旅の終わりに
お父さん、お母さんも
なぜか、クリスタさんの存在を
不思議に思わない、めぐの家(笑)。
そういえば、わたしの家と似てるけど
やっぱりちょっと違うのは、そんなとこ。
「じゃ、お部屋はゲストルームを使って頂いて」と、お父さん。
いえいえ、恐縮です、と
クリスタさんは言うけれど
ルーフィみたいに、屋根裏って訳にもいかない(笑)。
レディ・エンジェルだもん。
ゲストルームふたつ。
ひとつは、もともとお父さんが書斎にしようと思ってたらしいけど
本は、図書館で読んじゃうので
要らない、って(笑)。
その、広いほうのお部屋に
クリスタさんに入ってもらった。
「どーしよう、出発」と、わたしはルーフィに聞く。
「そうだね、図書館の事もあるから今夜は止めよっか。明日、クリスタさんと、めぐちゃんと
図書館に行って。
そのあとにしようよ」と、ルーフィ。
「そうそう」って、めぐは楽しそう。
思いがけないVacation、それが
時間旅行なんて、ステキだわ・・・。
「じゃあ、きょうはのんびりしましょ。いつかみたいに、一緒にお風呂でも!」って、めぐは楽しそう。
クリスタさんは、「お風呂?」。
そういえば、天使さんが温泉、なんて
聞いた事ないわ(笑)。
西洋のキャラクター、だからかな。
沐浴の王女、なんて絵は
知っているけど。
「ああ、クリスタさん、スパね。パスタじゃないの」と、おばあちゃんも
楽しそう。
和やかに、みんな笑った。
裏山の温泉に行こうと思ったけど
時間が遅かったから、おうちの温泉、あの、ルーフィがノゾイた小屋(笑)。
「こんどはノゾカナイでね」と、わたし。
「あれは事故だったんだ。」と、ルーフィ。
「天使さんのヌードを見たら、雷に撃たれるわよ」と、わたし。
ははは、怖い怖い、と
ルーフィは楽しそうに手を振って。
ロフトに引っ込んだ。
「さ、いこっか」って。
わたしは、クリスタさんとめぐ、に。
「おばあちゃんも、一緒にいこー」って
めぐは子供みたいに(笑)。
おばあちゃんは「楽しそうね。でも4人じゃ狭いもの」って。
そっか(笑)。
お庭に出ると、お星様がとってもきれい。
飛び石は、確か
おじいちゃんが作ったんだっけ。
「めぐは、おじいちゃん好き?」って
わたしが言うと、めぐは
「うん、天国に行った時、泣いちゃったもん」って。
時間旅行して、おじいちゃんに会いに行きたくなっちゃった、なんて
めぐは、かわいい事を言った。
「天国に、おじいちゃんは居ましたか?」と、めぐは
クリスタさんに聞く。
クリスタさんは「はい・・・たぶん。私がこちらに来てから、あまり天界には行っていませんので、詳しくは存じませんけれど」と。
「そっか。ずっと、生まれてからあたしと一緒だったんだもん、そうよね。」
と、めぐは、にこにこ。
温泉小屋の扉を、よいしょ、と
わたしは開けようとしたら
案外、かるく開いたので、びっくりした。
「雨の季節が終わったのですね」と
クリスタさん。
そう、季節は
そんなふうに、巡っていって。
いつか、年月が過ぎる。
わたしたちの星が、太陽の周りを
ひとまわり。
そんなふうに、わたしたちも
生きていく。
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魔法使いルーフィと時間旅行記者 作者:深町珠
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139/1813
天使の水浴
美、というのは
やっぱり女の子にあるのだな、と
学校で習った事を思い出したりした
わたしだった。(笑)。
もともと、わたしの
