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第8話

 翌日も、パン屋のバイトに出かけた。昨日、出勤していなかった女の子と他の女の子が、撮影の様子を話しているようで、売り場のバックヤードは賑やかだ。


  『え~?!ヒカルと翼が来てたの?!』

  『二人とも生で見ちゃった♪めっちゃカッコよかったよ~!』

  『いいな~!生ヒカルと翼、見たかったぁ~!』

  『私、翼くんが専属モデルしてるメンズ雑誌を買っちゃった♪』

  『ホント?見せて♪見せて♪』


へぇ~、翼くんってそんなに有名なんだ……休憩の時にでも見せてもらおうかな……


休憩時間になり、売り場の女の子に雑誌を借りて、広げてみた。そこには、爽やかな笑顔でお洒落な服を着こなす翼くんの姿が写っている。


「普通に話していると、ただの小悪魔的な男の子って感じなのに、仕事モードに入ると大人びた雰囲気になるのね……」


そういえばパンを買いに来た時も、雰囲気が違った気がする……芸能人オーラというか何というか……


読み進めているうちに、ふと、簡単なプロフィールに目が入った。


翼くんって4月が誕生日なんだ。もう少しなのね。

って、えぇ~~~!?!翼くんって今年で28歳なの?!私が今年で40歳って事は、一回りも下の男の子に膝枕させちゃったんだ!!若いとは思っていたけど、ここまでの年齢差とは……


「……」


でも、何で翼くんは、私に構ってくるんだろう……いくらでも付き合ってくれる女の子がいるだろうし……


「……」


う~ん……若い子の考えは、わからないわ……


  ・

  ・

  ・

《翼目線》



 「マジで嬉し過ぎるかもっ♪」


女の子に抱き締められるなんて、頭をなでなでして貰うなんて、初めての経験だ!しかも、カッコ悪いとこ見られちゃったのに、幻滅する事なく服を汚してまで俺を慰めてくれた♪


「あれっ?俺って甘えるより、甘えられる方だよな……」


百合ちゃんが抱き締めてくれた時、ドキドキするのに、少しずつ気分が落ち着いて、心が癒されていくのが自分でも分かった。


何だろう……何だか守られているような安心感……あまり記憶にないけど、母親が生きていれば、あんな感じで俺の全てを包み込んでくれるのかな……


女の子に甘えるなんて有り得ないと思っていたのに、百合ちゃんの前ではそういう考えがあっさりと姿を消す事に、自分自身でも驚いている。しかも、それが心地好いから更に驚きだ。


「よう、翼、どこに行ってたんだ?」


撮影現場に戻った俺を見て、何事も無かったように話しかけてくるヒカルの裏表も気にならないくらい、気分がいい。


「ちょっとな♪」

「お?いい女でもいたか?俺にも紹介しろよ!」


絶対に百合ちゃんを紹介してたまるかっ!


「そんなのじゃ無いさ。」


ってか、抱きしめてくれたのって、百合ちゃんのお腹の辺りだよな……胸ではないよな……


「……胸が良かった……」

「ん?何か言ったか?」

「いいや、何でもない……」


悩める健全な27歳……




 翌日、百合ちゃんの仕事が終わる時間に、パン屋の裏口で待っていた。


「ってか、裏路地で張り込むとか、俺って完全にストーカーじゃん……」


モデルをやってると女の子から寄ってくる事ばかりだけど、自分から女の子に近付こうとするのは、百合ちゃんが初めてだ。


そういえば俺って、今までどうやって女の子口説いてた?ほとんど据え膳だったし……でも、百合ちゃんが据え膳になるなんて絶対に無さそう……ここはじっくり……


って、そんな事ど~でもいい!三回目の偶然があったんだから、運命だと思ってガンガン行くぞ~♪




 仕事が終わって店の裏口から出てきた百合ちゃんに、昨日と同じく後ろから抱きしめる。


「百合ちゃん!お疲れ様~♪」

「その声は、翼くん?」


振り向いた百合ちゃんは、またしてもびっくりした顔をしている。


ぷぷっ!昨日と同じ反応だ♪


「疲れたでしょ?ご飯食べに行こうよ♪」

「……ごめん。ちょっと無理。」

「え~!何で?」

「そんな余裕無いから。」

「だったら俺が……」


言いかけたところで、すかさず遮られる。


「奢りは無しね。」


先を越された……ってか、バイト生活ならあまり余裕無いよな……

でも、もうちょっと一緒にいる方法は無いか……


必死に考えを巡らせる。


「そうだ!いい方法見つけた!俺が材料買うから、百合ちゃんが俺のご飯も作ってよ♪」

「えっ?私のアパートに来るの?」

「駄目?」


身体を離して、わざとらしく上目遣いで百合ちゃんの顔を見る。


「そんな、ワンコみたいな顔をされても……」


ぷっ!

思わず噴き出してしまった。


「えっ?何か可笑しな事、言った?」

「言った、言った♪俺をワンコ系って言う女の子なんて初めてだよ~!」

「そうなの?」

「うん、大体はクール系って言われるかな?」

「へぇ~。」


あれ?意外そうな顔……もしかして、男として見られて無い?弟みたいな感覚かなぁ……ちょっとショック……やっぱ百合ちゃんも頼り甲斐ある男の方がいいよな……

いや、これから男らしい俺を知って貰えれば大丈夫だ!


心の中で密かに気合いを入れ、アパートへ行っても絶対百合ちゃんには手を出さないから!と約束した。



  ・

  ・

  ・

《百合子目線》



 何だか押し切られるまま、翼くんのご飯も作る事になってしまった。


何だかじゃれついてくるワンコみたいで、ほっとけないのよね……ファミレスでの恩もあるし……


スーパーへ行き、リクエストのカレーの材料を買って、帰宅の途に着く。

アパートの前まで来ると、買い物袋を持ってくれていた翼くんが立ち止まった。


「……もしかして、このアパート?」

「そうよ。」

「想像以上に……」

「ボロい?」

「え?いや……そういう訳では……」

「……」


きっと想像以上にボロいって思ったわよね……絶句してるし……


「お、女の子って、セキュリティがしっかりしてるマンションに住むんだと思ってたからさ♪」

「背に腹は代えられないからね。それに、部屋の真下に大屋さんが住んでいるから、大声を出せばすぐに駆けつけるって言われているし、ある意味安全よ。」

「そっか……」


何とか言葉を取り繕っていた翼くんが、ボソッと何かを呟いた。


「壁も薄そう……マジで手出し出来ないじゃん……」

「何か言った?」

「ううん!何も~♪それよりお腹空いた!早く食べようよ!」

「……?わかったわ。」


翼くんの言動を不思議に思いながらも、六畳一間の部屋へ案内した。


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