【62】決戦の蒼き宇宙
決戦仕様の機動力を以って敵包囲網を突破、グラーフ・ツェッペリン内部へ進入したパルトナとスパイラル3号機。
2機のMFは周辺警戒を行いながらゆっくりとコロニーの深部へ向かっていた。
「不気味な場所……今にも幽霊が出そうね」
「リリー、視野を広く持て。感覚を研ぎ澄ますんだ。『本当の戦争』ならこういう所にもトラップが仕掛けてあるからな」
オリオン・カシオペア混成部隊を除き、ライガたちはここへ来るまで一度も会敵していない。
余計な消耗をせずに済んだのは確かに好都合なのだが、逆に違和感さえ抱く。
あの負けず嫌いで狡猾なライラックが何一つ策を打ってないとは思えないのだ。
……ここに幽霊はいない。いるのは私とあなたたちだけ……。
今、確かに「彼女」の声が聞こえた。
「出て来い、ライラック・ラヴェンツァリ! 約束通り貴女を討ちに来たぞ!」
生き物の気配が一切無いコロニー内部に向かってライガが叫ぶ。
「約束ねえ……娘を連れて来いとまで言った覚えは無いのだけれど」
その時、パルトナとスパイラル3号機のレーダーディスプレイに一つの光点が浮かび上がる。
目測でおよそ3000m前方―そこにはMFらしき物体が漂っていた。
「私は自らの意思でMFドライバーになり、ここまでやって来たの。ママ……いえ、ライラック・ラヴェンツァリ! 貴女を倒し、この世界に平和を取り戻すためよ!」
「私を倒して平和を取り戻す? ハンッ、三流コメディアンよりは面白いことを言えるのね」
リリーの決意に満ちた言葉をライラックは軽く嘲笑う。
「いいかしら? 本当にこの世界を平和にしたいっていうのなら、まずは無能な支配者層を皆殺しにしなさい。次に、世界中の人口を間引くのよ。そうね……10分の9とまではいかないけど、せめて半分は減らさないと。地球に80億の人間―環境汚染を撒き散らし、限られた資源を食い潰す悪質な水とタンパク質の塊を支える余裕など無いわ。あるいは、コロニーなり小惑星なりを落とし、強引に環境を荒廃させ全人類を追い出すというのもアリかもね。べつに私は人々を導くことに興味など無いから……そういう面倒事はあなたたちみたいな『イイ人』が善意でやれば? レガリア・シャルラハロートなんてどう? 大金持ちのあの娘なら貧困層の嫉妬と僻みを一身に集め、逆に人類を纏め上げられると思うんだけど……ま、どうせ有能な指導者はすぐ暗殺されるし、関係無いか」
自らの持論を長々と述べたライラック。
人類死すべし―彼女が抱く狂気にライガとリリーは恐怖し、やがて怒りを覚えた。
「……僕が子どもだった頃のライラック・ラヴェンツァリ博士はそんな人じゃなかった! 何が、誰が貴女を狂わせたんだ!?」
「フフッ、私は正常よ。生まれてから一度も精神科の診断を勧められたことは無いわ」
「ふざけた答えをッ!!」
両手に構えられたパルトナのレーザーライフルがライラックと彼女の機体へ向けられる。
「正常じゃない! クレイジーよ、貴女は! 人が人に罰を与えるなんて、そんな権利があるというの!?」
続いてスパイラル3号機が抜刀したビームブレードを構える。
「あるのよ、私には! あなたの言葉を借りるのなら『クレイジー』だからよ! 真っ当な人間がジェノサイドなど思い付くわけ無いでしょう?」
娘とその幼馴染から糾弾を受けてもなお、ライラックは余裕の態度を崩さなかった。
確かに、彼女は精神に異常などきたしていない。
つまり、これまでの行動や発言は全て「正常な思考」の下で導き出されていたのだ。
「さて、前哨戦の口論はここまでにしましょう。あなたたちが好きな殺し合いで正義を決めるため、私も対等に戦える機体を用意してきたわ。自ら設計しアークバードのスペースコロニー支社に造らせたこの機体……その名は『エクスカリバー』! スターライガと戦うために生まれた、約束された勝利の剣よ!」
エクスカリバー―。
アーサー王伝説に登場する、アーサー王が持っていたとされる聖剣。
