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飛べない

居並ぶ、返却カウンターの人たちが

とりあえず捌けた。



めぐが、コンピュータ処理をして、クリスタさんが

その本を返却カートに移す。



最初は、大きい本、小さい本、と

分類していたクリスタさん、だった。



途中で、それを返す書架がある事に気づいた。



「めぐさん、これは....書架に戻すのですか?」



「はい」と、めぐは答え、「ああ、そうですね。本の背中に貼ってある

分類コード、数字ね。その順番に並べて置くと返すの楽ね。」



郵便配達の順路表みたいに、カートを進める順番に

本を並べると便利なの、と


めぐは言った。



「でも、さっきみたいにいっぱい並んでるときは

とりあえず、並んでるひと、大変だから。重たい本持って

立ってるの」


だから、先に処理しちゃうのね。



そう、めぐは言った。


クリスタさんは「自動で処理できたらいいですね。」と、

なんとなく。



めぐは思った。



.....。自動。



入り口のRFID検出機で、本の情報は読める。

だから、貸し出ししていない本が通ると

チャイムが鳴るもの。





.....似たような仕掛けで、できそう!。



なんとなく、ひらめいたりして(笑)。




ものを考えるのは、楽しい。


作るのも。



ソフトウェアを作るのは、女の子向き、かもしれない。



体力も図面もいらない。


発想と言語能力だけ、だもの。





「ありがと、クリスタさん!}と、めぐは

アイデアをもらえたことに感謝した。



クリスタさんは「....はい。?」と、


ちょっと意味が分からない。




「ああ、面白い事思いついちゃった!みんなが並ばなくていい仕組み。

クリスタさんが教えてくれたのよ。」



「....?」クリスタさんは、やっぱり訳分からない(笑)。


でも、なんとなく仕事が創造的で面白い、って事は

感じ取れたみたい。




事務的職業みたいな司書、でも

考え方ひとつで、楽しくもなるし

創造的にもなる。



本が好きな人が、もっと好きになってくれるように。


それは、最初から変わってない。

プログラムも、仕掛けをみなければ

魔法、に似てるのかしら。


そんなふうに、めぐは思った。



「貸出は、F2キーですか」と、

クリスタさんが、柔和に

たずねてくる。



いま、お客さんはいないので

その間に、少し仕事を覚えよう。


そんな感じかしら。




「そう、F2、を押してね。」

と、めぐはにこやかに。


「どうして、画面に触れてもいいのですか?」


と、クリスタさんは素朴な疑問。



「それは、画面のその場所を触ると、F2キーを押したのと

同じスイッチが入るの」と、めぐ。



「スイッチって、明かりを点ける、あれ、ですか?」と、クリスタさんは

幼い子みたいに聞くので

めぐは、愛しくなった(笑)。




「はい。コンピューターってね。

スイッチが一杯入ってるの。

それで、点けたり消したりして

言葉や数字を、人間のね。

それを覚えていくの。」と

めぐは、学校の授業で習った事を

そのまま言った。



「ことば・・・・」クリスタさんは、少し思案顔。



「そう。たとえば数字のゼロ、はね

コンピューターさんは、スイッチをひとつも入れないの。

一、は、ひとつ入れるのね。」と

めぐは、数学の2進法の授業を

思い出して。



「2は、ふたつですか?」と

クリスタさんも楽しそうに。




「はい。ふたつのスイッチで、でも

ひとつめのスイッチは切って。

ふたつめを入れるの。」と、めぐ。



「両方入れると?」と、クリスタさんはクイズみたいに。


「4かしら?」と、めぐも少し不安げ(笑)。



「そうなんですね。それで文字は、どう覚えるのですか?」と、クリスタさん。



「その数字をね、組み合わせて文字を覚えるの。例えば、記号の〜、は0133、と言うふうに辞書があるのね。

そのキーを押すと、辞書が数字の0133、と翻訳するのね。」と

めぐは、こないだ使ったキーの

コードを答えた。





「外国語みたいですね」と、クリスタさん。



「はい。魔法みたいでしょ?」と

めぐはにこにこ。




・・・・・そういえば、ルーフィさんの

書く魔法陣も似てるって。



そんなこと言ってたっけ。



ふと、めぐは

イメージで、ルーフィを空想した。



遠くから来て、また、遠くへ帰って行く。



不思議なひと・・・・。


彼の世界は、一体どこなんだろう。



それは、未だ謎だった。













「できるの?それは助かるなー」

司書主任さんは、めぐのアイデアを聞いて喜んだ。


貸し出しは別にして、返却処理は自動にしたかったのだ。


この図書館は、夜間返却ポスト、と言うものがあって


閉館時間でも、本を返せるようにポストがある。



その返却処理が大変。



朝、ポストの中が満杯になっているので


コンピュータに一冊づつ掛けて、書架に返す。


それだけで2時間くらいは掛かってしまう。




めぐのアイデアでは、図書室入り口にあるアンテナと

似た仕組みで、本の図書コードを読み取ると

貸し出し情報を本のRFIDタグから消す。



コンピュータのデータベースから貸し出し情報を照合し、

あれば、消去する。


それだけの事。



ポストの左右にアンテナを張っておけば、せいぜい1冊か2冊の情報を

読み取るのにエラーはないでしょうから。



めぐは、そんなふうに想像した。




その情報を受信したら


RFIDタグに返却情報を書き込めばいい。



割りと、そこは簡単。





主任さんは「それね、自動にしたいと思っていたの。

でも、お金がとってもかかるって聞いて。

できるなら、1階のカウンターも自動にしちゃえば、楽でしょ。」




めぐは、ちょっとひらめいた。


「それなら、ポストのも1階で自動処理にしちゃうのも.....。」



返却ポストに入った本を、入り口から持ってくれば

自動ドアの横、アンテナを通るから

ポストにアンテナを作らなくてもいい。



本を持ってくるのは、開館前だから

その時だけ、ソフトウェア・スイッチで

返却情報を書き込めばいいだけ、だ。



普段はスイッチを切っておけば、受信アンテナだけになる。





「なるほど。それだとアンテナ代がいらないね。」司書主任さんは

名案ににこにこ。





めぐは楽しかった。



役に立つ工夫をすること、そんなことを

考えるのは、ちょっと楽しい。







「おはようございます。」

さわやかな声が、高いほうから聞こえてくると

めぐは思った。



めぐは、知らない人だけども....。



司書主任さんは「ああ、ひさしぶり」。



その青年は...そう。めぐを、かつての人生(笑)で

デートに誘った、司書主任さんの甥、映画作家さんである。


めぐは、映写技師さん、って呼んでいた(笑)けど


めぐの、2度目の人生では、その事が何故か起こらなかった。

それは、たぶん、めぐが魔物に襲われなかったせいで

快活な女の子になっちゃったから(笑)。ちょっとした誤解だけど


恋愛ってそんなもの。



その、映写技師さんで

今のめぐは、もちろんその事を知らないし


知っているのは、ルーフィと、Meg、それと神様。



めぐも、もちろん

映写技師さんも

その、最初の人生を

覚えてる訳もない(笑)。


でも、彼の好みの女の子は

魔物と関係ないから


当然、変わっていない。



めぐと一緒に、なんとなく会釈をした

クリスタさんは

めぐに似ていて、それでいて

おとなしくて従順な、そんなふうに見えたのだろうか。


もちろん、天使さんだから

魅力的なのは、言うまでもない。



ところどころ、ニキビが出たり

蚊に刺されたりして(笑)

