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第59話

 「夏祭り?今の時期に?」


お盆に放送された特番ドラマも終わった、蝉の鳴き声もラストスパートのように聞こえる時期、翼くんから夏祭りに誘われた。


「この前放送された特番ドラマがあったでしょ?あれが好評だったから10月から連ドラになるんだ!」

「そうなのね!おめでとう♪」

「それで、撮影スタジオ近くで8月最後の週末にお祭りをする神社があるんだけど、みんなで神社へお詣りに行くんだ!それまでの時間が空いてるから、一緒に出店を回ろうよ♪」

「お祭りかぁ……子供の頃以来かも。」

「んじゃ、決定!バイトが終わったら、撮影所前に来てね♪」

「わかったわ。」


セールになっていたし、浴衣を買って着て行こうかな……どうせなら、内緒にして驚かせちゃおうかな♪


こうして、翼くんの仕事が遅くなる日を選び、子供の頃以来に着る浴衣を買いに行った。




 「よしっ!準備完了♪」


迎えた当日、スマホで動画を見ながら、何とか浴衣の着付けをして、髪の毛はおだんご状にまとめ上げた。


翼くん、驚くかなぁ……私ってば、完全に乙女に戻ってる……こんな感覚、何年ぶりだろう……


年甲斐も無く、少しドキドキしながら撮影所へと向かう。

撮影所が見える角を曲がると、入り口に深緑の浴衣を着た背の高い男性が立っているのが見えた。


嘘っ!翼くんも浴衣を着てきたんだ……っていうか、格好いい♪

あんな人が彼氏なんて、未だに信じられない……


驚かせるつもりだったのに、こっちが逆サプライズされた気分だ。


って、見惚れている場合じゃ無いっ!


「お、お待た……」


翼くんの元へ行こうとした時、撮影所から可愛らしいピンクの浴衣を着た一人の女の子が出てきた。


  『翼くん!お待たせ~♪』


えっ?あの女の子はあゆみちゃん……?


あゆみちゃんは翼くんの腕に手を絡ませて、親密そうな笑顔を振り撒いている。


  『あれ?タカノブ達は?』

  『みんなはまだゆっくりするって!だから二人で行こうよ♪』

  『みんなと一緒に行った方がいいよ。』

  『どうして~?あゆみ、翼くんと二人がいいもん♪』

  『いや、それは無い。』

  『どうして?』

  『カノジョに誤解される事をしたく無いからさ。』

  『えっ……?』


あゆみちゃんから笑顔が無くなり、訴えかけるように翼くんへしがみ付いてきた。


  『あゆみの方が年も釣り合ってるし、仕事も理解出来るもん!あゆみの方が翼くんの力になれるもん!』

  『かもな。』


えっ……?翼くん、な、何を……


  『でしょ♪だから……』

  『じゃぁ、俺が俳優を辞めたらどうする?』

  『モデル一本にするって事?』

  「モデルも辞めたらどうする?」

  『……そんなの、あり得ないでしょ?』

  『カノジョは俺が俳優で無くても、モデルで無くても俺がいいって言ってくれるんだ。俺が唯一幸せにしたい女の子なんだ。』

  『そんな……そんなの言うだけなら、いくらでも言えるじゃん!』


翼くん……私の言葉を覚えていてくれたのね……


  『言うだけなら誰でも言えるかもしれない。だけど、カノジョの言う事は、信用出来るんだ。』


私の事を信用してくれる……その言葉が、胸のモヤモヤを打ち消していく……

気後れしていた足を一歩踏み出して、二人の元へ歩み寄る。私に気付いた翼くんが、顔を向けてきた。


「百合ちゃん!……って、浴衣を着て来てくれたんだ……」

「う、うん……」


はっ!とあゆみちゃんにしがみ付かれている現状に気付いたのか、翼くんがあゆみちゃんの肩を掴み、身体から離した。


「じゃっ、また後でね!」


そして焦ったように私の傍へ来て、言い訳を始め出した。


「ゆ、百合ちゃん!今のはね!」


ふふっ!そんなに焦らなくても♪


自分から手を繋ぎ、指を絡ませて笑顔を向ける。


「百合ちゃん?」

「何時までゆっくり出来るの?」

「神社に集合するまでだから、一時間くらいは……」

「だったら早く行こうよ♪お祭りが終わっちゃうよ!」

「う、うん……」


拍子抜けというか、少し戸惑いも見せる翼くんと一緒に、あゆみちゃんを置いて、お祭りがある神社の参道へ歩き出した。




 暫く歩くと、翼くんがおずおずと口を開いてきた。


「百合ちゃん、さっきのは何でも無いんだ……その……」

「実は、見てたの……」

「そうなの?」

「あんなに可愛らしい女の子を前にしたら、何となく足が進まなくて……」

「そんな事……」

「翼くんが私を信用してくれるって言ってた事、嬉しかった……だから、前に出る勇気が出て……」

「勇気だなんて……百合ちゃんはもっと自信を持っていいよ。」

「ありがとう……」


何だろう……翼くんが言ってくれると、それだけで本当に自信が持てる気がする……


「ホント、百合ちゃんは自覚が無いよね……」


いきなり翼くんは立ち止まって、落ち着き無く周りをキョロキョロし始めた。


「どうしたの?」

「……」


何かを探すように辺りを見回していた翼くんは、ふと裏路地に目を留めて、私の手を引いたままそこへ進んでいく。


「翼くん?」

「……」


誰の目も届かない暗がりに着くと、ガバッ!と腰を抱き寄せられ、抵抗する間も無く唇を塞がれた!


「んっ!んん……」


情熱的に私を求めて入り込んでくる熱に立っていられなくなり、翼くんの胸にしがみ付く。

ゆっくりと唇が離れていき、そっと瞼を開けると、少し上気したような翼くんの顔が、目の前に見えた。


「そんな誘うような目で、俺を見ないで……」

「えっ……?」

「百合ちゃんが色っぽ過ぎて、抑えが効かなくなる……」

「そ、そんな……」


恥ずかしくなって少し俯くと、頬に手を添えられ、上を向くよう促される。


「浴衣を着た百合ちゃん、綺麗過ぎ……ホントに俺をどうしたいの?」

「どうと言われても……」

「このうなじも反則だって……」


チュッ♪

唇に啄むようなキスが落とされる。そのキスは少しずつ場所を変え、頬、首筋、うなじに落とされていく。


こ、こんなところで……


ピクッ!と身体に力が入ると、翼くんが我に返ったようにサッと身体を離した。


「ごめん!怖かったよね!」

「……」


わ、私……今……


「お、お祭りに行こうか♪」


翼くんは照れ隠しのように、私の手を引いて裏路地から参道へ向かう道へ出ていく。


私……今……

怖さもあったけど、恥ずかしいという思いの方が強かった……

もしかして、怖さが薄れてきているの……?


自分でも理解出来ない感覚に戸惑いを隠せず、キュッと翼くんと繋がる手に力を込めた。


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