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第60話

 手を繋いだまま、両脇にずらりと露店が立ち並ぶ参道までやってきた。


「翼くん、そろそろ手を離した方が……」

「何で?」

「だって、ファンの人も来ているんだよね?」

「関係無いって!最近は百合ちゃんの事を応援するってファンレターも多いみたいだよ♪」

「そうなの?」

「うん!だから気にしないで♪」

「うん……」


そんなファンレターが届いているのね……ちょっと嬉しいかも……


「それより百合ちゃん、いつ浴衣を用意したの?びっくりしたよ~!」

「たまには驚かそうと思ってね♪翼くんが仕事の時に買いに行ったんだ!」

「マジでやられたよ……綺麗過ぎなんだもん……」

「ふふっ!大成功ね♪」


もし、私が翼くんともっと触れあえるようになったとすれば、普通の恋人になれる……


ブルッ……

寒気を感じ、身を固くした。


駄目だ……まだ頭で考えたら、怖さが勝っている……


「ん?百合ちゃん、どうしたの?」


黙り込んでしまった私を気遣うように、翼くんが顔を覗き込んでくる。


「な、何でも無い!」

「もうっ!何でも話してって言ったのにぃ……」

「ごめん……まだ、頭の中で整理出来ていないから、そのうち話すわ。」

「わかった。気長に待ってるね♪」

「うん……」

「そうだ!百合ちゃんはこの後、予定は無いよね?」

「マンションに帰るだけよ。」

「だったら、俺が仕事終わるのを待っててくれる?神社にお参りして写真を撮ったら解散になるから、一緒に帰ろうよ!俺達の家にさ♪」


俺達の家……当たり前のように言ってくれる言葉に、温かい気持ちが広がっていく。


ちょっと、頭で考え過ぎかな……


気を取り直して、翼くんに笑顔を向ける。


「うん!一緒に帰ろうね♪」


繋いだ手をしっかりと握ると、翼くんも握り返してくれる。

それからはドラマ出演者集合の時間まで、露店を回って楽しんだ。




 集合時間になり、神社まで一緒に歩いて行く。


「百合ちゃん、境内のスペースに関係者だけが入れるところがあるから、そこで待っててくれる?」

「いいの?私は何処かで暇を潰しておくわよ。」

「でも、人混みはスマホも通じ難いから連絡取れないと困るし、キャッシーも来てるから一緒に居れば大丈夫だよ♪」

「わかったわ。」


翼くんと別れて関係者スペースに向かうと、私に気付いたキャッシーさんが話しかけてきてくれた。


「あら、百合ちゃん♪久しぶりね~!」

「キャッシーさん、ご無沙汰しています。」

「もうっ!堅苦しくて嫌になっちゃうわ!キャッシーって呼んで♪」

「ふふっ!ありがとうございます♪」

「つ~ちゃんとは、相変わらずラブラブみたいね♪」

「ラブラブというか、翼くんに助けられてばかりで……」

「何言ってんの!頼りにならない男なんて、何の価値も無いわ!年齢なんて気にしないで、甘えちゃえばいいのよ♪」


あ、甘えるって……今でも充分に甘えている気が……


「それに、百合ちゃん、前よりも表情が明るくなったわよ♪」


他人から見ても、そんなわかりやすいくらい表情が違うんだ……これも翼くんと出会えたおかげね……


「あっ、呼ばれているわ。話の途中だけど、ちょっと行って来るわね!」

「行ってらっしゃい♪」


キャッシーさんがメイク直しに呼ばれて出演者のところへ向かっていき、私は一人で関係者スペースに残って待つことにした。


出演者達はちょっとした石段の上に並んで、写真を撮る準備をしている。途中から車椅子になる役の翼くんは、車椅子に座って撮影するようだ。


「私が押します♪」


あゆみちゃんが車椅子を押す役を、買って出ている。

翼くんがはっきりと断っているのを聞いたせいか、その光景を見ても何も気にならなくなっている。


みんなが並んでいるのを何気無く見ていると、あゆみちゃんがスタッフの一人に何か耳打ちをしているのが見えた。耳打ちされたスタッフは私のところへ真っ直ぐに来て、いきなり腕を乱暴に掴んできた。


「痛っ!」

「ちょっと君!ここは関係者だけだ!早く出て行きなさい!」

「ここに居るように言われていて……」

「そんなの誰も許可して無いだろ!こんなところまで入り込んできて、どういうつもりだ!」

「いえ、翼くんに……」

「やっぱり、聞いたとおり翼くんのストーカーか!二度と顔を見せるな!」


えっ?ストーカー?聞いた?どういう事?!


チラッと出演者の方へ目を向ける。すると、あゆみちゃんが私を見て薄ら笑いしているのが見えた。


そういう事なのね……でも、ここで騒ぐと翼くんに迷惑がかかるかもしれない……

翼くんには後で事情を話せばいいし、今は大人しく従った方がよさそうね……


「わ、わかりました!ここから出ますから、腕を離して下さい!」

「そう言って翼くんの所へ行く気だろ!おい!こいつを摘み出せ!」


声を掛けられた他のスタッフさんも加わって、強引に引きずられるような形になってしまい、下駄が片方脱げてしまった。


「ま、待って下さい!下駄が!」

「いいから、早く出ていけ!」

「ちょ、ちょっと!裸足……」


言いかけた時に、少し離れたところから翼くんが叫んだ。


「そこストップ!百合ちゃんに何してんだよ!」

「えっ?」


私を引きずっていたスタッフさん達が驚いて動きを止め、翼くんに顔を向ける。

その時、立ち上がろうとした翼くんが座っていた車椅子があゆみちゃんの手から離れ、カクッと前輪が石段から外れた!


グラッ!


えっ?!


「うわぁ~~!!」


ドタドタッ!ガシャーン!

前輪が石段から外れた車椅子はそのままバランスを崩し、段差を転がり落ちていく。周りが止めるのも間に合わず、翼くんは車椅子と一緒に石段の下へ転がり落ちてしまった!


「翼くん!!」

「うっ……」


スタッフさんや出演者が駆け寄るも、腕を押さえたままの翼くんは立ち上がることが出来ないほどの痛みを堪えたように顔をしかめている。


「救急車を呼べ!!」


つ、翼くん……


何処からともなく叫ぶ声が飛び交い、慌しく人が走り回る。駆け寄る事も許されない私は、成す術も無く呆然とその場に立ち尽くした。


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