夏らしく、生き生きとしている

めぐ、に比べて


そうした生物的な跡がまったくない

クリスタさんは、とても美しく見えた。

(笑生き物ではないので当然だが、美とは、そんな見方もあったりもする。)





映写技師さんは、クリスタさんと、めぐ、と見て




「よく似てらっしゃいますね。あの、お茶でもいかがでしょうか。」とか(笑)。



それまで、めぐの事を

図書館で時々、見かけてたのに。


そんな事を言った事はなかったから



彼の目的は、クリスタさんだろうか(笑)。


わかりやすい人である。




「あ、あの・・・・」と

クリスタさんは返答に困る。


天使さんだから、欲はない。

青年と付き合うつもりは全くない(笑)。

もちろん、元悪魔くん、いまはにゃご、を

ずっと見守るためである。



それが、天使さんの愛なのだ。



でも。



めぐは、いい子だけど


こんなにあからさまに、女の子を誘う

映写技師さんに、ちょっと・・・・(笑)。


ふたりだと誘いやすい、それもあるだろうけれども



クリスタさんは地上の天使さんだから

人間にとっては魅力的。でも

それは罪つくりである。


永遠に成就しない恋、なのだから。



ひょっとすると、にゃご、みたいに

転生すれば恋は叶うかもしれないが・・・・・。



わりと、男の子の方が

女の子の好き嫌いを

恋愛について、言ったりする。



めぐはルーフィが好きなので

別段、映写技師さんが

クリスタさんに興味を持っても

なんとも思わない。




過去のいきさつについて、知らないのだから

当然である。



でも、そのいきさつを知っている


ルーフィとわたし、Megは、釈然としない(笑)。




「天使を誘惑するなんて。」


と、わたしが言うと、ルーフィは


「フレンチポップスのタイトルみたいだね」と笑う。



「冗談じゃないわよ、まったく。

こないだ、めぐを誘っておきながら。」





「それは、ほら、神様のせいで

無かったことになってるから」と

ルーフィ。




「それにしたって、軽いよ」と、わたし。



「だって、めぐちゃん自体が変わってしまってるんだもの。

最初から、あの、元気いっぱいの

台風娘なんだから。」と、ルーフィ。



「人柄は同じじゃない」

と、わたしは(怒)。





「ま、恋心なんて不条理なものさ」と

ルーフィは、シャンソンみたいに。

イヴ・モンタンの真似っぽく(笑)。




お気楽魔法使いめ(笑)。





映写技師さんは、映画鑑賞会を

開くつもりで、司書主任さんを

訪ねてきたらしい。



そのあたりは、めぐの最初の人生と

おんなじだ。



「どうしてなんだろう?」とわたしはつぶやく。




「まあ、同じ人間の考える事って

そんなには変わらないから。

魔物が関係ない映写技師さんは

ふつうに映画を作ってる。でも

めぐちゃんは、魔物に関わったから

見た目の雰囲気が少し変わった。

そのぐらいの事かな。クリスタさんが

ここに来るのは偶然だけどね。」と、ルーフィ。




「神様は、天使さんが人間界に

いる事をお許しになってるのかしら」

と、ふとわたしは思う。



「さあ」と、ルーフィ。


そして


「許さない、とすれば

何か起こるかもしれないね。」と。








まあ、そのあたりは

例えば、映写技師さんも

この世界に魔物が居なかったせいで

大胆になっているのかもしれなかった。



魔物が居た頃は、ひとの心にも魔物が棲んでいたから

女の子でさえ、自分を偽って高く売ろう、そんな世界だった。


女の子雑誌の恋愛コーナーを見ると



「お金持ちでイケメンの彼をゲットする方法」(笑)


