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【4】ファーストフライト(後編)

レーダー上に映る2つの光点は徐々にライガたちへ近付き、やがて彼らが辛うじて肉眼で視認できる距離まで接近してくる。

仮に軍属の機体だとしたらスパイラルのIFFに反応するはずである。

「(IFFの反応は……無しか)」

反応しないということはスターライガと同じ民間機か、あるいは極秘任務に従事する国防軍機である可能性が高い。

「ライガ、ちょっといいかしら?」

「……どうした?」

後方にいる非戦闘員を避難させるための指示を出していたレガリアがライガへ通信を入れてくる。

「あの所属不明機の機種は割り出せる?」

確かに、現在の距離ならば計器類の代わりに採用されている空間投影技術―ホログラム・インターフェイス・システム(HIS)の望遠機能を使えば機体の特徴から機種が分かるかもしれない。

「あ、でも……既存の機体だとしたらデータベースに入っているはずなんだけど……」

この世界のレーダーはかなり高性能で、捕捉した対象の各種データを分析するだけでほぼ確実に機種や艦級を割り出すことができる。

ただし、その機能を活用するにはデータベースを日頃からアップデートしていることが必須となる。

当然ながらデータベースに不備がある場合は正確性に欠ける。

「俺が確認してみよう。レガリア、お前はオープンチャンネルで呼び掛けてくれ」

「……了解、万が一の時のフォローはお願いね」

指示を察したレガリアは所属不明機へ接近するため、機体をそちらの方向へと飛ばしていく。


レガリアが所属不明機の相手をしている間、ライガは森の中へ隠れつつ機種の割り出しを急いでいた。

「うーむ、しかし困ったなあ……」

念のため複数回データベースの確認を行ったが、完全に一致する機体は存在しなかった。

アップデートは前日に行っているため、データの不備とは考えづらい。

一応、確率の高い機体としてスターブレイズが提示されたが、細部を見る限り軍が運用しているタイプではないように見える。

「(まあ、帰ったら母さんに聞いてみるのが一番か……)」

機体の正体に関する考察はとりあえず置いておき、レガリア機と情報を共有するため戦術データリンクシステムの準備を始める。

次の瞬間、ノイズに混じったレガリアの怒鳴り声がライガの耳を襲った。


一方、レガリアは所属不明機を刺激しないギリギリの距離まで機体を近付け、オープンチャンネルで呼び掛けを始める。

「―所属不明機に告ぐ、そちらの所属と航行目的を述べよ。繰り返す―」

従軍時代に教えられた降伏勧告の訓練を思い出しつつ、所属不明機への呼び掛けを続ける。

応答する様子は残念ながら微塵(みじん)も感じられない。

「―こちらも軍属ではないが、飛行ルートを変更しない場合は私有地への不法侵入で法的措置を―」

レガリアは見逃していなかった。

所属不明機がアサルトライフルの銃口を彼女へ向けていたことを……。


「……っ! こいつらぁ!」

所属不明機の先制攻撃をローリングしつつかわしたレガリアは、体勢を立て直すべく一旦上空へと退避する。

片方は彼女に食い付いてきたが、もう片方の機体は進路を維持している。

恐らく、所属不明機の目的は最初からレガリアたちの殺害にあったのだろう。

「ライガ! ライガっ!!」

相方へ危機を伝えるべくレガリアは必死になって叫ぶ。

「所属不明機の武装を確認! 実弾よ!!」

敵機はアサルトライフルによる銃撃を続けつつ間合いを徐々に詰めてくる。

このままでは逃げ切れないと判断し、レガリアはついに武装のセーフティを解除した。


スパイラルには固定武装として機関砲と2基のビームソードが存在する。

より強力な武装のレーザーライフルや無反動砲は仮設ハンガーへ置いてきており、火力面では圧倒的に不利な状況にある。

だが、レガリアとライガは「技量」という最強の武器を持つ。

MF同士の戦闘は決して技量だけで決まるモノではないが、機体性能が同程度ならば技量こそが生死を分かつ要因にもなり得る。


レガリアが空中で激闘を繰り広げている頃、ライガは地上で敵機の攻撃を受けていた。

「そんなの見りゃ分かるぞ!! 武器はどこだっ!?」

「HISのフォルダP1-0-1から直接セーフティの解除でいけるわよ!」

「P1-0-1だな……よし、こいつで!」

指示された通りの操作を行うと、次の瞬間HIS上に「ARMAMENT SAFETY UNLOCKING」と表示され、同時にビームソードの位置が青く点滅し始める。

「お前がどこの誰かは分からんが……」

バックパックにあるソードホルダーからビームソードの柄がせり出し、右腕のマニピュレータでゆっくりと敵へ見せつけるように抜刀する。

「先に撃ってきたのはそっちだぜ……悪く思うなよ!」

そう言うとライガはビームソードの出力とスラスター推力を最大まで上げ、相対している敵機へとあえて一直線に突撃した。


敵機はライガ機の攻撃に素早く反応し、アサルトライフルから持ち替えたビームブレードで彼の斬撃を止めてみせた。

ビームソードとビームブレードの出力は互角らしく、しばしの鍔迫り合いのあと両者は空中へ戦いの舞台を移す。

「(かなり正確に照準してきやがる……こいつら、素人では無いな!)」

ライガは回避機動を行いながら距離を取ろうとするが、敵機も移動先を予想した攻撃でそれを許さない。

とはいえ、スパイラルの機動力が高いおかげで近距離武装の間合いからは完全に外れている。

いきなり撃墜される可能性は少ないが、どちらかが攻めに転じなければ勝負は動かないだろう。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