その名前を冠する白きMFは素人目で見ても分かるほど洗練されたデザインを有していた。
これまでは「自分たちの機体こそ地球最強だ」と自負していたが、いよいよ認識を改める時が来たのかもしれない。
「貴女みたいな人が聖剣の名前を使った機体に乗るなんて、どこまで傲慢なのよ!」
しびれを切らしたリリーがついにスロットルペダルを踏み込み、実の母親が駆るエクスカリバーへ斬りかかった。
「自分の機体を名付けるのに、どうして許可を取らなくちゃいけないのかしら?」
そう言いながらライラックはスロットルペダルへ添えた両脚に力を込め、機体を上昇させる。
スパイラル3号機の斬撃はいとも簡単に回避されてしまうのだった。
「(速いっ! あれだけの上昇速度を持ちながら、安定性も両立しているとは!)」
レーザーライフルで反撃しつつ回避運動を行うエクスカリバーの機動を見たライガは驚きを隠せない。
高い動力性能を持ちながらも安定している動き……間違い無い、あの機体の完成度はヘタしたらパルトナと互角以上だ。
「リリー、追加装備を全てパージしろ! もっと軽くしないと追い付けないぞ!」
「分かったわ!」
「武器は全て使い切るんだ!」
ライガの指示を受けたリリーは操縦桿のボタンを押し、スパイラル3号機の大腿部とバックパックに装備されたマイクロミサイルポッドから大量のミサイルを放つ。
彼女の攻撃はそれだけにとどまらず、固定式機関砲と両手に構える無反動砲を加えた一斉射撃でエクスカリバーへ襲い掛かる。
スパイラル3号機が出し得る最高火力の攻撃―濃密で美しい弾幕をエクスカリバーは容易く回避していき、逆に反撃で飛んできた蒼い光線が右手の無反動砲を撃ち抜く。
「逃がさないッ! 仕込まれた操縦技術……全てはこの日の為に!」
使い物にならなくなった無反動砲と撃ち尽くしたマイクロミサイルポッドを放棄、空いた右手で再びビームブレードを抜刀し最大推力で敵機との間合いを一気に詰めた。
その時、別の方向から牽制射撃を行っていたライガが、スペースデブリに紛れる「何か」を捉える。
実戦経験豊富な彼は「何か」の正体―スペースデブリに設置された対空パルスレーザー砲の意味を瞬時に把握したのだった。
「……! トラップだ! 避けろッ!!」
もっと早く気付ければ……!
幼馴染に向かって叫びながら、ライガは心の底から後悔する。
対空パルスレーザーの砲口はスパイラル3号機に狙いを定めていた。
自分の反射神経ならギリギリ回避できるかもしれないが、リリーにそれを求めるのは酷だろう。
彼女の「強運」に祈るしかないのか?
「……ッ! 貴女って人は!」
ライガの声に反応したリリーは母親の用意周到ぶりへ悪態を吐きつつ、出来る限りの回避運動を行った。
これで本当に避けられるかは分からないが、やるしかない。
その直後、パルスレーザーの光弾がスパイラル3号機の右肩へ増設されたシールドに命中する。
だが、「幸運にも」角度が浅かったおかげでシールドの表面を溶かしたに過ぎず、機体へのダメージは全く無かった。
「チッ、面倒なトラップは潰してやる!」
対空パルスレーザー砲が設置されている場所を目視で確認し、ライガのパルトナはレーザーライフルのトリガーを引く。
放たれたレーザーは寸分の狂いも無く目標へ命中、デブリ諸共トラップを完全に破壊した。
「お前じゃ無理だ、リリー! 博士の墓穴は俺が掘る!」
リリーとライラックの母娘対決を観察していたところ、残念ながら操縦技量・機体性能共にライラックのほうが一枚どころか二枚ほど上手なようだ。
機体はともかく、軍に所属していたという公式記録の無い彼女がどこで操縦を学んだのか気になるところだが、それは戦いが終わってから調査すればいい。
これ以上冷や汗をかかないためにも、トラップの排除を優先しつつライラックを着実に追い詰めていくべきだ。
「君の命令でも従えない! あの人……いえ、あの女との決着は私自身の手で!」
大型ビームサーベルを携えるエクスカリバーと切り結びながらリリーは答える。
