第13話 関係者の証言(後編)
~被害者の娘 御堂春香の証言~
晩餐会が終了したところで、
気分が悪く少し吐き気もしたので、
父に相談したところ、
部屋に戻るように言われました。
父は晩餐会終了直前から
食事室を見張っていた翔子さんを呼び寄せ、
私に付き添うように命じました。
そして、翔子さんと共に部屋に戻り、
悲鳴が聞こえるまで二人で話をしていました。
晩餐会の後に開催された茶会について、
私は何も聞かされてはいませんでした。
晩餐会の閉会後、すぐに解散するものだと思っていました。
――父が自殺する動機ですか?
私の知る限り、なかったと思います。
こう言ってはなんですが……、
父は自殺するようなタイプの人ではありませんでした。
私の前では優しい父親でしたが、
何度も電話で誰かに怒鳴りつけているところを
目撃したところがあります。
肝が大きく、気性の激しい父が、
自ら死を選択するなんて、私には思えません
~使用人 金本信江の証言~
私は三年前から御堂家にお仕えしております。
――先代当主が亡くなられてから、
旦那様の行動で変わった点はなかったか、ですか……。
特になかったと思います。
あっ、そう言えば一つだけ気になることがありました。
事件に関係あるかはわかりませんが、
一年前に先代当主様が亡くなられて以降、
旦那様は度々体調を崩されていました。
私達使用人が心配して旦那様に声を掛けましたが、
『これは別にいいんだ。心配することはない』と仰るばかりでした。
主治医の山本さんに旦那様の病名を訊きましたが、
『単なる風邪だよ。気にすることはない』と言われました。
しかし、単なる風邪にしては奇妙な点がありました。
最初に体調を崩されたのは、半年前でした。
それ以降、旦那様は定期的に体調を崩されていました。
定期的にと申し上げたのは、
こう言ってはなんですが、
規則正しく、隔週月曜日に体調を崩されていたからです。
半年前から、ある月曜日に体調を崩され、
少し時間が経つと回復するのですが、
二週間後の月曜日には再び体調が悪くなる。
そんな状態の繰り返しでした。
しかし、完全に同じ状態を繰り返していたわけではありません。
言い方が難しいですが、
最初の頃の体調の崩し方と、
後の方の体調の崩し方を比較すると、
最初のほうが明らかに重いのです。
初めの方は熱もあり吐き気もあったようですが、
徐々にそれらは引いていき、
まるで、症状が徐々に回復していくようでした。
その後、次第に体調が悪くなる回数も減り、
ここ一ヶ月の間、体調の悪い旦那様を
私達使用人は見ておりません。
もう一つ、奇妙だったことは、
旦那様が体調を崩される時、
それは決まって主治医の山本さんの部屋を訪れた後だったのです。
山本さんの部屋に入る前は元気だった旦那様が、
部屋を出てきた時には青白い顔をしている様子が
度々目撃されました。
『旦那様は山本さんに毒を打たれているのではないか』、
そんな悪い噂は屋敷では囁かれました」
~主治医 山本優作の証言~
私は十五年程前から御堂家にお仕えしています。
先代当主の頃から御堂家に住み込み、
先代当主、旦那様、そして春香様の主治医を務めています。
今は落ち着いていますが、
小さな頃の春香様は容態が度々急変されることが多かったので、
是非とも屋敷に住んでほしいと旦那様から頭を下げて頂き、
それでこちらの屋敷にお世話になることになりました。
普段は屋敷を少し離れた場所にある小さな診療所で働いています。
晩餐会当日、診療所での仕事を終えた私は
晩餐会が始まる少し前に、屋敷に戻りました。
ただ、晩餐会関係で特に私がやる仕事もなかったので、
ずっと自分の部屋で本を読んでいましたよ。
食事室から悲鳴が聞こえ、何事かと思い、
急いで食事室に向かいました。
横たわる旦那様に近づき、瞳孔、呼吸、脈拍等から死んでいることは明白でした。
それからは翔子さんの指示に従い、
食事室から人を遠ざけ、すぐに警察を呼びました。
――旦那様が半年前から度々体調を崩していたことですか……。
勿論、承知しています。しかし、あれは単なる風邪です。
屋敷に仕える者は一時期、
私が旦那様に毒を打っていると噂をしていたようですが、
そんなわけがありません。
毒を打つ医者に通い続ける人間が、
どこにいるのですか。
何度も言いますが、あれは単なる風邪ですよ。
旦那様の死とは無関係でしょう。
本話で事件編は終了です。次から解決編になります。
解決編の前にショートコメディを数本挟むかもしれませんが、
どうかお付き合い頂けますと幸いです。
それでは次回もよろしくお願いします。