戦場における状況の流動は非常に早い。

ついに攻撃のチャンスを掴んだレガリアは逆手持ちのビームソードを敵機のシールドへと突き立てる。

ビームソードはシールドと左腕を貫通したが、これでは致命傷には至らない。

左腕を使えなくなった敵機は右手に持つアサルトライフルの零距離射撃で対抗しようとするが、それを見逃さなかったレガリアは空いていた左手で残りのビームソードを取り出し、アサルトライフルを咄嗟に切り払い攻撃手段を封じる。

バイザー越しに相手の顔が見えるほど至近距離なら固定式機関砲も使用できない。

「(……相手は女の子かしら?)」

両者の使用しているヘルメットは共にフルフェイスタイプであるため正確には分からなかったものの、わずかに見えた目元は間違い無くオリエントの女性だった。

それも、ライガに言わせれば「とびきりのカワイ子ちゃん」のはずである。

顔の全体像は分からないが、目元だけ見ても俗人と格が違うのは明らかだ。

「(まあ、私だって容姿には自信があるけど……ね!)」

相手の顔のことなどお構いなくレガリアは敵機のコックピットを切り裂くように蹴り上げる。

強烈な蹴りを食らった敵機はバランスを崩して落ちていく。

そして、トドメと言わんばかりに投擲(とうてき)されたビームソードがコックピットを直撃したことで彼女の戦いは決した。


一方、ライガのほうは互いに決定打を得られないままドッグファイトを繰り広げていた。

しかし、彼には秘策がある。

これまでの戦いを分析するとスパイラルのほうが運動性に優れていることが分かっており、相手を上手く誘導すればオーバーシュートを狙えるかもしれない。

「(よしよし……もっと俺のケツを狙えよ……!)」

敵機が喰らい付いて来るようにワザと動きを緩めてみる。

だが、相手も警戒しているのか攻撃は仕掛けてこない。

そこでライガはプランBを試すこととした。

「俺は速いぜ、付いて来てみな!」

わざとオープンチャンネルで叫ぶことで相手を挑発し、同時に全てのスラスターを駆使して敵機の近くをしつこく動き回る。

「あのバカ……! 自分から相手を煽るなんて!」

プランBを知らないレガリアが先に反応していたが、そちらはスルーして高機動戦闘を続ける。

ついにしびれを切らした敵機は周囲を飛び回るライガ機へ攻撃を仕掛け始めた。

それを見たライガはスラスター推力を一気に上げて距離を取り、同時に垂直上昇を行う。

敵機も追従するように彼を追いかけていく。

「付いて来たな! この瞬間を待っていたのさっ!!」

アサルトライフルの銃撃をバレルロールでかわしつつ上昇を続けていたライガは敵機が接近したタイミングで機体を急減速させ、オーバーシュートを誘う。

さすがに速度を合わせられなかった敵機は数メートルほどライガ機の前方へ飛び出してしまった。

戦場においてはこの程度のミスが命取りとなる。

「いけぇぇぇっ!」

無防備に晒された背部めがけて固定式機関砲を放つ。

E-OSドライヴやメインスラスターを内蔵したバックパックを備える背部はMFの構造上比較的脆弱な部分であり、機関砲の斉射だけで十分なダメージを与えられる。

敵機は瞬く間に火を吹き始め、最後のトドメとしてライガはビームソードでコックピットを貫いた。


戦闘終了から数時間後、ライガたちは警察や軍が介入しないうちに痕跡の消去を進めていた。

ライガが撃墜した敵機は損傷が酷く、残骸も遺体も回収することはできなかった。

一方、レガリアが仕留めた敵機は高度が低かったこともあって原形を留めており、ドライバーの遺体も上半身は綺麗な状態で残っていた。

彼女の投擲したビームソードも無事に回収されている。

「この死体……突然動き出したりはしないよな?」

「ゾンビじゃあるまいし……しかし、死体漁りはあまり感心しないわね」

遺体のヘルメットを外そうとしていたライガをレガリアが咎める。

だが、ライガにはどうしても遺体の顔を確かめたい理由があった。

「別に何か盗ろうってわけじゃない。事が済んだら埋葬するから」

そう言い返しつつ遺体のヘルメットを外し始める。

使用されているヘルメットは軍用の物と同一であり、慣れた手つきで取り外す。

明らかとなったドライバーの素顔―それはライガを動揺させるには十分であった。


彼女の顔はライガの幼馴染と瓜二つだったのだから。


「ライガ、何か気になることでもあった?」

「うーむ……レガリア、俺は急用を思い出した。後の処理は頼んだぜ」

そう言い残すとライガは移動用のジープに乗り込み、森の中へと消えていった。

「え、ええ!?」

レガリアは見事なまでに置いてけぼりをくらったが、その後無事に帰れたという。

ホログラム・インターフェイス・システム(HIS)

劇中世界で普及している空間投影技術で、

かつてフロリア星人が地球へもたらした技術の一つ。

MFの計器類は全てHISを使用しており、

アナログメーターやディスプレイは存在しない。

タッチスクリーンとしての機能も持ち、

操縦中にも簡易的なセッティング変更が可能。

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