【56】CASSIOPEIA
「どうも、レガリア・シャルラハロートさん。ドラオガ・イガです」
卑怯にも先制攻撃を仕掛けてきた後、ドラオガは今更になって挨拶を行う。
「どうも、ドラオガ・イガさん。レガリア・シャルラハロートです……何人来ようと同じ事!」
相手の流儀に応じてレガリアは挨拶を返す。
ついでにビームソードによる反撃もプレゼントする。
「フェンケ、ドレイク! そなたたちも拙者の援護を頼む!」
「「了解!」」
シュピールベルクの斬撃を器用なブリッジでかわしつつ、ドラオガは部下たちへ指示を下す。
国家戦略室もといカシオペア隊の狙いは「スターライガのエース」であるレガリアを撃墜し、戦意を喪失させることだ。
既に作戦目標を達成しているスターライガは無理をする必要が無く、予想以上に損害が大きくなったら撤退するだろうとドラオガは予測する。
ならば、敵エースを仕留めて早急に帰ってもらおうというのが彼女の考えだ。
「目標は緋色の隊長機だ! あれに集中攻撃を仕掛けろ!」
漆黒を纏った3機のMFが鮮やかなスカーレットを呑み込まんとする。
一方、スターライガ側も似たような戦術を組み立てていた。
「全機、隊長機を狙いなさい! あれを落とせば烏合の衆になる!」
過去の戦闘からレガリアはカシオペア隊の構成を「天才的な若手士官と技量に対して経験が足りない若手ドライバー2人」と推測。
天才的な若手士官―ドラオガを潰せば残りは新兵に毛が生えた程度のドライバーであり、現状の戦力でも各個撃破が可能だと判断したのだ。
無論、若くしてエース部隊に所属している以上、フェンケとドレイクは決してヘタクソではないしシャドウブラッタの機体性能も侮れない。
ナメてかかった挙句返り討ちにされないよう、こちらも本気で行く必要があるだろう。
「姉さん、アイツらも指揮官狙いだ! そっちのカバーに入るべきか!?」
「いいえ、攻撃を優先よ!」
「分かった、隊長機だけを潰す!」
スターライガとカシオペア隊が「指揮官狙い」という共通の戦術を採用した結果、馬鹿正直に真正面から戦力がぶつかることとなった。
「邪魔だ、どけぇぇぇぇっ!」
「どけと言われて素直に従いますかっての!」
ドラオガの首を討ち取るべく前進してきたブランデルのガミルスの前にドレイク機が現れ、その行く手を遮る。
ガミルスの主兵装であるバスタードソードの重厚な攻撃を小さなヒートダートで巧みに捌きつつ、ドレイクはブランデルを隊長機から遠ざけるように誘導した。
「死にたくなければ、道を開けなさい!」
「隊長には近付けさせない!」
ヒートナイフとヒートダートによる鍔迫り合いを繰り広げるメイヤとフェンケ。
数回にわたる切り結びの末、メイヤのヒポグリフは状況打開のためファイター形態で空へ逃れた。
「(どうやら敵戦力を過小評価していたみたいね……予想以上に粘ってくれる!)」
高いステルス性を持つシャドウブラッタは一度ロストすると再発見が難しい。
地上で格闘戦をしている時に発煙弾を使用されてしまい、煙幕をかき消している間にレーダー上から見失ってしまった。
上空や後方からの奇襲へ気を付けつつ、レガリアはゆっくりと機体を前進させる。
彼女の直感が囁いていた。
敵が隠れているのは……刑務所の屋上だと!
