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第30話

 「……つまり、その写真に撮られた彼女の仕事を何とかしたいと……」

「そ~ゆ~事だ。何とかならないか?」


百合ちゃんが昔の仕事に戻れば、今よりもマシな生活が出来る筈……


春樹は顎に手を当てて、考え込んでいる。


「……彼女には、言っているのか?」

「いや、さっき思いついたから、何も言って無い。」

「悪いが、私に人事権は無いんだ。勝手に自分の都合の良い人間ばかりを雇わないようにな。人事担当に話す事は出来るが、人事は独自に身辺調査を行うから、彼女に話すのはその後でもいいか?」

「大丈夫だけど、いちいち身辺調査なんてするんだな。」

「このご時世だし、テロ組織の人間だったら政財界のパーティーは確実に狙われるからな。」

「成る程……」


ホテル経営なんて、儲かるだけかと思っていたけど、想像以上に大変なんだな……


それから連絡先を交換して、春樹と別れた。



  ・

  ・

  ・

《百合子目線》



 「はぁ……」


週刊誌に写真が掲載されてから、気が重い日々を過ごしていた。翼くんとは、電話で話しただけで、会えない日が続いている。


心配ないって言ってたけど、社長や専務から何か言われているわよね……私が翼くんの立場を余計に悪くしてしまったような……


そんなある日、翼くんから外で会おうと呼び出された。待ち合わせのカフェへ行くと、テラス席に翼くんと同じ年頃の男の子が同席している。


「百合ちゃん!こっち!」


もう一人の男の子の様子を伺いながら、翼くんが勧めてくれた席へ腰を下ろした。


「翼くん、週刊誌は大丈夫だった?」

「問題無いって!で、紹介するね!こっちは浦和春樹って言って、俺の同級生なんだ。春樹、こっちが森崎百合子さん!」

「初めまして……」


浦和くんと言われた男の子は、物腰柔らかそうな顔立ちで、ラフな格好をしているものの、コーヒーカップを扱う指先一つの動作も様になるような、上品さが滲み出ている。


例えるなら、別世界の王子様というところかな……

結婚指輪もしているみたいだし、何でいきなりこの人を紹介……?


頭の中が疑問符でいっぱいになったところで、浦和くんがふんわりと微笑みながら、私に目を向けた。


「森崎さん、初めまして。お目にかかれて光栄です。」

「は、はい……」

「翼が夢中になる女性に会えるなんて、思ってもみなかったです。」

「む、夢中って……」


チラッと翼くんを盗み見る。


満足そうにニコニコとしているところを見ると、話を合わせた方が無難みたいね……


「わ、私の方こそ、いつも翼くんに助けられていて……」


冷静に考えると、王子様のような男の子と現役モデルに囲まれたオバサン……周りからの女の子達の視線が突き刺さる気がする……


そんな居たたまれない空気を知ってか知らずか、浦和くんが柔らかな笑みのまま、口を開いた。


「翼から聞きました。以前、ロイヤルインフィニティホテルで働いていらっしゃったようですね。」

「はい……もう7年前ですが……」

「当時の支配人が森崎さんの事を覚えておりまして、とてもご優秀な人材だったとお聞きしました。」

「えっ?な、何で浦和くんが支配人……」


ちょ、ちょっと待って……インフィニティホテル系列は、確か浦和グループが経営していた筈……

もしかして、浦和くんって……


「春樹は浦和グループホテル部門の跡取りなんだ。」


私の心の中の疑問に、翼くんが答える。


「や、やっぱり!くん付けで呼ぶなど、失礼いたしました!」


ガバッ!と頭を下げると、クスクスっと笑われてしまった。


「百合ちゃん、いきなり変えなくても大丈夫!春樹は俺の同級生だって言ったよね♪」

「い、いや……翼くんの同級生であっても、私にとっては雲の上の存在だし……」


浦和くんまでが、翼くんに同調している。


「ふふ、翼の彼女としてお会いしていますから、どうかそのままでお願いします。」

「は、はい……」

「それで、単刀直入にお伺いいたします。明日からでも、ホテルへ復職しませんか?」

「あ、明日からですか?」

「はい、善は急げと言いますし、支配人も是非にと言っております。」


こ、これは願っても無いチャンス……だけど、今の私に勤まるのかしら……それに、いきなり辞めるのは、パン屋のオーナーにも申し訳無い……


一つ大きく息を吐き出して、浦和くんへ顔を向ける。


「ありがとうございます……ですが、今すぐは無理です。」

「何故でしょうか?」

「……いきなり辞めるのは、色々と仕事を教えて下さった今のバイト先にも申し訳ありませんし、英語に7年も触れていません。とても今の私では、お役に立てないと思います。」


し~ん……と、三人の間に沈黙が流れる。


やっぱり、浦和グループの方からのお誘いを断るって、失礼だったかしら……


そう思ったけど、浦和くんは、ふっと表情を崩して微笑み出した。


「森崎さん、合格です。」

「えっ?えっ?ど、どういう事ですか?」

「今のお仕事先の事を考えずに明日から大丈夫だと言えば、雇用の件は白紙にするつもりでした。以前、いきなり辞めてしまったと聞いていましたから。」

「そ、そうでしたか……その節はご迷惑をおかけしました。」

「いえ、旦那様の都合で仕方なくとは聞いていますが、念のため確かめさせて頂きました。では、今のお仕事先にご迷惑が掛からないようになりましたら、こちらへご連絡下さい。」


そう言って、浦和くんは一枚の名刺を差し出してくる。それを受け取ると、裏側に手書きの携帯番号が書かれてあった。


「その番号は、私の直通番号です。外部に漏らさないよう、お願いいたします。」

「わ、わかりました……」

「英語の感覚も、それまでに取り戻して頂ければ助かります。」

「努力します……」


それから浦和くんは翼くんと学生時代の話を懐かしそうにして、帰っていった。


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