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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【問題編】手裏剣事件
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第9話 放課後の推理

11月5日 月曜日 放課後


「――ということがあったんだよ。どう思う、たまちゃん?」


 放課後、歩、香助、桂、そして銀子は、珠姫と共に将棋探究部の部室にいた。


 銀子も歩達と同じA組であるため、先程の山田と歩の推理を聞いていた。しかし、歩が手を挙げてからはこっそり歩の写真を撮影するのに忙しくて、議論に参加しなかったらしい。歩に惚れている身として、少しで歩の勇姿を保存しておきたいようだ。


 今回の事件の純粋な部外者は、この5人の中では珠姫だけということになる。


 歩は珠姫に、本日1年A組を騒がした事件の概要と、A組で行われた議論の内容を説明した。


 ちなみに、歩が珠姫に事件について話している間、桂は銀子に今朝のラブレターの件を語って慰められようとしたが、「あっそ」と冷たく突き放されていた。銀子は基本的に歩以外には冷淡な態度をとる。


「ふーん。どおりで下の階が騒がしかったわけね。」


 こう言ったのは、将棋探究部部長にして唯一の上級生、葉月珠姫である。この五人の中では彼女だけは二年生で、教室は歩達一年生の上の階にある。


「――しかし、おかしな話だな。CDなんか割って、誰が得するんだろうな」


 桂は犯行動機について、改めて疑問を口にする。


「確かに不思議な事件だ。不可解だね。僕には犯人の動機が全くわからないよ」


「犯人は何のためにCDを砕いたのだろうか」


 桂の台詞に香助が口を挟む。


「もしかして、他のクラスの奴じゃねえか。合唱コンクールの邪魔をしようとしたとか」


「よそのクラスを妨害するほど、大層なイベントではないだろう」


「そのコンクール優勝したらなんかあったっけ?」


 歩の質問に、あるぜ! と香助は自信満々に言う。


「名誉という宝物がな……」


 香助の本気かボケかわからない発言に対して、ばしっと、珠姫が香助の頭を叩き、話を戻す。


「何をトンチンカンなこと言っているのよ、香助。――ただ、動機の線から犯人を考えるっていうのは、良いアイデアね」


「まあ、動機が何かは全くわからないけどね」


「そういえば、私はまだ知らないんだけれど、どんなCDが割られたのかしら」


「えっと、全部で4枚ですね」


 銀子が珠姫にCDの曲名を教える。


「――どれも普通のCDね。CDを壊されたくらいで、山田さんもそんなに怒らなくていいでしょうに。CDくらい、また買えばいいじゃない。それにどうせ楽曲データはパソコンに保存しているんでしょう」


「それがね、たまちゃん。山田さんのCDだけは特別だったんだよ」


「どういうこと?」


「山田さんのCDって、本人の直筆のサインが付いていたらしいんだ」


「どういうこと? 小沢豊って15年前に亡くなっているはずでしょう?」


「それがね、山田さんの父親が小沢豊の大ファンで、小沢豊が生きている間に偶然会って、その時に強引にサインをもらってきたらしいんだ」


「つまり、結構価値があるってこと?」


「そういうことだな。小沢豊はあまりサインをしない性格らしく、噂では数十万はするらしいぞ」


 珠姫の質問に香助が返事をする。


「じゃあ、そのCDを狙って事件を起こしたってことは一応考えられるわね。でも……」


 珠姫の発言の後に銀子が続く。


「CDをケースごと壊してるんだから、その線もないってことですか?」


「そうなのよね。盗んだならまだいいものの、どうして壊したのかしら」


「じゃあ、犯人はその小沢豊のサイン入りCDを狙ってた線もないってことだな」


「そうかしら、何か納得いかないわね……」


 珠姫が額に手を当てて考えこむ。


「それより、こんなことならやっぱり俺の推薦したマッスルパラダイスを持って来るべきだったぜ……。そうすれば六時間目に『皆安心しろ。こういう時のためにマッスルパラダイスを持ってきたぜ!』と、クラスの危機に颯爽と登場できたのにな」


