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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部

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【58】それぞれの休息

ヴワル市ヴェレンディア区―。

「オリエント連邦のビバリーヒルズ」と称されるこの地区は、国内屈指の高級住宅街として知られている。

国民平均所得が世界1位であるオリエントの中でも、一定規模の成功を収めた富裕層が好んで邸宅を構える土地である。

理由としてはヴワル湖に程近い自然豊かな落ち着いた環境であること、広い土地に家を建てられることなどが挙げられる。

元々の犯罪発生率が非常に低い国なので、治安の良さは都市圏に対するアドバンテージとはなりにくい。

ライガはヴェレンディアで生まれ育ち、高校の学生寮に入るまではこの町で過ごした。

そして、彼はマイホーム購入や結婚を機に故郷へと戻って来たのだった。

現在は母レティが暮らしている実家から数百メートル離れた場所に自宅がある。


数か月ぶりに触れる正面玄関のドアノブ。

外から開けられるのは世帯主とその家族の特権である。

妻とは不在の間も連絡を交わしていたが、いざ帰宅するという時になって少しだけ不安が生じる。

半年以上彼女を放置していたら、さすがにお叱りを受けると思っていたからだ。

「ただいまー。いやー、警察の検問に引っ掛かって遅くなっちまった」

「お帰りなさいませ、ライガ様」

出迎えてくれたメイドの女性に上着と荷物を預け、ライガはリビングへ足を運ぶ。

ヴェレンディアに家を建てられる程度の富裕層なら、1~2人のメイドを雇うことは珍しくない。

「ルチル、今帰ったよ」

「お帰りなさい、私の全国ツアーより長い仕事だったみたいね」

190cmを超えるしなやかな体躯にピンク色のロングヘアとダークブラウンの瞳、そしてサヨナキドリのような美しい声。

美女としての要素を全て兼ね備えた彼女の名は、ルチル・ローレライ。

ライガの妻にして、かつて「Loreleiの海」「Candle Light」といった名曲で一世を風靡した元アイドル歌手である。

結婚を機に歌手としては引退し、現在は後輩たちの育成に携わっている。

「ああ、1週間休暇を貰ったから帰ってきた。だが、来週はちょっと宇宙に行く用事ができたんだ」

それを聞いたルチルは不安げな表情を浮かべる。

二人の出会いはライガがまだ現役軍人だった頃、フロリア星人との戦いが再燃した時期である。

当時のマネージャーや友人からは「死んだら悲しくなるから、現役軍人と付き合うのはやめておけ」と言われたものだ。

だが、ルチルは恋人が無事に戦い抜くことを信じ、その結果幸せな生活を手に入れた。

……でも、想い人を待ち続ける辛さに再び耐えることができるのだろうか?