彼女の言い分も理解できるが、得意としているはずの格闘戦でさえ若干押され気味である。
「確実に勝たなければならない戦い」である以上、リスクの高い戦術を採るわけにはいかない。
「頼む、今だけは僕の言う事を聞いてくれ! 君が思っている以上に博士は強敵だぞ!」
「……そんなこと!」
母親との実力差は戦っているリリー自身がもっとも実感していた。
「いいか? さっきのヤツ以外にもこのコロニーにはトラップが仕掛けられているはずだ。戦っている最中に邪魔をされると面倒だから、君には見つけられる限りトラップを破壊してもらいたい」
「でも、それは作戦の内に入っていないでしょ?」
「最終目標を倒すための下準備は立派な作戦だよ」
仮にレガリアやサニーズだったらあえて厳しい言葉でピシャリと黙らせるのだろうが、優しすぎる面があるライガに同じことはできない。
また、言葉選びを間違えるとリリーがヘソを曲げてしまう可能性も高い。
だから、ライガは優しく諭すように幼馴染を説得しているのだ。
外国人から見てオリエント人が「面倒臭い」と思われる要因でもある。
「後腐れが無いようトドメだけは君に任せる。その代わり、環境を整えるのは僕にやらせてくれ。僕個人としても博士に聞きたいことが山ほどあるからね」
彼が自らの考えを真摯に説明すると、ようやくリリーも納得してくれたらしい。
「……うん、手加減しなくていいから。あの人は君の優しさにも平然とつけ込んでくるよ」
「大丈夫、たとえあの人だとしても……僕に迷いは無い!」
ビームブレードのエネルギーが完全に切れたタイミングでスパイラル3号機は後退、代わってパルトナが前衛へと打って出る。
「これが最後の戦いだ! やるぞ、パルトナ!」
ライガの言葉へ応えるかの如くE-OSドライヴが唸り、全身に装備したマイクロミサイルポッドから一斉にミサイルが放たれた。
数十発ものマイクロミサイルを放ちつつ突撃、パルトナとエクスカリバーの距離は一気に縮まる。
「レーザーの雨を食らえ!」
チャフとフレアを散布しながら回避運動を行い、更にはレーザーライフルと固定式機関砲で迎撃を試みるエクスカリバーに対し、パルトナの両手に構えられたレーザーライフルの同時攻撃が襲い掛かる。
ライガの高い技量を活かした偏差射撃は力任せなリリーの攻撃よりも遥かに正確で、敵機を地表面―本来ならオフィス街ができるはずだった場所まで追い詰めた。
さすがのエクスカリバーでも全ての攻撃を回避することは叶わず、迎撃を掻い潜った1発のマイクロミサイルがメインスラスターの端部へ直撃する。
エクスカリバーのメインスラスターはバインダー化された腰部ユニットのほうに配置されており、バックパックには比較的低推力なサブスラスターしか存在しない。
この「推力の発生箇所を離して配置する」という設計手法自体は高機動機でよく用いられ、パルトナにおいても取り入れられている。
だが、エクスカリバーのように極端な配置をしている機体は見たことが無い。
操縦安定性の観点から「メインスラスターはバックパックと一体化させたほうが良い」とされてきたからだ。
今、ライガたちはMFの開発史を覆すような機体と戦っていた。
「ふーん、カス当たりとはいえ意外にやるじゃない」
先程までとは一転して劣勢に立たされたライラックであるが、彼女の不遜な物言いは相変わらずのようだ。
口ではそう言いつつも放棄された建造物群の間へ機体を滑り込ませ、エクスカリバーはその姿を隠す。
「逃がすか! どこに隠れてもあぶり出してやる!」
既にマイクロミサイルポッドを全てパージしていたパルトナはブースターポッドも切り離し、質量兵器代わりにレーダーが反応している場所へ叩き込んだ。
元々脆くなっていたであろう建造物は衝撃を受けたことで轟音を立てながら崩れ落ち、周囲一帯に濃い灰色の煙が立ち込める。
レーダーディスプレイを確認すると光点は移動しつつも未だ健在―つまり、エクスカリバーはまだ堕ちていない。
右手のレーザーライフルをビームソードへ持ち替えると、パルトナは最大推力で煙の中へ突入する。
