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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部

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【39】女神の神槍

「ほぅ、写真を見る限りでは結構凄惨な状況だったが、生きていたのなら君も機体を壊した甲斐があったな」

「ええ、36億クリエンを犠牲に2人の命を救えたんです。RMRの技術者にはちょっと申し訳無いけど、彼女が作った機体は人助けができる兵器であることを証明してくれました」

墜落したスターライナー32便の機長と副機長は無事救出され、軽い打撲を負っていたものの命に別状は無かったらしい。

後日、機長たちに代わりスターライナー本社から「ささやかな贈り物」としてグループ会社であるスタークルーザーのファーストクラスチケットがライガ宛てにプレゼントされた。

これはペアチケットであるため、ライガは戦いが落ち着いたら妻と一緒に旅行へ出かけるつもりだ。


「ところで先輩、別に俺に付いてきても面白いことは無いですよ? 自分が新しく乗る機体を見るだけですし……」

元々ライガは一人でワークショップへ向かっていたのだが、途中でトレーニングルームから出てきたルナールと出くわし、彼女の希望により一緒に連れて行くこととなった。

「私だってドライバーとしての訓練を受けている以上、機械的な知識は必要になるだろう。最低でも味方が乗る機体の見た目ぐらいは覚えないとな」

名門国立大学卒業生だけあってルナール―というよりオロルクリフ3姉妹の意識は結構高い。

素で細かな部品名を覚えられないチルドとは大違いだ。

「それよりも先輩の姿が目に焼き付くんですが」

先程までトレーニングルームにいたということは当然それに相応しい格好でなければならない。

つまり、今のルナールはスポーツウェアを着用している。

比較的インテリ気質な彼女がそういった服装であること自体珍しいが、それ以上に均整とメリハリを両立したボディスタイルに目を奪われる。

「柔軟性と繊細さに秀でている」「デブとガリは存在しない」と称されるオリエント人の体型をそのまま具現化した姿は標準的であり、正直に言ってしまうと身長が10cm高いレガリア(174cm)とあまり変わらない。