「……っ!」
左腕でレーザーライフルを構え、一見何の変哲も無い刑務所の屋上部分に向かってトリガーを引いた。
蒼い光線がコンクリートの壁を抉り取る直前、黒い影が飛び上がりシュピールベルクへと襲い掛かる。
「レーダー上からは姿を消していたつもりだったが、確実に狙ってくるとは!」
先程の攻撃をかわせたのはドラオガの優れた動体視力と反射速度、そしてシャドウブラッタの瞬発力のおかげだ。
もっとも、今回ばかりはさすがの彼女も肝を冷やした。
コンマ数秒反応が遅かったらドロドロに溶けていたに違いない。
「若い頃の私に負けない腕をしているわね!」
何度も切り結んでいく中で隙を見つけ、レガリアのシュピールベルクが袈裟斬りの要領でビームソードを振り下ろす。
だが、漆黒のMFはアクロバティックなブリッジで再び攻撃を回避しつつ、両脚を上へ突き出しシュピールベルクの右腕に強烈なキックをお見舞いした。
「ガンッ」という鈍い金属音と同時にマニピュレータからビームソードがこぼれ落ちる。
ビームソードに限らず光学刀剣類は機体とのリンクが切断されると安全装置が働き、ビームの出力を強制的にカットオフする。
これにより「落としたビームソードが地面を溶かしながら沈んでいく」というメルトダウンのような事態を避けている。
「今だっ! ワイヤーアンカー射出!」
体勢を戻した直後、シャドウブラッタの両腕からワイヤーアンカーが放たれ、シュピールベルクの両脚へ絡み付く。
そして、ドラオガはハンマー投げのように機体を4回転させた後、その勢いに任せてハンマーもといシュピールベルクを刑務所の壁面へ思いっ切り叩き付ける。
レガリアも機体のメインスラスターを噴かすなどして抵抗を試みたが、少しスイングスピードが低下しただけであまり意味は無い。
2000kg近い鉄の塊をぶつけられた刑務所の壁面は、見事なまでに粉砕していた。
「レガリア・シャルラハロート! その首、もらい受ける!」
トドメを刺すべくシャドウブラッタはワイヤーアンカーを一気に巻き取りながらコンクリートの塊に埋まっているはずの紅いMFへ接近する。
「ファファファ、貴女を墜として拙者は名声を―!?」
一瞬だけ瓦礫の中から腕部のようなものが見えたが、ドラオガは何が起きたのか理解できない。
早くも勝利を確信していたところへ突然金属バットで殴られたような強い衝撃が襲い、視界が暗転したからだ。
ぼやけていた視界が回復すると、真っ先に目へ映ったのはひび割れたヘルメットのバイザーだった。
このままではひびのせいで周囲が見えないため、彼女はやむを得ずヘルメットを脱ぎ捨てる。
「(クソっ……頭がクラクラする……)」
口の中に違和感を覚え何気無く唇を手の甲で拭うと、黒いコンバットスーツに赤い汚れが付着していた。
違和感の正体は口内からの出血だったのだ。
ヘルメットの破損と自らの負傷―ここから予想できるのはコックピットブロックに至近弾を受けたということである。
機体その物に異常は見られず、戦闘は何とか続行できそうだ。
「マニピュレータで直接殴ってその程度とは……機体だけでなくドライバーも頑丈なようね」
痛む首を押さえながら刑務所の壁面を見上げると、先程の攻撃で穿った穴から紅いMF―シュピールベルクがその姿を覗かせている。
高速でコンクリートへ叩き付けられたことでシュピールベルクもそれなりのダメージを受けていたが、これだけで倒れるほど装甲は薄くない。
むしろ、驚くべきは「ちょっと痛かった」程度の表情で済んでいるレガリアのタフネスさである。
「い、生きていたのか……レガリア・シャルラハロート!」
心の隙間にわずかな恐怖が芽生え、ドラオガは思わず機体を後ずさりさせる。
操縦桿を握る手が震えているのが自分でも分かった。
「たかだか一撃を与えただけでいい気になるとは、あなたもまだ未熟ね」
地面へスタッと機体を着地させた直後、レガリアはスロットルペダルを踏み込みシャドウブラッタへ突撃する。
それを見て我に返ったドラオガも操縦桿を強く握り締め、腕部のワイヤーアンカーを射出した。
「二度も同じ戦法は通用しない!」
自機へ迫ってくるワイヤーアンカーを捉えたレガリアは左マニピュレータで片方のワイヤーを掴み取り、そのままの勢いで敵機との距離を一気に詰める。