とか、つまりは人騙し(笑)の手法ばかりが書かれていたりした。




まあ、悪い大人が書いてたんだけど。




それなので、映写技師さんのような青年が

女の子に恋したとしても慎重にならざるを得なかった。


傷つけられたりしたくないもの。




そんな訳で、以前の映写技師さんは、従順なめぐを好んだとしても

おじさんを通じて、デートに誘ったりしたけれど


今、神様が粛清した世の中では

魔物は、人の心に棲んでいないから


そう臆病になる必要もない。



めぐが台風娘(笑)なのも、そのせいだけど。





「ま、いいことなのさ。伸び伸びと恋でもなんでもすれば」と

ルーフィは、楽しそう。





「ルーフィはどうなの?」と、わたし。




「どうって?...ああ、僕はここの世界の住人じゃないもの」ルーフィは、疑問形。





そっか。



わたしは納得。



わたしたちの世界は、神様が粛清しなくても

ほどほどに欲がある人が居て、それなりに暮らしている世界。




魔物が心にいない、か、どうかは知らないけれど(笑)。




そんなに世の中も住みにくい訳でもなかった。



経済は相場師中心で動いてもいなかったし

お金持ち中心でもなかった。



為替レートは固定だったし、金融市場も

国内だけだったので

銀行は、国家が保護して

産業をバックアップしていた。


そのおかげで、ヘンに競争しなくても

平和にみんな生きていた。





めぐの世界は、ひょっとすると

まだこれから騒乱が起こるかもしれない、そんな風に

わたしは思ったりもした。




相場があるなら、結局損をして不幸になる人がいるから。










「生まれ育ちで、後の性格が決まるなんて.....。

過去に戻ってやり直したくなるわ。」と、わたし。



ルーフィは、笑って「僕らは、時間旅行者だから。

そう思うけど....そうだ。面白いオモチャがあるよ。」


と、ルーフィは、とても小さなメモリーカードを取り出した。


「なにそれ?」と、わたしは、ルーフィのてのひらをよく見る。




「これはね、未来から持ってきた量子コンピュータさ。

ニュートリノ通信を併用して、量子テレポーティングで

高速超通信ができる。」


ルーフィはにこにこしながら。


よく分からないけど(笑)。



「光速を超える、と言う事は

アルバート・アインシュタインの相対性理論だと

時間が逆転するのさ」



と、ルーフィはにこにこ。


そんなバカな(笑)と、わたしは思った。


理論的に、計算でそうだとしても。


生物は代謝で生きているから、それを逆転はできないと思うけど....。



「そうだよね。でも、通信だったらできそうに思わない?データの入れ替えだもん。」

と、ルーフィは言った。そして、その量子コンピュータに

データを送った。



「何をしたの?」と、わたしは????(笑)。




「この中の、メモリエリアからね。もう1台の量子コンピュータに

通信でデータを送ったのさ。もし、光速を超えていれば....。」



転送時刻が逆になっているはず。



ルーフィはそう言った。



「それで、どうするのよ。」と、わたし。



「過去の自分に通信するのさ。」


と、ルーフィは楽しそうに言った。



「それでどうなるの?」と、わたしは

ルーフィに答えを求めた。



ルーフィは、量子コンピューターの

データを見ている。


「僅かに時間が戻るようだね。

データの上では。」



「よくわかんないよ。」と、わたし。




ルーフィは、にこにこして

「ほら、インターネットだって

地球の裏側まで、情報を送るけど

あれは、順繰りに送ってないでしょ。


伝わってるだけで。


暗いとこで、ライト点けると

遠くが明るくなるけど。


点けたり消したりすると、一瞬で

向こうでも同じ事が起こる。」




「あたりまえでしょ」と、わたし。




ルーフィは、にこにこ。



「そう、それを符号にすれば光通信になるけど、量子でするのが

これ、なの。



まあ、大昔に送るのは無理だろうけど。」






「まあ、記憶ってのも

これに似てるよね。



青空を見て、気持ちいいって

思う人は多いけど


人によって違う。



青空ハイキングで迷子になったら

淋しい気持ちを思い出すかもね(笑)。




そういうのを、一瞬で連想するのはさ、


これに似てるでしょ?



遠くの事象に、一瞬で。」






と、ルーフィは

楽しそうに言った。



「僕らの時間旅行も、これに似てるね。

元々の次元から、どこかの時間に

リンクする。



時間が伸び縮みするって言うけど

スピードが速ければ、縮むもん。

気分的に。



量子コンピューターはさ、科学で

魔法を実現してるんだね。

テレパシーの代わりに、携帯電話が出来たように」




ルーフィは、楽しそうに科学の話をした。




「いつか、わたしたちみたいに

時間旅行する機械が出来るの??」


と、わたしは聞いてみた。




「当分出来ないと思うけど。

エネルギー保存法則、から見ても。

ただ、通信ならできる事は

今、証明されたね(笑)」




そう言っている間に、めぐは

クリスタさんと一緒に


今度は、書架の整理。


返却本をカードに載せて、

元々あったところに戻す、地味だけど大切な仕事。




「本の背中に、分類コードがあるでしょ?その番号順に書架があるの。


空いているところが、本を戻す所なのね。」




そう言いながら、めぐは

なんとなく、これからの旅の事を

空想していた。


なんたって、時間旅行はじめてだもん。


天使さんがずっと護ってくれていて。


それで、魔法を使えるように

守護神のまま、離れてくれた。



・・・・・でも、そうすると

旅行先では、護られていないのね。



ちょっと、そのことに不安を感じためぐだった。



向こう、魔物はいないのだろうけど。




ルーフィさん、守ってね!。




そんなふうに思った。






「本の返却って、借りた人がなさるのかと思っていました。」と

クリスタさんは、常識的な事を言う。


「そう、学校の図書館は今でもそうですね。貸し出しカード書いて

それを、本のカードと入れ替えて。

そのあと、本を自分で返して。

この図書館も、前はそうだったんだけど、本が増えちゃって

カード置き場が混雑しちゃうし、返す所がまちまち、になっちゃって。」



分類コードの下3桁は、書架の番地になっていて

番号順に左から並ぶようになっている。


書架を整理しながらも、時間は

経過する。


「はい。図書館の仕事はだいたい、これで全部。おつかれさまでしたー。」と、めぐはにこにこ。


「ありがとうございます。あの、絵本の読み聞かせって、さっき聞いた・・。」


と、クリスタさんは覚えてた。



司書主任さんが「声がいいから」と

推薦してくれた、児童図書館の


ちいさな子へのサービス。



絵本を、読んであげたりするのだけど



お母さんが、本を探す間とかに

ちいさな子が、退屈しないように、って

考えたサービス。




3階のシアターで、子供向けの

映画を見せたり。



児童福祉のような事もしていたのは

もちろん、公共サービスという

側面もある。



「あ、じゃ。行ってみましょうか。

1階だもん」と、めぐは

カートを押して、カウンターへ。



主任さんはいなかったけど

司書さんの仲間に「ちょっと、児童コーナー見てくるね」と言って。



うん。と、カウンターの仲間がうなづいて。




児童コーナーへ向かう。





そこには、以前と同じように


チャイルドマインダーが

ちいさな子と一緒に

本を読んでいたり。




「楽しそう」クリスタさんは

にこにこ。


天使さんだから、幸せそうな

ひとを見てるのが好きなのかしら。。



そんなふうに、クリスタさんを見て


めぐは思った。




オープンスペースの、その場所は


児童図書館の、奥にある。




靴を脱いで、子供たちが


転がってもいいように。

クッションフロアになっていて。



大きな、ぞうさんの形のクッションとか、キリンさんのとか。


子供達が喜んで、じゃれている。




クリスタさんとめぐが、コーナーに入ると



ひとりの子が、絵本を持って

クリスタさんに近づいて。


じっと、彼女を見上げた。



「ご本、読むの?」と、

クリスタさんは、綺麗な声で言う。


その子は、まんまるの笑顔で


うなづいた。



「はい。それでは」と


クリスタさんは、フロアーの隅のソファーに腰掛けて。


ひざに、その子を乗せて。



「ゆきのひとひら」と言う

その絵本を、読みはじめました。




「スノー・フレイクは

こなゆきのなかで、めざめました。


まっしろな、どこまでもつづく

ゆきのはらへ。


ゆっくり、ゆっくりと


おそらから、まいおりるのです。




少し、難しい言葉のところがあって

絵本、と言うよりは

児童文学の、その本を

クリスタさんは、ちいさな子が

喜んでくれるように、やさしく読みました。




綺麗な澄んだ声なので、マインダーさんも


しばし、その声に心惹かれました。




めぐは、思います。



「歌を歌ってあげたら、みんな喜ぶかしら」




とても綺麗な声なので、メロディにのせたら

さわやかな風のよう。



そんなふうに思った。





クリスタさんは、絵本を読み続けます。



「まっしろな、おかのむこうに


おみみが、ぴょこん。



さく、さく、さく・・・・・。



なにかしら、と、スノゥ・フレイクは


おもいました。



ゆきうさぎさんでした。




おくちを、もくもく。


あかいおめめは、きらきら。




はじめまして。



そう、スノゥ・フレイクはこころで

つぶやきました。




ゆきうさぎさんは、おみみをぴょこ。




はじめまして。



ゆきうさぎさんは、そうおへんじしたのです。







「うさぎさん、かわいー」と、



クリスタさんのおひざで、絵本を読んでもらっている

その子は、にこにこしました。



その声を聞いて、みんなが集まってきます。



おとなりに、ひとり、ふたり・・・・。




いっぱい、ちいさな子が集まってきました。





ちいさな子は、めいめいに

好きなご本を持ってきて。


「よんでー」

「これ、よんでー」


(笑)