「……そんな顔するなよ。俺は一人で戦っているわけじゃない、信頼できる腕利きの仲間たちが一緒なんだ」

「私の前に付き合ってた元カノのこと?」

元カノとは言うまでも無くルナールのことである。

まあ、信頼はしているが腕前はまだまだ……。

「うーん、まあ……その人も大切な仲間なのは確かだ」

「ふふっ、相変わらず『先輩』のことが好きなのね」

夫の困る姿を見たルチルは思わず笑ってしまった。

「そういえば、少し前に仕事の報酬でファーストクラスのペアチケットを貰ったんだ。戦いが落ち着いたらさ、北欧にでも旅行に行かないか?」

そう言いながらライガはポケットから取り出したチケットを、ルチルの色白な手に握らせる。

「宇宙で無くすと探しようが無いからな。クリスマス前に帰ってくるまで、お前に預けておくぜ」

「その代わり、無事に帰ってくるって約束して……」

次の瞬間、ルチルは完全に油断していたライガの唇を素早く奪った。

「今日は久々に……ね?」


「整備班! シュピールベルクの修理は終わりそう?」

「はい、修理に合わせて消耗が激しいパーツを全て交換させています。ビームジャベリンも改良型を用意しましたよ」

スターライガ本部のファクトリーにあるワークショップ。

そこでレガリアは担当エンジニアと共に愛機の修理作業を眺めていた。

彼女だって休みたいのはやまやまだが、マスドライバーの使用許可を得るための手続きなどレガリアにしかできない仕事を行わなければならない。

代わりにブランデルやメイヤが休めるのならば本望だ。

「レガリアお嬢様、貴女も休息を取らないとお体に障りますよ」

エンジニアと話し込んでいると、休暇中のメイヤに代わって秘書を代行しているニブルスがホットティーを持って来てくれた。

「では、私は作業に戻ります。シュピールベルクは必ず完璧な状態に仕上げますから」

お嬢様と秘書の邪魔をしてはいけないと思ったのか、エンジニアはそそくさと退散していった。

「悪いわね、いつもとは勝手が違う私の仕事に付き合わせてしまって」

ニブルスの本職はあくまでも秘書であり、誰かに仕えるメイドではない。

事実、彼女が淹れたであろう紅茶の味はメイヤよりわずかに劣っていた。

「大丈夫です、お嬢様のやり方はメイヤさんに教えてもらいましたから」

「そう、なら良かったわ」

フッと微笑むレガリア。

湯気が立ち昇るホットティーを飲みつつ、二人はファクトリーを後にするのだった。


ヴワル市から北へ遠く離れたサニーメル市。

サニーズ、チルド、ロサノヴァの一家は数か月ぶりに家族全員で自宅へと戻った。

市内で開業医として働くサニーズの父親が娘家族の家を管理してくれていたおかげで、長らく空けていたわりに室内は綺麗である。

「げっ、冷蔵庫の中がすっからかん……!」

パティシエの習性なのか、真っ先に冷蔵庫を確認したチルドは唖然とする。

「そりゃそうだ。生鮮食品を入れたままにしてたら、腐って目も当てられないだろ」

一方、妻の姿を見たサニーズは冷静な対応であった。

「やれやれ、食材を買い出しに行くか、今日は外食にするか……どうする?」

「私は……母さんの手料理が食べたいかな」

さり気無く呟きながらロサノヴァが台所へ視線を移すと、そこには碧眼をキラキラと輝かせる母親がいた。

「今日はロサノヴァが好きなモノを作ってあげる! 遠慮しないでいいから!」

「じゃあ、カレーライスで。米を炊くのに少し手間がかかるけど」

本来パンやパスタを主食とするオリエント人が炊飯器を所有していることはほとんど無く、米を炊く時は鍋を使うことが多い。

「せっかくだから私の親父も呼ぶか。家を任せていた礼をしないとな」

妻と娘のやり取りをサニーズは笑顔で見守るのだった。

若かりし頃とは違う……今は愛する家族を守るために戦っているのだから。


ヴォヤージュ市ヴィルヌーヴ区―。

久々に道場兼自宅へ戻ったリゲルは必要な荷物を纏め、車で迎えに来てくれるというルミアを待っていた。

盗まれて困る物など何も無いが、一応戸締りを確認すると石造りの階段へ腰を下ろす。

数十年ぶりにサニーズと再会してから約半年、あの日を境にリゲルの運命は大きく動き出した。

仮に1年前の自分へ未来の出来事を伝えたとしても、彼女は信じてくれないだろう。

「(あの蒼空の向こう側……そこが僕たちの旅の終着点か)」