ハイスクール時代の映像を
ルーフィが見せてくれて。
それで、この世界に
飛んできてしまったわたしだけど
自分の3年前、それが
めぐ、みたいだったのかなー、なんて
思ったり。
めぐのボディは、美術的でもあったりして。
はて、自分がそうだったのかな、なんて
比べる事もできないけど(笑)。
天使さんのボディは、鑑賞するに相応しい
素晴らしい存在、って思う、
それを鑑賞できるなんて、わたしたち
女の子だけの特別なもの、そんな
気持ちになったりもしたり(笑)。
柔らかい宝石。
そんな言葉を、思い出したり。
天使さんって、男の子でも女の子でもないんだけど
外観が女の子みたいだし、心お
なんとなく・・・・
やっぱり、女の子って象徴なのね、
美とか、愛とかの。
なーんて(笑)。
「背中、ながそ。」って、
めぐは、いつかみたいに。
めぐ、わたし、クリスタさん。
3人だと、ちょっと狭かったりするお風呂だけど
並んで、背中流したり。
シャボン玉、ふわふわ。
柔らかくした、海綿に
お湯を浸して。
クリスタさんの肩に、静かに触れて見る。
すーっ、って。
「気持ちいい?」
「はい。」
天使さんに触れた人なんて、わたしたちくらいのものだろう。。
クリスタさんは、めぐの背中を流してるけど
クリスタさんの背中越しに、めぐを見ると
ほんと姉妹みたいね、って
めぐに言った。
「おねーさんも、そーよ。」
なんて、めぐはかわいい言葉を。
わたし・クリスタさん。
姉妹みたい、だったらいいなぁ。(笑)
自分のヌードって、見れないもん(笑)。
それから、温泉に
ゆっくりつかって。
のーんびり。
「桧のお風呂って、気持ちいいでしょ。」って、わたしは
クリスタさんに言う。
「はい、とっても。いい香りがして」
「桧の香りなの」って、めぐ。
「そうなんですね。森の中でも
この香り、感じます」と、クリスタさん。
森の中・・・・・
天使さんになる前、彼女は
どんな人だったのかしら。
アルプスの山で、山羊さんと
暮らしてたのかなー、なんて。
草原で、お花畑と一緒に
暮らしてたのかなー、なんて(笑)。
どっちにしても、自然のいっぱいな
とこで
のーんびりしてた、そんな感じに
見えたり。
お風呂上がりに、お庭から
星を、3人で眺めて。
遠い、あの星の
もっともっと遠くに、わたしたちは
旅するんだなー、なんて(笑)。
宇宙空間は、重力に沿って曲がるので
光が、届く、あの星の
そのずっと遠くまで、真っすぐ進む事は、できなかったりする。
つまり、たて・よこ・たかさ、って
角砂糖みたいな空間は、宇宙みたいな大きいところだと
ゆっくり曲がっていく、って事。
実は、時間旅行もそんな感じらしい。
4次元空間は、伸び縮みできるので
歪んだ時間軸を、飛び越える。
そうすると時間旅行。
空間の座標軸を飛び越えると
瞬間移動。
宇宙物理学では、そんなふうに
言われている。
ルーフィたちは、その方法を見つけた、と
そういう事らしい。
グレゴリオ聖歌を、お父さんが聞いている。
ラジオかなー。
あ、こっちだとめぐのお父さんだけど。
明日、帰るのかー。
なんか、淋しいけど・・・・・(笑)
翌朝、めぐと一緒に目覚めた
幸せな朝。
でも、旅先最後の朝って
なんとなくペーソス。
いろんなこと、あったな・・・
なんて、思い出してるけど
にゃごと、天使さん、それと神様は
まだ、これからもいろいろあるんだろうな。
にゃごは、昨夜から
どこかに出かけてるみたい。
子猫のとこかな・・・・・。
子猫も、3ひき
一緒に暮らせるのも、ほんの
少しの間だから
今、一番可愛い季節を一緒に過ごすのも
楽しいかしら。