なので、ちょっといっぺんに読むのは無理。



「じゃあ、読書室にいきましょう」と


と、めぐは、小部屋になっている


読書室を、クリスタさんに奨めた。


ふつうのおうちの、リビングくらいの

広さだけど

図書館で見ると、なんとなく狭く

感じるのが不思議。



東向きで、明るい白い壁の

がらんと何もない、ちいさな子供と

絵本を読むための、スペース。

時々、お母さんが、お昼寝したりしている(笑)。


それはそれで、いいこと。



この図書館は、そういう場所。


みんなが、楽しむところなのだ。




子供たち、めぐ、クリスタさん。



そこに入ると、扉を閉じて。



図書館だから、静かにしてあげないと

本を読む人が、かわいそうだから。



それで、タイプライターを打つ人のために、最初は考えられたそう。



今は、みんなコンピュータになったから


それほど、音を気にすることもない。



それなので、子供達が騒いでも

大丈夫なように(笑)。



こういう時は、お部屋に

連れて来る。そんな感じ。




「なにして遊ぼうか?」

めぐは、楽しそうだ。


子供達も、絵本でも、なんでもよくて。


遊びたいのだ。



ちいさな子供達は、いろんなひととふれあって


いろんなことを、覚えていく。


時には、いたずらをして

叱られたりするけれど



お母さんがやさしくしてくれれば

そんな時、安心したり。


ちょっと、いたずらしてみて

お母さんの優しさに甘えるのが

嬉しくて、そんな事をしたりする。


そうして、許してくれる優しい人が


そこにいるって覚えていく。


大切な人だって、思うのだ。




恋愛も、なんとなく似ている。

優しいその人が、わたしを

許してくれる。ささえてくれる。


そんな時、その人を

忘れられなくなる。


そういう恋もあったりする。





「ゆきのひとひら」の

続きを、クリスタさんは

読みはじめた。


「ゆきうさぎさんは、おみみをぴょこ、としてから。

さくさくさく。



丘のむこうがわに、あるいていきました。


ふわふわの粉雪の上に

かわいい、あしあとがちょこ、ちょこ・・・。」



クリスタさんは、自然に

クリシェの、きれいなメロディーを

口ずさんだ。



無伴奏の、バロック音楽のように

典雅な響きを感じさせる歌は

天使さんらしい、心を惹かれるものだった。



子供達も、めぐも


すっ、と


歌声に引き込まれた。




眠ってしまう子もいたり。



時間を忘れてしまうような、ひとときだった。

歌声は、とても微かなもので

爽やかな風のように、空間を満たした。


「すてきね、クリスタさん」と

めぐは、笑顔でそういった。


クリスタさんは、すこしはずかしそうに

俯いてうなづいた。




「おうた、うたって?」と

こどもたちは、クリスタさんに戯れた。



クリスタさんが、天使さんだとは

どの子も知らないだろうけど

歌声の美しさは、感覚で判るのだろう。



分類すると、対数目盛りのグラフで

きれいな幾何学的図形になる

その音階と和音。


不思議なものだけれども

特別、勉強しなくても

こどもたちは、おそらく

普遍的に感覚を持っている。



それを、時間の流れに沿って並べるメロディー、時間に関係なく鳴らすとハーモニー。



ハーモニーとメロディーは、同じ音階とは限らないけれど

調和する音、そうでない音があったりする。



それも分類なのだが、根拠はやはり数学、幾何学的な集合であり


物理的に言えば、周波数、と言って

一秒に何回振動するか、で

分類した数値の事だが


それが、たとえばオクターブで

値が倍になる。



偶然ではなく、そうして

音階を作って行ったのだが



そのオクターブは最も調和的響きで


その次に、5番目の音と協和的である。



それは、分類でも美しい形だし

感覚的にも美しい響きなのだ。




神様の領域と比喩されるが

物理はそれが、自然であると

定義している。



自然だから美しく聞こえるのである。


その感覚は、自然界で生きてきた

長い時間の中で記憶されてきたものだ、と

進化生物学は教えてくれている。。




天使が、人間の生理に沿った

歌声を歌えるのは、少し不思議な事だけど


天使も、この3次元空間では

物理の法則に

沿っている。



そういう事なのだろう。




近年語られるゆらぎ理論、なども

自然法則を象徴しているもので



周波数が高くなるほど、ゆらぎが

小さいのは当然で


高い周波数は、小さく軽いものが

振動するからなので

大きな重い物は、ゆっくりとしか動けないので



ゆらぎも大きくなる。




それも、時間の経過に沿って

観測した結果である。


時間は、かくも支配的なので

時間旅行は、とても

魅惑的である。






子供たちは、とても楽しそう。


歌を歌うだけの事で、そんなに喜んでもらえるなら。




音楽は、心を解放する。

時間の流れに沿って、音の流れを追って行くのであるし

ふつう、快い表現をするものだから、で


たとえば、子供たちが自ら

音楽を選んで聴く事はそんなにないから


時々、音楽に親しむのはいい事なのだろう。






「いいよね」と、ルーフィは、クリスタさんの歌を聞いて、そう思った。



わたしもそう思う。



子供たちが、幼いとき


若い親は、扱いが分からないで

ちょっと、子供にとって辛い扱いをしてしまう事が

計らずともあったりする。



そんなとき、大人がヘッドホンで音楽を聴いて

解放されるような、そんな事を

幼い子はできないから


快い音楽を、時々聴いて。


その快さを記憶して、育っていけば


傷つく子も減るのかな、なんて、わたしは


元悪魔くん、いまは、にゃごになっている

彼の事を連想したりした。




もし、クリスタさんに、映写技師さんが

恋心を覚えると(笑)



