第65話
固まってしまった翼くんの様子を、恐る恐る伺う。
「あの……翼くん?」
ハッ!と我に返った翼くんが、改めて私に目を向ける。
「ごめん、ごめん……びっくりしちゃって……」
「う、うん……」
「その……もう恐く無いの?」
「はっきりとは言えないけど、恐怖心が薄れてきたかも……」
「そっか……」
翼くんは少しだけ考え込んだかと思うと、ガバッ!と覆い被さって、私の頭の横に手をついてきた。
「これ、恐く無い?」
「大丈夫。翼くんの顔が見えるし……」
チュッ♪
次に、ゆっくりと顔を近付け、啄むようなキスを繰り返してくる。
「恐くなったら言ってね。」
「うん……んんっ!」
私の返事は、ゆっくりと入り込んできた翼くんの熱に消されていった。
まるで少しずつ試すよう深まる吐息に、段々と身体の力が抜けていく。
今夜はこのまま翼くんと……
胸が高鳴るような幸せの予感がした時、翼くんの唇が私の頬に、顎に、首筋に、少しずつ場所を変えていった。
ゾクッ!
背筋に一瞬寒気が走って身体に力が戻り、ギュッ!と目を固く瞑る。
この人は翼くん……翼くん……元夫では無く翼くん……
念仏を唱えるよう、頭の中で言い聞かせる。
「そんなに固くならないで。」
チュッ♪
身体にのし掛かっていた翼くんの重みが消えたと同時に、固く瞑る瞼に翼くんの柔らかい唇が触れる。それに促されるよう、恐る恐る目を開いた。
「無理しなくていいよ。」
翼くんは優しく微笑みながら、そっと私の頭を撫でてくれている。
「ごめん……」
「謝らないで。百合ちゃんが俺を受け入れようとしてくれた事が、嬉しいんだから。」
「でも……」
「大丈夫。焦らずゆっくり慣れていこうよ。」
「うん……ありがとう……」
何て優しいのだろう……常に、私の気持ちを一番に考えてくれる……
たぶん、そんなに遠くない将来、普通の恋人のようになれる……翼くんとなら大丈夫な気がする……
そんな甘い予感を胸に、翼くんの腕の中で深い眠りについた。
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《翼目線》
「恐さが薄れてきたのかも……」
その言葉に、思考が停止してしまった!いや、停止ではなく、混線してしまった!
えっ?!ど、ど~ゆ~意味?!もしかして百合ちゃんを抱いてもいいって事?!
何も反応しない俺の顔を、百合ちゃんがキョトンとしながら覗き込んでくる。
「あの……翼くん?」
ハッ!と我に帰り、恐る恐る尋ねてみる。
「その……もう恐く無いの?」
「はっきりとは言えないけど、恐怖心が薄れてきたかも……」
これってやっぱ、抱いてもいいって事だよな?!つ、ついに百合ちゃんを抱ける日が……ヤバい……嬉しすぎて舞い上がりそうだ……
百合ちゃんを組み敷いて、啄むような軽いキスを落としながら、辛うじて残った理性を保つよう努める。その理性が、ある事を思い出させた!
ハッ!そういえば、こんな展開がやって来るとは思って無かったから、避妊具を用意してないっ!
いや、これで子供が出来たら、百合ちゃんは一生俺の……願ったり叶ったりじゃん♪
浅はかな企みがバレないよう、紳士的に振る舞ってみる。
百合ちゃんを恐がらせないよう、優しく、優しく……
「恐くなったら言ってね。」
百合ちゃんを安心させるような笑顔を浮かべて優しいキスを落としていく。試すようように少しずつ深く吐息を絡め、頬、顎、首筋にキスの位置を変えていく。
その時、ふと、何かで聞いた事のある話が頭を掠めた。
あれ?離婚して何日か経たないと、妊娠しても前旦那の子供に認定されるって聞いた事が……何日間だった?まだ離婚して100日経って無いよな……
うわぁ~!こんな事なら、ちゃんと調べておけば良かった!俺との子供が前旦那の子供認定されるのだけは嫌だぁ~!!
こうなったら、今からコンビニへ走って……いや、せっかくの雰囲気をぶち壊しだよな……
これが功を奏したのか、百合ちゃんに目を向けた時、百合ちゃんがギュッ!と目を瞑っているのに気付いた。
まだ恐さはあるか……そうだよな……今日は止めておくか……
チュッ♪と力強く瞑っている百合ちゃんの瞼に軽いキスを落とす。
「無理しなくていいよ。」
あくまで俺の一方的な理由を悟られないよう、笑みを浮かべて百合ちゃんの頭を優しく撫でてみる。
「大丈夫。焦らずゆっくり慣れていこうよ。」
「うん……ありがとう……」
百合ちゃんは少し安心したように、俺の胸に顔を埋めてきた。それを包み込むように百合ちゃんの背中へ腕を回して、ふんわりと抱き締める。
よしっ!明日、撮影の合間にドラッグストアへ行って避妊具を買って……
あれ?さっき俺、焦らずゆっくりって言った?言ったよな!
この時程、自分を呪いたいと思った事は無いかもしれない。
うわぁ~!やっちまった!自分で延長する発言をしてるじゃん!俺のバカ野郎っ!!
今日の明日って、言ってる事と矛盾し過ぎだろ!俺、カッコつけ過ぎだろっ!
あっ……そういえば、もう少しで百合ちゃんの誕生日だったような……
これだ!百合ちゃんと初めてなら、何処かスイートを予約して、最高の場所を用意しよう!我ながら名案♪
翌日、昼からの撮影だった俺は、百合ちゃんを仕事へ送り出した後、速攻で春樹に電話をかけて部屋の予約とレストランで誕生日の演出をお願いした。