「いや持ってきても誰も相手にしなかっただろうが」


「まあ確かにあんなに反対されたもんね……」


 桂と歩は香助につっこむが、珠姫一人だけ金曜日の放課後での出来事を知らないので、歩に事情を訊く。


「どういうこと?」


「香助も課題曲の推薦に立候補したんですよ。マッスルパラダイスで。けど、大野さんっていう女子に猛反対されちゃって」


「まあ当然の反応だな。さすがにそんな曲、掛けるわけにはいかんだろ」


「だけど、あんなに反対することないじゃねえか。俺は傷ついたぜ。大野なんて皆の前で、そんなCD掛ける価値もない! ってばっさり切り捨てやがったからな」


「それでも、香助なら持ってきて、強引に掛けそうだけどね」


 歩の指摘に香助は頬を掻きながら答える。


「それが――今朝探したんだが見つからなかったんだよ。どこ行ったのかなあ、俺のマスパラ。あれも一応会場限定のレアCDだったんだけどなあ。誰か盗ったのかなあ……」


 香助が巨体を丸めて落ち込んでいる。


「誰も欲しがらないでしょうが、そんな……」


 そんな香助に珠姫はあきれながら呟いた。


「でも、確かにあの時の大野さんの反対は意外だったね。課題曲の候補を推薦したに過ぎないんだから、適当に流しとけばいいのに」


「だな、歩。俺も驚いたぜ」


 歩の発言に桂も同意する。その巨体と誰にでも突っ掛かることから、香助は清海高校の猛獣と恐れられている。そんな猛獣に、面と向かって反論するなんて、並大抵の度胸ではできないだろう。


 話し合いの途中で、桂がふと清海高校でかつて起きた事件を思い出した。


「あっ! これってもしかして、以前起きた下着泥棒の事件と関係あるんじゃないか?」


「何だ、その事件は?」


 香助が興味深そうに、桂に訊く。


「俺達が入学する前に、この高校で下着泥棒の事件が起きたんだ。ですよね、部長?」


「確かにあったわね、そんなこと。あなた達が入学する前の事件のことをよく知っているわね」


「この前付き合い始めた上級生から聞いたもんで」


 桂は悪びれずに、にやりとしながら言う。


 唯一の上級生である珠姫が、去年起きた下着泥棒の事件の詳細を語る。


「1年前ぐらいだったかな。うちの高校で下着泥棒が女子更衣室に忍び込んで、下着を盗んだ事件が起きたわ」


「へえ。そんな事件があったんだ」


 歩は全く知らなかったせいか、声を上げて驚く。


「あれ? でも女子更衣室って、うちの高校にそんなんあったっけ?」


 歩の質問に珠姫が答える。


「知らなかったの、歩? 体育館の2階にあるのよ。うちの高校って、男子更衣室はないけど、女子更衣室だけ設置されているのよ」


「どうして女子はそこで着替えないの? 体育の時間に2クラス分の教室で男子と女子に分かれて着替えるよりも、女子は女子更衣室で着替えたほうが何かと楽だと思うけど」


「確かに」


 これには銀子も同意する。


「その通りなんだけど、その女子更衣室は部活をやっている生徒専用なのよ。バスケットボール部とかバレーボール部に所属している女子だけが使えることになっていて、通常の体育の授業の着替えでは利用されないわ」


「今回の犯人も、去年の下着泥棒と同一犯の可能性もあるんじゃねえか?」


 香助は深く考えずに、今回のCD窃盗と下着泥棒が同一犯の仕業ではないかと述べる。


「それはないわ。だって、犯人はもう逮捕されているもの。高校の近くに住んでいる中年男性だったらしいわ」


「むっ、そうか」


 香助が残念そうな素振りをするが、それほど悔しがっているようには見えない。さすがにCD泥棒と下着泥棒が同一人物とは思わなかったのだろう。


「へー、そうなんだ。でも部外者が体育館の2階にまで忍びこんだって、意外と無用心な高校なんだね、うちの高校って」


「それがきっかけで警備が強化されたのよ。被害にあった女子生徒の保護者から散々学校が叩かれたからね。今では正門や裏門に警備員が開校中ずっと用心しているでしょ。それに、学校を取り囲む壁の上にはセンサーが設置されたから、壁を乗り越えて侵入することはできないわ。下着泥棒はロープを使って壁をよじ登って学校に侵入したらしいからね」


