表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/90

第23話

 褒め殺しの刑執行も何とか終わり、気分的にヘトヘトになりながら、お手洗いへ行った。


「帰りにドラッグストアへ行ってみようかな……」


最近、翼くんが食料品代を出してくれるおかげで、ギリギリの生活費という訳では無くなってきた。クリームを買うくらいなら、余裕は出来ている。


翼くんは悩みながらも努力して俳優業も順調だし、更に執筆まで頑張っているし、色々と努力をしているわよね……


「頭が上がらないな……」


はぁ……とため息をついた時、お手洗いへ誰かが入ってきた音が聞こえた。


よしっ!とりあえず私は、お肌のクリームを塗るところから始めようっ!


何年か振りにちょっとだけ前向きになり、お手洗いの個室を出ようとした。


ガチャ……ガチャ、ガチャ……


「あれ?開かない……」


何で?と思うや否や、ドア上側からバシャッ!と、思いっきり大量の水がかかってきた!


「きゃぁ~!!」


  『きゃぁ~!!だってさ。まともに服も買えないような貧乏ババアのくせに、カマトト振ってんじゃぁね~よ!』


えっ?!だ、誰の声?!


  『立場もわきまえないで、翼に言い寄らないでくれる?年を考えろっつ~の!』

  『翼も翼だよね~!こんなババアに引っかかるなんて。』

  『ホント!頭悪いんじゃぁないの!』

  『まぁ、ドラマもパパのコネって言うしね!きゃはは♪』


こ、この人達、何を言っているの?きっかけは知らない……でも、翼くんは悩みながらも頑張って、ドラマの役も良い評判を勝ち取っている……


  『やっぱいいよね~!事務所社長の息子って!コネで仕事も貰い放題だし、玉の輿だし♪』


ち、違う……コネなんかじゃ無い……コラムの企画も編集長に持ち込んだって言っていた……翼くんは努力で仕事を掴んでいる……


  『でも、いくら誘っても落ちなかったじゃん!もしかして、マザコンじゃない?!だから熟女好きなのかもよ!』

  『今でもママと一緒におねんねしてるかもね~♪』


プツン……

ある事無い事言い放題の声に、キレた!!

バンッ!!と思い切り個室のドアに体当たりをしてドアを無理矢理開ける!外へ出ると、ドアを押さえていただろう女性が床へ転がっていた。


「ちょっと!何すんのよっ!!」


床へ転がった女性と、起き上がらせているもう一人の女性……この二人、さっき私の服を批判していたモデルさん達だ。


「怪我したらどうするのよ!!アンタと私達は価値が違うのよっ!!」


ポタッ……私の髪の毛から、水滴が滴り落ちる。


努力をしていると胸を張れるものが何も無い私の事は、何と言われてもいい……だけど……


拳を握りしめて、二人を睨みつけた。


「怪我?自業自得よね?」

「何なのこのババア!ちょっと翼にちやほやされただけで、偉そうにしてんじゃね~よ!」

「私の事はいい……だけど翼くんを悪く言うのは我慢出来ない……取り消してよ……」

「はぁ?何言ってるのか、聞こえないんだけど!」


大きく息を吸い込んで、声を張り上げる。


「翼くんは努力で仕事を掴み取っているの!見た目しか取り柄が無いアンタ達とは違うんだから!さっきの言葉を取り消しなさいよ!」


その時、バンッ!とお手洗いのドアが勢いよく開き、キャッシーさんが飛び込んできた。


「あんた達、何やってるの!って、百合ちゃん!びしょびしょじゃない!」


キャッシーさんの声に、翼くんまでお手洗いの中へ飛び込んできた!


