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第46話

 【愛とは、溜め息でできた煙だ ー シェイクスピア】



 「百合ちゃ~ん♪」

「ちょっ!少しだけ待って!」

「そんなの後でも、いいじゃん♪」

「せめて水に浸けさせて!固まったら汚れが落ちないのよ!」


食事の後、洗い物をしている最中に後ろから抱きついてくるテンション高めのワンコ……いや、翼くん。

明日は早朝から私が住む緑山で雑誌の撮影があるとの事で、泊まりに来ている。


「百合ちゃんの部屋にお泊まりって、初めてだね♪」

「看病してくれた時も泊ったような……」

「あれは、カウント無しでしょ!」

「まぁ、翼くんがそう言うなら……」

「一緒にギュッ!として寝ようね~♪」


看病の時も、結果的にそんな状態だったような……


そんな突っ込みは、心の中に仕舞い込む。


「布団が一つでごめんね……窮屈よね……」

「そんな事無いよ♪逆に密着できるしっ!」

「シャワーのスペースも狭いでしょ?」

「ま、まぁ……海の家みたいで楽しいよ♪」


一応フォローしてくれているのよね……

そう思っておこう……


それから別々でシャワーを浴びて、翼くんが持ってきてくれたビールを飲む。


と、思ったら、いきなり私の後ろへ座って、包み込むようにテーブルに置いてあるビールへ手を伸ばしてきた!


「……!」

「百合ちゃんは、俺の事はソファだと思って、寄りかかってね♪」

「う、うん……」


この小悪魔スキンシップは、両想いだとわかっていても、慣れない……むしろパワーアップしている気が……


「百合ちゃん、もしかして緊張してる?」

「な、何で?」

「だって、身体に力が入ってるよ~!」

「き、気のせいよ!」

「ぷっ!百合ちゃん可愛い~♪」

「ちょっと近付き過ぎって、思っただけよ!」

「あはは!約束どおり手は出さないから、せめてこれくらいは許してよ♪」


やっぱり我慢させているわよね……


私はまだ翼くんに、好きだとは言えていない。

翼くんが私に触れるのを我慢している事が引っ掛かっているからだ。


「百合ちゃん?」

「……」


翼くんには私なんかより、もっと普通に付き合える女の子の方が……


「百合ちゃん♪」


チュッ♪

頬に柔らかいものが当たり、ガバッ!と振り向く。そこには満面の笑みを浮かべた嬉しそうな翼くん……


「へへっ!隙ありっ♪」

「び、びっくりした!不意打ちは避けてよ!」

「だって、百合ちゃんが考え事して、相手してくれないんだもん!何考えてたの?」

「えっ?」

「話せる事は何でも話してね♪」

「そ、そんな深刻な事では無いわよ。」

「じゃぁ、何?」


い、言えない……何か他の事は……

そうだ!


「雑誌の撮影って、何でいつも早朝なの?」

「それは単純に、人通りが少ないからロケに向いてるだけだよ。スタジオの時は、昼でも夜でも出来るけどね!」

「成る程……じゃぁ、そろそろ寝ないとね!」

「嬉し~!百合ちゃんから布団に誘って貰えるなんて♪」


えっ?!

思わず、身体が固まってしまう……


「そ、それは……」

「もう、冗談だって♪でも、ギュッ!として寝ようね~♪」

「う、うん……」


じ、冗談よね……びっくりした……でも、何気無く出てきた本音のような……

翼くん……ごめんね……


心の中でこっそり溜め息をつき、翼くんに腕枕をされながら逞しい胸に顔を埋める。


「おやすみ……」

「百合ちゃんおやすみ~♪」


翼くんは私の額に軽くキスを落とし、抱き締めるよう背中に腕を回して、静かな寝息を立て始めた。


精神安定剤、活力剤……私の事をそう言って貰えるのは嬉しい……だから、翼くんが望む限り傍にいてあげたい……

だけど、付き合うとなると、それだけでは無い事もわかっている……私は、何もしてあげられない……


「はぁ……」


再度溜め息をついて、目を閉じた。




 「百合ちゃん、お待たせ~♪」


翼くんは少しでも時間があると、会いに来てくれるようになった。


「今日はどこへ行く?」

「う~ん……時間的に遠くは無理よね……」

「じゃぁ、前にも行った公園にしよっか!雲が無いから、星がよく見えると思うよ♪」


翼くんの車に乗り込むと、すぐに以前にも行った事のある高台に向かって走り出した。


「今夜も綺麗ね……」


高台の公園に着いてすぐ、翼くんが車の屋根を開けてくれた。以前と同じようにシートに座ったまま見上げると、満天の星が輝いている。

と思ったら、すぐに翼くんの顔で遮られた。


「百合ちゃん……今日はキスしてもいい?」


助手席のシートに手を突いた翼くんに、微笑んで返事をすると、嬉しそうな笑顔を浮かべた翼くんの顔がゆっくりと近付いて、唇が重なった。

軽くリップノイズを立てる触れるだけのキスは、次第に深く熱が絡み合っていく……


「ん……」


甘い吐息が漏れると、激しさを増していき、二人だけしかいない、他には何も感じられない世界へ陥っていく……


「百合ちゃん……大好き……」


少しだけ唇が離されると、熱を帯びた目線が私を射抜いてくる。だけど、その熱には行き先が無い事を知っている……


「……翼くんは、幸せ?」


思わず言葉を漏らすと、翼くんは私の頭を撫でながら、優しく微笑んでくる。


「もちろん、幸せだよ……百合ちゃんは幸せ?」


幸せに決まっている……だけど、翼くんに優しくされればされる程、不安が募る……

私にもっと自信があれば……私が普通に付き合えるなら……

きっとこの幸せは、いつか無くなってしまう……


曖昧に笑って翼くんの首に腕を回し、自ら引き寄せてキスを交わす。

不安を掻き消すように、もっと……もっと求めるように……


満天の星の元、翼くんはいつまでも私に応えるよう、甘いキスを落としてくれた。


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