「うーん。じゃあ今回の犯人はやっぱり内部犯の可能性が高いね。やっぱりうちのクラスにいるのかなあ」


「ちなみに、その事件が起きて、女子更衣室のロッカーは、半分鍵付きロッカーに改修されたわよ」


 体育館2階の女子更衣室には100個のロッカーが設置されているが、そのうち50個が鍵付きロッカーに現在ではなっている。


「半分ってところが、けち臭いな」


「予算の都合もあるのでしょうね」


「どっちにしろ、下着泥棒は今回の事件には関係なさそうだな」


 香助、珠姫、桂が順番に発言し、外部犯の可能性を除外する。


「そうなると、犯人は誰なんだろうね」


 歩の発言を契機に、皆が口を閉ざして考えたが、犯人の推理につながる意見を、誰も言うことができなかった。


「――ところで、私はまだCDを焼いた現場を見ていなかったわ」


 少し皆が黙りこくった後、珠姫が思い出したかのように言った。


 自分の目で見た物以外は信じないのが葉月珠姫という人間である。本人曰く、自分の目で確認しないと気が済まないらしい。


「銀子、現場の写真は撮ってる?」


「もちろん」


 銀子は父親が新聞記者ということもあり、本人も記者を目指している。そのため、珍しい出来事に遭遇すると、手持ちのカメラや携帯電話で撮影することを日々心がけている。当然、今回の事件の様子も携帯電話のカメラに収めていた。


 銀子が珠姫に携帯電話で撮影した画像を見せる。


「まずは、焼却炉に入っていたケースの写真」


「あらまあ、ひどい状態ね。ほとんど溶けてるじゃない」


 写真にはCDケースの溶けた跡らしき固体と液体の両方が混ざった物体と歌詞カードの燃えカスが写っており、これでかろうじて、CDのタイトルが判別できる程度だった。


 どうやら誰かが事務員に頼んで、トングを使って取り出してもらったところを撮影したらしい。


 写真ではケース、歌詞カードの燃えカスから四枚のCDがきっちり燃やされていることが読み取れる。


 次に、銀子は珠姫に焼却炉前に無残に砕かれ、ばら撒かれたディスクの写真を見せた。


「うわっ! 思ったより粉々じゃない!」


「でしょ?」


 そこには、板野、山田、福原、桂の四人の持ってきたディスクの破片が映っていた。


 破片は確かに見られるが、ディスクのほとんどが粉末状になっていた。


 その様は、まるでゴマをすり棒で磨り潰したようだった。といっても、完全に砕かれているわけではなく、ところどころ、砕き切れていない破片が混ざっており、それが若干ではあるが、CDの判別を容易にしている。


 写真に写っていたディスクの残骸は赤、黄、青、緑、紫とカラフルな色合いをして鮮やかだった。紫は間違いなく桂のディスクの色だろう。ケースと同様に、他の3人のCDも間違いなく破壊されていた。


「それにしても、桂のCDって粉々になっても気持ち悪いね。紫はさすがに目立つよ」


「本当だな。この紫を見てると胸がいらつくぜ」


「ほっとけ!」


 歩、香助は相変わらず桂のCDの色をからかって遊んでいたが、珠姫はその写真を見て、何かに気付いたようだ。


「ふむ。これだけディスクを粉々にするとなると、5分やそこらでは無理でしょうね」


「そうかあ? ディスクを割るだけなら、5秒で出来るぜ」


「これって単に割ったレベルではないわ。粉々っていうところがポイントよ。CDを割るのはすぐにできても、粉々にするとなると別だわ」


 そう言って珠姫は部室の棚から、一枚のDVDを取り出した。


「って俺のじゃないか!」


 その様子に、桂が思わず声を上げる。珠姫が取り出したのは桂のDVD、それもエロDVDである。ラベルにはいかにも肉感的でアダルティな女性が映っている。以前桂が部室で歩に無理やり貸そうとしていたところを、見つけた珠姫が没収したのである。


