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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部

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【52】ARROW OF DESTINY

「カミカゼ野郎の始末は俺が付ける! パルトナ、交戦!」

気温や気圧にもよるが、パルトナは水平飛行で音速突破が可能なほどの推力を誇る。

これまで高高度を飛行していたのは、衝撃波やソニックブームが地上に与える悪影響を考慮していたためだ。

しかし、核攻撃の危機を目の前にした状況ではそうも言っていられない。

最大推力で吶喊(とっかん)しなければ間に合わないだろう。

「頼むぞ、ライガ! 慎重に行けよ!」

「いや、大胆に行かせてもらうぜ!」

ルミアの激励にそう答えると、ライガはE-OSドライヴのリミッターを解除する。

ルドヴィレやグティエレス島での戦闘時は運用データが出揃っていなかったため、カタログスペックの85%程度にとどめていた。

だが、機体へ完全に馴染んだ今ならフルパワーで乗りこなすことができるはずだ。

「パルトナ、お前の限界を引き出してやる!」

史上最高クラスの性能を誇るMF。

それを駆る世界トップレベルのエースドライバー。

二つの心が一つになることで生まれた光の矢が、核の炎を撃ち抜かんとする。


ライガが考えている作戦は至極簡単、敵機だけを破壊し核弾頭を奪取するやり方だ。

オリエント国防軍の核弾頭は核融合反応を使用しているうえ、信管が外され安全装置は残されているため、多少は乱暴に扱える。

核爆発の可能性を厭わないなら最大出力のレーザーライフルで全て吹き飛ばせばいい話だが、今回は超高速飛行からの斬撃でユーケディウムを正確に狙う。

放り出される核弾頭はルミアがやったように回収する。

「(クソっ、自動操縦とは思えないほど速いじゃねえか!)」

バックパックを損傷しているユーケディウムは性能低下が激しいはずだが、それでもパルトナを簡単に寄せ付けないほどの速度で片道飛行を続けていた。

一方のパルトナは上昇と急降下を繰り返すことで速度を稼ぎ、着実に敵機へと近付いていく。

「都市圏まで残り5マイルしかない! 間に合うのか!?」

オペレーターの声からは焦燥感が伝わってくる。

「決して諦めるな! 俺はこいつの性能を信じる!」

ライガが叫んだ瞬間、ユーケディウムに大きな変化が起こった。


搭乗者のバイオロイド共々使い捨てを想定されたユーケディウムの耐久性はあまり高くない。

酷使され続けたメインスラスターがついに息絶え、大量の黒煙と細かいデブリを撒き散らす。

それに伴い速度と高度も緩やかに落ちていく。

「おいおい、トラブルだと!?」

年老いた白鳥のように力尽きて逝く姿を見たライガは作戦変更を決断。

核弾頭を直接もぎ取るべく敵機へ一気に肉薄する。

下手に攻撃するより、墜落される前に対処した方が賢明だと判断したためだ。

「見ろ! 敵機が黒煙を上げている!」

「大丈夫なの!? やらかしたんじゃ……!」

状況を見守るリゲルとミノリカのやり取りをよそに、パルトナは炎さえ噴き上げ始めたユーケディウムの背部を掴む。

「(どこら辺なら直接核弾頭を掴めるか……分からん! 直感で貫いてやる!)」

左腕で機体を安定させながら右腕のマニピュレータを手刀の形にし、試しにコックピットブロックの辺りを貫手(ぬきて)の要領で思いっ切り貫いた。

生肉へ手を突っ込むような、言葉にしづらい不快な感覚が操縦桿を通して伝わってくる。

だが、それを過ぎた先には明らかな手応えがあった。

「(よし、見つけたぞ!)」

核弾頭らしき物体を掴んだマニピュレータを引き上げようとするが、何かに引っ掛かって動いてくれない。

勢いを付けて操縦桿を操作すると、右腕で目的の「ブツ」を天高く掲げた。

それと同時に赤黒い飛沫が飛び散る。

鈍い赤色に染まったパルトナの右腕を見て飛沫の正体を察したライガは思わず首を横に振ったが、ユーケディウムに刺さったままだったプロト・ヒートバスタードソードを引き抜いて敵機から離れた。