ふたりはライバル、に

なっちゃうんだけど。




もちろん、クリスタさんが天使だと言う事は

誰も知らない事だし、誰も信じないだろう(笑)。


ニンゲンの姿をしていても、心は天使さん。

そういう人は、ひょっとするとクリスタさんのような天使さん

なのかもしれない。





なので、映写技師さんが想ってしまうと

永遠に実らない恋、いえいえ。転生して、天国に一緒に行けたら

実るかもしれない恋。



そういう恋もいいかもしれない。



ステキかしら。



天国に行くために、いい事を一杯して。



いい人で過ごす事。



それは、難しいかもしれないけれど

恋のためなら、できるかもしれない・・・・なんて思うわたし(笑)。






「そうそう、休憩時間だわ」とめぐは気づく。


適当に、暇になった時間に

それぞれに、休み時間を取っていたけど


だいたい、午後3時くらいになったりするので

あの、3階のカフェに行って

一休みしたり。


事務所のとなりにある休憩室に入ったりして。


休んでいた。


ほとんど、立ったままの仕事なので

事務系の職種としては、割とハードな

仕事だったりもした。


もっとも、司書になれば

カウンター業務より、管理業務が

増えるので

デスクワークも出てくるのだけど。


めぐは、カウンター業務が好きだったから



このままでもいいと思ってたり

するんだけど。



カウンターに戻ると

主任さんと、あの、親戚の

映写技師さんが、なにか

お話をしていて



「やあ、おつかれさま。

クリスタさん、子供達、喜んでたね。

きれいな歌声だったもんね。」と

主任さんは、まるいお顔でにこにこ。


おはずかしい・・・と

クリスタさんが、俯いて。



「これからも、よろしくね。

めぐちゃんの旅行が済んでも、時々来てね。子供達喜ぶよ」と


司書主任さんは、その先の事まで

考えていて。


すごいな。と

めぐは思ったり。



そんな、先の先まで

考えていなかった(笑)。



「上のね、スカイレストランに

席をとってあるから、休憩をどうぞ。

ふたりで、行ってきて。

それと、あの・・・・こいつがね。

お話したいって言うけど、いいかなぁ」と、司書主任さんは言いにくそうに。



休憩にならないかな(笑)。でも、めぐは元気だ。

そんなの気にしてない。



「サンドイッチもいいですか?」(笑)



