表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2人の想い

作者: 堂餓鬼

光が眩しくて目を覚ました。目を開けると、白い天井が見え外の風景に目を移した。

「そっか心臓病の発作で倒れて病院に運ばれて来たんだ。」自分自身の記憶が曖昧になってる。ふと、2年前に言われた医師の言葉を思い出した。

「君は長くもって後1年だろう」飛鳥は医師にそう言われた。もう1度俺は病室の中から外を見た。何故こんな事になったのか、運命だと思うしかなかった。ふと、屋上に目を向けると少女が立っていた。

俺は病室を出て屋上に向かった。屋上の扉を開けると光が差し込んできた。俺は、眩しくて一瞬目を瞑る。目を開けてみると雲1つない澄んだ青空が広がっていた。フェンスの方に目を向けるとやはり少女が立っていた。俺の視線に気付いたのか彼女が俺の方を振り返った。

そして、笑顔を見せた。

それが俺と彼女の最初の出会いだった。フェンスに立っている彼女に、少しずつ近づいていって俺は、声を掛けようとしたが言葉が見つからず黙ってしまった。

先に口を開いたのは彼女だった。

「空、青いね。」俺は、相槌をうった。

「空を見ていると癒されるんだ」彼女は笑顔のまま俺の顔を見て言った。俺は彼女に聞いた。

「君、ここに入院してるの?」

「そうだよ」彼女は短くそれだけ答えた。

「貴方も?」

「そうだよ。俺もここに入院してるんだ」

「じゃあ、同じだね」彼女はそう言ってまた笑顔を見せた。その日以来、彼女と仲良くなり暇な時は2人で屋上に行って話をするようになった。

「そう言えば」何かを思い出したように飛鳥はそう言った。

どうしたの?という顔をしながら彼女はこちらを見てくる。

「君、名前は?」彼女は今更と言うと口を開けて笑っていた。

そんなに笑わなくても、と言おうとしたが声には出さなかった。忘れていたのは、俺の方だし・・・。すると、彼女が不意に口を開いた。

「櫻井・・・櫻井涼子」彼女はそれだけ言った。言っている間も彼女は笑っていた。そして、

「貴方は?」と聞いてきた。

笑いは収まったようだ。俺は、

「木戸・・・木戸飛鳥」と言って飛鳥は笑みを溢した。飛鳥はこの時思った。このままの時間がずっと続けばいいと・・・。だが、それも長くは続かなかった。彼女の体が急変しだしたのはまだ、明るい昼の事だった。

いつものように2人で病院の裏庭で話している時に涼子は

「苦しい」

と飛鳥に訴えそのまま気を失った。涼子を揺さぶったが全く反応がない。

飛鳥は急いで医師の元に行き、簡単に説明した。飛鳥の説明を受け、医師は直ぐに涼子の元に駆け寄り脈を測ったりしている。涼子の体は悪くなるばかりで直ぐに手術を開始した。手術が開始されてから1時間が経過しようとしていた。

「まだか」飛鳥はそれだけ言うと落ち着きなく行ったり来たりを繰り返していた。

1時間が過ぎた頃、手術室のランプが消えた。中から出てきた医師は、汗だくになりながら飛鳥に何かを言おうとしていた。医師が口を開く前に飛鳥が聞いていた。

「涼子は大丈夫何ですか?」

医師は言いにくそうにしていたが諦めたのか口を開いた。

「一応手術は成功した。だが、助かる見込みはない。」その言葉を聞いた瞬間、飛鳥は床に座り込んでしまった。手術が終了して、数日が経っていた。涼子の容態は良くなるどころか悪くなる一方だった。飛鳥は何もする気が起きず、ベットに座りながら、外の風景を見ていた。そして、涼子との日々を思い返していた。

「どうして・・・どうして涼子があんな事にならなければいけなかったんだ」飛鳥は、そんなことを呟き途方に暮れていた。そして、とうとう涼子との別れの日が訪れた。飛鳥は目を覚ましベットから起き上がり、外の風景を眺めていた。

すると、病室の中に1人の医師が入ってきた。元気の無い顔をしている。「どうしたんですか?」飛鳥は困惑気味に尋ねた。すると医師は、飛鳥に着いてくるように指示した。

飛鳥は言われるままに着いていき行き着いた場所は・・・なんと涼子の病室だった。涼子の病室に着いて直ぐに医師は口を開いた。

「櫻井さんが、君と話したがっている」それだけ言ってまた口を閉じてしまった。取り敢えず飛鳥は、病室の扉をそっと開けてみた。

中を覗くと、飛鳥の病室と同じ造りになっていた。ベットに目を向けると、そこには涼子が横たわっている。

飛鳥は病室に入り、ベットの側まで歩いていった。いきなり、涼子が口を開いて話しかけてきた。それは、力のない声だった。

「来てくれたんだね」笑顔でそう言った。

「大丈夫か?」心配してみたものの他に言葉が思い付かなかった。

「大丈夫・・・って言いたい所だけど、実は体が自由に動かないんだ」そう言うと、舌をペロッと出して笑った。自分がもう長くないと知りながら、笑いながら話してくれる。

「最後まで強がるなよ」

「だって、笑わないと飛鳥悲しい顔するでしょ?」

飛鳥は苦笑した。

「お前は、最後の最後まで・・・」飛鳥はそこで言葉を切った。涼子が涙を流していたからだ。

「どうしたんだよ。急に」

「だって・・・だって、離れたくないよ。」飛鳥は必死に涙を堪えていた。意を決したように涼子が口を開いた。

「私ね・・・私、飛鳥の事が好き」意外な言葉だった。飛鳥は苦笑いしながら

「こんな時に何言ってんだよ。」

涼子は真剣な顔をしながらこちらを見ている。飛鳥の答えを待っているようだ。

飛鳥も真剣な顔つきになり答えた。

「俺も・・・俺も涼子の事が好きだ。」言った瞬間、抑えていた物が一気に溢れ出した。飛鳥は人前を気にせず泣いた。

「泣かないで・・・飛鳥が泣いちゃったら、私まで悲しくなっちゃうよ」そして、涼子は最後の言葉を口にした。「今までアリガトね・・・楽しかった」言い終わる前に、涼子は目を瞑りそのまま、目を開ける事は無かった。涼子がこの世を去ってから、1週間が経っていた。あれから飛鳥は、涙が枯れるまで泣き続けた。泣いても、戻ってこないと分かっていても、泣かずにはいられなかった。体がおかしくにりそうだったから。

泣き止んだ飛鳥はベットから起き上がり、外の空気を吸いに行こうと立ち上がった。『目眩がした』急に立ち上がったから、立ちくらみでもしたと思い体を動かそうとしたが思うように体が動かなかった。

「どうなってんだ?」疑問に思ったが、目眩が治まらない。次第に意識が遠くなり、倒れてしまった。『ウルサイ』と思い、目を開けた。飛鳥の側には医師や看護婦が動き回っていた。

やはり、体は思い通りには動かなかった。『俺も後少しか。』そう思った。その時ある事を思い付いた。

「そうだ。どうせ長くないなら涼子の墓参りに行こう」飛鳥は医師の了解を得て病院を後にした。飛鳥は、墓石の前に立っていた。

涼子との思い出を振り返り、また涙が出そうだったが必死に堪えた。また、涼子に笑われそうだったから・・・。飛鳥は涼子の墓石の前で、目を瞑り両手を合わせた。

数時間が立ち、飛鳥は病院に戻った。病室に戻る時に、また目眩が起きた。そして、そのまま倒れてしまった。そして、一生目を開ける事は無くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