宙を漂う瓦礫を機体の腕で払い除けながら突き進んでいく。
「(すぐ近くにいるはずだ……待て、一瞬だけスラスターの光が見えたぞ!)」
煙と瓦礫のせいで視界は限り無くゼロに近いが、高い視力を持つライガは微かに捉えた蒼い光跡を見逃さない。
スロットルペダルを踏み込み、機上レーダーと自らの直感を頼りに敵機を追いかける。
2機のMFが翔け回ったことで煙が払われた時、ビームソードと大型ビームサーベルの鍔迫り合いによる蒼い閃光がコロニー内を明るく照らすのだった。
「くッ、ソードのパワーが負けているのか!?」
「この機体には強力なE-OSドライヴが搭載されているのよ! あなたの華奢な機体如きには力負けしない!」
パルトナは限界までパワーを捻り出し対抗しているが、確実にエクスカリバーのほうが押していた。
このまま粘り続けてもいずれは押し切られる。
ならば、ライガとパルトナが得意とする高機動戦闘でチャンスを窺うべきだ。
「最大出力の差は戦力の決定的な差にはならない! 高機動戦闘ならこちらの方が上だ!」
固定式機関砲の斉射で牽制しつつパルトナは間合いを開け、中距離からレーザーライフルを放ちながら斬り込む隙を作ろうと力を尽くす。
それに対してエクスカリバーは建造物の跡地を縫うように地表スレスレを飛行し、攻撃が途切れるタイミングを狙う。
「博士、どこでその飛び方を学んだ?」
ライラックの操縦を見ている時、ライガは既視感のようなモノを抱いていた。
その正体はある程度察していたが、真偽を確かめるためにあえて聞いてみることにする。
「あら? あなたならマニューバを一目見ただけで分かると思ったのだけれど」
「分かっているさ……細かいところは異なるが、記録映像で見た現役時代の母さんと同じ飛び方だ」
重厚で力強く、それでいて繊細且つ丁寧―。
人類史上初のエースドライバーにしてライガの実母、レティ・シルバーストンの優れた操縦技術を表した言葉である。
彼女は息子の出産を機にドライバーから引退しているため、ライガは母の全盛期を知らない。
彼にとっては女手一つで育ててくれた、心優しい母親なのだ。
だが、現役時代の記録映像や記念式典でのデモンストレーションを幼い頃から見ており、実力の高さについては十分過ぎるほど理解している。
少なくとも、同い年だった頃の自分よりは遥かに上手かった。
「そう、その通り。私は信頼に値する人物……つまりレティからMFの操縦技術を学んだのよ。ある意味、あなたとは同じ流派とも言えるわね」
「母さんは貴女のことを『元恋人』と言っていたが、本当にそれだけなのか!? 核弾頭の一件の時、どうして俺に情報を流して助けた!?」
ライガから追及を受けたライラックは沈黙を貫く。だが……。
「貴女にとって僕は何者なんだ!」
その言葉を聞いた時、彼女は無意識のうちに口を開いていた。
「……娘たちの大切な友達であり、私が愛した人の大事な一人息子だからよ」
まだライガが幼かった頃、ライラックはよく双子の娘たちを連れてレティの家を訪ねていた。
シングルマザーとなった元恋人のことを気に掛けていたのが一番の理由だが、それと同時に娘たちがライガと仲良くなっていたのも大きい。
特にライガとリリーは実の兄妹のような強い絆で結ばれており、ライラックもライガのことを実の息子のように可愛がっていた。
子どもたちが自立し疎遠となってからも、ライガが軍に所属していた際の搭乗機の設計に携わるなど、レティと同じくらい彼の人生に関わってきた人物である。
「ライガ、私はあなたの才能と人間性を子どもの頃から高く評価しているのよ。ここで討ち死にさせるのが惜しいほどにね」
「ならば、もう戦いを止めてくれ! 僕だって本当は貴女と殺し合いなどしたくない! 今ならまだ引き返せるんだッ!!」
「引き返さないッ!! 地球人類をより良い方向へ歩ませるため、私自らの手で障害は排除する!」
ライガの必死の説得もライラックには届かない……いや、ほんのわずかだが彼女の心は確かに揺らいでいた。
