第44話
レッスンの合間に、スマホを取り出して、百合ちゃんへメールを送る。
明日は買い物デートへ行こう!自炊用の調理道具を選んで貰って……って、百合ちゃんが使う前提だけど、自炊するって言えば、きっと勿体無いなんて言わないよな!
我ながらいい作戦♪
それからマンションへ来て貰って、一緒に料理とかいいかも♪
だけど、届いた返信には『昼間だけなら』と書かれてあった。
はぁ……もう用事が入っていたか……残念……
ちょっとだけテンション下けたまま、残りのレッスンを続けた。
「百合ちゃん、お待たせ♪」
買い物デート当日、百合ちゃんのアパートまで車でお迎えに行った。
助手席のドアを開けて、百合ちゃんが乗るのを待つ。
「ありがとう……」
あれ?この前みたいな笑顔が無い……
百合ちゃんが座ったのを確認して、運転席へ乗り込み、声をかける。
「百合ちゃん、今日はよろしくね♪」
「翼くん、今日は何を買うの?」
「実は、自炊しようと思ってさ!」
「……えっ?」
「それで、何を揃えていいかわからないから、百合ちゃんに教えて貰いたいんだ♪」
「そ、そう……」
う~ん……やっぱり笑顔が無い……
「でも、翼くんの部屋、炊飯器も無いわよね?」
「いつも、レンジでチン!するお米だからね~!この際だから、買おうかな♪」
「炊いたお米が余っても、一食分ずつ冷凍しておけば便利だと思うわ。まずは家電売場ね。」
「りょ~かいっ♪」
気にし過ぎかな……
そう気持ちを切り替えて、家電店へ車を走らせた。
「うわっ!思った以上に種類がある!」
今まで足を踏み入れた事が無い調理用家電を前に、驚きの声をあげてしまった。
「最近は、色々な機能が付いているみたいよ。」
「どんなのがあるの?」
「例えばこれは土鍋で炊く美味しさみたいだし、お米の種類を選ぶものもあるわ。」
「へぇ~!」
この土鍋タイプのが良さそう……10万円越えるくらいか……
「よしっ!これにしよう♪」
土鍋タイプの炊飯器を指差すと、百合ちゃんが焦ったように止めてくる。
「つ、翼くん!毎日自炊はしないんだよね!こんないい物、勿体無いから!」
「でも、美味しそうだよ♪」
「もうちょっとリーズナブルな物でも、充分美味しいからっ!」
「そう?例えばどんなの?」
「そうね……これなんて、どう?さっきの半額以下だし、お米の量を計らなくても水の量を教えてくれるみたいよ。初心者には使いやすいと思うわ。」
「へぇ~!下が外れて卓上コンロにもなるんだ!」
冬には百合ちゃんと一緒に鍋を囲んで、こたつの中で足が当たって♪……って、俺、昨日から妄想が激しいな……
にやけそうな顔を引き締めて、百合ちゃんお墨付きの炊飯器をカートへ入れた。
それから、ホームセンターへ行った。
「必要なのは、鍋とフライパンくらいかな?」
「翼くん、計量カップやスプーンはある?」
「それっているの?」
「あった方がいいわね。それとフライ返しやお玉……」
ふふっ!俺よりも真剣に選んでる♪
ふと、食器セットが目に入った。白い食器で、お皿やお茶碗まで二人分が入っている。
そういえば、食器も最低限しか持って無いな……この白い食器で一緒に朝を迎えた百合ちゃんと、焼きたてのパンに目玉焼き……
って、駄目だ……どうやっても、同棲しか想像出来ない……
「翼くん?」
はっ!
百合ちゃんに顔を覗き込まれて、我に返る。
「な、何?」
「顔が赤いけど、大丈夫?風邪でもひいた?」
「だ、大丈夫!大丈夫!今日はちょっと暑いよね♪」
「そうね。でも店内は涼しいけど……」
「あはは!き、気にしないで!」
「……?わかったわ。」
危ない、危ない……マジで妄想が止まらない……
もう一度顔を引き締めて、食器セットとフライパンと鍋のセット、他に小物を買って、店を出た。
「いっぱい買ったな~♪」
車にたっぷり積まれた箱を見て、百合ちゃんが俺の部屋で料理をする情景を目に浮かべる。
「そうね。買い物が終わりなら、私は帰るわ。」
ま、マジっ?!何とか引き留めなきゃ!
「ゆ、百合ちゃん、用事は何時から?可能なら、何か簡単に作れるものを教えて欲しいんだけど!」
「……」
「百合ちゃん?」
「うん……もう少しなら大丈夫だけど……」
百合ちゃんは俯き加減に返事をする。
間違いない……やっぱり何かおかしい……
「百合ちゃん……何かあったの?」
顔を覗き込んで、様子を伺う。
「何でも無い……」
百合ちゃんは俺からスッと目線を外して、窓の外を見てしまった。
「百合ちゃん……」
ふわっと抱き締めて、頭を撫でてみる。
「何かあったよね……俺に話してみて……」
すると、バン!と百合ちゃんに身体を突き飛ばされた!
「えっ?ゆ、百合ちゃん……?」
「ごめん……今日は帰るね……」
車の外へ飛び出していく百合ちゃんを、呆然としながら見送るしか出来なかった。
俺、何かしたかなぁ……それとも、ウザかったか……
俺に言えない事くらい、あるよな……
マンションへ戻って、溜め息をつきながら買った物を箱から出していく。
その時、スマホからメール着信の音が聞こえた。差出人は百合ちゃんだ。
『さっきはごめん……ちょっと疲れが溜まっているから、帰ってゆっくり休むね。』
って、嘘ついてるの、バレバレだし……
「一人で使う訳無いじゃん……百合ちゃんと一緒に使うつもりだし……」
再度溜め息をつきながら、食器を片付けていった。
・
・
・
《百合子目線》
「はぁ……」
翼くんの車から飛び出して、乗り込んだ電車の中で、盛大な溜め息をつく。
さっきの態度、変に思われたかな……
でも、自炊するって事は、私が翼くんにしてあげられる事は何も無くなる……ううん……遅かれ早かれ、いつかはちゃんとした彼女を作って、私から離れていく……
なのに、あんな勘違いさせるような優しい抱擁をするなんて、ズルいよ……益々諦められなくなるじゃない……
「……」
一応、謝っておこうかな……
スマホを取り出して、メールを送信する。すぐに返信が届いた。
『お疲れ様~!休日にまで連れ出して、ごめんね!ゆっくり休んでね♪』
きっと私が嘘をついているって、気付いているわよね……なのに、気遣ってくれるなんて……
「これ以上、優しくしないで……辛くなるだけなのに……」
呟きは、電車が走る音に消えていった。




