姫の発言は明らかに的を射ていた。大野としては、別の主張に移行せざるを得なかった。
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