契約と戦い 4
この頃ラジオやテレビでは、エネルギーや食料問題をテーマにした情報番組や討論番組が増えた。
日光がない生活への不安は募り、闇に乗じた泥棒や強盗の犯罪も増えているという。
食料自給と代替エネルギー問題について世界中が注目し、緊急サミットが開かれる。
今は常に明かりをつけて暮らしているけど、これで電気の供給が途絶えたらどうなるのか。
このまま暗闇が続けば植物が育たず、食糧不足になる。
人間は一体どうしたらいいんだ。
太陽の連中との戦いを早く決着させたい。
もう一週間も、なんの動きもなく過ぎた。
だが、ある夜。
眠りの中にいた俺の耳元でサイオンの声がした。
「啓羅聞こえる?連中が来るぞ」
「え!」
飛び起きた。今は……午前二時?
外が強烈に眩しくなり、すぐに気温が上がってジリジリと暑くなってきた。
ついにその時だ!
外に飛び出して見上げた真夜中の青空に、再び五つの太陽が並んでいた。
「来やがったな」
「連中は性格が違う。啓羅、まずは一つ撃破しよう。動きを見ながらうまく陽動して一対一の戦闘に持ち込めるといいけど」
サイオンの声が言う。
「了解。よし、飛ぶぞ!」
心を決めて宙に駆け出す。
左足首に着けた輪が光を放ち、俺は虚空を踏みしめながら空中高く駆け上がった。
地底で味わった懐かしい感覚が蘇る。
実戦だ!
そう思うと不安で仕方がないはずなのに、奇妙な感覚に襲われた。
心がワクワクして踊りだしたいとでもいうのか。
アドレナリンが出てるっていうやつ?
飛び出した俺を見つけて、気球みたいに五つ並んだ太陽の一つが反応した。
「おい見ろよ。羽虫が一匹近づいて来たぞ」
「なんだ、あいつ空中を歩けるのか。まあいい、お前が遊んでやれよ」
他の連中がせせら笑うなか、一つの太陽がスーッと隊列を離れて俺に向かって来た。
こいつ好奇心が強い奴だな。
よし、奴に誘いをかけてやる。
わざと怯えて逃げ出すそぶりを見せ、奴を他の太陽から引き離すように誘導する。
「待てよ、虫けら!遊んでやるぜ」
しめた、掛かったな。
追いかけて来たぞ。
ああ、接近されると暑い。
「啓羅、右手首の紋章に触れるとランチャーが出るぞ」サイオンが言う。
俺は慌てて逃げるそぶりを見せながら、追いかけて来た奴を首尾よく他の太陽から引き離した。
空中では地上を歩く時とは違い、トランポリンに乗って幅跳びでもするみたいに移動距離が稼げる。
よし、そろそろ仕掛けてやるか。
他の太陽たちから遠ざかり、眼下の景色が村外れまで来たところで、右手首に刻まれた青い炎の形の紋章に触れた。
メラッと燃え立つように、紋章が一瞬青く光る。
その光の中からイオ特製の銀のランチャーが現れた。
すかさずそれを手にして構え、空中で体を反転して追っ手に向き直る。
ランチャーの照準が合うと同時に水煙幕弾をぶっ放した。
ドシュッ!!
発射音がして銃身に衝撃が走る。
その手応えがすごく心地いい!
奴の熱に触れた弾丸はシュンシュンッ!と音を立てて一気に大量の水蒸気に変わり、連射する俺を白い雲に包んだ。
へえ、片目だけど意外に困らない。
目で照準を合わせるより先に体が「今だ」と教えてくるんだ。
「水鉄砲とはふざけた虫けらめ!かき消してやる」
追っ手が俺の作った雲に向かってゴウッ!と熱風を吹き付け、厚い雲が消えて薄くなる。
「もっと連射だ啓羅!走って回り込みながらやつを囲うように打ち続けろ」
サイオンが言い、俺は連射した。
太陽は負けずに熱風を送ってくるが、連射で厚くなる雲が確実に効果を上げている。
「チョロチョロしやがって、生意気な虫けらめが!」
俺を見失った太陽はゴウゴウと悪態をつく。
俺を追い回すのに躍起な太陽は発光体だ。
こちらが見失うことはない。
常に雲の向こうに姿を捉えていられる。
忍者のように雲の中から接近して水網弾で捕獲だ。
気取られないよう漂う雲に紛れる。
わざと様々な方向に水煙幕弾を撃ちながら、奴との間合いを詰めていく。
そして奴のほぼ真下まで回り込んだ。
「いいぞ啓羅。よく狙えよ」
サイオンが言い、俺は落ち着いて照準を合わせた。
今だ。
ドシュッ!!
ドッ!という重い音。
「なんだ!こりゃあ」と太陽が叫んだ。
よし命中した。
水を編んだ網がシューシュー音を立てて獲物にまとわりつき、銃身からは釣られた魚のようにもがく奴の抵抗が伝わる。
実体は思いの外軽いんだな。
俺は水網弾のリールを自動巻きにし、釣り師のように獲物が手元に近づくのを待った。
キリキリ音がして、巻き上げられた奴の熱と光が迫ってくる。
そして雲の切れ間から太陽の姿を捉えた時、俺は左手首の内側の青い紋章に触れた。
こっちは太陽の鳥籠を呼び出す紋章だ。
再び青いフラッシュ。
今度は大きく口を開いた怪物のような黒い鳥籠が空中に現れた。
ブウンブウンと唸る低音と、辺りの空気の振動が伝わる。
「俺を閉じ込めるってのか、畜生!」
水網弾で捕獲した太陽は激しく暴れ、放熱で網を焼き切ろうとした。
辺りが熱気でチリチリする。
けれど一見透明で柔らかく見える水網は、切れるどころか奴の動きに反応して締め上げる。
戦闘訓練でイオを捕まえたときを思い出した。
「やめろおお、苦しい!助けてくれえ!」
叫びながら水網に圧縮されていく太陽はなおも近づいて、その放熱で肌が灼けつく。
よし、もうこれでおしまいだ。
宙空で黒光りする鳥籠は一層高く唸りをあげ、揺らぎながら獲物を待ち構えている。
「来たぞ、喰らえ鳥籠。ホールドだ」
俺がそう言った途端、黒い鳥籠は水網ごと獲物に噛み付くように太陽を捕らえた。
ガチン!
重い音がして鳥籠の口が閉じ、太陽を中にロックした。




