表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/90

第47話

 「はい、これ渡しておくね♪」


甘く長いキスの後、一つの鍵を手渡された。


「これは?」

「俺のマンションの鍵♪少しでも会えるのってどうすればいいか、考えてさ!」


そして、パン屋のシフトが入っていない日の前は、マンションへ泊まりに来て欲しいとお願いされた。

確かに、翌日翼くんに仕事があっても、昼間なら電車で勝手に帰れるし、送り迎えしてくれる翼くんの負担も少なくなる。


「うん、わかったわ。」

「楽しみにしてるね~♪」




 そして休みの前日、バイトが終わって迎えに来てくれた翼くんと一緒に、翼くんのマンションのキッチンに立っている。


「へぇ~!ハンバーグって、色々入れるんだね!」

「そうね。パン粉や卵、牛脂も混ぜれば肉汁もたっぷりで美味しくなるわ。」

「このパスタソースは何に使うの?」

「今日は煮込みハンバーグにしようと思ってるの。トマトソースを作ってもいいけど、市販のパスタソースを使えば時短にもなるし、誰が作っても味に間違いが無いのよ。」

「流石ぁ~♪」


ふふ!楽しんでくれているみたいで良かった……


それから、二人でハンバーグを捏ねて、新しいフライパンで焼いていく。


「ふふっ!」


いきなり翼くんが笑い出した。


「どうしたの?」

「うん……白状すると、自炊するのは嘘なんだ!」

「えっ?じ、じゃぁ、この前の買い物って……」

「百合ちゃんと一緒に使う前提で買ったんだ♪」

「そうだったの……」


もう私は不要って思ったのは、早とちりだったのね……


「百合ちゃん、どうかしたの?」

「ううん!一緒に料理をするのも、たまにはいいなって思っただけ!」

「だよね~♪こうなったら、一緒に住んじゃう?」

「それは、ありません。ちゃんと線引きはしておかないと。」

「チェッ……百合ちゃんのケチ……」


いじける翼くんの頭を撫でて、なだめながら夕食は完成した。




 夕食を頂き、シャワーを浴びて、二人でベッドへ横になる。明日、翼くんは朝から仕事なので、早めの就寝だ。


「百合ちゃん、おやすみ~♪」

「おやすみ……」


挨拶を交わすものの、翼くんは中々寝ようとしない。いつまでもついばむようなキスを繰り返している。


「つ、翼くん、早く寝ないと!」

「わかってるって♪」

「わかって無いわよね……」

「もうすぐ神屋で、映画のロケが始まるんだ。」

「神屋で?」

「うん、そこの異人館で撮影するんだって。しかも、二週間も泊りで……」

「そっか……」

「だから、もうちょっと百合ちゃんを満喫させて~♪」


そう言って翼くんは、覆い被さるように深いキスを落としてきた。


「んっ!ん……」


二人の熱が絡み合う。

その時、足に当たる生暖かいものが!


ガバッ!

咄嗟にその熱から逃れるよう身体を捩って、身を固くした。


い、今のって……その……


「ごめん!ごめん!」


翼くんが照れを隠すように、明るい声を上げる。


「い、今のは、俺の意思とは関係ないから!その……生理現象っていうかさっ♪」


やっぱりそうよね……


どうしようもなく、自分が嫌になる……わかりきっていた事なのに……


「翼くん……無理しないで……」

「えっ?どういう意味?」

「……私が応えられないって、気付いてるよね……?」

「ま、まぁ……でも、無理はしていないよ。」

「嘘……今だって我慢しているじゃない……」

「……」

「無理して私といなくてもいいから……」

「無理じゃない!」


翼くんの声が大きくなる。


「無理なんかしていないから!」

「でも、我慢して辛い思いをするなら……」

「確かに我慢はしている!そこは否定しない!だけど、辛いと思った事は無いから!」

「……私が辛いの……」

「えっ?」

「翼くんが我慢している姿を見るのが辛いの……」

「百合ちゃん……」


駄目だ……ここで泣いたら駄目だ……


声が震えそうになるのを、ぐっと堪える。


「翼くん……少し距離を置こう……」

「な、何で……そんな事……」

「頭を冷やした方がいいよ……二人とも……」

「……」


翼くんからの返事は無い。だけど、振り向く勇気は無い……

背中を向けたまま、沈黙の時間が流れる……

そんな時間を、翼くんの一言が終わらせた。


「……わかった……俺は今日、ソファで寝るから……」


そう言って、静かにベッドルームを出て行った。


これで良かったんだ……これで二人は終わった……

長い人生を振り返った時、これで良かったって思ってくれる日が来る筈……


「うっ……うぅ……」


一回りも下の男の子を好きになった罪だ……まともな恋愛も出来ないくせに、本気になった報いだ……


翼くんに聞かれないよう枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。



  ・

  ・

  ・

《翼目線》



 ベッドルームを出て、リビングで酒を煽る。


「くそっ!」


百合ちゃんの気持ちがわからない……


百合ちゃんの事を思って我慢していたのに、それが百合ちゃんを辛くさせる。


訳がわからない……


「どうすればいいんだよ!」


ドカッ!と、ソファへ転がった。


  『距離を置こう……』


百合ちゃんの絞り出すような声が、頭の中を駆け巡る。


ただ、傍にいたいだけなのに……


「……」


生理現象はどうしようも出来ないじゃん……今でも百合ちゃんを抱きたいのは、変わらないんだし……


「……ガムテープを巻くか……」


うわっ!考えただけでも恐ろしいっ!


はぁ……

溜め息をつきながら、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