主任さんはにこにこして「いいよいいよ、こいつに払わせるから。」と言って

映写技師さんを見た。


映画作家と言っても、あまり

主張の強そうな感じでもない。


どちらかと言えば、地味な感じ、でも

深く考えるタイプみたいで。


ジャズコンボのライブで見た

マリンバのプレイヤーに似ていた。



繊細そうで、あまり

多くを語らないような。


ことばの代わりに、マレットを持って


メロディーを奏でると


それが、彼のことばのような。


そんなプレイヤーだった。



映写技師さんも、そういう人なのだろう。



 ことばは、誰もが持っている。

でも、文化がいろいろあって

音楽や映像、お料理でもいいし。

いろんなものに、心を乗せて作る。



それも、ことばの代わり。


そんなふうに、めぐは思っていたりもした。


そういう事を発見して

なにか、知的になったような、そんな気にもなって(笑)。

楽しく思った。



「はい、わかりました」と、クリスタさんはお返事をして。

めぐと一緒に、上のスカイレストランに。



一番上の階は、展望レストラン。

カフェより、ちょっと高級なんだけど

昼間は、ふつうにコーヒーとか

ココア、とかを頂いたり。


静かなので、のんびりしたい時に

いい感じだったりもした。


フランスのスキーリゾートとか

スイスのお山、あたりでは

ココアは夏の飲み物だとか。


スカイレストランのシェフは、ヨーロッパが好きで

若い頃、フランスで修業してきたので


今でも、休暇の度にフランスへ出かけたりして


それで、こんな

楽しい話を聞かせてくれる。


お店を出そうかと思っていた時に

この、図書館が建て直されて。


レストランのシェフに採用された、と

笑う。



「この年でね、公務員なんだもの」って


日焼けしたお顔で、白い歯を見せて

笑う。


めぐのお父さんくらいの年齢だけれども

いいなぁ、と

おもってしまうめぐである。



どうも、めぐは若い男の子が苦手だった。



なんというか、動物的、って言うのか

粗暴な感じがして。




エレベーターに乗って、めぐとクリスタさんは

5階を目指した。


きょうは、割と図書館は空いている。

夏休みなので、海や山へ出掛けたのだろうか。


エレベーターホールは、やや暗くてメタリックな装い。


新しい感じがして、そのあたりも

めぐは気に入っている。




エレベーターホールから、東側の奥手に

スカイレストランはある。

屋上の、太陽のようなモニュメントの

中側が、展望室になっていて

景色が良いし、上品なので

人気のある場所だった。


もちろん、カジュアルでは

本当はダメなのだけれども

女の子は、気品のある服装なら

通された。



もちろん、男の子は正装である(笑)。



めぐは職員なので、もちろん通れる。



クリスタさんも。



簡素であったが、清楚な服装だった。





レストランに入ると、「こんにちは」と

時々、ロッカールームで見かける

ウェイトレスさんがにこやかに


ご挨拶。


「こんにちは」と、めぐが言うと、



「あら、お姉さん?そっくりね。

双子みたい」と、ウェイトレスさんは

短く揃えた髪で、まるく微笑んだ。




天使さんです(笑)。



そう、本当の事を言いたいめぐだけど。


それは言えない(笑)。



従姉妹のクリスタです、と言うと



いいお名前ね。と彼女はにこにこ。




年齢はめぐとそう変わらないはずだけども


ウェイトレスさんは、なんというか

大人、レディーね、と

めぐはおもってしまう。



クリスタさんの事を「お姉さん」と見るウェイトレスさんは




めぐとクリスタさんをそっくり、と

言いながら


微妙に、クリスタさんのステキなとこを見て



「お姉さん」と言うのかな。




そんなふうに、めぐは

ちょっと思ったりもした。




でも、それは思い過ごし。


いつかはレディーになるのだけれども


今のままのめぐは、かけがえのない

ステキな時間を過ごしている。




後になって気づくものだけど。





「奥で、お待ちよ。ボーイフレンド」と

ウェイトレスさんは言う(笑)。


もちろん、ユーモア。


めぐは、かぶりを振って「お目当ては、こちら。」と

言うと、ウエイトレスさんは



「そか、ざーんねんでした。」

と、ユーモラスに首を振った。



クリスタさんは、なんのことか

わからない

(笑)。



天使だもん。





レストランのエントランスから、同じフロアーのテーブルでも


海が見えたり、山が見えたり。




でも、展望室は

そこから、短い階段を昇ったところにある。



ステップは3つ。

音のしない靴なので、めぐと

クリスタさんが昇っていっても

彼は、気づかなかった。

図書館に行く時に、唯一

気にする事、それは

音がしない靴で行く事だった。


本を読むのに、邪魔にならないように、と言う

心遣い。



さりげなく。



遠くに山の見えるこの町は、海に面している。


観光地に程近い中核都市なので


比較的、商業も盛ん、そのせいで

文化的雰囲気にはやや薄いところもある。


面白いもので、商工業の盛んなところは

だいたい、どこでも文化的ムードに薄い。



そんなところなので、図書館を綺麗にしようと

考えたらしい。



それで、レストランに居る映写技師さんも

大学を出てから映画を作っていると言う、面白い人。



本当に商業映画を撮るなら、芸術学部の映画学科を出て

映画会社に入る、なんていうのが順当な人生。



でも、個人映画を作っていたいというその人は


そんなに、お金儲けには興味がないのだろうし

もの作りに信念のある人、なのだろう。


商業的に作品を作るのは、人によっては辛い時もあるからだ。




そういう、主張のある人生を送っている人は


好みもあるけれど、いまのめぐ、には

ちょっと重い、と思わせるだけの雰囲気があって。


例えば軽妙洒脱なルーフィの自由さとは

対極をなすものだった。




もちろん、それは感覚。


でも、恋って感覚。それでいいのだ。




そういう「今」のめぐと、最初の人生のめぐとは

同じ人。


でも、人から見る彼女の雰囲気が、今は自由闊達で

生き生き、やや奔放に見えたりするあたり(笑)



とってもステキなのだけど。



かつての人生では、魔物に追われたせいで

慎重になってしまっていて。


そこが、映写技師さんに好まれて。



今は、そうではなくて。





「ようこそ、いらっしゃい。」と、映写技師さんは

展望席の椅子から立ち上がり、ふたりに椅子を勧めた。



夏休みなので、お客さんは

そこそこ入っていた。


ちょっと、高級感があるし

カジュアルな服装では入れない。

そんなところもあって、静か。


そのあたりも、レストランを好む人たちには

好評で


景色を眺めながら、美味しいものを静かに頂きたいと言う、穏やかな趣味のひとお


賑やかに談笑しながら、会食をしたいと言う人達とは

相容れないのも、仕方ないところ。



なかなか、このあたりは

事前に判るものでもないので


入ってから、しまった、と

思わないように。


入り口に看板でも立てればいい、と

思ったり(笑)。




このお店は、公共の施設にあって

静かに、料理を楽しむところだった。



それなので、めぐたち若者には

あまり縁のないところだったりもする。



「はじめまして」と映写技師さんは

クリスタさんに挨拶。



クリスタさんもご挨拶をして。


「僕は、映画を作っている者なのですけれど。映画、と言っても

ほんの趣味程度のもので。


時々、ここのシアターで

上映させてもらっています。」



この町は、割と文化的に

すこし遅れてる(笑)と市長さんが

思ったのか


文化事業に力を入れていて。


彼のような創作をする人達に

シアターを貸してあげたり。


演劇を、シティホールで行ったり。




そんなわけで、この町にも

作家志望の人達が、少しづつ

集まってきたり、していた。




「それで、御呼び立てした理由は・・簡単に言うと、お二人に

出演して頂けたら、と思って。

お願いに上がった訳です。」



めぐは、ちょっと勘違いしていた

自分が可笑しくて


笑いだしたくなった。



クリスタさんを、デートに誘ったのかと


思ったので(笑)。




それは、そうなのかもしれないけど(笑)