すぐに、大きくなっちゃうんだもの。
「おはよ、おねーちゃん!」って
めぐは、元気だ。
天使さんが離れて、魔物の怖い記憶も失せて
それが、めぐ自身のらしさ、なのかしら。
とっても元気、楽しそうで。
ちょっと、そばによりたくなるような
いい子になった。
それだけでも、ここに来て良かった。
ルーフィも、ほんとに頑張った。
いい旅だった。
ダイニングに下りると
クリスタさんは、もう降りてきてて。
おばあちゃんと、リビングルームでお話。
なんだか、楽しそう。
「クリスタさん、おはようございます」と、わたしは、ごあいさつ。
クリスタさんは、いつも静かな微笑みで
今朝も同じ。「おはようございます、マーガレットさん」
と、ほんとの名前で呼んで貰えるのも
なんとなく嬉しい。
クリスタさんはレディ、だもんなー。
きっと、図書館でも
人気になるだろなー(笑)なんて。
天使さんだったから、ほんとの年齢はわかんないし
男の子でも女の子でもない、なんて
ちょっと見た目には信じらんない(笑)。
恋しちゃう、哀れな男の子も多いか(笑)。
にゃごがいるけどね。
「おはよ」ルーフィが降りてきた。
わたしたちも、めいめいにご挨拶。
「よく眠れて?魔法使いさん」と
わたしは、いつものごあいさつ。
「ああ、眠れない訳なんかないよ」と
ルーフィ。
「そーかしら。水浴の天使をノゾキ損ねて、夢に出て来たんじゃない?」
なんて、わたしが言うと
クリスタさんの方が恥ずかしそうなので(笑)
ルーフィをからかうのは止めた。
けど、ルーフィは
「そんなの、魔法使えば
見ようとすれば見れるさ」
「あ、じゃ、見てたんだー。
やっぱし。お部屋でおとなしくしててるかと思ったら」
と、わたしが言うと
「そんなことしないさ。地獄に落とされるのはゴメンだよ(笑)」と、ルーフィは、いつもの通り軽妙だ。。
「おはよー、なんの話?」って
めぐが、のんびり降りてきた。
「H魔法使いさんの話」と
わたしはにこにこ。
「Hって、あー、そうだ!ルーフィさん。あたしの胸、わざと触ったんでしょー。
クリスタさんの時は後ろからささえられたのにー。」
「めぐちゃん、覚えてたの?」と
ルーフィは神様のいたずら(w)に驚く。
そんなとこまで覚えてたのか(笑)。と。
「あれは、だって、並んで歩いてたもの」と、ルーフィは言いながら
なんとなく、明るくなっためぐは、あたりまえだけどMegにそっくりだ、と
思った。
それは当然で、魔物に襲われた記憶が、めぐ自身を無意識に
受動的、防御的にしていたので
垣間見る元気な彼女が、本当の彼女だった。
その、魔物の記憶が無くなったから、アクティヴなめぐ、に戻って。
「そっか、ま、いっか。許したげる。旅行行ったら、エスコートしてね!」
と、めぐは、楽しそう。
ダイニングのほうへ、ととととー。っと。歩いていった。
「今朝は、さっぱりめですよ」と、めぐのお母さんは、にこにこ。
ショート・パスタのサラダ。twisty。
kiwiのスムージー。
まんまるフランスパンには、切れ目がはいっていて。
お好みでサンドイッチが作れるように、って
それとロールパン、ふつうのバゲット。
イギリスパン。
いろいろな、小品がたくさん。
焙ったベーコン、レタス。
ゆで卵とオランデーズ。
スライス・オレンジ、レモン、ライム、キウィ。
ヨーグルトは自家製で、ほんのり酸っぱい香り、まだ暖かい。
山羊さんミルクのチーズ、モッツアレラ、カテージ、パルミジャーノ。
生ハム。
ローストビーフのスライス、スパゲティ・カルボナーラ。
アイスティ、ミルク、アイスココア。
冷やした焙じ茶、エスプレッソ。
「すごいわね」と、わたしは感嘆。