雲一つ無い空を見上げていると、会談の下の方から子どもたちが声が聞こえてくる。

「あ、師匠! お久しぶりです!」

「君たち……ああ、久しぶりだな」

階段に座っていたリゲルは一瞬にして子どもたちに囲まれてしまった。

「師匠、宇宙で悪い人をやっつけたら……また私たちに武術を教えてください」

そう語るのは約半年前、この道場が襲撃された時にバイオロイドに捕まった少女であった。

「約束するよ。だが、僕が宇宙へ上がることを誰から聞いたんだい?」

スターライガが宇宙へ上がるという情報は関係者しか知らないはずだ。

未成年の子どもたちが自ら情報を得られるとは考えにくい。

「金髪で背がとっても高くて、カッコいいバイクに乗ってたお姉さんからです。『リゲルの友達』って言ってました」

「あー、なるほどね。誰か分かったよ」

断片的な情報だったが、リゲルはすぐに情報漏洩の犯人が分かってしまった。

どうやら、自分が知らない間にルミアは一度ヴィルヌーヴまで来ていたようだ。

「……とにかく、僕は必ず悪い人を倒して戻って来る。この小指に誓おう」

「絶対に……絶対に帰ってきてください!」

必ずここに戻るという約束を込め、リゲルは子どもたち全員と指切りを交わすのだった。


最後の一人と小指を固く結んでいた時、階段前の道路に1台のセダンが停車する。

運転席には「リゲルの友達」ことルミアが座っていた。

「よう、リゲル。やるべき事は終わらせたか?」

「終わらせたよ。荷物を積むから待っていてくれ」

キャリーバッグを車に積み自身も助手席へ乗り込む直前、リゲルはもう一度子どもたちの方を振り向く。

「12月28日に道場へ来て欲しい。その時、僕が不在だったら……そういう事だ」

そう言い残すと彼女は助手席へ座り、今度こそ後ろを振り返ることは無かった。


収穫時期を終えたヘルヴェスティア市は銀世界に染まり、来年の春を迎える日まで静寂に包まれている。

シズハとミノリカは一度実家へ戻り両親を説得、必要な荷物を纏めるとチャーターしたヘリコプターでヘルヴェスティア空港へと向かっていた。

「ミノリカ、本当に良かったのか? もしかしたら片道切符になるかもしれないんだぞ?」

「大丈夫、これは私自身が選んだ道だから」

じつはシズハはミノリカを宇宙へ連れて行くことに反対していた。

理由は簡単、仮にもオータムリンク家当主にしてたった一人の妹である彼女を危険な目に遭わせたくなかったからだ。

レガリアからは「姉妹間の問題は自分でどうにかしろ」と言われたが、結局ミノリカを思いとどまらせることはできなかった。

「それにさ、姉ちゃんや他のみんなが命を懸けているのに、自分だけ置いてけぼりって惨めじゃない?」

「無駄死にするよりはマシだ」

「みんなと一緒なら大丈夫だって……私、そう信じているから宇宙に上がることを決めたの」

妹の真剣な眼差しを見たシズハは、とうとう説得することを諦めた。

「……お前もいい歳した大人だからな、好きにしろ」

「ありがとう、姉ちゃん」

窓の外に広がるヘルヴェスティアの大地。

オータムリンク姉妹は故郷の姿をしっかり目に焼き付けようとするのだった。


ラヴェンツァリ姉妹は故郷であるスプリングフィールド市に戻って来ている。

ライガと再会したあの日、バイオロイドの攻撃で被害を受けたフレンツェン広場は順調に修復工事が進んでいた。

時計台の周囲には足場が組まれているが、遅くとも来年にはあれが外されるだろう。

帰郷の目的はリリーの引っ越し準備である。

今後の利便性を考慮した彼女はヴワル市へ移住することを決めていた。

幸いサレナもヴワル市内のマンションに住んでいるので、部屋が見つかるまでは姉妹でルームシェアする予定だ。

「ねえ、サレナ」

「なに、姉さん?」

サレナが姉の「仕事の資料」を整理していると、突然後ろから声を掛けられる。

「私たちが宇宙に上がるのは命懸けなのよ。別に戦うわけじゃないあなたがついて来る必要は……」

元々サレナは戦いのケリが付くまで、シャルラハロート邸で過ごす予定だった。

ところが、彼女はインフィニティブルーに乗艦して姉たちについて行きたいと言い出したのだ。

幼い頃はワガママを言うような子では無かったため、それを聞いた時リリーは驚いていた。