だが、外国人の基準であれば端整な顔立ちと綺麗な金髪が相俟って絶世の美女に映るだろう。

「何を今さら……君には何回も裸を見られているし、勝手に焼き付けておくといい」

ライガにとってルナールは初恋の相手であるが、実は「初体験」も彼女であった。

高校時代の休日には大抵一緒に寝ていたし、二人で入浴したことも少なくない。

ルナールからすれば生まれたままの姿を見られる以上に恥ずかしいことをしていたわけである。

ちなみに、オリエント人のカップルは基本的に愛情表現が強いので、ライガとルナールは「ありがちな」カップルだったといえる。

「……昔話は置いといて、早くワークショップへ行きましょう」

「そうだな、この服装はやはり寒い」

他愛のない世間話をしながらも先輩後輩コンビは早足で通路を歩くのだった。


「整備班長、『XRG-30』の組み立ては全部終わった?」

その頃、ワークショップでロサノヴァは新型機の最終チェックを行っていた。

XRG-30―。

これがライガの新たな搭乗機の型式番号だ。

この型式番号自体は特別な意味を持っておらず、設計時に適当に付けたモノをそのまま正式採用している。

実はオリエント製のMFはこのパターンが一般的であり、スパイラルの「RM5-20」のように明確な意味が与えられることは少ない。

理由は単純明快、アメリカ軍航空機のように一定の命名規則に沿って型式番号を割り当てるとそれだけで機体特性がある程度分かってしまうからだ。

例えば、ストライクイーグルの「F-15E」ならFが付いている時点で「こいつは戦闘機だな」と予想できる。

無論、F-117 ナイトホークのように「攻撃機のくせにFを付けている」といった例外もあるが、こういうのは本当に例外だ。

ちなみに、RM5-20の意味は「RMロックフォードの第5設計開発部(MF専門部署)で『設計』された20番目の機体」とされている。

「はい、あとはステッカー類の貼り付けを行うだけです」

「分かったわ……さて、どうやら持ち主のご登場みたいね」

ライガたちに気付いたロサノヴァがそちらの方へ振り向く。

「って、なんでアスリートがいるんです?」

「トレーニングが終わったから、その帰りの寄り道だ」

彼女はルナールの姿を見てすごく怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直し本題を切り出した。


「ライガさん……最初にお願いしたことがあります」

「何だい?」

「XRG-30……あの娘に名前を付けてあげてください」

「いいのか? 俺が勝手に命名しちゃっても」

一般的に兵器の愛称は納入先の軍隊が名付けるものであるが、オリエント製MFの「スパイラル」「スターブレイズ」「スラッガーフェイス」「シャドウブラッタ」といった名称はメーカー側が最初から与えているものだ。

これらにはメーカーの様々な想いが込められており、オリエント国防軍はこれを尊重し名称変更を強要することはほとんど無い。

唯一の例外は軍艦であり、こちらに関してはオリエント国防海軍が命名権を持っている。

「本当に良いんだな? もしかしたら歴史に残るほどクールな名前を付けるかもしれないぞ?」

「付けていいんで早くしてくれません?」

新型機を前にはしゃいでいるのか、少しテンションが高いライガをロサノヴァは父サニーズ譲りの眼光で睨み付ける。

ちょっと早口だったあたり、結構怒っている可能性がある。

「やはり男の子だな。私とコトに及ぶ時と同じぐらい喜んでいるよ」

「先輩も変な事を言ってないで手伝ってください!」

とんでもない失言をしかけたルナールを黙らせ、ライガたちはスマートフォンでそれっぽい単語を調べ始めたのだった。


ここでXRG-30の機体概要について少し解説しよう。

XRG-30はスパイラルの機体フレームをベースに新規設計された汎用モビルフォーミュラであり、設計こそスターライガ内部で行われたが生産自体はスパイラルを開発したRMロックフォードに委託している。

機体構造はスパイラルを正統進化させたオーソドックスなもので、高機動戦闘への対応を重視しつつもスパイラル譲りの優れた汎用性を受け継いでいるため、対MF戦から対地・対艦攻撃まで幅広い作戦に従事可能である。