こんなに豪華なモーニングって、ホテル・ヒルトンでも出ない(笑)。
全部手作りだもん。なーんて。
「帰りたくなくなるなぁ」と、ルーフィ。
そっか。
向こうだと、ぬいぐるみ姿じゃないとダメなんだもん(笑)。
「なら、ずっと居れば?」と、わたしはちょっとルーフィに聞いてみる。
「一度、戻んないとね。向こうのエネルギーがそろそろ満杯だもん」と
真面目ルーフィ(笑)。
「もちろんジョークだけど」と、わたし。
「それは分かってる」と、ルーフィは、フランスパンに
カルボナーラのたまごと生クリームを挟んでた。
面白いことするなぁ(笑)。
「にゃご」
どこから、にゃごが帰ってきた。
「おかえり」と、おばあちゃんもごあいさつ。
おさかな、きょうは
まぐろのかま、を
ほぐしたものを、ごはんと。
にゃごは、おいしそうに
それをたべている。
クリスタさんも、にゃごを
微笑みながら、見ている。
にゃごが、しあわせでいる事は
天使さんにとって、しあわせな事で
でも、クリスタさん、天使を
お辞めになった今でも
人間じゃないから、欲はない。
人間から見ると、それって楽しいのかなー(笑)なんて思うけど。
それで、救われる人がいるから
天使さんも、それでしあわせなのだろう。
高尚な幸せだ。
もちろん、わたしは人間だもん、欲だってあるし。
高尚じゃないけど、でも
誰かにしあわせになってほしい、
その気持ちは一緒。
もちろん、わたしもしあわせになりたい。
めぐも、そう思ってて。
ルーフィを、好き。
ルーフィは、わたしを好き、って
前言ってた(笑)。
今はどうかしら(笑)。
わたしも、もちろんルーフィが好きだけど。
そんな、不思議なわたしたちは
こんどは、わたしの世界に
旅する、んでしょうね。
のんびりモーニングが終わって。
図書館に
とりあえず行く事にした、めぐ。
お休みを貰って、わたしたちのところへ旅する、そのお許しを
司書主任さんにするため、それと
クリスタさんを代役(笑)に
するために。
「休暇もらえるかなー」と、めぐ。
「クリスタさんってめぐに似てるから
髪をアップにしたりすれば、わかんないんじゃない?」と
わたしはジョーク。
「天使さんに似てるって、なんか嬉しい。」って
めぐもにこにこ。
クリスタさんも「めぐちゃんみたいにかわいくできるかしら」なんて。
わたしとルーフィも、図書館に
ついていくことにして。
家の前の坂道、細い路地を
こんどは4人一緒に降りていく。
「でも、天使さんであたしと一緒に
18年も過ごしていたのって」と、めぐは言う。
「重くなかったですか」と
クリスタさんも、ユーモア。
「いえいえ、ぜんぜん」(笑)と
めぐも。
天使さんが心に宿っているめぐは
そういえば、ちょっとだけ
天使さんみたいだったっけ。
それも、懐かしい思い出。
そのめぐに恋しちゃった人も
いたりした。
でも、わたしに恋する人は少ない(笑)。なーんて。
坂道を下りながら、ご近所さん、お向かいさん。
お水を撒いているおばさん、とか
にこやかにごあいさつ。
べつに気にならなかったけど、
向こうの世界と変わりないから
ここが違う世界だ、って言っても
ほんとにわからない。
お向かいさんも、不思議にも
思っていないのかな。
B&Bのお客様かな、くらいに(笑)。
坂道を歩いて、石畳の大通りに下りると
路面電車の停留所が見える。
図書館には、歩いても行けるけど
クリスタさんも一緒だし、たまたま
走ってきた電車に乗る事にした。
重たい鋼の塊感がある、古い形の
路面電車。
石造りのビルディングの間に張られた
ワイアに、架線が引かれて。
その下を、ゆっくりと
揺れながらやってくる。
