第24話
「ずみまぜん……グスッ……風邪をひぎまじで……」
翌日、見事に風邪をひいてしまった……
パン屋に連絡を入れて、再び布団に潜る。
「うぅ……解熱剤くらい買っておけば良かったかも……」
薬という類いの物は、侘しいアパートの部屋には何も無い。例外無く体温計も……
病院へ行こうかなぁ……でも、起き上がるのもだるい……
「……」
仕方ない……少し寝て、動けるようになったら、ドラッグストアへ行こう……
目を閉じた時、メールの受信音が聞こえた。スマホを手に取ると、翼くんからだった。
「えっと……『今日は夕方前に終わりそう!百合ちゃんのご飯食べたいな♪』……か……」
む、無理……自分のご飯も儘ならない……
「今日は無理……ごめんね……」
送信……
そのまま目を閉じて、眠りについた。
「寒っ……」
異常なくらいの寒気を感じて、目が覚めた。外は薄暗くなっている。
もう……具合が良くなるどころか、悪化してるじゃない……
流しで水を飲んで、再び布団へ入る。だけど、余計に身体を冷やしてしまったのか、震えが止まらない……
駄目だ……本気で死ぬかも……
震えながら、何とかスマホを手にした。
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《翼目線》
「えぇ~~?!お前ら、まだヤッてね~の?!」
撮影が予定よりも早く終わってしまった俺は、シュウと久し振りにカラオケへ来ている。
「翼、お前はいつから草食系になったんだよ!」
「百合ちゃんを大事にしたいだけだよ。」
「大事にって、付き合ってるんだろ?」
「まだ、その前の段階かな?」
「お前がハッキリ彼女って言い切ったから、てっきりなぁ……」
「まぁ、シュウも本気の女ができれば、俺の気持ちがわかるって!」
「気持ちねぇ……」
シュウは何故か呆れたように、持っていたモスコミュールのグラスをテーブルの上に置いた。
「……翼の話を聞いてると、本気というより、母親の面影を重ねているような気がするんだけど……」
「母親?何でだ?」
「頭撫でて貰って嬉しかったとか、百合さんに読んで欲しいからコラムを書くとか、お前から想像出来ないんだけど……まるで姉貴に褒めて貰いたい俺の甥っ子みたいだぞ。」
「甥っ子っていくつだ?」
「今、5歳だ。」
「5歳児と同列かよ……」
思わず苦笑いだ。
「だから、ヤる気も起こらないんだろ。もう少し冷静になってもいいんじゃないか?」
「俺と百合ちゃんの絆はもっと深い物なんだよ!」
「人柄に惹かれてるのはわかったよ。ただ、人として好きなのか、女として好きなのか、もう一度考えてみろよ。それでもお前が本気だって言うなら、応援するから。」
「……」
ちょっと拗ねたフリをして、テーブルに置いていたジントニックを飲み干す。
だけど、シュウに言われた事は、思い当たるフシがある。
百合ちゃんは俺を芸能人扱いしないし、財布に集る事もしない。最初からカッコ悪い面を見られているせいか、百合ちゃんの前だと変に飾る事無く、素の自分が自然に出てくる。
だから、一緒に居たいと思う……もう一度キスだってして欲しい……でも、それが身内みたいにじゃれてるだけと言われれば否定出来ない……
百合ちゃんからは小悪魔ワンコって言われるし……
「はぁ……」
思わず溜め息をついた時、百合ちゃんから電話がかかってきた。
あれ?今って、まだバイト中だよな……もしかして用事が無くなったのかも♪
期待を込めて通話ボタンをタップする。
「もしもし!」
──「……し……」
「し?」
──「……死にそう……」
何とか絞り出しただろう百合ちゃんの苦しそうな声が、震えている。
「ど、どうした?今、何処?!」
──「……アパート……」
「すぐ行くから!」
カラオケ屋を飛び出して、通りかかったタクシーに飛び乗った。
「ホント、もっと早く連絡くれればいいのに……」
百合ちゃんが熱を出しているのがわかって、薬や体温計、冷却シート、レトルトのお粥を用意してアパートへ行った。
百合ちゃんの声は少しだけ震えていて、寒気があるみたいだ。
「ごめんね……風邪移したらいけないし、薬を貰えれば大丈夫だよ……」
「ダメ!だって、昨日俺のせいでずぶ濡れになったから風邪ひいたんだよね?」
「翼くんのせいでは……」
「いいから!俺が熱を出したら百合ちゃんに看病して貰うし、その時の貯金だと思って♪」
「……ごめんね。」
レンジで温めたお粥と薬を用意して、百合ちゃんに差し出す。
「はい!薬飲む前に、少しだけ食べた方がいいよ!」
「うん……本当にごめん……」
「こ~ゆ~場合は、ありがとうの方が嬉しいかな♪」
「……あ、ありがとう……」
「よく出来ました♪じゃ、口を開けて!」
お粥を一口だけスプーンに掬うと、百合ちゃんは焦ったように顔を仰け反っている。
「じ、自分で食べれるから……」
「大丈夫!ちゃんとふぅふぅしてあげるから♪」
「そういう問題じゃぁ……」
「いいから、いいから♪」
「……翼くん……楽しんでない?」
若干、百合ちゃんからジト目で見られている気が……気のせいにしておくか……
「何の事かな?それより、あ~ん♪」
やっと諦めたのか、百合ちゃんは渋々ながら口を開けてパクッとお粥を口に入れた。
百合ちゃんには悪いけど雛鳥に餌をあげているみたいで、めちゃめちゃ楽しい~♪いつもはしっかりしてる百合ちゃんが、子供みたい!
それに、百合ちゃんは気付いていないかもしれないけど、頼って貰ったのって初めてなんだよな~♪
それから百合ちゃんは半分だけお粥を食べて、薬を飲んだ。




