表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【解決編】鳥籠の姫君
119/125

第25話 再会

春香に殺人という罪を背負わせてしまった翔子は、

絶望と自責の念に苛まれながら、

御堂の屋敷の入口の扉を開けた。


木で贅沢に誂えられ、厚みのある扉は、

今の翔子にはよりいっそう重たく感じられた。


ゆっくりとドアを開けると、御堂家の入口の門が見えた。


逆光の中、翔子が目を凝らしてみると、2人の人影が見えた。


捜査中の警察官だろうか、

それとも遺産相続の弁護士だろうか。


翔子が門に近づくと、

そこにはよく見知った人物が2人立っていた。


翔子は予想だにしない人物の登場に

頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


「久しぶりだな、翔子。6年ぶりか。目が少し険しくなったな」


そう話しかけた男の名は桜井桂。


高校の卒業式の日に袂を分かったはずの男だった。


「桂……君はなぜここに……」


どうやら桂は翔子がここにいることを知っていたようだ。


特に驚いた様子もなく話しかけるが、翔子はそうはいかない。


「言ってなかったな、翔子。ーー桜井は母の旧姓だ」


桂のこの発言を受け、

翔子の中では先程聞いた山本医師の話が瞬時に頭に蘇ってきた。


「旦那様に長男がいた」「長男は母親の死をきっかけに御堂家から勘当された」、

山本の発言が頭にリフレインする。


「すると君の父方の名字はまさか……」


「ああ、御堂だ。俺の本来の名前は御堂桂。

不本意ではあるが、御堂権蔵の子供だ」


「そんな馬鹿な……、そんな……、そんなことって……」


普段は無表情の翔子が久しぶりに感情を顕にして動揺した。

何という運命の徒だろうか。


私の依頼人は私を愛してくれた男の息子で、

罪を犯した少女は私を愛してくれた男の妹だった。


「何故、いまさら……ここに……、もう事件が起きて1週間も経っているんだぞ!」


翔子は何故もっと早くこなかったと責め立てるような口調で桂に問いかけた。


「すまない、非常にタイミングの悪いことに、昨日まで海外に出張していたんだ。

昨日の夕方に日本に戻り、すぐに御堂家の事件を聞き、歩を連れてここにきたのさ」


「君は……君はどこまで知っている……」


翔子はまるで自分が犯した罪が暴かれるのを恐れるかのように聞いた。


「翔子、妹が世話を掛けたな」


「そうか、君はもう真実をわかっているのか。ーー歩、君が推理したんだな」


翔子は桂の横にいた歩に次は問いかける。


「そのとおりだよ。既に新聞に公開されている情報、

そして桂から聞いた御堂権蔵氏の人となりを聞いたときに、

僕には全ての答えが見えた。


権蔵氏の本来的な性格を知り、

かつ春香ちゃんの病気も理解している桂がいたおかげで、

謎を解くのにそこまで時間が掛からなかったよ」


瀬川歩は翔子同様、高校時代から様々な事件に巻き込まれ、

翔子に勝るとも劣らない推理力を発揮し、解決に導いてきた。


歩の実績を知っている翔子が、歩の発言を疑う余地はなかった。


「自分が原因で春香に罪を犯したことだけは知られたくない」、

そんな幻想にも似た儚い希望が残っているか、翔子は確認しようとする。


「君はどこまで見えたんだ……」


「言ったはずだよ、全てだよ」


「動機についてもか……?」


「そう、いくつか予想は付いていた。


何故春香ちゃんが権蔵さんを殺したのか、

動機についてありそうな可能性を並べてみると、

候補はそこまで多くなかった。もし『父親の殺人を止めたかった』なら簡単だ、

君に相談すればいい。


ただ、彼女はそれをしなかった。

それは彼女と君の個人的な関係に理由があると思っていた」


全てを見抜いていたもうひとりの名探偵はさらに続ける。


「そして、いま確認したよ。どの予想があっていたのかと。

翔子、君の表情が何よりも僕の推理が正しい証拠だ。


『名探偵飛鳥翔子は事件を華麗に解決して屋敷を去ろうとしている』、

なのに君は全く笑っていない、

それどころか逃亡犯のように不安を抱えて怯えた表情をしている。

もはや真実は一つしかない、春香は君がいたからこそ、罪を犯したんだ」


翔子は歩が話し終わった後、桂の方を見た。


桂は笑っているわけでもなく、

怒っているわけでもなく、

ただただ真剣な表情で翔子を見ていた。


翔子が墓場まで持っていこうとした秘密が、

よりによって最も知られたくない人物、

春香の兄であり、かつ自分を好きだと言ってくれた、

ただ一人の男性に知られてしまった。


彼はいまどんな気持ちなのだろうか、

怒っているのだろうか、恨んでいるだろうか。


まるで容疑者に裁判官の判決が下される瞬間のように、

翔子は桂の言葉を待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