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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部

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【53】決戦前夜

話し合いが必要な度に使用してきたスターライガ本部のブリーフィングルーム。

おそらく、バイオロイドを巡る一連の戦いでこの部屋を使うのも今回が最後だろう。

サレナ救出作戦が終わったらスターライガは宇宙へ上がり、以降は最終決戦までインフィニティブルーを活動拠点とするからだ。

ブリーフィングには14人のMFドライバーだけでなく、救出作戦の要となる地上部隊の面々も参加している。

「みんな、ブリーフィングを始めるわよ。楽にしてもらって構わないけど、話だけはしっかり聞きなさい」

そう言いながらレガリアが手元のリモコンを操作すると、座っているメンバーたちの正面に大きな立体映像が投映された。

これはMFのHISから民間用へスピンオフした技術である。

起動画面の後にオリエント連邦の地図が表示され、そこから北極海沿岸部がズームアップされる。

この画面の上の方でポツンと孤立しているのが、今回の作戦の舞台となる「クビアト島」だ。


スターライガ創設初期から計画されていたサレナ救出作戦をついに実行へ移す。

救出対象であるサレナ・ラヴェンツァリ―リリーの双子の妹は、チルノイル市沿岸から北に約320km離れた絶海の孤島「クビアト島」の特殊刑務所に軟禁されている。

内通者である刑務所職員の報告によるとサレナは精神的な疲労が出ているものの、健康状態に目立った異常は無いという。

元々凶悪犯収容所として建設されたクビアト島特殊刑務所の壁は非常に厚く、内部での破壊工作や外部からの直接攻撃で突破することは極めて困難である。

そこで、スターライガが事前通告無しで施設を襲撃し、混乱が発生した隙に内通者がサレナを連れて脱出。

インフィニティブルーから発艦したヘリコプターで彼女らを回収する。

MF部隊の主任務はヘリコプターの安全を確保するための制空権確保、救出作戦を妨害する敵戦力の排除だ。

今回使用するMH-60Sは自衛用武装を持っておらず、敵からの攻撃に対し極めて脆弱である。

もし、空中からの接近が困難と判断された場合は上陸用舟艇による強行突入を行うことになるが、この作戦では地上部隊の被害拡大が予想される。

つまり、彼女らの生存率はMF部隊の活躍に懸かっているということだ。

サレナを回収したヘリコプター及びMF部隊の帰艦を以って作戦完了とする。

なお、内通者からの情報によると2週間ほど前からオリエント国防空軍が臨時のMF運用施設を建設しているらしい。

おそらく、国防空軍との交戦は避けられないだろう。

また、先日の戦闘で撤退していったバイオロイドの動向は不明瞭なままであり、乱入してくる可能性も否定できない。

MF部隊は陸海空あらゆる脅威へ対応可能な装備で作戦に臨め。


「これを地上での最終決戦にしましょう。宇宙へ上がり戦いの元凶であるライラック博士を討つまでが我々の戦いよ。全ての戦士たちに女神パルトナの加護があらんことを……!」

気持ちが昂ったレガリアは昔の癖で敬礼をしてしまい、慌てて右腕を戻す。

しかし、それを見た元軍人のライガたちはもちろん、民間人のルナールたちも見よう見まねの敬礼を返してくれていた。


「いよいよ君の妹さんを助ける時が来たな……!」

「ええ……半年以上待たせましたから」

ブリーフィングを終え各々が部屋から出ていく中、ルナールとリリーは一緒に通路を歩いていた。

基本的に誰に対してもフレンドリーなリリーだが、ルナールにだけは少々つっけんどんな対応を取ることが多い。

「……ルナールさん、どこまで付いて来るんですか?」

頬を膨らませ、露骨にイヤそうな表情で睨み付けるリリー。

だが、彼女の幼さが残る顔立ちではあまり効果が無い。

「今晩一緒に食事でもどうかなと思ってね……ダメかい?」

「ライガの言ったとおりだ。あなたって意外に女たらしなんですね……ちょっと軽蔑するかも」

高校時代まではライガと付き合っていたルナールだが、端整な顔立ちと面倒見の良い性格のおかげで女子から大変モテていた。

極端な例だと「落ち着いた声音を聞いただけでドキドキする」という意見すらある。

イケメンぶりならボーイッシュなリゲルと良い勝負になるだろう。

さらに言えばルナールはオリエント有数の名門オロルクリフ家の長女であり、育ちの良さは言うまでもない。

これまで受けてきた数多のプロポーズさえ受け入れれば、年齢的にはサニーズとチルドのように結婚して子どもがいてもおかしくないのだ。

いつまで経っても結婚できないのはライガとの思い出を大切にしているためと言える。

まあ、好みの女性に声を掛けたがる悪癖があるのも事実だが……。

「女たらし? いや、君がチャーミングだからさ」

「はぁ……それはどうも」

正直言ってリリーはサレナ救出作戦のことで頭が一杯なのだ。

申し訳ないが、ルナールの軽口に付き合う精神的余裕は無い。

「リリー!」

つかつかと歩いていく後ろ姿へ向かってルナールが声を上げる。

「今回の戦いは君だけの問題じゃない、この世界の命運が懸かっているかもしれないんだ。一人で背負う必要は無いんだよ」

リリーは少し立ち止まった後、ルナールの方を振り向き微笑んだ。

「私たちが互いに生き残れたら、デートに連れて行ってくれてもいいですよ?」

そう言うと彼女は今度こそ通路の先へと歩き去っていく。

「(ここまで誰一人欠ける事無く戦ってきたんだ……必ず生きて帰って来る!)」

左右に揺れる美しい金髪を見つめながら、ルナールは強い決意を固めるのであった。


作戦成功にあたって重要な部隊編成だが、ライガやレガリアがしっかりと考えた結果以下のようになる。

まず、各メンバーの役割は「制空権確保」と「ヘリコプター護衛」の2つに分けられる。

前者はサニーズを隊長としてチルド、ルミア、ルナール、リリカ、シズハで構成される。

一方、後者はライガを隊長にブランデル、リゲル、リリー、メルリン、ミノリカが担当する。

可変機乗りであるレガリアとメイヤは「遊撃部隊」として戦闘に参加し、臨機応変に行動してもらう。

今回はインフィニティブルーを守る直掩機を置かず、同艦には自分の身は自分で守らせる。

チーム分けの中での小隊編成に関しては隊長2人に一任されており、どちらもメンバーの適性を考慮した最善の編成表を既に提出していた。


今は、この暗闇とあの小さな空がサレナ・ラヴェンツァリの世界だ。

「人類を襲う未知の存在に似ているから拘束する」と手錠を掛けられ、凍え死にそうなほど冷たい刑務所に軟禁されて半年以上が経つ。

健康を維持できるだけの食事と衛生環境を与えられ、晴れている日にはグラウンドへ出て体を動かすこともできるが、俗世から切り離された場所での暮らしには精神的に参ってきた。

担当してくれている刑務官によると、この刑務所は北極海の孤島にあるらしい。

どうりで寒いわけだ。

今日も姉のリリーが送ってくれた本を読み消灯までの時間を潰している。

「はぁ……クリスマスまでにここから出られるのかしら」

消灯時間を知らせに来た刑務官に対し、サレナは愚痴るように呟く。

「出られますよ。……明日ね」

少しだけ笑った刑務官はそう言い残し、独房の電気を消した。

「(あの娘……何を言っているの?)」

彼女の発言と笑顔の意味をサレナは明日知ることになる。

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