契約と戦い 1
怒涛の戦闘訓練の後、契約の時を前にサイオンが言った。
「太陽との戦いで、もし啓羅がしくじれば、俺たちの中から一人ずつ出て奴らに立ち向かう。それを人間に示すため契約には四人が立ち会う」
太陽の光に弱い彼らが地上で戦うということは、はなから命がけなんだ。
「もう一人か、そうだな。ならパンドーラーを呼んでこよう」
プロメデが言ってその場を離れた。
そしてしばらくすると、一人の女性を連れて戻ってきた。
その女性、パンドーラーは一つ目じゃなく俺と同じ人間の姿をしていた。
俺より背が高く細身で、意志が強そうな褐色の瞳。長い黒髪を高く結い上げ、きりったした顔立ちの美人だ。
服装は他の三人のキュクロプスと同じような、古代ギリシャ風の簡単なドレスだった。
「話はわかった。啓羅よ、私も力になろう」
パンドーラーは俺をまっすぐに見て勇ましく言った。
「パンドーラーは鍛治の神ヘパイストス様の娘なんだ」とサイオンが教えてくれた。
「神様の娘?」
ということは相当な力を持った人なのかな。
「そうだ。啓羅、覚えておけ!俺たちタイタン族の四人は、この戦いに命をかける覚悟がある!」
イオが言った。
でも俺があの太陽たちとうまく戦えなければ、この人が戦うことになるかも知れないの?
俺も男として女性に戦わせるわけにはいかないぞ。
そう思いながら俺は彼女にお辞儀をした。
彼女も俺にうなづいて微笑む。
「怪訝な顔をしているな、啓羅。私は父によって人に似せて作られたからな」
「え!」
彼女は一つ目じゃないんだ、と思っていた俺の心を見透かされたようだ。
人に似せて作られた。
言葉どおり考えたらアンドロイドみたいな意味か。
「すみませんパンドーラー。あなたは人間の女性のようにしか見えないから」
「私は父の娘であり、また一個の作品なのだ。私の体は、この地底世界の粘土から作られている」
淀みなく俺に答えてくれたパンドーラー。
彼女が粘土から作られただなんて。
次から次と謎だらけだ。
この世界について知りたいことが出てくるばかりなのに、例の契約の時がやって来た。
他の三人に見守られて俺の前に立ったイオは、一つ目をぎらつかせ露骨に舌舐めずりした。
「ああ、こりゃあうまそうだ!右と左、どっちにするかだが」
イオは俺の目を覘きこんで見比べる。
どんな方法で目を奪われるのか?
その衝撃と痛みを想像したら、体が硬くなり冷や汗が出てきた。
でももう後には引けない!
地上の人間の命がかかっているんだから。
痛いことならせめて一瞬で終わればいい。
「よし!さっきお前が照準を合わせていたのは右目だ。右をもらう!」
「なぜ利き目を奪う?」
「当たり前だ!そいつにとって価値あるものの方が一層うまい。これは事実なんだ!」
ニヤついてそう言い放ったイオ。
ごつい爪のある指をいきなり俺の右目に突っ込んだ。
「うああっ!」
その瞬間、激しい熱さを右目に受けて、次に殴られたような痛みが襲ってきた。
乾いた岩の地面に赤い血が溢れてる。
一瞬のうちに俺の右目はえぐり取られていた。
その場に倒れかけた俺は左目で、もぎ取った右目を掲げて食おうとするイオの姿を捉えた。
けどすぐに視界が暗転し、意識が遠のいた。