「百合ちゃん!!」


びしょびしょの私に驚いたかと思うや否や、ギュッ!と私を抱きしめてくる。


「つ、翼くん!濡れちゃうよ!」

「構わないから……」

「構うよっ!」

「もう黙って……」


そして、翼くんは静かに女性モデル二人へ顔を向けた。


「共演者を拒否る時、コネって便利なんだよね~。でも、今回はコネも必要無いかな?」


聞いた事も無いような翼くんの低い声に、女性モデル達はビクッ!と身体をこわばらせている。


「編集長、今後の話をまかせてもいいですか?」


翼くんが扉の向こうへ話しかけると、開いた扉の廊下に編集長さんが顔を出した。


「あぁ、構わないよ。ウチの雑誌に出たいモデルなんて、いくらでもいるからな。二人ともこっちへ来なさい。話がある。」

「はい……」


観念したのか、女性モデル達はうなだれてお手洗いを出ていく。


「私、百合ちゃんが着れそうな服をスタイリストさんに借りてくるわ!」


編集長さんに続いて、キャッシーさんもお手洗いを出ていき、翼くんと私の二人が残された。


「どうしてここへ……」

「百合ちゃんが戻って来ないから、みんなで探してたんだ。」


みんなにも心配かけちゃったんだ……悪い事したわね……


翼くんは私を温めるよう、更に腕の中へ包み込んでくる。


「百合ちゃん……ありがとう……」

「……えっ?何が?!」

「さっき、俺の事で怒ってくれたでしょ?」

「それは……あまりにも言う事が酷かったから……」

「凄く嬉しかった……」

「そ、そう……」


って、キレたのを聞かれてたのね……は、恥ずかしい……


「百合ちゃん……二回目のキス、してもいい?」


ぶっ!思わず吹き出しそうになる!


「だ、駄目に決まってるじゃない!」

「何で?今、無性に百合ちゃんにキスしたいんだけど……」

「我慢してっ!」

「……わかった。笑顔になるまで待つ約束だもんね……」

「そ、そうだったかな……?」

「何で疑問形?」

「何となく……」


それから、キャッシーさんが借りてきてくれた服に着替えて、アパートへ帰った。




 ドアの前まで送って貰った時、翼くんが香水が入った紙袋を差し出してきた。


「はい!これ、今日コロンを選んでくれたお礼だよ♪」

「えっ?これは翼くんのアロマ……」

「俺も百合ちゃんに選んだんだ!」

「でも私、飲食店で香水は付けないから……」

「そう言うと思って、部屋で使うアロマにしておいたよ!アロマディフューザーも邪魔にならないよう、一番小さい物だからね♪」

「あ、ありがとう……」

「じゃ、またね~♪」


翼くんは満面の笑みと共に、帰っていった。


また物を貰っちゃった……空っぽだった部屋に、翼くんから貰った物が増えていく……


部屋へ入り、アロマをディフューザーにセットしてみた。電源を入れて暫くすると、何だか落ち着くような、少し甘さもあるような香りが広がっていく。


「いい匂い……翼くんが私に選んでくれた香りかぁ……」


そういえば、何の香りをチョイスしたのかしら……


紙袋の中にある調合表と香りの説明書を取り出してみる。


「どれどれ?百合の香り……は、私の名前からよね……それと、イランイラン……って何?」


香りの説明書を見ると、薔薇から抽出された香りだと書いてあった。


そっか……名前にちなんで、フローラル系を中心に選んでくれたのね……


“イランイランには、男性を誘う媚薬効果があると言われており、新婚夫婦の寝室には必ず置く国もあります……”


嘘っ?!な、何でこの香りをチョイス?!


「……いやいや、深い意味は無いよね……」


一人納得するよう言い聞かせ、更に説明文を読み進めていく。


「えっと……」


“実際のところフェロモン香水の効果は微妙ですが、好きな匂いの異性に惹き付けられると言われていますので、特定の異性を惹き付けたい場合は、その異性に好きな香りを選んで貰うと良いでしょう……”


「……」


え……選んじゃった!だから私の好きな香りだって言った時、翼くんが照れてたんだ!

ど、どうしよう!顔を合わせ難い……


「……」


って、考え過ぎだわ……翼くんだって何も考えて無いかもしれないし、そもそもキスしたいっていうのも、小悪魔ワンコがじゃれてるとしか思えないし……


「は……はっくしょん!」


流石にこの時期のずぶ濡れは、まだ寒いわね……くだらない事考えていないで、シャワーを浴びよう……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