機敏な動きを実現するため駆動系のセッティングは硬めにされており、地上戦での乗り心地は悪化するが四肢の反応速度はスパイラル2号機から約32%も高速化できたという。

機体サイズはスパイラルより僅かながら大型化しているが、軽量化とスラスター推力が大きくなったことで最終的な動力性能は高くなったといえる。

空気抵抗などに関わるコックピット開口部は身長158cmと小柄なライガに合わせ、必要最小限にとどめられた。

そして、将来的な護衛空母での運用を考慮し、ロールアウト時点で電磁式カタパルト対応の脚部と通常着艦用アレスティングフックを尾部(人間でいう尻)に備える。

ただし、現状デッドウェイトになるアレスティングフックは肝心のフックが取り外されている。


心臓部として機体へエネルギーを供給するE-OSドライヴはスーパーテック・JV22Bを採用。

同じメーカーのJV22をスパイラル全機に搭載しているため、部品の互換性などを考慮した結果JV22の改良型にするのがベストだとされた。

改良型といってもスパイラルとXRG-30はバックパック形状及び内部スペースが異なるので、変更点は多岐にわたっている。

出力特性は技量が高いライガの搭乗を想定し、扱いやすさよりもピークパワーを重視した超高回転型である。


武装はM10固定式機関砲2門、ビームソード、専用レーザーライフル、ビームトライデントの4種類が基本となる。

これらに加えアサルトライフルや無反動砲といったスパイラルの武装とも互換性を持っており、実戦では4種類+α+防御兵装の装備構成が想定されている。

ビームソードはスパイラルのバックパック専用ホルダー2基から左腰ハードポイント1基のみとなったが、出力が引き上げられたことで攻撃力が高められた。

新たにXRG-30専用に開発されたレーザーライフルは射撃を得意とするライガのためにロングバレル化が図られ、連射性能よりも弾速と貫通力を重視した特性を持つ。

また、バレル下部には各種アタッチメントを装備可能なレールが設けられており、これはMFのマニピュレータを用いることで戦闘中の換装を可能としている。

そして、使いこなすのが難しい長柄武器のビームトライデントはライガの要望によって追加された武装であり、右腰ハードポイントに装備されている。

格闘武装としては非常に長い間合いと出力調整で変形可能なビームの穂先を持ち、ドライバーの発想と技量次第でテクニカルな戦い方ができる装備だ。

元々ライガは長柄武器を使いこなしていた母レティに憧れて同じタイプの武装を扱うようになり、ビームソードよりも手に馴染んでいるといえる。

高機動型汎用機という性質上決して重装備とは言い難いが、ライガの高い技量と味方同士の連携があれば十分カバーすることができるだろう。

なお、防御兵装のチャフ・フレアディスペンサーはバックパック側面に装備されている。


機上レーダーはスパイラルと同じホーエンシュタイン・VB77を胸部に内蔵。

レーダー警報受信機、ミサイル警報装置、敵味方識別装置、赤外線センサー、自衛妨害装置、戦術データリンクシステム、GPS連動型自動航行装置、HISもスパイラルと同一仕様の物だ。

もっとも、この分野に強いリリカのおかげでXRG-30の機体特性へマッチした設定に書き換えられてはいる。


もう1機余分に組み立てられる程のスペアパーツが用意されているとはいえ、XRG-30は実質上ワンオフのMFである。

ユニットコストについて詳細は明らかにされていないが、少なくとも36億クリエンのスパイラルを大きく上回るだろう。

事実、ライガはレガリアから「今回の新型機は流石に簡単には造り直せない」と釘を刺されていたらしい。

高性能なラスヴェート・A-32射出座席が装備されているとはいえ、これを使う事態だけは避けたいものだ。


……さて、スマートフォンで熱心に検索していたライガの指の動きがピタリと止まる。

どうやら、気に入った単語を見つけたらしい。

「ん? 良いアイデアが浮かんだかい?」

ルナールの呼び掛けをスルーしてライガは自らの愛機の足元へ向かう。

「決めた! この機体に相応しい名前は……パルトナ!」


パルトナ―。

オリエント神話に登場する32の女神の一人(オリエント神話では女神を人で数える)にして、全ての女神を従える最高神である。

無限の勇気を司る誇り高く美しい女神とされ、彼女に認められた者は「無限の勇者」として世界を変えることを義務付けられるという。

神々の戦いにおいては「パルテリオン」と呼ばれる強力な天使たちを率いて戦場に立ち、ゼウスやオーディンといった名立たる神々の侵略からオリエントの地を護ったとされる。

神格は数多い女神の中でも別格の存在であり、彼女の名を借りるモノに「弱いこと」「中途半端なこと」は許されない。

パルトナの名を持つということは、すなわち「究極」「原点にして頂点」でなければならないのだ。


「パルトナ……無限の勇気を司る女神か……」

女神の名を聞いたルナールは納得したように頷いている。

「スターライガ・XRG-30 パルトナ……これがあの娘の名前……!」

ロサノヴァの脳裏にはあらゆる敵を打ち倒すパルトナのイメージが浮かんでいた。

スパイラル2号機から受け継がれた白+蒼+銀のカラーリングはライガ自身のシンボルカラーであり、同時に女神パルトナの全体的な色合いだったといわれている。

これが偶然の産物なのか、それとも仕組まれた運命だったのかは誰にも分からない。

「良いなぁ、このコックピット! 俺の体格にジャストフィットだ!」

そんなことなど全く気にせず、ライガは新たなる相棒を見てはしゃいでいたのだった。


パルトナの初テストがスターライガ内部で大々的に行われた翌日、ライガは再びワークショップを訪れていた。

もっとも、今回のお目当てはパルトナではなくレガリア用に開発された新型機と実戦投入の目途が立ったスパイラル5号機の視察である。

「おいおい、お前の機体の方がパルトナより金が掛かっているんじゃないか?」

「仕方ないでしょう? 可変機構を取り入れれば嫌でもコストは増大するから」

二人の目の前に置いてあるMFは人型には程遠い戦闘機のような形状をしている。

XRM-2016 シュピールベルクと命名されたこの機体の最大の特徴は可変機構である。

通常戦闘向きの人型「ノーマル形態」と一撃離脱戦法特化の飛行機型「ファイター形態」を使い分けることで戦術の幅を大きく広げており、特にファイター形態では推力ベクトルが一方向に集中するため巡航能力が劇的に向上する。

