第14話 名探偵と犯人の対峙
翔子は権蔵を殺害した犯人を御堂家の屋敷の応接室に呼び出した。
自らの推理を語り犯人を篭絡する。
ここで、今回の事件の決着を付けるつもりだった。
以前、医師の山本と会話した時のように、
翔子はソファーに座り、テーブルの上に肘を乗せ、
両手を組み額に当て、
翔子は呼び出した人間が来るのを静かに待った。
そうして、僅かな時間が流れ、
ついに応接室のドアがノックされた。
翔子の呼び掛けに応じ、
その人物はドアを開け、
部屋の中に入る。
翔子は正面のソファーに座るように促し、対峙する。
「君がこの事件の真犯人だ――」
そして、いよいよ翔子はその人物の名を口にする。
「御堂春香――君が、父親の御堂権蔵を殺した」
「これはこれは、奇妙なことを仰いますね、翔子さん」
犯人と指摘されたにも関わらず、
余裕の笑みを浮かべて、
春香は翔子の目を見据える。
春香の服装は白のワンピース。
中に何かを隠せるような服装ではないことを翔子は観察し安心する。
「茶会が始まる前に、食事室を辞した私に、
どうしてポットに毒を入れて父を殺すことが出来るのでしょうか。
そもそも、毒が入れられたポットの姿さえ、
私は見る機会がなかったのですよ」
「無駄な問答をする気はない。
私は君が犯人だと確信している。
今から君が用いたトリックを推理する。
もし君が犯人で、私の推理が正しければ、
君にはあることをしてもらう」
推理小説で探偵と犯人が対峙するときのように、
春香は自分の犯行を否定する。
「これは挑戦的ですね。
私が自分の犯行を認める前に要求を出すとは……。
一応、伺いましょうか」
「動機だ。
君が犯人であること、そして君が用いたトリックについて、私は確証を得ている。
しかし、動機だけがはっきりしない。
もし私の推理が正しければ、
君は自らの犯行動機を嘘偽りなく話してくれ」
力強い声で要求する翔子に呼応するように、
春香は病弱な身体とは裏腹に
意思の込められた強い眼差しを翔子に向けて返事をする。
「――わかりました。その勝負、受けましょう」
こうして、二人が出会ってから幾度となく繰り返された推理問答、
その最後の問答が出題者と回答者が交換されて行われることとなった。
出題者は御堂春香、回答者は飛鳥翔子、
二人を運命を決する戦いが、いま静かに幕を開ける――。
「と、その前にちょっとトイレに行ってもいいか?」
「……へっ?」
緊張した場に相応しくない翔子の言葉に、
春香は思わず気の抜けた返事をする。
「いやなに、長い話になるから、
今のうちにトイレに行っておこうと思ってね。
映画を観る時には事前にトイレに行くだろ。
それと同じさ。――君も来るか?」
「私は結構です。どうぞご自由に」
「ありがとう」
翔子は悪びれる様子もなく、
悠然と応接室のドアを開けて部屋から出ていった。
春香が退屈そうに待っていると、
五分後に翔子は戻ってきた。
「待たせてすまなかった。
それでは本題に入ろうか」
翔子は笑みを浮かべながら、勝負の開始を宣言する。
おまたせしました!
ついに解決編が始まります。
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