第3話
「はぁ……大失敗した……」
新幹線の上り終着まで来れたものの、実家のある町までは行く事が出来ない。終電が出ていった後だ。何とか乗り換えのある渋沢駅までたどり着いたものの、そこで途方に暮れてしまった。
これからの生活を考えると、ビジネスホテルなんて贅沢はできないし……
溜め息をつきながら駅の外へ出た。街は夜中だというのに、賑やかなネオンが光っている。
ネカフェ、カラオケボックス、ファミレス……始発まで暇を潰す場所はいくらでもありそうだ。
「何処にしよう……」
トボトボと歩いていると、見覚えのあるビルの前まできていた。龍二とよく通っていたオールディーズライブハウスがあったビルだ。今はクラブになっているらしく、看板が違うものになっている。
「龍二……」
龍二は今の私を見て、どう思うかな……『何やってんだよ!』って、きっと笑い飛ばしてくれるんだろうな……
『この後、どうする?』
『何処でもいいよ。』
クラブがある地下へ続く階段から、人が上がってくる声が聞こえてきて、我に返った。
私ってば、完全に不審者だわ……お腹空いたし、ファミレスでも行こうかな……
思い出のビルを背にしてまた歩き出し、何度目かわからない溜め息をついた時、いきなり後ろからガシッ!と腕を掴まれた!
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《翼目線》
クラブで遊び仲間達と過ごし、店を出た。
「この後、どうする?」
「何処でもいいよ。」
素っ気なく返したものの、隣にいた女の子が俺の腕に手を絡ませて、上目遣いをしてくる。
「そろそろ、翼と二人きりになりたいな~♪」
「それってホテル?」
「もうっ!そんなにはっきりと言わなくても♪」
仕事関係なら無下に扱えないけど、遊び仲間のシュウが連れてきた女の子だし、どうでもいいかな……
「お?リナと翼、ホテル行くのか?どうせならカラオケ行こうぜ!シャワー付きのVIPルームなら、お楽しみも出来るだろ?」
「ボックスなんてヤダぁ~!翼くんは本命カノジョとそんな所行かないよね~♪ねっ♪」
別の女の子の肩を抱いたシュウにからかわれたリナって子が、俺に同意を求めてくる。
一晩遊んだだけで、カノジョ顔かよ……できれば据え膳も頂きたく無い……
「まぁ、本命なら他の野郎に可愛い声を聞かせたく無いしな。だから……」
女の子を怒らせる為、お前ならボックスで充分って言おうとした時、通りを歩く見覚えのある後ろ姿を見つけた。
あれ?もしかして、バーボンのお姉さん?!
「悪りぃ!俺、用事思い出した!じゃぁな!」
「おい!翼!」
シュウの呼ぶ声に軽く手を挙げて、走ってお姉さんを追いかける。追いついたところでガシッ!と腕を掴むと、お姉さんはビックリしたように振り向いた。
「な、何?!」
「はぁ……はぁ……やっと追い付いた……」
「誰ですか?!」
「俺だよ!俺!二度と会えないかと思ってたよ!」
お姉さんは目を凝らして俺の顔を見始め、すぐに驚いた顔をした。
「あっ!」
「思い出した?バーボンのお姉さんだよね?」
「バーボンって……」
「こんなところで何やってんの?家出?」
「家出じゃぁないわよ。」
「だって、昨日は地方にいたじゃん。」
「……終電に乗り遅れただけよ。」
「ふ~ん……」
昨日の店は常連だって言ってたから、あっちに住んでるのは間違い無い筈なんどけど……仕事で出張に来たって雰囲気でも無いし、これは何かあるな……
「どうせ始発まで暇っしょ?バーボンのお礼に何か奢るから、俺に付き合ってよ!飲みに行く?」
「バーボンはマスターの奢りなの。お礼なら、マスターにしてくれる?」
「え~!髭面のオッサンと仲良くするつもり無いし!それに、飲ませてくれたのはお姉さんじゃん♪」
「確かにそうだけど……ってか、腕を離してよ!」
そう言うと、お姉さんは腕を振りほどこうと、必死に動かし始める。
簡単に離す訳無いじゃん♪
「もうっ!いい加減にしないと、大声出すわよ!」
「だったら、熱~いキスで塞いじゃうよ♪」
「マジで……」
キュ~!グルグル……
お姉さんが何かを言いかけた時、お姉さんのお腹が盛大な音を立てた。
「ぷぷっ!お腹が大声を出しちゃってるじゃん♪」
「べ、別にいいでしょ!今からファミレスへ行くところだったのよ!」
お姉さん、焦ってる♪焦ってる♪真っ赤になって、可愛い~♪
「じゃぁ、ファミレスで何か奢るよ~♪」
「年下に奢ってもらう程、困って無いわ!」
「年は関係無いっしょ♪」
「もう私の事は、ほっといてよっ!」
俺の手を強引に腕を振りほどいて、お姉さんはスタスタと歩き出してしまった。
ってか、そっちにファミレス無いし……
お姉さんの後ろをついて行き、声をかける。
「そっちのファミレスなら国道まで出て、それから20分は歩くよ~!」
お姉さんはピタッ!と止まって、今度は駅方面に歩き出した。
「駅前のファミレスは深夜2時までだから、始発まで暇潰し出来ないよ~!」
お姉さんはまたしても、ピタッ!と止まる。
「俺、24時間の店、知ってるんだけどな~♪」
その言葉に、やっとお姉さんが俺に身体を向けた。
「……教えて。」
「え~!タダでは教えられないな~!俺も一緒に行ってもいいんなら教えるけど♪」
「それは……」
「お腹空いてるんだよね♪奢るからさっ!」
「……わかった。だけど、自分のものは自分で払うから。」
「はいはい。承知しました!って事で、行こっか♪」
お姉さんの手を握って、鼻唄混じりに歩き出す。
「ちょっと!手は繋がなくてもいいでしょ!」
「ん~!お姉さんが逃げないように保険ね♪」
「保険って……」
振りほどく事はしないから、心底嫌がっては無さそうだな♪出会いから濃いキスしてるのに、手を繋ぐくらい、今更って感じだよね~!
ってか、奢って貰えるって聞いたら、普通は喜んでついて来るよな……よっぽどか男に甘え慣れて無いのか、甘えられる男が居なかったのか……
益々お姉さんの素性が、知りたくなってきたかも♪