「香助、試しにこのDVDを写真のCDと同じ状態にしてみて」


「おう、いいぜ」


「ちょっと待て! お前ら人のDVDを……」


「うるさい! これしかディスクがないんだから仕方がないでしょ! 大体部室にこういうものを持って来ないでちょうだい! これは実験と同時に見せしめでもあるのよ!」


 桂が反論する前に、珠姫は香助にDVDのディスク渡し、破壊命令を出す。

「うらうらうらうらうらうらうらうら」


 香助が怒涛の勢いでディスクを殴り始めた。無駄に大きい掛け声がするだけでなく、香助が地面にディスクを置いて殴っているので、部室にはかなり音が響いている。


 瞬く間にディスクはバラバラに砕かれた。


「ほらっ、これでどうだ?」


「だめね」


「なっ!」


 ディスクは間違いなく割れているが、珠姫はまだ不十分だと言う。


「香助、私は写真のようにしてと言ったのよ。この写真は粉々になっているわ。あなたのはまだ単に割ったレベルの状態よ」


「こまけえな、どっちでもいいじゃねえか」


「私は何事も完璧にするタイプなのよ。いいからやりなさい!」


「お前は見てるだけだろうが……」


 ぶつぶつ言いながら香助はCDを再び殴りつけた。しかし、思うように粉々にならない。それもそのはずである。ディスクを割るのと粉々にするのでは話が全然違う。大根を割るのは簡単だが、大根おろしにするには摩り下ろさなければならないのと同じ理屈である。


 思うように粉末状にならないディスクに、業を煮やした香助は素手では無理だと判断し、粗方砕いた後は、部室にある将棋盤の脚の部分を使って、ぐりぐり磨り潰し始めた。


「ってそんなことに将棋盤を使わないでよ!」


 歩が慌てて、香助に注意する。将棋を指すための神聖な将棋盤をゴマすり棒のように使ってCDを磨り潰すとは何事だ。


「いいだろ、歩。これも将棋探究部の活動の一つだ。今日の活動日誌には『将棋盤でディスクを磨り潰した』とでも書いておくよ。これがうまくいけば今度ゴマもすり潰そう」


「そういう問題じゃないんだけどなあ……」


 歩の不満はさておき、香助は時間を掛けて、ようやく桂のDVDを写真のCDと同じ粉末状にまで磨り潰すことができた。


「ふう、終わったぜ。しかし、意外に手間がかかったな」


 将棋盤の脚を使っても、写真のようにするにはかなり時間がかかった。


「そうね、最初にCDを殴ってから、もう30分経っているわ」


「30分もこんな作業してたと思うと、何かやるせないな……」


 ちなみに香助が実験をしている間、歩、桂、銀子、珠姫は携帯ゲーム機で仲良く遊んでいた。きゃーとか、わーとかいう4人の楽しそうな声を聞く度、香助は何で俺がこんなことをしているんだろうと、泣きそうになった。


「――とにかく、この実験でとても重要なことがわかったわ」


「何に気付いたんだよ、こんなことで」


「まず一つ目は、写真の状態にするには少なくとも30分以上かかるということよ。もっと効率的にやる方法もあるかもしれないけど。それでも4枚のCDを粉末状にするには、30分という時間は短すぎるわ」


「そうだね。人より力の強い香助でさえ、1枚で30分も掛かったんだからね。4枚となれば、もっと時間が掛かると思う」


 珠姫の発言に歩も同意する。


「そして二つ目は、どこでCDを磨り潰したのかということよ。4枚のCDを磨り潰すとなれば、香助が将棋盤の脚を使ったように、何か道具を使ったほうが早いし、さっきの香助みたいに叩いていれば、大きな音がして、さすがに誰か気付くでしょう」


「その点も同意だな。いったいどこでやったんだろうな」


 桂はお手上げと言わんばかりに、肩をすくめながら言った。


「犯人はCDを盗んで、体育の時間ずっと磨り潰してしたってことかな」


「だけどよ、山田の推理では犯人は俺達のA組にいるんだろ。体育の時間に5分くらい抜けた奴はそれなりにいたが、30分以上抜けたやつなんて橋本くらいじゃねえか。さすがに、それだけ抜ければ、さっきのホームルームで名前が上がるだろ」


「確か女子の方でも、大野さんとか数名抜けたらしいが、皆5分程度で戻って来たらしいぜ」


「うーん、いったい犯人はどこでCDを磨り潰したのかしら……」


 推理は完全に行き詰っていた。犯人はどうやって体育の時間に4人のCDを盗み、さらにそれを粉々にして、焼却炉の前に撒くことができたのか、将棋探究部の部員はその方法が見つからなかった。


