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【8】純白の百合(中編)

隙を見て車へ乗り込み、郊外へ逃げることに成功したライガとリリー。

ヴワル市方面に繋がるハイウェイへ車を走らせながらライガはスマートフォンを取り出し、リリーへ渡す。

「アドレス帳から『レガリア』っていう奴に電話を掛けてくれ。お前が使っている機種と同じだし、操作方法は分かるよな?」

緊急事態とはいえ、運転中にスマートフォンを操作するのはあまり褒められたことではない。

無駄に馬鹿正直な点はライガの長所にして最大の短所である。

「分けるけど……レガリアってあのレガリア・シャルラハロートなの!?」

「ああ! 彼女と連絡を取って指示を仰げ!」

状況を飲み込めないままリリーはスマートフォンを操作し、目的の相手へ電話を繋いだ。


時を同じくして、ヴワル市の自宅にてスプリングフィールド市襲撃のニュースを見ていたレガリアのスマートフォンが着信音を響かせた。

画面には「ライガ・ダーステイ」と表示されていたが、レガリアは直感的に彼ではないと判断した。

「も、もしもしっ! レガリア・シャルラハロートさんですか!?」

「……少し落ち着きなさい。貴女の名前は?」

慌てた様子の通話相手を窘め、名前を名乗るよう促す。

「リリー・ラヴェンツァリ……です」

「ラヴェンツァリですって!?」

通話相手―リリーのファミリーネームを聞いたレガリアは思わず驚いた。

だが、ここは一旦冷静になり改めて用件を引き出す。

「どうかしたの?」

「いえ……疑問に疑問で返すようで悪いけど、ライガは何をしているの?」

「彼は車を運転してるよ。今からハイウェイを使ってスプリングフィールドから逃げるんだけど……」

たった1分にも満たない会話であったが、ごくわずかな情報量からレガリアは必要な判断を下す。

「状況はある程度分かったわ。強力な援軍を送るとライガに伝えてちょうだい」

「うん、強い人を期待しているから……!」

その言葉を最後に電話は切れてしまった。


「メイヤ!」

通話時から傍にいたメイド秘書を改めて呼び付ける。

「はっ、ライガさんと同伴者の保護が目的ですね」

「本当はブランデルを連れて行きたかったけど、ケガをしているあの娘の代わりに貴女がMFに乗ってくれる?」

数日前の戦闘でブランデルは脳震盪を起こしており、医者から絶対安静を言い付けられているため今回は出撃できない。

かと言ってレガリア単独では万が一の際に不安が残る。

幸いサンリゼでライガが搭乗していた2号機が戻ってきており、この機体は戦力として計上することができる。

そして、どこで覚えたかは知らないがメイヤは実戦レベルのMF操縦技術を持っていた。

「承知致しました。必ずやお嬢様をお守りし、ライガさんたちを保護しましょう」

「時間が無いわ、コンバットスーツへ着替えたらすぐに出撃するわよ!」

その後、着替え終わったレガリアとメイヤはそれぞれの機体に乗り込みオリエントの空へと上がった。


その頃、ライガたちの方は最大のピンチを迎えていた。

「げえっ!? なんでアイツらが道を封鎖してやがるんだ!」

ヴワル市方面へと繋がる唯一のハイウェイは、先回りしていたバイオロイドたちによって既に通せんぼされていたのだ。

「うわぁ、後ろの方も囲まれてるんだけど!」

リリーが叫んでいたため後ろを振り向くと、バイオロイドたちの乗るMF4機が道路上に着陸していた。

困ったことに全ての機体が銃口をライガたちの車へ向けている。

「ライガ、このまま突っ切ろう!」

「おいおい、カミカゼでもやろうってのかよ!?」

このまま考え無しに突っ込んでも蜂の巣にされてあの世逝きがオチだろう。

「違う! 何だか知らないけど、必ず助けが来るって私は分かるの!」

もっとも、止まっていたところで助かる見込みは無いため、ライガはリリーの「直感」へ賭けてみることにした。

「……賭けに失敗したら、死ぬ時は一緒だな」

「君と一緒なら、どんな結末だって受け入れるよ」

助手席に座るリリーの笑顔を確認し、覚悟を決めたところでアクセルペダルを思いっ切り踏み込む。

「しっかり掴まってろよ!」

ハンドブレーキを解除した瞬間、車は四輪駆動のトラクションを活かして一気に加速し、一瞬でスピードリミッターが作動してしまった。

「ああっ! こういう時に限って安全対策が邪魔しやがる!」

焦るライガとは裏腹に法定速度を守って走る車。

しかし、その車を狙っていたはずの銃口はいつの間にか上空を向いていたのだ。


バイオロイドたちが上空から急降下してくる1機のMF―メイヤの駆るスパイラルへ反応し、携行していたアサルトライフルで迎え撃つ。

だが、実弾の弾速ではスパイラルを捉えられず、車への接近を許してしまう。

「持ち上げますっ! しっかり掴まって!」

聞こえないとは思いつつも一応確認した後、マニピュレータで窓ガラスを突き破って車体を持ち上げる。

自身より3倍ほど重いであろう車を抱えながらもスパイラルは高度を上げ、前方を塞いでいた敵機の頭上を通り抜けた。

その直後、飛び去るスパイラルを狙い撃とうとした敵機が逆に攻撃を受け、下半身を残して爆散したのだった。


メイヤと違う場所へ降下したレガリア機は敵機を全て相手取るため、現状可能な重装備で出撃していた。

調整の済んだレーザーライフルを主軸に無反動砲、アサルトライフル2丁をハードポイントへ装備し、近距離戦用武装はビームソードから斬撃に向いたビームサーベルへ変更。

防御兵装は左腕に加えて左脚の予備を含めた2枚のシールドを装備しており、それによる重心の偏りをカバーするため右脚内部へバラストを追加。

そして、主兵装には投擲(とうてき)を考慮した長柄武器のビームジャベリンを採用している。

バランス的には決してベストとは言えない装備パターンだが、スパイラルの高度な電子制御とレガリアの操縦技量があれば全く問題無い。

「メイヤ、ライガたちを連れて撤退しなさい!」

「お嬢様……単独で7機も相手なさるおつもりですか!?」

戦闘力の全貌がよく分かっていない相手に対し、それだけの戦力差で臨むのは本来なら自殺行為といえる。

だが、レガリアには必ず勝てるという絶対的な自信があった。

そもそも、今回の作戦の目的はあくまでも「ライガたちの救出」であり、敵機の殲滅は主目的ではない。

バイオロイドたちの追跡の意志を挫けば、その時点でレガリアたちの戦術的勝利なのだ。

「私は戦える―そして、勝てるという絶対的自信を以って戦場に臨むのよ」

「え、ええ……。確かに、お嬢様の実力はよく存じておりますが……」

「とにかく、ライガたちと一緒に後方へ退避よ。1.5トンの重量物を抱えたままではまともに戦えないでしょう?」

今回、メイヤ機は自機を少しでも軽量化するために武装を全て置いてきている。

実質丸腰の状態ではかえってレガリアの足を引っ張るだけだろう。

「……承知いたしました。お嬢様のご武運をお祈りします」

次の瞬間、無反動砲を構えてホバー移動するレガリア機と車を抱えて低空飛行するメイヤ機がすれ違い、互いに短い合図を送り再び距離が遠ざかっていった。

「(私だって軍にいた頃はエースと呼ばれていたの。作り物の人間には負けないわよ)」

深呼吸して息を整えた後、レガリアは推力を最大まで上げ機体を加速させるのだった。

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