線路の継ぎ目を車輪が越える度に
意外に軽やかな音を立てて
重い電車は、近づいて来る。
ルーフィたちと、めぐたちの空間も
そんな、隣接する空間であるようだ。
「あ、電車、きたきた!」とめぐは
電車停留所で、挙手。
バスみたいだけれども、路面電車は
そんなふうに走っている。
時刻表はあるが、ほとんど曖昧なもので
日中は、15分くらいでやってくる、そんな感じの、楽しい乗り物だ。
時刻表が必要なのは、お仕事や
学校に行く人の朝、くらいで
別段、慌てる事のない人には
気にする事もない、そういう代物だった。
電車が、ブレーキを軋ませて停車する。
鉄の車輪に、樹脂のブレーキ片を
当てて制動をするので
振動して、大きな音が出る。
変な音だけど、機械っぽくて
好ましい、と言う人もいた。
空気仕掛けの扉が開き、乗車。
階段を2段昇る、木造りの床。
ワックスの匂いがする。
「さ、クリスタさん」と
ルーフィは、彼女をエスコート。
「これが、路面電車なのですね」と
クリスタさんは楽しそう。
天使さんになる前も、路面電車の
ない町にいたのかな?
珍しそうに、車内を見回している。
ステップをのぼるクリスタさんは
ちょっと不思議なくらいに軽快だ。
・・・・・そういえば。
クリスタさんは、天使でも人間でもない、と言っていたから
未だ実体が無いのかもしれない。
質量が無ければ、重力場の
影響は受けない。
異次元の空間を持つと言うのは、そういう事で
移動が高速で出来たりするのは
そんな理由もある。
グリーンのモケットで
ベンチのようなシートは作られていたけれど
その簡素で武骨なデザインは
かえって、故郷のような温かみを感じさせた。
でも、とりあえず空調が入っていて
一応は近代的ではある。
車両はそこそこ空いていたので、わたしたちは
並んで、シートに腰掛けた。
図書館は、駅に近い方なので
お買い物とか、ご用のある方とか
日常っぽいひとたち、それと
夏休みなので、どこかに行くのだろうか
カラフルな服装のひとたち。
楽しそう。
「わたしたちも、旅に出るのかなー」なんて
めぐは、そんな風に。
「旅かぁ。出かけるまでも楽しいのよね」と、わたし。
トラベルライター、なんて仕事をするとは思わなかったけど
その前からも、旅行はなんとなく好きで
あちこち出かけた。
出かける前に、プランニングしてる間が、一番楽しかったりするんだけど。
電車が揺れても、クリスタさんは
かーるく、ゆらゆら。
わたしもダイエットしようかしら(笑)
なんて思うくらい、軽快だった。
あのくらい軽いと、ハイヒール履いても
ガイハンボシになんないわ(笑)
なーんて。
クリスタさんも、わたしも
ぺたんこの靴だけど。
もちろん、めぐは学生だから
そうだったりするけど。
階段とか、あるきづらいもん。
「あ、着きますよ」って
ルーフィは、クリスタさんをエスコートして。
2ステップの電車を下りる。
ワンコインを、料金箱に入れて。
透明なプラスチックの料金箱の入り口に
ベルベットのコンベアが、コインを
キャシュボックスに運ぶ様子を
クリスタさんは、不思議そうに
見ていた。
大きな瞳は、透明感があって。
のんびりとした表情なので
遠い、記憶の中にある
ノヴェルティな感覚、それを
思わせるような感じ。
ゆっくりとステップを降りて。
図書館の前、ペイウ゛メントは
柔らかい桜色。
街路樹が緑に生い茂る夏。
蝉の鳴き声が、そこかしこに。
木漏れ日、きらきら。
「さわやかですね」
クリスタさんは、白い夏帽子。
さらさらとしたサテン。
めぐは、ストローハット。
端っこがぱらぱらしてる、男の子みたいな。
