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新月の忌み子  作者: のすけ
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喚ばれた者 2

 俺は太陽たちの言葉を思い出した。

 人間を虫けら呼ばわりしたあの言葉。


「契約には勇気が要るの?」

「まあそうだ。合いの子とはいえ、半分人間のお前が体の一部を差し出すんだから」とサイオン。


 一部って、体のどこを差し出せというのだろう。

 そんなことをして俺はあの凶悪な太陽と戦えるのか。

 まさか異形のこいつらに騙されているんじゃないよな。


 俺を見たサイオンが一つ目の眉をひそめて言った。

「お前、俺たちを疑ってるだろ」

「そりゃそうだよ!いろんなことがありすぎて。契約だの体の一部を差し出すだの。しかも俺たち人間にとっては大ピンチなんだから」俺は正直に言った。

「それもまあそうだな。では、こうしよう」

 サイオンは言うと、俺の額の真ん中にゴツい指を一本当てた。


 彼の手は六本指で他の手足も全て六本ずつ指がある。

 プロメデもだ。キュクロプス族は六本指なのか。


 額に押し当てられたサイオンの指先から温かい何かが俺の意識の中に流れこむ。

 頭の中にどこかで見た景色が浮かんで来た。

 俺の村の景色だ。


「啓羅、よく見ておけよ。今からキュクロプスの力でここにお前達の避難場所を作ってやるよ。お前はそれを村の連中に教えてやるといい」

 サイオンはそのまま一つ目を閉じて意識を集中しているようだった。


 俺の頭の中に浮かぶ景色の中で、村にある小高い山の麓にぽっかりと洞穴が現れた。

 洞穴の内部は何かの力でみるみる削られ拡げられ、この場所と同じような作りになるのがわかった。


 すごい、すごい!

 これは今まさに造られているのか。

 ここなら村のみんなが焼け死なずに済む。

 このサイオンて奴は、間違いなく神の一族と呼べる力を見せつけた。


「わかったか?これが俺たちからお前にくれてやる前払いの代償だぜ。お前が太陽に立ち向かえば、連中はお前とお前の村を狙ってくるだろうからな」

 俺はサイオンの言葉で我に返った。

 ただ感心している場合じゃなかった。


「ああ、わかった」

「それともう一つ」プロメデが言った。

「今度は俺の番だ。これからある場所へ案内しよう。お前の足では遅くてかなわん。俺の肩に乗れ」

 俺は岩の上からプロメデの肩に飛び移り、彼らと一緒に岩の洞窟の奥へと向かった。


 キュクロプスの世界は、洞窟の岩壁に沿って何本も道が造られ村が拓けている。

 でも種族の人数は多くはないようで人影はまばらだ。

 俺たちは一本の小道に入り、さらに奥へ進む。

 やがて道の向こうから、かなり明るい強い光が目に入った。

 何かをキンキンと打ち付ける音が響き、近づくにつれてうっすら熱気も感じる。


 俺の中の何かが確かに覚えている音と熱気。

 そこは間違いなく鍛治の工房だった。

 鍛治職人を志す俺は急に心が躍る。

 どんな技術で一体何を造っているんだろう?知りたい!


 光が明るく反射する工房の中で一人のキュクロプスが一心に作業している。

 褐色の肌に銀の手袋をはめて同じ素材の前掛けを着けて、青い炎が燃える炉心に向かって筒状のものを加工しているところだ。


「イオ!」

 プロメデが呼びかけると「ああ、待て!」とそのキュクロプスは答えた。

 が、手を止めずしばらく作業を続けていた。


 俺は興味津々で作業を見つめた。

 彼が拵えているものは多分武器だ。

 あれはロケットランチャーのパーツか?


 やがて作業を終えたイオが俺たちに向き直った。

「待たせたなプロメデ、サイオン!そこのお前が大地に喚ばれた者か」

「啓羅です。さっきからこの人たちにはそう呼ばれてます」

 イオ親方は地声なのか、長年の鍛冶場仕事のせいなのか喚くような大声だった。

 体格もひときわ大柄でゴツくて威圧感がすごい。


「イオ、こいつは何かと俺たちを疑うから、手の内を見せてやることにしたんだ」とサイオン。

「くそ生意気なガキめ!」

 イオは一つ目でジロリと俺を睨んだ。

「さてと啓羅、イオは太陽の連中に立ち向かうものに必要な武器を作っている」とプロメデ。

「やっぱり、これで太陽を撃ち落とすのか?」

「わかるか。まあ撃ち落とすにも捕獲にも使える。扱うには多少技術が必要だ、改良もな」とイオが言った。


 キュクロプス族は彼らの力と技術を挙げて人間に力を貸してくれるらしい。

 でも。


「実際にこれを扱って戦うのは、俺だけ?」

「そうだ合いの子!」とイオ。


 ここでもまた合いの子と呼ばれた。

 今の俺にはショックな言葉だ。

 だがここで俺が動かなければ地上から命が消え、干からびた茶色の星になるに違いない。


「俺たちを信じるか?」とプロメデ。

「力を貸すぞ」とサイオンも言った。


 どこまでいっても俺しかいない。

 じゃあ俺がやるしかないだろうが!

 でも、のどかな俺の国には兵役もなく、これまでに基本的な戦闘や武器の知識さえ学んだことがない。

 もっと知りたい、いや俺は知らなければ。

 そして一から学んでものにしてやるまでだ!


「わかった。俺はやる」

 そう口にしてから思い出した。


 待てよ。さっき契約と言っていたな。

 しかも、体の一部を差し出すっていうあれだ。


「さっき言ってた契約について聞かせてほしい」

 そう言うとプロメデが膝を打った。

「そうそう、それだが……」


「待てよプロメデ。それは俺のだ!俺に寄越せ!」

 イオがプロメデを遮って威圧的に言った。

「イオ、俺がこいつを連れてきたんだ」

 難しい顔でプロメデが言い返す。

「それを言うならこいつを見つけたのも、村に避難所を作ったのも俺だけど」

 サイオンもゆっくりとした口調で主張する。


 なんか急に、あからさまに揉めてないか?

 俺の体の一部を巡って争いが起きてるぞ。

 にわかに熱く盛り上がるこの揉めっぷりが恐ろしい。


 温厚そうに見えたキュクロプス達の話し合いは決着せず、イラついた様子のイオがズカズカ工房の奥にとって返す。

 銀色の銃を構えて戻るや、いきなりサイオンとプロメデに向けてぶっ放した。

 ドガーン!!

 轟音が岩壁にこだまして二人がその場にへたり込んだ。


 凄まじい音、でも空砲か。

 イオ親方、突然なんて事するんだ。


「俺は気が短い!忘れたか!?」

 イオは唸るような低い声で平然と言い、みんな返す言葉を失っている。

 さらにイオは俺に言った。

「決まりだな。お前の片目を俺に寄越せ!生きた人間の目玉は食えば珍味で、しかも寿命がのびる」


 差し出すのは目、なのか。

 これから戦うっていうのに片目じゃ不利になるんじゃ?

 待てよ。生きたまま片目を食われる?そんなの耐えられるわけがない!

 いっそのこと、さっきの空砲で俺も気絶しちまえばよかった。

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