だが、何が妹を突き動かしているのかは分かっている。

「母さんがどうして凶行に奔ったのか……そして、その結末を知るのが彼女の娘である私たちの義務だと思う」

結局のところ、リリーたちのアタマではライラックの真意を量ることはできなかったが、彼女を止めなければならないというのは確かである。

「義務……か。ふふっ、そうだとしたら、あの人の娘として生まれたのは『呪い』だったというわけね」

荷物が詰まったダンボール箱を運びながら、リリーは自嘲気味に笑う。

世界を破滅へ導かんとするライラック・ラヴェンツァリの娘として、自らは何を為すべきか。

彼女の決意は既に固まっていた。


スターライガメンバーがそれぞれにとって大切な場所へ戻っている中、オロルクリフ姉妹だけはヴワル市内の国立オリエント学園大学附属病院を訪れていた。

目的は難病治療のため入院している末っ子のレイナード―通称レイナの見舞いである。

最終決戦は帰れるかも分からない旅路。

当然ルナールたちは生きて帰って来るつもりだが、万が一のことを考え妹には真実を伝えておこうと思ったのだ。

「宇宙……星の海かぁ。いいなあ、私も健康だったら一度くらい宇宙に行ってみたいよ」

入院生活中に描いていた地球の絵を眺めながら、レイナは姉たちに向かって愚痴る。

生まれつき難病を抱えていた彼女は普通の子と異なる生活を強いられ、その影響なのか言葉の端々に幼さが垣間見える。

そして、レイナには独特且つ大変鋭い感性が備わっていた。

「ライラック博士の声明は私もテレビで見たけど……悲しそうな眼をしてた。みんな『あの女は狂っている』と言うけど、私は違うと思うの。ただ、他の人たちより少しナイーブなだけじゃないかな。だから……何百年経っても変わらない人類に失望したのかもね」

仮にこの言葉がライラック本人から出たものだったら、即座に何かしらの反論ができただろう。

だが、レイナの一言一句は「何か」として姉たちの心へ強くのしかかる。

「永い時の中でヒトは変革を忘れ、安寧(あんねい)に浸かり過ぎて変化を恐れる……か」

ルナールとメルリンが首をかしげる中、リリカだけは妹の言葉に一定の理解を示した。

「だが、この世界に生きる全ての人々がそうではないだろう。未来に対して絶望ではなく、希望を抱く人もたくさんいるはずだ」

「ライラック博士がやろうとしているのは、『今』を生贄に未来を創造することよ。そんな未来を私たちは認めない……!」

一方、残る二人はレイナの言葉によって「打倒ライラック」の必要性を再認識することができた。

「うん……私も明るい未来が欲しい。私のためじゃないの、姉さんたちやこの世界で生きる全ての人のために」

幼い頃から「明日死んでもおかしくない」と言われ続けたレイナ。

それ故に彼女は自らの未来ではなく、自分以外の全ての人々の明日を望むようになった。

「自分の命で世界が救われるのなら、私は喜んで魂を捧げる」とまで言い切るほどである。

「任せてくれ。君の想いも乗せて、私たちは戦い抜く。だから……クリスマスにはみんなで実家に帰ろう」

レイナの色白な細い手をルナールはしっかりと握り、長女として誓いを立てる。

「去年は体調が悪くて帰れなかったから……今年はパパとママに会えるといいな」

姉の誓いに対し、妹も手を握り返して応えるのだった。


ルナールたちが帰った後、消灯時間になってもレイナは寝付けずにいた。

無理に目を閉じるのはやめ、真っ暗な天井を何となく眺める。

「(女神様、姉さんたち……いや、スターライガの皆さんを助けてください。あの人たちに未来を創ってほしいから……!)」

正しき祈りが届いたのか、目の前にうっすらと銀の衣を纏った女神が見えた気がした。

「(パルトナ様……無限の勇気を……スターライガへ……!)」

女神が優しく微笑み返した直後、レイナの意識は深淵へ落ちていくのだった。


……オリエント神話にはこんな伝説がある。

「正しき祈りを女神に認められた者は、神々の世界へ(いざな)われる―その美しき魂を引き換えにして」

本作では愛称があるキャラクター(ブランデルなど)も地の文では本名表記にしていますが、レイナードだけは呼び易さの観点から特例措置をとっています。

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