彼を傷付けるのはレティからの信用を失うのと同義である。
だが、扱い方次第で有効利用できるライガを見逃したくはない。
そこで、ライラックは予定には無かった行動を実行へ移す。
「『人類の革新』に近いあなたなら、この世界に巣食う害虫を駆除する必要性が分かるはずよ。本当に世界平和を考えているのであれば、私の同志になりなさい!」
「なっ……!?」
「争いの根源が全てヒトにあるのならば、種を存続可能な程度まで減らせばいい話! せいぜい1000人も残っていれば、絶滅しない範囲で細々と生きていけるでしょう。愚かなホモ・サピエンス・サピエンスが全滅すれば維持管理や思想洗脳も十分可能だし、やはり人類は数を増やし過ぎたみたいね」
「僕に虐殺……それも特定の人種を狙ってやれと言うのか、貴女は!?」
「いえ、あなたは間引きが終わった後に選ばれた人々を導けばいい。汚れ仕事はバイオロイドに任せ、『人類の革新』に目覚めた者たちで未来へのヴィジョンを指し示すのよ。民主主義だの自由主義だの……ホモ・サピエンス・サピエンスが考え出した嘘偽り塗れの手法よりは、『夢望郷』に近い理想的な世界が創れると思うのだけれど」
それ以上ライガは反論できなかった。
ほんの少し……ほんの少しだけ、ライラックの思想に共感してしまったから。
たとえ、償いようが無い大罪を背負うとしても……その先で遥か遠い『夢望郷』を築けるのならば……!
ライガの中の迷いを表すかのように、パルトナの右腕がエクスカリバーの方へ伸ばされる。
パルトナとエクスカリバーのマニピュレータが繋がれようとした時、一筋の蒼い光線がそれを阻むのであった。
「ダメよ、ライガッ!! 心だけは連れて行かれないで! その人が言う理想なんて、個人的な幻想に過ぎないのよ!!」
無線通信を介してリリーの声が聞こえ、レーザーライフルを構えたスパイラル3号機はその銃口をエクスカリバーへと向ける。
「……そうだな、強引な手段を使わずとも人類は変われるかもしれない。ましてや、特定の人種は全て切り捨てるなど……それは単なる差別主義じゃないか!」
思想的な誘惑を振り切ったライガも操縦桿を握り直し、レーザーライフルの擬似スコープ越しにライラックを睨み付ける。
「フンッ、あともう少しで懐柔できたのに。つくづくあなたは悪い子ね」
そう吐き捨てた直後、ライラックは何の躊躇いも無くレーザーライフルのトリガーを引いた。
リリーが反射的に回避したおかげで難を逃れたが、今のは直撃していてもおかしくなかった。
「そうよ! 貴女みたいな人に育てられればこうもなるわ!」
続いてリリーも母親と同じようにトリガーを引き、エクスカリバーに対して攻撃を仕掛ける。
「口の利き方には気を付けなさい! 修正するわよ!」
「その傲慢な態度を修正してやる!」
スパイラル3号機とエクスカリバー。
互いの機体のマニピュレータに握られたビームブレードと大型ビームサーベルが交錯し、戦場は再び蒼い閃光に包まれる。
ライガとリリー、ライラックの2対1による大乱闘へ戦況は移り変わりつつあった。
対空パルスレーザー砲
全領域艦に装備されている近接防御火器システム(CIWS)の一種。
作中世界におけるパルスレーザーとは「連射性能を重視した低威力・高速レーザー」を指し、旧世紀から存在する対空機関砲や近接防空ミサイルと共に艦艇の迎撃手段を担う。
エネルギーさえ確保できれば地上に設置した状態でも使用可能。
思想洗脳
所謂「思想統制」のことだが、オリエント語圏においては特に「懐柔策や語り掛けによる思想の塗り替え」を指す場合が多い。
外交交渉においてオリエント連邦が得意とする手法の一つである。
夢望郷
オリエント神話に登場する「望んだ夢が叶う楽園」「幻想の地」のこと。
日本語では「むぼうきょう」と読み、研究者の間ではユートピアや理想郷の一種だと推測されている。
ちなみに、古代オリエント語においては「ヴワル」と呼ばれていたらしい。




