【6】もう一人のシャルラハロート(後編)
ブランデルが駆る謎のMF―スパイラルの鉄拳が所属不明機へと襲い掛かる。
素早い連続攻撃を所属不明機は軽い身のこなしでかわし、一瞬の隙を突いてブランデル機の右脚を掴む。
「クソっ! やられたか!?」
身動きの取れないブランデルはスラスターを吹かすことで抵抗するが、大した効果も得られずコンクリート柱を粉砕しながら壁面へと叩き付けられる。
ここで頭を強打せずに済んだのは幸運であったが、それでも彼女は軽い脳震盪に見舞われていた。
だが、所属不明機がトドメを刺そうと突撃してくるのを見たブランデルは、何とか体勢を立て直し攻撃をかわす。
そして、先程自身がされたのと同じように敵機の左腕を掴み、地面に向かって叩き付ける。
更なる追撃に繋げようとしたものの、敵機が素早く逃げたことでチャンスは失われた。
「(このままじゃダメだ……何か決め手は……!)」
武器として使えるモノは無いかと周囲を見渡すブランデル。
すると、武器庫のような「何か」がひっそりと置いてあったのに気付くのだった。
「何か」をめがけてブランデル機は銃撃の雨の中を駆け抜ける。
いくつかの弾丸が機体を掠めていくが、彼女は臆すること無く前へ進む。
そうして、目的の「何か」―MF用バスタードソードの柄を掴むことに成功した。
「うわっ、重い!」
両手持ち且つ大質量で対象を「叩き斬る」ことを想定しているMF用バスタードソードは、武装としてはかなり重い部類に属する。
「だけど、これなら勝てるっ!!」
従軍時代、ブランデルは本来扱いの難しいバスタードソードを好んで使っていた。
彼女にとってバスタードソードとは戦場で頼れる相棒なのだ。
その「相棒」を正面へと構え、最大推力での突撃を敢行した。
銃撃の嵐を突き進み、重厚な一閃で敵機を襲う。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
振り下ろされたバスタードソードは敵機をドライバーごと両断し、コンクリートの地面に亀裂を作った。
その亀裂へおびただしい量の血液が流れ込んでいく。
「(退役した時、もう人殺しはしないって決めたのに……)」
戦闘の跡を見下ろしながらブランデルは息をついた。
先程までは気付かなかったが、よく確かめると自身の頭からも血が垂れていたのだった。
「しかし、この機体は―」
次の瞬間、独り言を遮るような轟音が地下駐車場内を反響する。
音源の方向へ振り返ると、同型の所属不明機が2機も侵入していたのである。
「あのさぁ、冗談でしょ? これは……!」
地面に突き刺していたバスタードソードの柄をもう一度掴み、再び臨戦態勢へと移行する。
ブランデルに残された選択肢は敵を全て倒し生き残るか、それとも殺されるかの二つに一つしかない。
残念ながら降参して命の保証をしてくれる相手では無いだろう。
だが、助け舟は意外なところからやって来たのであった。
片方の所属不明機のバックパックが突如爆発し、破損箇所から黒煙を噴き上げる。
爆発する直前、ブランデルの視点からは飛翔してくるロケット弾が見えていた。
「―ンデルお嬢様! ブランデルお嬢様! 聞こえますか!?」
通信で割り込んできた声の主はブランデルがよく知る人物だった。
「メイヤ!? いつの間に!?」
メイヤ―メイヤ・ワタヅキはレガリアの専属メイド兼秘書を務める女性である。
数十年前、真冬の猛吹雪の中で行き倒れになっていたところを助けられ、その縁でレガリアに仕えるようになったと本人からは聞いている。
しかし、ロケットランチャーを扱えるとは流石にブランデルも知らなかった。
「話は後にしてください! 今のうちに敵機を!」
所属不明機はまだメイヤの位置を掴めていない。
急いで仕留めなければ彼女の身にも危機が及ぶ可能性がある。
「……了解! 可能なら援護をお願い!」
ブランデルは考えるよりも先に機体を動かしていた。
自身を攻撃した相手を探していた所属不明機はブランデル機への対応がわずかに遅れた。
距離を詰められたと判断しビームブレードを構えようとしたが、それよりも早くブランデル機の一撃が炸裂する。
スパイラルのパワーとスピードを乗せた右ストレートは決して軽くないであろう所属不明機を大きく吹き飛ばす。
確実に相手を仕留めるため、さらに肉薄し追撃を掛ける。
そして、ブランデルはダウンを奪うことに成功した。
「さて……あんたに恨みは無いけど、私の命を狙った奴は死ぬよ……!」
彼女のバスタードソードが所属不明機をドライバーごと容赦無く貫いていた。
一方の所属不明機はメイヤの牽制攻撃に振り回されており、しびれを切らしたのか彼女の潜伏する可能性が高い場所へ銃撃を行っていた。
