第20話
「百合ちゃん、その靴大丈夫?」
「大丈夫よ。靴擦れしそうなところに、絆創膏貼ってきたなら。」
「ぷぷっ!用意が良すぎて残念!お姫様抱っこ出来なくなっちゃった♪」
「お、お姫様って……」
私は翼くんから買い物に付き合って欲しいと言われ、バイトが休みの今日、一緒に電車に乗っている。靴は前にも履いたパンプスなので、また翼くんに迷惑をかけないよう、用意周到に準備した。
「そのチュニック、初めて見るかも!凄く似合ってるよ~♪」
「あ、ありがとう……」
量販店の服だけど……翼くんは誉め上手ね……
「……今日は何処へ買い物に行くの?」
「隣の毘沙門まで行こうかと思ってるんだ!ちょっと百合ちゃんにお願いしたい事があってね♪」
「お願いって何?」
「それは着いてからのお楽しみ~♪」
ってか、また恋人繋ぎだし……大丈夫かなぁ……
私の心配を余所に、電車は毘沙門駅に到着した。
駅から程近いところに、目的の店はあった。
「ここ……香水専門店?」
お店の看板には、香水&アロマ工房と書いてある。
「うん!自分で好きな香りを選んで、調合してくれるんだって!」
「へぇ~。凄いね。」
「それで、百合ちゃんに俺のコロンを選んで欲しいんだ♪」
「へっ?わ、私が?無理よ!」
「難しく考えなくていいからさ!百合ちゃんの直感で選んでくれたら大丈夫だよ♪」
「で、でも……」
「でも、は無し!それに、前のはもう使いたく無いから、百合ちゃんに選んで貰えると嬉しいな……」
翼くんは期待を込めた目で、じぃ~っと私の顔を見始めた。
って、また翼くんがワンコっぽく見える……
そういえば……リナさんが同じコロンを使ってたって、言ってたわね……だから変えたいのかな……
「……わかった。頑張ってみるよ。」
「ぷぷっ!だから、難しく考えなくて大丈夫だよ~♪」
心の中で気合いを入れて、店の中へ入る。店内は白を基調とした店内にミントグリーンのアクセントが爽やかな内装だ。壁一面には、香水やアロマだろう小瓶がずらりと並んでいる。
「いらっしゃいませ。」
人が良さそうな笑顔の店員さんに迎え入れられ、二人それぞれ調合する香りを選んでいった。
「う~ん……」
調合カウンターで翼くんの為に選んだ数種類の小瓶を前に、悩みに悩んで、早一時間……
「悩む……」
「百合ちゃん、決まった?」
「ちょっと待って……どれもいいし、どれも決め手に掛けるのよね……」
私の言葉に、店員さんが微笑みながらやって来た。
「こんなに素敵な彼氏さんなら、悩みますよね。」
「い、いえ……そういう訳では……」
翼くんは満面の笑みを浮かべている。
「可愛い彼女がこんなにも真剣に選んでくれるなんて、嬉しいな♪」
翼くん……否定してよ……
店員さんは私の前に並んでいる小瓶を手に取り、納得したように頷いた。
「成る程……この種類なら、全部入れても大丈夫でしょう。」
「本当ですか?グレープフルーツもいいし、グリーンシトラスも捨てがたくて……後、少しだけブラックベリーを足した感じがイメージなのですが、このムスクっていうのも気になって……」
「大丈夫ですよ。彼氏さんに対するイメージが伝わって来ますね。」
「そうなのですか?」
「ええ。爽やかな中にも少しだけ苦味のある男性、だけど、時々甘い顔も出す……といったところでしょうか。」
「……当たりです。」
「そして最後の仕上げはムスクですね。」
「はい。」
そういえば、翼くんも何か選んでいたわね……
「翼くんは、何を調合したの?」
「俺は部屋用アロマを調合したんだ♪」
「そうなんだ。」
部屋でアロマを炊くなんて、やっぱり芸能人は違うわね……って、私が女子力低いだけかしら……
それから店員さんが調合した香りを、試しに嗅いでみた。
「凄い!イメージどおりです!」
爽やかな中にも嫌味の無い甘さ、それが上手くまとまっている。
「彼女さんもお好きな香りですか?」
「はい。」
「ふふ!彼氏さん、良かったですね♪」
意味深に微笑む店員さんに、何故かテレる翼くん……
店員さんは手にしたアトマイザーを翼くんに差し出した。
「すぐに付けられますか?」
店員さんに勧められた翼くんは、ワクワクした様子でアトマイザーを受け取っている。
そして、天井へ向かってワンプッシュし、ふわふわと落ちてくる霧の中に、身体を潜らせた。
「えっ?そういう付け方って初めて見たかも……」
店員さんは関心したように頷いている。
「彼氏さんはよくご存知ですね。日本人はあのくらい微量で、丁度良いんです。」
「そうなのですか?」
「ええ、初心者が失敗するのは、付け過ぎる事ですね。本人には好きな香りでも、付け過ぎは他人にとって悪臭ですから。」
「成る程……」
確かに満員電車内でのキツい香水は、気分悪くなる……ってか、翼くん、女子力が私より高いわ……
「百合ちゃん!サイコーに気に入ったよ!ありがと♪」
まぁ、いっか……翼くんは喜んでくれたみたいだし……
翼くんの満面の笑みを見ると、小さな事なんてどうでもよくなってくるから、不思議ね……
それから商品を紙袋に入れて貰い、店を出た。