右マニピュレータを手刀の形へと変えたシュピールベルクの一撃が、シャドウブラッタの左腕をワイヤーアンカー射出装置もろとも粉砕する。
「ここまで近付けばステルス性にも頼れないわね!」
いくらステルス機といえど物理的に姿を消すことはできない。
肉眼で捉えられるほどの至近距離であれば、死角へ回り込まれるのに気を付ければロストする可能性は低くなる。
操縦桿とスロットルペダルだけでパンチやキックといった技を器用に繰り出しつつ、レガリアは「切り札」として今回の作戦ではまだ敵に見せていない武装を準備していた。
そして、その「切り札」を使う時がついに来る。
シャドウブラッタがヒートダートで斬りかかった時、シュピールベルクはすかさず棒状の「切り札」で攻撃を受け止める。
「切り札」の正体はシュピールベルク専用に開発された全長3.2mの長柄武器「ビームジャベリン」。
レガリアが乗っていた頃のスパイラル1号機も使用していた武装だが、シュピールベルクの物はその時の運用データを基に新開発されている。
機体側の出力が向上したことでビームの刀身も強力になり、シュピールベルクの主兵装と呼ぶに相応しい性能を手に入れた。
リモネシウム・コバヤシウム合金製の柄はシールドと同じくらい頑丈であり、申し訳程度には切り払いも可能だ。
ちなみに、パルトナの「ビームトライデント」とは刀身の形状及び全長が大きく異なっている。
「なにィ……槍を持っているのか!」
長柄武器の強みは全長に由来する長いリーチだ。
取り回しが重要視される格闘武装の大半は目の前の敵を攻撃できる程度のサイズで作られている。
マニピュレータより少し大きい程度のヒートダートは冗談抜きで「腕部の長さまで」しか攻撃が届かない。
つまり、格闘戦だけでいえばシュピールベルクのほうがより遠くから攻撃できる。
安全な場所から攻撃しリスクを軽減するのは、MF戦における基本中の基本だ。
「はぁぁっ!」
ビームジャベリンの穂先がドラオガの目と鼻の先を掠めた。
ヘルメットを着用していないとビームの高熱が顔にまで届き、彼女は思わず表情を歪める。
「(扱い辛いあの手の武装を使いこなすとは……腐ってもエースドライバーというワケか!)」
左腕を失った機体で何とか連続攻撃をかわし続け、ドラオガは残された右腕のワイヤーアンカーでビームジャベリンの無力化を試みた。
射出されたワイヤーはうまくビームジャベリンの柄へ巻き付き、シャドウブラッタのフルパワーと最大推力を活かし敵機のマニピュレータから奪い取ろうとする。
HISに表示されているE-OSドライヴの回転数は限界値付近の20500rpmを示し、ドライヴ破損の可能性を知らせる警告音がコックピット内で鳴り響く。
だが、スロットルペダルを限界まで踏み込んでいるにもかかわらず、シュピールベルクの手からビームジャベリンがこぼれ落ちることは無い。
理由は明白、パワーが違うのだ。
ステルス性を最優先としているシャドウブラッタはバックパックの小型化によってレーダー反射断面積を抑えるため、製造メーカーであるカワシロが専用の小型軽量E-OSドライヴ「F-19」を新たに開発している。
サイズのわりには高出力なF-19だが、実は単純な最大出力ではスパイラル各機が搭載するスーパーテック・JV22に劣っている。
スパイラルの32%増しとされるシュピールベルクとの出力差は歴然である。
「ええい! ここまでパワーが違うとは!」
開発コンセプトの違いからくる出力差を見せつけられたドラオガは思わず唸り声を上げる。
「私たちは黒幕を倒し戦いを終わらせる! あなた如きに足踏みしている暇など無い!」
レガリアの気迫へ応えるかの如くシュピールベルクは更なるパワーを引き出し、ついに柄へ巻き付いたワイヤーをそのまま引き千切った。
それと同時に固定式機関砲を発射してシャドウブラッタとの距離を置き、戦いは一旦振り出しへ戻る。
しかし、状況は機体にダメージが蓄積し、自らも負傷しているドラオガが圧倒的に不利であった。
その頃、クビアト島の上空ではメイヤとフェンケも激しいドッグファイトを繰り広げていた。
