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第27話

 「百合ちゃん!動かないで!」

「はいっ!すみませんっ!」


パーティー当日、会場であるベイサイドインフィニティホテルの一室を借りて、キャッシーさんにメイクを施されている。


「あら、クリームをちゃんと塗り始めたのね♪」

「まぁ……一応……」

「いい心掛けだわ♪今日はつ~ちゃんも驚くような美人にしちゃうからね!」


鏡越しにウインクをしてくる体格の良い男性……キャッシーさん……


「お、お願いします……」

「今日のドレス、撮影の合間を縫って、つ~ちゃんが百合ちゃんの為に、一所懸命選んだのよ♪」

「そうなのですか?」

「そうよ!買うと百合ちゃんが受け取らないかもしれないって、何件もレンタルドレスショップを廻ってね!ホント、妬けちゃうくらい愛されているわね~♪」

「あはは……」


ここは否定した方がいいのか、そのままの方がいいのか……苦笑いしか出来ないわ……

それにしても翼くん、色々と考えて用意してくれたのね……


用意されていたシルクで仕立てた濃紺のタイトなイブニングドレスは、一目見て気に入った。身体のラインが出るものの、上品なドレープが胸元を然り気無くボリュームアップしている。


「さっ!これでカンペキよ~♪」


サッ!と鏡の前からキャッシーさんが退いて、肩に掛けられていたタオルケットを外された。


嘘……これが私……?


鏡を覗き込んで、驚いた。そこには、強調された目元、普段より若く見えるけど若作りではなく大人の雰囲気が漂う完璧なメイク……ドレスにぴったりなハーフアップされた髪の毛……

まるで自分とは思えない程、上品な大人の雰囲気が漂っている私がいる……


「どう?元々パッチリ二重瞼だけど、下品にならない程度に強調して、百合ちゃんのいい所を引き出してみたのよ~♪」

「流石はキャッシーさんです……」

「でしょ♪でしょ♪つ~ちゃんを呼んで来るわね!」


キャッシーさんがドアを開けると、翼くんがワクワクした様子で部屋の中へ入ってきた。


「百合ちゃ……」


つ、翼くん……格好いい……


部屋へ入ってきた翼くんに、見惚れてしまった。

前髪を上げて、着こなしたタキシードが普段の少し甘えた雰囲気を微塵も感じさせない程、大人の色気を漂わせている。


だけど、私を見た翼くんは、目を見開いて言葉を止めている。


「な、何か可笑しいかな……自分では無いみたいだし……」

「ううん……百合ちゃん、凄く綺麗……」

「あ、ありがとう……キャッシーさんの腕がいいから……」

「そんな事無いよ……今すぐキスしたいかも……」


な、何だかそこまでベタ誉めされると、恥ずかしい……


「つ~ちゃん!思春期のサルとは違うんだから、我慢しなさいよ!リップが取れちゃうじゃない!」


すかさずキャッシーさんの突っ込みが入る。


「仕方ないから、抱き締めるだけで我慢するよ。」

「それ、我慢して無いから!つ~ちゃんのタキシードにファンデーションが付いちゃうでしょ!パーティーが終わるまで我慢しなさい!」


キャッシーさん、私の代わりに突っ込んで頂いて、ありがとうございます……


「俺はどう?」

「つ、翼くんも……」


言いかけて気付いた。


翼くんが身に付けているネクタイにポケットチーフ、ジャケットの襟を縁取っている生地、私のドレスと同じかも……


「翼くん……もしかしてそのタキシードって……」

「百合ちゃんとお揃いにしたんだ!」

「でも、お揃いって……」

「誰が見ても、仲良しカップルだね!」


や、やっぱり……またしても誤解が広がっていくような……


「さっ!そろそろ行こうか!」


当然のように差し出してくる翼の腕に手を添えて、キャッシーさんに見送られながらパーティー会場へと向かった。




 パーティー会場には、きらびやかな芸能人オーラが漂っていた。


「す、凄っ……」


給仕で入った事も何回かあるけど、自分がゲストだと思うと、また違った印象に見えてくる。


「翼くん……私、可笑しくないかな……」

「大丈夫!この会場の中で一番綺麗だから、堂々としていればいいって、」

「あ、ありがとう……」


そうは言われても、テレビや映画で見たことがある芸能人だらけの圧倒されるようなオーラを前に、気後れしてしまう……


ふと、翼くんが耳元に顔を寄せてきた。


「今、ここでキスして、みんなに見せつける?」

「なっ?!」


バッ!と翼くんから顔を離す!


「な、何を言ってるの?!」

「ぷぷっ!冗談だって♪さっきキャッシーにも釘を刺されてるしね!」


こ、この小悪魔っぷりは、姿が変わっても変化無しなのね……


「んじゃ、何か飲み物を頂こうか!」

「そ、そうね……」


通りすがりのボーイを呼び止めて、翼くんがシャンパンを受け取ってくれた。


「乾杯。」

「かんぱ~い!」


軽くグラスを持ち上げて、一口頂く。


「美味しい……」


こんなに美味しいお酒、久し振りかも……


「あはは!バーボン以外もお酒は好きなんだね!」

「強くは無いけど、洋酒は何でも好きかな。」

「じゃぁ、ワインも飲める?」

「大丈夫よ。」

「なら、今度、ワインを持って遊びに行くね♪」


お酒談義に花を咲かせていると、一組の年配のカップルが近付いてきた。

少し白髪が混ざったロマンスグレーの髪の毛がダンディな男性と、目も眩むような宝石をこれでもかと付けている女性だ。


「翼、今年はちゃんと来たみたいだな。」


年配の男性が翼くんに話し掛けている。


「社長……創立30周年おめでとうございます。」


一瞬で翼くんの笑顔が、張り付いた笑みに変わった。

社長の隣にいる年配の女性は、興味無さそうに、翼くんを見向きもしない。


社長って事は、翼くんのお父さん……そして、隣にいるのは恐らく本妻さん……


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