「(あの機体のドライバー、技量は高いようだけど冷静さに欠けているわね)」
コンクリート柱の裏に身を隠しながらメイヤは敵の性質を分析していた。
普通、ロケットランチャーを持つ生身の人間1人と一般的なMF1機が戦力として展開されている場合、MFで対応するのなら敵機から優先して処理するのが正しい。
生身の人間なら固定式機関砲の火力でも十分蜂の巣にできるし、ロケット弾数発で壊れるほどMFは脆くない。
MFは同じMFとの戦闘を想定して開発されているのである。
「(まあ、相手が熱くなっているおかげで私とお嬢様の反撃する機会が生まれるのだけれど)」
メイヤが隠れているのは敵から見えずブランデルからは視認可能な理想的な位置であり、彼女はブランデルへ今のうちに攻撃するよう合図を送る。
それを知ってか知らずか、肝心の「お嬢様」はバスタードソードを構えて攻勢に出ていた。
メイヤから攻撃指示を受けたブランデルは、不意討ちの利点を最大限活かすためにあえて直進せずに接近する。
敵機が放つ銃撃は姿勢を低く保つことでかわし、バスタードソードに運動エネルギーを最大限乗せるため機体その物を一回転させることで勢いを付ける。
ブランデルの巧みな調整によって一回転と攻撃タイミングは完璧に一致し、大質量と運動エネルギーを乗せた一閃が敵機の腰部を貫く。
引き抜き動作ではバックパック側へ意図的に力を掛け、誘爆が発生するようバスタードソードを動かす。
だが、E-OSドライヴの位置が予想と違ったのか、誘爆せずに上半身だけが地面へ転げ落ちた。
「……これが最終通告よ。命が惜しければ脱出しなさい」
ブランデルはそう言いつつ敵機の上半身にバスタードソードを突き立てる。
もう少し力を込めれば、ドライバーごと貫通してしまうだろう。
「脱出しないのなら……このまま君を殺す」
「好きにしろ、我々『バイオロイド』は逃げも隠れもしない」
「バイオロイド」と名乗った彼女は脱出する気が無いらしい。
「そう……ならば、潔く死ねっ!!」
次の瞬間、ブランデルは突き立てていたバスタードソードへ力を加える。
地面には紅い鮮血が飛び散っていたのだった。
「結局、敵はみんな殺してしまったよ……」
屋敷内で手当てを受けていたブランデルは水分補給をしながら呟く。
正当防衛だったとはいえ、常識的に考えれば惨い方法で人を殺したのである。
「仕方のない事だったと思いますよ、お嬢様」
戦闘を援護してくれたメイヤは、お嬢様の頭に包帯を巻きながらフォローしてくれた。
「あ、そうだ。メイヤはどうしてこっちにいたの? いつもは姉さんと一緒にいるのにさ」
何度も繰り返すが、メイヤはレガリアの専属メイド秘書である。
仮に独断で動いていたとしたら、それは完全に仕事を放棄していることになる。
「お嬢様―いえ、レガリアお嬢様からの指示です。『私はライガ・ダーステイとサンリゼで用事があるけど、貴女は念のためヴワルに行きなさい』と」
それを聞いてブランデルは一安心……とはいかなかった。
「待った……ライガ・ダーステイだって!?」
「ええ、確かにレガリアお嬢様はそうおっしゃっていました」
「アイツかあ……今さら、姉さんに何の用なんだろう?」
ブランデルとライガは高校及び大学が一緒だった腐れ縁の関係であり、従軍時代も何かと一緒に行動することが多かった。
正直な話、才能豊かなエリートであるライガと比較されることがたまらなく嫌だった記憶しかない。
ブランデルも出自はエリートかもしれないが、努力では補えない才能という一点においてライガには敵わなかった。
「ライガの奴はともかく、敵が言ってた『バイオロイド』のほうが気になるんだけど」
最後の敵を倒す際に唐突に出てきた「バイオロイド」という単語。
アンドロイド的な何かかなぁと考えていると、医務室の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ブランデルさん! メイヤさん! 大変ですってば!」
扉越しにニブルスが叫んでいる。
「あー、あんまり叫ばないで! 少し落ち着け!」
「どうしたの? また不審者でも襲って来た?」
戦闘の後遺症で頭が痛いブランデルに代わり、メイヤがニブルスから事情を聴いていた。
「に、ニュースでテロリストが……声明文を出しているんですよ!」
「テロリスト! ……間違い無い、先程戦った相手の親玉みたいね」
ニブルスとメイヤ、そしてブランデルの3人はテレビが置いてあるシャルラハロート家専用の居間へと向かったのだった。
同じ頃、ヴワル市から離れた町にいたライガは大変な目に遭っていた。