「うおおおおおお、わかんねえでマッスル!」


「落ち着いて香助! 混乱のあまり、語尾にマッスルが付いているよ!」


「どうして混乱するとマッスル口調になるのよ……」


 香助がいくら考えてもわからないので、頭を掻き毟りながら叫び始めた。


 と思いきや、何かを発見したのか、すぐに落ち着き、今度は小さな声で呟いた。


「あれ?」


 香助は、部室の隅に無造作に置かれていた、一枚のCDを発見した。


「こいつは俺のマッスルパラダイスじゃねえか! 見つからねえと思ったら、こんな場所に置きっぱなしにしていたのか!」


 香助が宝物でも見つけたように無邪気に喜んでいる。土曜日に部室で掛けたCDをそのまま忘れていたのだろう。誰も意識はしなかったが、部室の隅には、香助が持って来たCDプレーヤーとスピーカーも置きっ放しだ。


「香助、なんで持って帰らなかったのさ……」


「桂との将棋ジェンガに熱中してたら、つい忘れてたぜ」


「よく対決の理由を忘れられたね……」


 どっちの勧めるCDが優れているかを、将棋ジェンガで決めていたはずなのに、と歩は呟いたが、香助は自分のCDが見つかり、至ってご機嫌だ。


「そういや土曜は銀子いなかったな。気分転換にこいつでも聞こうぜ」


「いや別にいい」


 銀子が即答する。マッスルパラダイスの曲に一切興味がないのだろう。


「まあそういうなって、一回聞いてみ。絶対惚れるから」


「またあんたは無駄なことを……」


 珠姫の文句を聞き流し、CDプレーヤーを開いたところで香助が固まった。


「あれっ? 何か紫色のディスクが入ってんぞ」


「なんだとっ! 香助、ちょっとどけ」


 その香助の発言に何か気付いたことがあったのか、桂が香助をどかし、中に入っていたディスクを自らの目で確認する。


「これは俺のじゃねえか! でも、なんで……」


「ああ、私もよくあるわ。CDを掛けようとしてコンポに入れるんだけど、聴いた後、そのまま忘れて入れっ放しって。たまにCD取り忘れてケースだけ片付ける時があるわね」


 銀子の発言で、桂は土曜日にCDを掛けた時に、自分がディスクを取り忘れていたことに気付く。


「そうか、そういうことだったのか……。土曜日に、香助のCDプレーヤーからタンブランツのディスクを取り出すのを忘れて、ケースだけ俺は持って帰っていたのか。とにかく、ディスクだけでも無事でよかったぜ」


「不幸中の幸いってやつね」


 珠姫がディスクを発見して喜んでいる桂を見て、そう声を掛ける。


「あれっ? でもなんかおかしくない?」


 歩がそう呟いた。何だろう、この違和感。なにか重大なことを見落としている。


 確かに何かおかしい、5人はほぼ同時にそのことに気付いたが、具体的に何がおかしいかを言語化することができなかった。


 真相に一番早くたどり着いたのは、部外者という、一番遠い立場で事件を捉えていた珠姫だった。


「わかったあ!」


「えっ、たまちゃん、どうしたの?」


「わかったのよ。この事件のトリックが何もかも」


「部長、本当ですか?」


 桂が信じられないという目をして、珠姫に訊く。


「本当よ。私の推理が正しければ、この事件は今日中に解決するわ」


「誰が犯人かわかったのか?」


「おそらくだけどね。って香助、さり気なくタメ口使うな! 今日もあんた、ちょいちょい私にタメ口使っているわよ! 気を付けなさい!」


 香助の問いにも、珠姫は自信満々で答える。一応、香助が自分に敬語を使っていないことを注意するが。


 珠姫が今までの議論、そして実験のまとめとして、今回の事件を推理するうえで重要な部分を簡単に述べた。


「要するに、今回の事件のポイントは四つ。一、犯人の動機は何か、二、CDを盗んで壊すことに何の意味があったのか、三、桂のCDはどうやって盗まれたのか、四、犯人はいつ、ディスクを粉々にし、ケースと共に焼却炉へ運んだのか。この点が解決できれば必然的に犯人も見えてくるはずよ」


「もったいぶらずに教えろよ」


 全然答えがわからない香助がしびれを切らして言った。


「待ちなさい、香助」


 珠姫は香助を手で制して時計を確認した。時刻は午後5時40分を指していた。


「この時間ならまだ大丈夫そうね」


 そして珠姫は不敵な笑みを浮かべて言った。


「それでは解決編といきましょうか」

本小説は毎日22時に更新する予定です。

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