「最期の手向けだ……今、火葬してやる」

死してなお任務を全うしようとしたバイオロイドに対する敬意として、パルトナの固定式機関砲が火を噴いた。

蜂の巣にされたユーケディウムは大きな火の塊となって爆ぜ、跡形も無くこの世界から消え去る。

「(ライラック博士……バイオロイドとはいえ、死を強いる貴女のやり方を俺は認めない……!)」

この戦いの黒幕―ライラック・ラヴェンツァリがいるであろう星空を見上げ、ライガは強い決意を固めるのであった。


回収した核弾頭を国防空軍の部隊へ託した後、ライガはルミアたちのところへ合流する。

「ほらよ、お前の機体のバスタードソードだ」

「サンキュー、ライガ。まさか返って来るとはな」

「データ取りもせず失くしたら、ロサノヴァに怒られるぞ」

ルミアは血糊の付着したヒートバスタードソードを機体のハードポイントへ収める。

帰還したら念入りな洗浄作業が必要だろう。

実体剣は汚れを残していると切れ味が鈍りやすいためだが、どちらかと言えば「殺した相手の遺物を残すのは気味が悪い」というのが理由である。

比較的高価なMF用武装は「穢れたから」という理由で使い捨てるワケにはいかないのだ。

「……あれ? パルトナの右腕ってそんなカラーリングだったっけ?」

「ミノリカ!」

何も知らないミノリカが「血染めの右腕」に触れようとするのをリゲルは咎めたが、当のライガは「気にするな」と軽くいなす。

「ま……戦場じゃこういう事もあるさ。パルトナは色白肌だからな、尚更目立つんだよ」

そういったやり取りをしていると、指令室からの通信が入ってきた。

「指令室よりスターライガ各機へ、これより状況確認を行う。すぐ終わるとは思うが、アンタたちは空中待機だ」

「パルトナ、了解。放射能汚染のチェック体制を用意してくれよ」

「少なくとも戦闘地域では放射能漏れは確認されていないが―」

オペレーターの言葉が途中で止まる。

「どうした?」

「クソっ、レーダーに新たな敵影を確認! 核攻撃に失敗したからって、ムキになりやがって!」

「増援だと!?」

驚いたルミアはすぐに自機のレーダーディスプレイを確認した。

「リグエルから各機へ、方位2-3-2と3-0-7より敵機多数接近!」

「指令室! リリカ先輩たちとレガリアの小隊を俺たちのところへ集結させろ!」

「私たちの全戦力の倍近い数だぞ! 真っ向勝負は無理だ!」

スターライガ本部のレーダーサイトで確認した敵戦力はおよそ30機。

それに対しスターライガのMF戦力は14機、しかも3機はメンテナンス中のため実質稼働できるのは11機だけだ。

さらに言えば約半分は別働隊として行動し、実戦経験が1~2回しかないルーキーも交じっている。

つまり、仮に合流して真正面から戦力をぶつけても、敵を退けられる見込みは薄い。

「奴らの意図が都市圏への攻撃だとしたら、俺たちで足止めしなくてはならない!」

「変な意地を張るな! いくらアンタが稀代のエースドライバーだとしても無理がある!」

「……私は『リーダー』に賛成だ」

ライガとオペレーターのやり取りを遮るようにルミアが告げる。

「今回もお前の強運を頼りにしているぜ、ライガ」

彼女はニッと笑いながらサムズアップを見せつけた。

「君に付いていけば生き残れる……僕はそう信じているよ」

指をポキポキと鳴らしながらリゲルは笑みを浮かべる。

「みんなが戦うのなら……私も逃げない! 足手まといだとしても、全力を尽くすのよ!」

ミノリカは自らを鼓舞するように叫ぶ。

良い仲間に恵まれたな―とライガは内心で嬉しく思っていた。

だからこそ、彼女らの命を預かる身として相応の覚悟を持たなければならないのだ。


「―君にばかりイイ格好をさせるわけにはいかないな!」

「ルナール先輩!」

ウェルメンハイム市方面から飛来してくる3機のMF。

リリカ、ルナール、リリーで構成された小隊が駆け付けてくれたのだ。

「スパイラル05よりパルトナへ、私たちはそちらの指揮下へ戻る。我々の誇りは何よりも気高い、きっとやれるさ」

「一般市民を巻き込むような戦いは許さないって……ママに教えてあげないと!」

技量も経験もまだまだな3人組だが、彼女らの士気は非常に高い。

一方、ヴワル市方面からも味方機の反応が近付いていた。

「シュピールベルクからパルトナ、私たちも加勢するわよ!」

「レガリアお嬢様の仰せのままに……!」

「元国防軍人の迎撃戦を侮ってもらっては困るからね!」

「ミノリカ! 私たちもいるぞ!」

都市圏の防空に当たっていたレガリア、メイヤ、ブランデル、シズハの小隊も戦列へ加わる。

「シズハ姉ちゃん!」

「姉妹で一緒に戦うのは初めてだな……大丈夫、お前の背中は私が守る!」