夏、らしい。
わたしは、いつも取材で使っている
コットンの帽子。
地味だな(笑)。
でも、記者だもん。
ルーフィは、おばあちゃん特製の
パナマ帽。
すらりと背が高いので、よく似合う。
「大きな建物ですね」と
クリスタさんは図書館を見上げた。
ガラスの塔みたいに見える
図書館は
ステンドグラスがあったり、てっぺんに
太陽みたいなモニュメントがあったり。
ちょっとアート。
芸術っぽい建物だ。
もう、図書館は9時から開いているけれど
いつも、夏休みは自由出勤になっていて
勉強を一番にして、お手伝い程度でいいから、と
司書主任さんは、思いやりのある方。
それなので、エントランスから入る。
ひろーいフロアは、クーラーが無くてもひんやりと涼しい。
もちろん、クーラー入れればもっと涼しいけれど。
でこぼこの装飾タイルを模した床、LEDの壁面掲示板。
ステンドグラス。
凝った造形は、建築家さんがアート、として
がんばった結果だろう。
自動ドアから、第一図書室へ。
空港の金属探知機みたいなアンテナが、左右にあるのは
本についているRFIDを拾うためのもの。
正面左手に、緩やかな曲線を描いた貸借カウンター。
まだ、時間が早いので、人はほとんど居ない。
家族連れが多いこの図書館は、午後から混み始める。
夏休みは、朝から学生も来るけれど
大抵、上のフロアの学習室に直行してしまう。
家にいると、クーラーの電気代が掛かるので(笑)なんて理由だろう。
わたしも、学生の頃はクーラー好きだった。
今は、そうでもない。
年かな(笑)。
司書主任さんは、私達を見て、発見!と言う表情。
「いやぁ、3姉妹かと思った....。」と、にっこり主任さん(笑)。
めぐは「おはようございます。あの、主任、こちらはクリスタさん。わたしの...。」
そこまで言って困った(笑)わたしの天使さん、とも言えない。
「うんうん、そっくりだねぇ。いとこ?」と、主任さんは結構な誤解をしてくれて
めぐは助かった。
「それにしても、3人そっくりだね」と、それも意外なお言葉。
家族でない人から見ると、そう見えるらしい、と
初めて気づいた。
「本をご覧になるのなら、どうぞごゆっくり。」と、主任さんは
にこにこ。
めぐは、ちょっと困って「あの...主任、じつは、その....。ちょっと、
お休みを頂けないでしょうか。それで、代わりにクリスタを。」
と、主任さんに言うと、主任さんが今度はびっくり。
「えっ。...ああ、図書館は別にいいけど。そんなに忙しい訳でもないし。」
それは事実で、夏休みが終わる頃、子供たちで賑わうけど
貸借カウンターは混まない。
子供たちは、絵日記に書く天気を調べに来るのだ。
「クリスタさんを代わりに?...気を使わなくていいけども、でも、居てくれると
嬉しいね。夏休みだから、小さい子も多いし。」
児童図書のコーナーは、夏休みは子供たちで賑わうので
時々、めぐも手伝っていた。
お母さんが本を読めるように、赤ちゃんコーナーもあったりして。
絵本の読み聞かせも、人気だったりした。
「よろしくお願い致します」と、クリスタさんは澄んだ、明るい声で。
「いい声ですね。絵本を読んであげたら、ちいさい子が喜ぶかな。」
なんて、司書主任さんはにこにこ。
「めぐちゃんは、時間あるの?」と、主任さん。うなづくめぐを見て、
「それじゃ、すこーしだけ、クリスタさんにお仕事を教えてもらえると
ありがたいな」と。
「はい。ありがとうございます」と、めぐと、クリスタさん。
ならんでご挨拶すると、なんとかシスターズ、みたいな
歌手みたい(笑)。
めぐは、クリスタさんと
ふたりで。
ロッカールームに向かった。