でも、さりげない誘いかたで



女の子としては、映画に出て、と

言われると


ちょっと、嬉しいかもしれなかった。




めぐは「ヌードはないですね」と

ユーモアたっぷりに言うので


映写技師さんは、笑ってしまった。




「もちろん、ないです。いや、

おのぞみならば・・・・」と

にっこり。



「まあ」と、その大人っぽい

ユーモアに

めぐは、少しどっきり(笑)。



めぐよりも、年上の映写技師さんは結構、大人なんだ。


そんな事を、その会話の中で

めぐは、感じた。



そういうふうに、少しづつ

おとな、になっていくのかしら。



そんなことを、めぐは思った。



クリスタさんは、のんびりと


話を聞いてる。


別に、ヌードの話にも

何も感じる事もないのは

元々、天使って

セミヌード(笑)みたいな格好

だからか。


クリスタさんは、ふつうに

服を着ているけど。




「ありがとうございます、これから

夏休みで旅行に行く予定なので・・」



スケジュールが合えば、別に

出てあげてもいいわ(笑)。



女優さんみたいな気分を

めぐは楽しんで。




クリスタさんは、黙って聞いてて

「わたしは・・・そうですね。

めぐさんと一緒なら・・・・」と


そんなに、興味がある感じでも

なさそう。





それは、ちょっと意外な言葉だったけれども


映画好き青年が、自分の作品に

出てほしい、と言うなら

憎からず思っているのであろう。


悪役でない限り(笑)。



「クリスタさんは、いかがですか」と

彼は誘う。

それは、やはり好意を持っているのであろう。



見た目、結構カッコイイ感じの

映写技師さんではある。


しかし、慎重な誘いかたに

めぐは、彼の優しい人柄を思った。



そうは言っても、好きな人とは

ちょっと違ってる(笑)。


それはそうかもしれない(笑)。



それで

「旅行に行っている間は、すみません、ちょっと無理です・・。」と、めぐは告げた。



クリスタさんも「ひとりでは少し・・・・。」



と、言う。




映写技師さんは、それを残念がるでもなく。にこにこと微笑んで。



その笑顔を、めぐは


アメリカの映画作家の、・・・誰だったか。


有名なひと。


その人が、おひげを剃って

若くなったら、こんな感じかしら。




そんなふうに、空想したりして

映画がヒットして、あたしは

女優になれるのかなー(笑)。


なんて、楽しい空想をしたり。


お芝居なんてしたことないのに(笑)。




「それじゃ、秋になったら。

いつでもいいです、教えてください。



と、彼は、男らしくさっぱりと告げた。



そして「なにか、ご馳走しましょう」と。


でも、そんなに休憩時間はないので


とりあえず、めぐはレモネード・スパーリング。



クリスタさんは天使なので、何も摂らなくていいのだけど


いまは、人間でもなく

天使でもない、なんて

説明するのも変、なので

とりあえず、めぐと同じものを頼んだ。




元々実体がない天使さんだったので


つまり、理論物理学的に言えば

それは、4次元以上の存在だと

言う事になるので

たぶん、食べたり飲んだりしたものは

そのまま異次元の空間に消えるはずで


とても小さな点、0次元に凝縮されて


無限大のエネルギーに転換できるはず、であるから


それを転用して、時空間を旅行する事も

あるいはできるかもしれなかった。






レモネード・スパーリングは

爽やかで、刺激的。


夏に似合いだね、と

レストランのシェフも言っていたっけ。



そんな事を思いながら

めぐは、短い休憩時間を

楽しんだ。


まあ、若いし、プランが一杯あるから

休んでるなんて、もったいないって

思ったりしちゃうんだけど、



それでも、地上の時間は3次元的に刻々と進む。


いつか、4次元の時間の流れに慣れてしまうと

それが鬱陶しいと思うようになるかもしれないけれど.....。


時間旅行もそうだし、通信、例えばインターネットなどは

電気通信の場合、音の速さで進む。 340m/sである。



その上、話題の「量子テレポーティング」のように

波の概念で通信しているから


見かけ上、一瞬で通信できてしまうし

情報そのものは、記憶されたものである。



つまり、時間の概念が無い。


リアルタイムの通信以外は、の話だが。



従って擬似4次元とも言えるので


その、偽時空に慣れてしまっていると


ほんものの、3次元の時空は、まどろっこしく感じる人も居る。

その上、自分の好みの情報だけと遊んでいるので


そうでない時、それは楽しくない気分になる。



禁断症状、などとオーバーに表現する医師もいるが

人によるけれど、そういう事も起こり得る。




それはもちろん、時間旅行のように

自分の体がどこかへ行ってしまうような事は、もちろんないのだけれど。





映画作家にも、その映画の世界に耽溺してしまうタイプもいて

そういう人は、現実の世界ではしばし怒りっぽかったりする。


それは、なんでも思い通りになる世界から、外に出てしまったから、で



小説家にもそういう人も多い(笑)。




ニンゲンのアタマは、そのくらい柔軟に環境に合わせてしまうのである。



映画も

小説も

インターネットも



ニンゲンの作り出したもの、それがニンゲンのアタマを変えてしまうのは

不思議な事。





そうはなっていないめぐ、も映写技師さんも


幸せだ。



ただ、めぐの場合

これから時間旅行をすると、どうなってしまうかは

自身にも分からない。


未体験のことだからだ。




もともと、時間旅行者は昔から居たようで

予言者と言われたり、神と言われたり。


果てまた、音楽の大作家であったり。



そういう人は、時間旅行の能力者であったのかもしれないと

訪ねて歩いていたMegとルーフィ。



彼らが、過去に旅して

音楽作家と遭遇し、彼らに閃きが起こった。

そんなこともあったくらいだから

他にも時間旅行者は居るのだろう。





それで、映写技師さんとの

デート(笑?)も、終わり。


でも、女優になれるかなー、なんて

めぐは、わくわくだった。


クリスタさんがお目当てとは言え(笑)



おまけだって、いいもん。


大きなスクリーンで、お芝居をして。



すてきなラブストーリー、スペクタクル。


かっこいいお話もいいな。



夢は膨らむハイティーンだった。




結局、その日の

アルバイトは、夕方まで

図書館に居てしまって。



平日の閉館は午後5時。



「さ、おしまい!」と、めぐは

クリスタさんに言って。


「おつかれさまでした」と、

クリスタさん。



そういえば、天使さんだった時は

すこし、幼いような感じに見える事も

あったのだけれども。


少しの間に、ずいぶんと

レディーらしい雰囲気になった。






映写技師さんが、ヒロインにしたくなるような

そんな女の子(笑見た目ね。中身は天使さんだから、男でも女の子でもない。でもそれば、人間も一緒だけど)。

になった。




「ルーフィさんたちは、どうしたのかしら」



と、めぐが気づく。



「お帰りになったのではないでしょうか。」と、クリスタさん。




だいぶ、時間が経っているから


そうかもしれないな、とめぐは思う。



書庫のほうから、主任さn。


主任さんに「おつかれさまでした」と

ご挨拶。



「やあ、ありがとう。おつかれさま」と

主任さんは、にこにこ。


「済まないね、甥がわがままを言って。」



とも。



「いいえ、レモネードを頂きました」


と、めぐは正直に。


「もっと、高いものを頼んであげればいいのに」と、主任さんも楽しそう。




「はい。あ、サンドイッチ頼むの忘れちゃった。」と、めぐはユーモア。




ははは、と、主任さんは笑って

「それで、あいつはなんて言ってた

?」と。


「映画に出てほしい、って。」と

めぐはそのまんま、言った。」




主任さんは、少し思案顔で


「そっか。それって、気に入ってるんだよ、きっと。」と、面白い事を言った。




映画好きが、映画に出てほしい、ってのは


心の中に君がいる、って事だから。



そんな事を、主任さんは言った。




主任さんも、やっぱりめぐたち

みたいな、いい子には

幸せになってほしいのだろう。


でも、自分がパートナーになる訳にもいかない(笑)。


そんな風景、主任さんは

自分から、そう思って。


かっこいい甥だったら、と

そんなふうに、思ってて。


甥の申し出を、受け入れた。

お父さんみたいな主任さんの、そういうところは


実は、めぐ好みだったりもする。


でも、分別のある主任さんは

それを、言葉にする事もない。



いい人だ。


でも、もし、恋する言葉を語れば

甥と、叔父は

恋敵?



いやいや、甥のお目当ては

クリスタさんだから(笑)。


カップル2つ、になるだけだ。




でも、めぐはルーフィを思っているから


それは、叶う事のない恋、に

なるかもしれないけれど・・・・。







その夜、家に帰ってから

ルーフィは、めぐに

魔法の、基本的な使い方を教えた。


時間旅行をするための、魔法陣。


慣れるまで、紙に書いて練習してね。と。


円を描いて、方位座標を描く。


それで、どこに行きたいか、を

念じ易くするのだ。


慣れれば、ルーフィのように

宇宙を目指し、空間に心で描いたりする。




「やってみて?」と、ルーフィは言う。



ルーフィの記憶では、めぐは能力を

持っていた。



それを、天使さんのために

封印していたのだった。





封印を解放するメッセージも

その、魔法陣に書いてある。




「わたし、できるかしら・・・・?」


いまのめぐは、魔法を使った事はない。



前の人生の、その経験は


忘れている。




「こころで思ってみて?」


と、ルーフィは言う。



それで、めぐは


なんとなく・・・思ってみた。



でも、何も起こらない(笑)。



はて?



(笑)魔法、使えないの?








「確か、おじいちゃんのところに

行きたい、って思った時は・・・」


めまいみたいに、ゆらゆらした。


そう、めぐは言う。



ルーフィは「それなら、大丈夫だと思うけど・・・。」



と、魔法陣の書式を見てみる。


間違いはない。



封印も解放されている。



それなら、どうしてだろう?



