第22話
つ、疲れた……
謎の男性からのスパルタ講座により、ぐったりとしていると、翼くんが撮影を終えてやって来た。
「百合ちゃん、どうしたの?そんなに疲れて……」
「大丈夫……自分の女子力の無さに落ち込んでいただけだから……」
「ん?何で?確かにメイクアップアーティストからすれば足りない部分があるかもしれないけど、百合ちゃんはちゃんと女子じゃん!」
成る程……この不思議な男性は、メイクアップアーティストだから美容に詳しいのね……
私をフォローする翼くんに、メイクアップアーティストの男性が駄目出しをしている。
「ちょっと!つ~ちゃん!甘やかしたら駄目よ!それよりこの娘の住んでいるところ、シャワーしか無いらしいわよ!彼氏なんだから、たまには美肌効果のある温泉でも連れていってあげなさいよ!」
ま、また何かの勘違いを……
「一緒に温泉か……百合ちゃんと背中流しっこでもいいかもね。」
せ、背中流しっ?!
「そうよ~!一緒に浸かって一緒に適度な運動をすれば、お肌にもいいわよ~♪」
適度な運動って……は、話が勝手に過激な方向へ進んでいく……
「キャッシー、それいいな!」
あっ、この男性がキャッシーさんなのね……
「でも、俺、車運転出来ないしな……」
「えっ?翼くんって、運転出来ないの?」
驚いて、思わずキャッシーさんと翼くんの話に、割り込んでしまった。
「うん、免許を持って無いんだ。あまり必要無いかと思ってね。」
「へぇ~、意外……」
「百合ちゃんは免許を持ってるの?」
「うん。私の実家は郊外だし、地方でも車が無いと生活が不便なのよ。」
「免許見せて!実物を見てみたい!」
「いいわよ。」
鞄の中から財布を取り出して、免許を取り出した。
「はい、これだよ。」
翼くんに手渡すと、物珍しそうに免許をマジマジと見始めている。
「へぇ~、ってか百合ちゃんに頼って温泉ドライブもなぁ……ドラマの撮影が終わったら、免許を取りに行こうかな……」
「私とのドライブを前提にしなくても……」
「それが目的じゃん!」
「そ、そう……」
キャッシーさんはニヤニヤしながら私達を見ている。
「まぁ、愛の力って偉大ね~♪」
「まぁね!」
愛の力じゃぁ無いし、翼くんも否定しないし……ど、どうやって誤解を解けば……
必死に頭の中をフル回転させていると、一人のお洒落な男性が近寄ってきた。ラフに着崩したジャケットにスカーフがワンポイントの、チョイ悪親父といった雰囲気だ。
「翼くん、急に悪かったね。タイアップメーカーから、どうしてもアイテムを追加して欲しいって頼まれたんだ。」
「編集長、お疲れ様です!いつもお世話になっていますし、時間が取れる時くらい呼んで下さい。」
メンズ雑誌の編集長……どうりでお洒落な訳だわ……
「ありがとう、助かったよ。そうだ、企画を持ち込んでくれた例のコラムなんだけど、来月号の掲載が決まったよ。」
「ほ、本当ですか?!」
例のコラム?
不思議に思っていると、満面の笑みを浮かべた翼くんが、ガバッ!と私に抱きついてきた!
「百合ちゃん、やった!」
「つ、翼くん!ここ、外!」
「いいじゃん!」
「恥ずかしいって!」
私からちょっとだけ身体を離した翼くんは、チョン!と額を突いてくる。
「百合ちゃん、そろそろ慣れよう!それに、百合ちゃんのおかげだから!」
「私のおかげって?」
「百合ちゃんが、俺の書いたものを読みたいって言ってくれたでしょ?だから、コラムを載せたいって、編集長に企画を持ち込みしたんだよ!」
「そ、そうなの?」
す、凄いっ!モデルもして、ドラマにも出て、私のところにも来て、更にコラムまで執筆するなんて!
それに比べて私は、お金が無いのを言い訳にして、お肌の手入れをサボっていたかも……キャッシーさんの言うとおり、クリームくらい使おうかな……
編集長さんは、微笑ましいものを見るような目で、私達を見ている。
「翼くん、もしかして彼女が例の?」
「そうです!彼女からヒントを貰いまして!」
「中々の才女なのですね。」
さ、才女?!翼くん、一体私の事を何て話しているの?!
「この娘、いい素材を持ってるから、クリーム使えばすぐに綺麗になるわよ~♪」
キャッシーさんまで?!
「自慢の彼女だからね!」
翼くん……否定どころか、更に誤解を上塗りしてる……
あ、諦めよう……ってか、さっきまで駄目出しばかりだったのに、一転して褒め殺しになってるし……慣れていないせいか、どんな顔をしていいのかわからない……
顔がポッと熱くなるのを感じ、思わず俯いてしまう。
「まぁ、この娘、照れちゃってるじゃない!歳の割にウブね~♪」
キャッシーさん……褒められ慣れて無いのです……
「キャッシー、あまりからかわないで!照れる可愛い顔を見ていいのは、俺だけだから!」
か、可愛いって……翼くん……
「はは!翼くんはいい女性を見つけたな!」
編集長さんも、察して下さい……
何故か三人から褒め殺しの刑に処される私であった……