ファイター形態の高機動力を誇るヒポグリフが一撃離脱を狙おうとすれば、シャドウブラッタが運動性を活かした先回りでそれを封殺しようとする。
そういった戦いを10分以上続けているが、高機動戦闘が長引いてくると双方に疲れが見え始める。
一騎打ちというプレッシャーもそれに拍車を掛けていた。
この場合、体力消耗がより激しいのは大推力の機体に搭乗し尚且つ年齢が高いメイヤのほうだ。
いくら老化現象が無いに等しいホモ・ステッラ・トランスウォランスといえど、70代のメイヤと20代前半のフェンケでは多少スタミナに差が生まれる。
「(よし、このまま……今だっ!)」
ヒポグリフのメインスラスターにアサルトカービンのレティクルが重なった瞬間、フェンケは反射的にトリガーを引く。
だが、横風など外部要因のせいで弾道が逸れており、実際に命中したのは形態問わずヒポグリフの姿勢制御を担うバインダーの端部だった。
バインダーの破損は運動性や安定性の低下に繋がるため、仮に撃墜し損ねても今後の戦闘を有利に進めることができる。
「外したっ!? いや、これでトドメよ!」
フェンケが再攻撃を仕掛けようとした時、ヒポグリフが90度近く機首を上げて失速―いや、バインダーからヴェイパーを発生させながら急減速を掛ける。
彼女は即座に反応し推力を絞ったが、残念ながら間に合わず敵機を追い越してしまう。
「しまった、ポストストールマニューバだと!」
「この機体はこういう戦い方ができるのです!」
一瞬だけだったが通信の混線で互いの声が聞こえる。
ヒポグリフの真後ろを取った際、相手が必死に振り切ろうとしなかった理由がようやくわかった。
あの機体のドライバー―メイヤは最初からこの瞬間を待っていたのだろう。
有利なポジションを奪ったヒポグリフは機首を下げつつその形を変えていく。
ファイター形態のメインスラスターが脚部となりノズルも足先に変形、コックピットブロックを覆っていたカウルはバックパックへ移動する。
戦闘機から人型への変形に要した時間、わずか1.7秒。
理論上は更に短縮することも可能だが、可変機構への負荷が増すため敢えてゆっくり動作させているのだ。
そして、ノーマル形態へと変形したヒポグリフは、大腿部のハードポイントに装備されているヒートナイフを投げナイフの要領でシャドウブラッタのバックアップへ向けて投擲する。
距離がとても近かったためさすがのフェンケでも反応が遅れ、機体のバックパックに2本のヒートナイフが突き刺さってしまった。
「くっ、これぐらいで落ちるものか!」
「……それをただのナイフだと思わないことね」
「なん―!?」
メイヤがそう告げた直後、シャドウブラッタのバックパックで爆発が起こる。
ヒポグリフのヒートナイフは3種類用意されており、今回使用されたのは爆発装置を内蔵する「タイプB」だ。
これ以外に汎用型の「タイプA」と投擲に特化した「タイプC」が存在する。
爆発自体は決して大規模ではなかったが、零距離で発生したため爆風がバックパック内部へそのまま伝わってしまい、結果として致命的なダメージになった。
シャドウブラッタのHISにはE-OSドライヴ停止を示すエラーメッセージが表示され、ダメージ量を表すインジケーターもバックパックだけ真っ赤に染まっている。
「くっ……殺せ……!」
心臓部たるE-OSドライヴが動かない以上、もはやシャドウブラッタに戦闘力は残されていない。
フェンケは死を覚悟した。
ところが……。
「貴女の命を奪うことは作戦目標に含まれていない。拾った命は大切にすることね」
そう言い残すとメイヤは機体をファイター形態に変形させ、孤軍奮闘しているであろうドレイクかドラオガのところへ飛び去って行く。
「情けを掛けられただと……!? プライベーター如きに……!」
緩やかに高度を落としていくシャドウブラッタのコックピット内で、フェンケは補助計器盤を叩きながら叫んでいた。
同じ頃、ブランデルとドレイクの戦いも終局を迎えつつあった。
運動性が高いシャドウブラッタを駆るドレイクは「重格闘機との一騎打ちなら、小回りが利くこちらの方が有利」と踏んでいたが、実際には全く逆の展開となる。