その、後ろ姿を見ていると
「ほんとに姉妹みたいだ」と
ルーフィ。
「偶然かしら」と、わたしは
何気なく。
「うーん、わかんないけど。
一緒にずーっと暮らしてたから
似てくるのもあるんじゃない」と
相変わらず、アバウトなルーフィ。
「何か、曰くがあるのかも
しれないね」とも。
曰くなんて、きいたことないけど(笑)。
まあ、こっちのめぐは
わたしとは、似てるけど
ちょっと違うんだけどね。
めぐは、ロッカールームで
クリスタさんに、新しいエプロンを
奨めた。
グロス・ブラックで
オレンジ色で「としょかん」と
胸のところに刺繍がしてある、
いつも、見慣れてるそれ。
ロッカールームは、誰もいない。
静かで、白い壁。
グレーのスチールロッカー。
どこにでもある感じ。
「そのね、紐のところをループにして、首にかけるのね」と、
めぐは、自分がいつもしているように。
胸当てから出ている細い紐を
肩に回して、交差させて
横から、ループに通して。
背中でちょうちょ結びにする。
「こう・・・ですか?」
クリスタさんは、うまく紐が回せない。
「このエプロン、初めて?」と、
めぐは聞く。
「はい」と、クリスタさん。
ちょっと恥ずかしそうだけど、
天使さんだもの。
エプロンで家事、なんて(笑)
それはしたことないだろうな。(笑)
背中クロスが大変っぽいので
首のとこで、ループにして
くぐるようにした。
そういうふうにしてる子もいる。
今は夏休みなので、結構、みんな
休暇を取っていた。
もともと、図書館でバイトする子の
ほとんどは、カレッヂに行ってて
司書資格を取って、採用試験を待ってる、
そんな子がほとんどだったから
ハイスクールのめぐよりも
夏休みが早かった。
それで、ヴァケーションに
出掛けてしまっているのだった。
図書館そのものは、正規職員だけで
仕事はほとんど間に合う。
なので、めぐたちは
ほとんどインターンシップみたいな
そんな感じだった。
「うん、ステキね、クリスタさん」と
めぐは、にこにこ。
ふんわりヘアーのクリスタさん。
さっぱりショートの、めぐ。
ふたりで、にこにこ。
「さ、いきましょ!」
「はい」
ロッカールームから、短い廊下を歩いて
さっきの、第一図書室へ。
ほんの少しの時間だったのに
返却カウンターには、列が出来ていた。
「お待たせしました、どうぞ」と
めぐは、慣れた手つきで
コンピューターの、返却スイッチを押した。
返却と書いてあるのは、ディスプレイの画面なので
そこをタッチしてもいいけど
慣れた人は、キーボードのF1キーを押していた。
それを、クリスタさんは不思議そうに見ている。
「あ、とりあえず見ててね」と、
めぐはクリスタさんに言い
テキパキと作業。
返却の雑誌を、バーコードリーダーで読み取らせる。
すると、画面に雑誌名と
借りた人の名前、返却日が表示される。
簡単なデータベース検索だが
天使さんは、コンピューターを
見たことがないらしい。
不思議そうに、大きな瞳で見ている。
返却カウンターの向こうでは
銀髪のおばあちゃんが、にこにこ。
やわらかな表情で
「かわいいのね」と、めぐと
後ろにいるクリスタさんを見比べて
「よく似てる。お人形さんみたい」と
にこにこ。
めぐも、にこにこ。「あ、いえ・・・」
恥ずかしくなって、それしか言えなかった。
リーダーで読み取った雑誌の
無線タグに返却情報を書き込む。
雑誌を、ライターにかざすと
ぽん、と音がする。
面白い機械なので、クリスタさんも珍しそうに、眺めていた。。
「どうなってるのかしら?」と
つぶやきみたいに。
「わたしも、よくわからないの」と
めぐ。