どう思う?と、ルーフィは

わたしに感想を求めた。



「わたしにわかる訳ないでしょ」と

言いかけて。



そういえば、わたしがどうして魔法を使えるようになったのか?も

よくわからない。




「最初はさ、わたしって

ルーフィにくっついて跳んでたんだよね。」



と、思い出す。


それから「なにか、気掛かりな事とかない?」と

わたしは、めぐに聞いてみる。




「ないと、思うけど・・・・・。」


と、めぐは思案顔。





テラスには、夕暮れの風。




「まあ、手をつないで

飛んで行くのもいいけど・・・・・。」



と、ルーフィはちょっと、思案顔。



科学者のような、彼の思考では

たぶん、原因を類推してるのだろう。



・・・・・こころの奥で、自分でも

気づかないほどの、気掛かり。




・・・・・なんだろうなぁ(笑)。



ルーフィにも、ちょっとわからなくて

テラスから、2階に戻って。


自分の、ロフトへ戻ろうかと

思っていた。でも


思い直し、おばあちゃんのところへ。



おばあちゃんなら、何か

わかるかも。


そんなふうに、漠然と期待して。




階下に下ると、右手がおばあちゃんのお部屋。



扉は開いている。けれど

おばあちゃんの姿はなかった。




畑かな・・・・・。





ルーフィは思い、暗くなってた

畑の方を見た。



農機具小屋に明かりが点いている。





あっちかな?




裏口から、サンダルで


とっとこと、と


歩いていく。



おばあちゃんは、果たして

農機具小屋にいた。



「おや、ルーフィさん」と

おばあちゃんは、にこにこ。


その笑顔のムードは

めぐに、なんとなく似ている。



「こんばんは」と


ルーフィは、ごあいさつ。




その、ルーフィの顔を見て、おばあちゃんは



「魔法、うまくいかなかったの。」

と。




「ご存知でしたか」と、ルーフィ。



「テラスでお話してるから、聞こえちゃうもの」と、おばあちゃんはにこにこ。




「はい、それで、すこし・・・・・教えて頂きたいと思いまして。」と

ルーフィは、真面目に。




めぐが、気掛かりにしている事について


心あたりを尋ねてみた。



おばあちゃんは「・・・・そうねぇ。

めぐは、ルーフィさんがとっても好きだから・・・・その事かしら。


でも、ルーフィさんには・・・。


パートナーが決まってて。



そのパートナーは、めぐ自身の3年後と、同じだけど

違う世界の人。


名前も同じで、すがたかたちの

似ている、別の時空間の人・・・。




と、おばあちゃんは言う。



「恋の悩み、ですか」と、ルーフィは

直裁に言った。



それなら、魔法を使えるようになるのは・・・・・。

めぐが、自身の恋心と

向かい合わないと・・・・。






それは、神様のいたずらだったかもしれない。


めぐの恋心を、残しておく必然はどこにもなかった。



消す必要もなかったけれど(笑)。



それによって魔法の力が封印されたままになれば

魔法使いがひとり、この世に生まれなかった事になるけれど・・・。




気がかりな事。



ただの恋がそれほど気がかりか、と言うと

そんなこともないよ、と


めぐ自身は言う。



恋と言うよりも、無意識に思慕してしまう。



そういう恋愛は、かなり困った状態だ。


本人にも分からないところで、心が軋んでしまう。





恋もまた、心から見るとストレス(力)である。



めぐの心に、生まれて初めての経験。

どんな経験か分からないが、それが嗜好として


ルーフィのもつ、何かを好ませている。



無意識なのだけれども・・・・。





あるいは、生まれる前、もっと前の記憶を

めぐは、忘れないで持っているのかもしれない。



例えば、前世で魔法使いに関わりがあった、と言うような・・・。




「わかりました。とりあえず、僕らは一旦帰らないと

向こうの世界の僕たちが消滅してしまうかもしれないので

Megとふたりで戻れるか、どうか

考えてみます。」と、ルーフィはおばあちゃんに言った。




「そう。めぐともしばらくのお別れね。それだと。」と

おばあちゃんは、ちょっと淋しそうに。



「はい、お話をめぐちゃんにしてみます。」と、ルーフィもやや、悲しげ。





ほんとうは、一緒に行きたかったんだろうになぁ。....。手をつないで飛ぼうか?。




ルーフィは、そうも思った。


でも、普通の時間旅行と違って、次元を越える旅だし


Megの場合は、魔法の力を持っていたので

その、行き先を支えてあげただけ。


能力が封印されているとなると....。ルーフィ自身の能力で

めぐを飛ばせるか?は、難しい判断だった。




「恋心・・・・か」


ルーフィから、めぐの恋心が

集中力をリタードしていると聞いて。



「そういえば、恋すると

勉強ができなくなるとか・・・。」


学生の頃、先生が言ってたっけ。


女子高だから、女の先生も多くて。

そんな、ざっくばらんな話も


多かった。


男の先生とは違う、ちょっと言えないような話も(笑)


女同士ならではで。


楽しかった思い出がある。



「そっかぁ。」とルーフィは言う。



「なんかさ、その封印解除って

気合い入れるとか。魔法の杖持って呪文唱えるとかすれば

効くんじゃない?」と


わたしは、ちょっとユーモア。


「それじゃ漫画だよ」と

ルーフィも、そう言いながら

楽しそう。



「めぐちゃんだったら、かわいいかもね。」と、ルーフィも楽しそう。


「わたしはかわいくないのかー。」

と、わたしもユーモラスに。 



「そんなことないけど」と、ルーフィも楽しそうに。



でも、魔法って


そういうふうに使った方がドラマチックでいいかも。



映像的にはね。



あの、映写技師さんも

ひょっとしたら魔法使いの映画を

撮影したかったのかな?


なんて、わたしは

楽しい想像をしたりした。



クリスタさんとめぐが


双子の魔法使いで、クリスタさんは

天使、めぐは人間で。


事件を推理しながら解決!


魔法で、封印解除!



ルーフィは「それじゃホントに

漫画だよ」と、大笑い。




いいと思うけど(笑)。




真面目なお話をしてても、どことなく

ユーモラスなのが、わたしたち。


でも、めぐは真剣だった。



「旅行にいけないの?」と。


がっかり。


ルーフィは「いや、そうじゃなくって。

とりあえず、僕らには時間がないから

先に、一旦帰って。



向こうの時間をリセットするんだ。


それから、めぐちゃんは

魔法を使えるように、集中力を

養ってから。


旅行するといいよ。


」と、ルーフィは言った。



めぐは、黙って聞いていたけれど


こころのなかには、不安が渦巻いていて



・・・・・・もう、会えないの?




そんな、気持ちが心の奥に。


そういう、別離不安のようなものが

めぐのどこかにあったりするのは


そういう体験、だれか、親しい人との


お別れとか、そんな記憶が

どこかにあったりするのかも

しれなかった。


そういう経験があったりすると

優しい気持ちになれたり。


思いやりを持てたり。


そんなふうに、ひとの気持ちは

出来ていたりする。




なので、捕え所のない

時間旅行の先にある、ルーフィとの

関係は


いかにも不安なものに、めぐには

思えたりしても、それは

仕方なかったりする。



しかし、めぐはそれを

言葉にする事もない。



言っても仕方ない。


そう、理論的に考える子、賢い子だったから。





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