オータムリンク姉妹の微笑ましい絆を見守りながら、ライガはスターライガ全機へ発破を掛けようとした。

「待て! こちら指令室……敵機の様子がおかしい。反転していくぞ!」

指令室からの通信でレーダーディスプレイへ視線を移すと、確かに敵機を示す赤い光点が遠ざかっていく。

「あいつら、ビビッて逃げ出したか?」

「戦闘を避けられるのなら、それに越したことは無いが……ん?」

敵機が撤退していく様をブランデルと眺めていた時、ライガのパルトナに対し不思議な通信が送られてきた。

「どうした?」

「暗号通信のようなものを傍受したが……みんなの機体には送られていないのか?」

「暗号ねえ……いや、少なくとも私は確認できない」

ブランデルはそう言って肩をすくめる。

彼女以外の面々も同じような反応を示す……1人の例外を除いて。

「……この数字がいっぱい並んでるヤツのこと?」

「ああ、それだ!」

パルトナが傍受した暗号通信。

これと全く同じモノをリリーのスパイラル3号機も受け取っていた。

なぜライガとリリーだけに暗号が送られたのか―現時点の情報だけでは判断しかねる。

「あなたの言う『暗号通信』とやらの解読も急務ね……とにかく、みんなお疲れ様。都市部への核攻撃という最悪の事態を避けられたのは、皆の奮闘のおかげよ。今日は帰ってゆっくり休みましょう」

レガリアが作戦完了を宣言すると、一斉に歓喜の声が上がる。

あまりの声量で音割れすら発生していた。

「……ライガ、後で例の暗号通信を見せてくれ」

「別にいいですけど、リリカ先輩は暗号解読できるんですか?」

「高校時代のプログラミング部で作ったソフトウェアが役立つかもしれない」

休みたいのはやまやまだが、ライガには放射能汚染のチェックと暗号通信の考察が残されている。

どうやら、今日の夜はとても長くなりそうだった。


簡易的な健康診断と報告書の作成を済ませた後、ライガは夜食のサンドイッチを頬張りながらリリカの暗号解読を見守っていた。

ちなみに、ライラックからの通信については報告書に記載していない。

彼女との通信記録も一応バックアップを取ったが、オリジナルの音声データはライガが独断で消去しておいた。

「うーむ……『暗号絶対破るマン』でも解読できないとはな」

ネーミングこそ非常に酷いが、「暗号絶対破るマン」は古今東西の暗号を数秒で解けるほど高度なプログラムを組まれている。

高校卒業後もリリカが趣味でアップデートしていたのを考えると、解読法が確立されていない新たな暗号とは思えない。

あるいは、暗号のように見えて実は暗号じゃありませんでした―というオチか。


0204203201022032-210112131900-32.6Ghz


この数列が暗号文だ。

一番最後の「32.6Ghz」が無線周波数であることはすぐに分かったが、問題はそれ以外の部分。

0204とか2032といった数字は一体何を表しているのだろうか。

「2042、2010、2032……あっ!」

数列を眺めながらブツブツ呟いていたライガが突然声を上げる。

「ど、どうした!?」

「この数列の意味……やっと分かりましたよ。まさか、こんなに単純だったとは!」

彼は紙とペンを取り、リリカに対して暗号の意味を説明し始めた。


まず、ライガが暗号を解読するキッカケとなった「0204203201022032」という数列の意味についてだ。

これは「02042032」と「01022032」に分けなければならない。

2032という数字が指しているのは栖歴2032年、その前の4桁は月日である。

分かり易いよう並べ直すとそれぞれ「2032年2月4日」「2032年1月2日」と表記できる。

実を言うとこの年月日、リリーとライガの誕生日を示している。

次の「210112131900」も同じく年月日を表していた。

こちらは「2101年12月13日19時00分」―そう、サレナ救出作戦の決行日及び終了予定時刻と全く同じなのだ。

ここから導き出された内容は「2101年12月13日19時00分、ライガとリリーに対し32.6Ghzの無線周波数で何かを伝える」である。

仮に通信が来たとしても、内容に関してはその時になるまで分からない。

「なるほど……しかし、疑問点も残るな。どうして君とリリーだけなんだろう?」

顎に手を当てて考え込むリリカ。

だが、ライガは「送信者」について既に見当が付いていた。

「(ライラック博士、貴女が何を言おうと俺たちの覚悟は変わらない。必ず貴女を倒し、この世界に平和を取り戻してやる!)」

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