深紅の機体―ガミルスが誇る厚い装甲はシャドウブラッタの攻撃を悉く弾き、圧倒的なパワーを以って敵機を追い詰めていく。
「がああっ! パ、パワーが違い過ぎる……!」
予想以上の性能差を目の当たりにしたドレイクは戦慄する。
ガミルスのパワーはシュピールベルクよりも少しだけ高い。
ヒートダートを全て折られたシャドウブラッタは徒手空拳による戦いへ持ち込むが、渾身の回転蹴りはガミルスの左腕と胴体に挟まれあっさり止められてしまう。
「分かんないかなぁ……! あんたの実力じゃ私に勝てないって、何度も言ってるよ!」
ブランデルは呆れ顔でそう言いながら操縦桿を操作し、拘束している敵機を思いっ切りぶん投げた。
見事な放物線を描きながら宙を舞うシャドウブラッタ。
「勝ったと思うな、まだ勝負はついていない!」
スラスターとワイヤーアンカーを駆使し、辛うじて機体姿勢を立て直すとドレイクは深紅のMFを睨み付ける。
「じゃあ、ここで決着をつけてやるよ!」
ぶん投げた敵機を追いかけるようにガミルスは飛翔。
巨大な刀身を持つバスタードソードの下突きがシャドウブラッタへと牙を剥く。
もし、コックピットに直撃すれば痛いでは済まされない。
綺麗に真っ二つになれば優しいほうだろう。
「回避、間に合えっ!」
漆黒のMFが回避運動に入った直後、鈍く輝く刃が先程まで機体がいた場所に深く突き刺さる。
長い刀身が半分近く地中へ埋まったという事実が下突きの攻撃力を物語っていた。
「バカめ! そんな攻撃―!?」
次の瞬間、ドレイクは信じられない光景を目撃する。
バスタードソードが取れなくなったガミルスは柄に全重量を掛けて支点とし、そのまま空中前転を行いシャドウブラッタを追いかけてきたのだ。
実質1本の棒だけでこれほどアクロバティックな機動を行うには、相当の操縦技量と天才的な操縦センスが要求される。
逃げられないと判断したドレイクは逆に突撃を仕掛けてカウンターを狙う。
予備武装のビームブレードによる袈裟斬りを間一髪でかわされ、ガミルスは大きな隙を作ってしまう。
逆に反撃態勢へ移行したシャドウブラッタは右腕を敵機に向け、ワイヤーアンカーをコックピットへ放とうとしている。
「うーん、戦法としては良かったんだけどねぇ……」
撃墜される寸前でありながら、不敵な笑みを浮かべるブランデル。
ワイヤーアンカーが射出されるよりも早くガミルスの左腰に付いたパーツが作動し、アンカー部分を弾いた。
「フレキシブルアームだよ、驚いた?」
「お、おど……」
ドレイクが驚くのも無理はない。
乾坤一擲の一撃を防がれ、彼女が考え得る勝利の方程式を完全に崩されたからだ。
ガミルスはスパイラル3号機のADVPから受け継いだ「フレキシブルアーム」を腰部に装備している。
これまでは使う機会に恵まれなかったフレキシブルアームだが、今回初めて当初の設計通り「隠し腕」として役立ったのだ。
……別にブランデルが存在を忘れていたワケではない。
とにかく、不安定な姿勢で攻撃を放ったシャドウブラッタは地面へ倒れ込む。
「どうやら、本当のバカはそっちだったみたいね……!」
ドレイクが機体から這い出たのを見計らい、ブランデルは見せしめとしてフレキシブルアームで無人のコックピットを潰すのだった。
「どうする? これ以上続けて無駄死にするか、それとも止めるのかしら!」
「そんな決定権が貴女にあるのか!」
「あなたが投降すれば済む話よ!」
フェンケとドレイクが撃墜されている間にもドラオガは壮絶な死闘を繰り広げていた。
技量と機体性能で大きく上回るレガリア相手に奮闘し、彼女のシュピールベルクへダメージを与えているものの、追い込まれているのはやはりドラオガだ。
困ったことにレガリアの僚機たちも合流に成功し、気が付けば自身と同レベルのドライバーが駆るシャドウブラッタ以上の高性能機3機を同時に相手取るハメになっていた。
ここまで戦力差が開いているのなら、スターライガが降伏を促すのも頷ける。
だが、ドラオガに限らず誇り高きオリエント国防軍人は初めから負けを認めるつもりなど無い。
命を燃やし尽くす覚悟でこの戦場へ来たのだ。
……天涯孤独の身である彼女に、帰るべき場所など無いのだから。




