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第49話

 ふらふらと歩きながら、本屋を出る。


翼くんはいつから神屋へ……もし、今日も花束があったら……


「あれ?もしかして、百合さん?」


不意に声をかけられ、振り向くと、シュウくんが数人の男の子達を後ろに従えて、立っていた。


「シュウくん……」

「久しぶりじゃん!」


そうだ!シュウくんなら、翼くんがいつから居ないか、知っているかも!


「シュウくん!教えて!翼くんはいつから神屋へ行ってるの?!」


シュウくんに詰め寄って、尋ねる。


「えっ?百合さん、聞いて無い?」

「教えて!いつからなの?!」

「た、確か……一週間前だと……」


一週間前……花束の主は間違いなく、翼くんでは無い……

もう一人思い当たるのは……まさか、元夫……


はぁ……はぁ……い、息が苦しい……


急に息苦しくなり、壁に凭れかかって、ずるずるとしゃがみ込む……


「ちょっ!百合さん?」


身体が震える……


「百合さん!しっかりして!」


はぁ……はぁ……


「つ、翼くん……はぁ……はぁ……助けて……」


シュウくんの問いかけに、答える事が出来なかった……




 あの後、何とか落ち着いた私は、シュウくんに駅前のカラオケボックスへ連れて来られた。


「百合さん、落ち着いた?」

「何とか……シュウくん、ありがとう……」

「翼に連絡しようか?」

「駄目っ!」


咄嗟に、スマホへ手を伸ばそうとしたシュウくんの腕を掴む。


「何で?」

「迷惑をかけたく無いの……」

「だって、さっき……」

「お願い……」


シュウくんは呆れたように一つ息を吐き出して、スマホをテーブルへ置いた。


「何があった?」

「……」

「俺、大体事情知ってるし、翼の愚痴でも何でも聞くよ。」

「大丈夫……落ち着いたから、帰るね……」


席を立とうとすると、ガシッ!とシュウくんが腕を掴んでくる。


「あんな状態を見て、帰せる訳ね~だろ。話すまで帰さね~からな。」

「……」


紳士的な態度から一変、凄みのある物言い……

でも、これが、シュウくんの優しさなのかもしれない……


諦めて、再度、席へ座った。


「……で、翼と何かあった?」

「花束が……」

「花束?」


十日程前からアパートに花束が置いてあった事や、花言葉をシュウくんに説明する。


「それで、もしかして元夫かもしれないと思って……」

「成る程ね……あのテレビに出て騒動起こしたヤツだろ?ネチネチした事、やりかねね~な……翼なら、そんな面倒くせぇ事はしね~よ。」

「……」


それからシュウくんは私からアパートの場所を聞き出し、部屋の外へ控えていた男の子へ、様子を見に行くよう伝えた。


暫くして、シュウくんのスマホにアパートの様子を見に行った男の子から、連絡があった。


「……あぁ、わかった。その花は処分してくれ。」


やっぱり花束があったのね……

部屋中に、紫色の花が飾ってある……部屋に戻りたくない……


ギュッ!と、震える自分の腕を掴む。


「百合さん……夜の10時くらいに腕の立つヤツが来るから、それまで待てる?アパートへ送っていくよ。」

「シュウくん、ありがとう……」


それから歌う事もしないで、ただひたすらカラオケボックスの部屋の中で、時が過ぎるのを待った。




 夜の10時を過ぎた頃、廊下が賑やかになってきた。


  『何処だ!』


えっ?この声って……


思わずシュウくんを見ると、シュウくんはニヤっと笑って立ち上がった。


「やっと来たか。」

「もしかして……」

「あぁ、悪りぃけど、連絡させて貰ったから。」


そう言いながらシュウくんが開けたドアからは、翼くんが飛び込んでくる。


「じゃぁ、後はよろしく。」


シュウくんは、ポンと軽く翼くんの肩を叩いて部屋を出ていき、部屋には、翼くんと俯く私の二人が残された。


「百合ちゃん……倒れたって聞いて……」

「迷惑をかけて、ごめん……」

「何で連絡をくれなかったの?」


わざわざ神屋から新幹線で……私はどれだけ翼くんに迷惑をかければ……


「……もう、私に関わらない方が……」

「俺、距離を置く事に同意はしたけど、百合ちゃんを好きになる事を止めた覚えは無いよ。」

「……」

「百合ちゃんが俺の顔を見たくないっていうくらい嫌いなら、諦めるよ。だけど倒れた時、俺の名前を呟いたんだよね?助けてって……」


言った……確かに言った……無意識に翼くんの名前を呼んだ……私、本当に翼くんの事が好きなんだ……


「ねぇ……百合ちゃんの本音を聞かせて……」

「私は……」


私の本音……そんな事を言えば、翼くんを困らせるだけ……


「これ以上、翼くんに迷惑をかけたく無いの……」

「俺、迷惑なんて思った事、一度も無いよ。」

「……」

「俺の事、嫌い?」


黙って頭を横に振る……


「じゃぁ、好き?」

「……」


傍にいたい……でも……


「百合ちゃん……何かあるんなら、俺は全部受けとめるから……だから、一人で抱え込まないで。」


翼くんが私の両肩に手を置いて、優しく諭すように顔を覗き込んでくる。我慢していた涙が、溢れ落ちた。


「私は……」

「……」

「翼くんの傍にいたい……」

「うん……」

「抱き締めて欲しい……」

「うん……」

「もっと触れて欲しい……」

「……えっ?!」

「だけど、怖い……」

「……」

「……怖いの……」

「知ってるよ。」


ふわっと優しい温もりに包まれ、翼くんに抱き寄せられたのがわかった。


温かい……私の強がりなんてお見通しのように、全てを包み込んでくれる……


「……うっ……好きになってごめん……」

「何で謝るの?俺、凄く嬉しいんだけど。もう、一人で寂しい思いはさせないから……」

「うっ……うぅ……」


なんて優しい声……

次から次へと涙が溢れ出てくる……


「俺も好きだよ……百合ちゃん……ずっと傍にいてね……」


私が泣き止むまで、翼くんはそっと頭を撫で続けてくれた。


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