第22話 御堂家の隠された秘密
春香との対決が終わった後に、すぐに翔子は屋敷を出ようとした。
これ以上この屋敷にいるのが耐えられなかった。
翔子が少ない荷物を入り口の扉を開けようとしたときに、
春香の主治医の山本さんに翔子は呼び止められた。
「翔子さん!」
普段感情を顕にしない彼女だったが、山本の声を聞き、
思わず憎しみが混められた目線で山本を睨んでしまった。
山本は翔子の表情を見て、彼女が事件の真相を知ってしまったことに気づいた。
「すべてを知ってしまったんですね……。大変申し訳ございませんでした」
山本は翔子に深く頭を下げる。
「もう……全ては手遅れだ。あんたが謝っても何も変わらない。春香が権蔵を殺した事実、そして彼女のこの先の運命は決して覆らない。あんたは選択肢を間違えた」
何故彼は春香を手伝ったのか。
春香が自分の命をたてにして、山本に言うことを聞かせたことはわかる。
ただ、私にさえ相談してくれれば、何とかできたかもしれない。
権蔵氏に計画は全て暴かれたことを伝え、
春香の治療費の金策に関しては、翔子が手伝うことができた。
翔子がこれまで解決してきた事件の依頼人の中には、
上場企業の役員や投資家もいた。
翔子に大恩がある彼らなら、翔子にいくらでも金を融通したことだろう。
とはいえ、いまさら山本にどんな恨みつらみを話しても、
何の意味もないため、翔子は無言で山本を見つめるしかなかった。
「本当に……申し訳ございませんでした」
山本にはただ謝るしかなかった。
山本も喜んで翔子に手を貸したわけではなかった。
春香に父親を殺させたことで胸が張り裂けそうだった。
言葉に詰まった山本は、
最後の最後で御堂家に隠されていたもう一つの秘密を吐いてしまった。
「ああ……、春香の兄さえ、あの方さえ屋敷にいれば……、
こんなことにはならなかったのに……」
「春香の兄だと……」
衝撃の発言に翔子は瞳孔を開き、
思わず聞き返してしまった。
「ええ、もう隠す必要はないでしょう。
実は御堂家には……、権蔵様にはご子息がいらっしゃいます」
「まさか……。初耳だぞ。
権蔵氏も春香もそいつのことは一言も言わなかった」
「御堂家でご子息の話をしないように、
旦那様が戒厳令を出されていたのです。
なにせ、ご子息は彼が中学生のときに御堂家から家出しました」
「原因はなんだ?」
「旦那様が日々奥様に辛く当たっていたためです。
いまの権蔵様は人一倍家族思いで春香様に愛情を注がれていますが、
昔はそうではなかった。
事業がうまく行かず機嫌が悪くなると、
すぐに奥様やご子息を罵り、
ときには手を出すことさえありました。
ご子息が中学生の頃、
奥様が旦那様の責め苦に耐えきれず、自殺されました。
それをきっかけにご子息は御堂家を出られました。
聡明なご子息は奥様のご両親に直訴し、
御堂の名を捨て、奥様のご両親のもとで奥様の旧姓で生きることにされました。
娘を死に追いやった権蔵様が許せなかった奥様のご両親は
喜んでご子息を受け入れました。
旦那様はご子息様の身勝手な行動を許さず、
御堂家から勘当を行い、ご子息の私物を全て捨て去り、
今後一切ご子息の話題を出すことを禁止されました」
山本は自らの罪を告白するように、御堂家の長男の存在、
そして何故長男が御堂家から消されたのかを語った。
「春香は……春香は何故一言も兄の存在に触れなかった?」
「春香様は生まれたときから特別な病院でずっと治療を受けており、
二人が会うことはほとんどありませんでした。
それにご兄弟は年齢が大変離れていました。
ご子息が中学1年生の頃、春香は3歳になったばかりでした。
彼女はご子息のことを自分の兄として認識できていませんでした。
おそらく今でも自分に兄がいることに気づいていないでしょう」
「そうか……」
御堂家の悲劇、その長男さえいれば、防げたかもしれない。
権蔵が妻を死においやったこと、長男が御堂の家を出たこと、
そのときから権蔵と春香の運命は決まっていたのかもしれない。
権蔵が春香をとても大切にしていたのは、
もちろん娘だからというのもあるが、
妻と長男を失ってしまったことへの償いだったのか。
いずれにせよ、もはや翔子には関係のないことである。
山本の話を聞き終わった翔子は無言で背を向け、
入り口のドアを開け、御堂の屋敷から出た。
しかし、屋敷を出た彼女は思いも寄らない人物と遭遇する。
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