元々の航続距離が長くないMFにとってこれは非常に魅力的であるといえる。

パルトナと比べて強力なメインスラスターを採用したシュピールベルクはフル装備のMF1機を運べる程の強大な推力を誇っており、戦闘能力が皆無なフライングスイーパーの代替としても期待されている。

ちなみに、可変MF自体は黎明期にも存在していたが、いずれも試作機レベルで量産化には至らなかった。


「まあいい。スパイラル5号機の方はどんな感じだ?」

低速飛行時に僅かに右へ曲がる悪癖を指摘されていたスパイラル5号機は予備機として扱われていたが、2号機が大破し解体処分されたため改修を行い実戦投入することが決まった。

改修された5号機は今後リリカの搭乗機として運用される。

また、レガリアが機体を乗り換えることで空いた1号機も改修が施され、こちらにはルナールが搭乗する。

現在スパイラルに乗っている面々にはいずれ新型機が与えられる予定であり、彼女らの乗り換え後にリリーたちリザーブをスパイラル各機へ割り当てる。

機種転換が完了すれば最大14機を戦場へ同時投入できるようになる。

これだけ戦力が揃えば今まで躊躇されていたサレナ救出作戦を実行に移し、確実に成功させられる可能性も高くなる。

サレナが無事であることは各種情報収集で確認済みだが、如何せんリリーが「早く助けてあげて」とうるさいのだ。


運用機材の強化を図るスターライガは敵機の調査・解析にも抜かり無い。

比較的綺麗な状態で回収できたユーケディウムの存在は大きく、今まで判明していなかった詳細なスペックや武装の確認に成功している。

ロサノヴァがまとめた「Eレポート」によると、ユーケディウムの原型機がスターブレイズであることは間違いないらしいが、MFに精通している彼女が感嘆するほどの部品精度で設計されているという。

また、機体性能としては防御力を必要最小限にとどめ、動力性能と攻撃力に重きを置く超攻撃的な特性に振られていることが新たに分かった。

おそらく、搭乗するバイオロイドは「量産」すれば後から補充できるため、射出座席を装備しているとはいえ安全性は犠牲にされているのだろう。

武装は残念ながら固定式機関砲とビームブレードしか回収できなかったが、火器管制装置の調査を行うことで対スターライガ戦においてまだ使用されていない装備が確認できた。

意外にも固定式機関砲はスターライガや国防空軍の機体と同じM10リヴォルヴァーカノンを使用していた。


「なるほど、これは可及的速やかにスパイラルからの機種転換を進めるべきだな」

「はい、私の予想ですがスパイラルの性能的アドバンテージは今年の12月を境に失われると見ています」

「レガリアは『クリスマスまでに戦いを終わらせたい』と言っていたが、戦略的にもそれが良い」

パルトナの武装運用テストを終えたライガは各種データの確認ついでにEレポートを読ませてもらっていた。

その時、彼のスマートフォンが着信音を鳴り響かせる。

「母さんから……? もしもし……いや、今はテレビの近くにはいないけど……何だって!?」

ライガが突然叫んだためロサノヴァは思わずビックリした。

「ああ、分かった! 急いでメンバーを招集して現場へ向かう!」

通話を切ったライガは作業室からとび出していった。

「ライガさん!? ……テレビがどうこう言っていたけど、何かあったのかな?」

そう呟きながらロサノヴァは自作したラジオ受信機のスイッチを入れる。

元々はカセットテープに入った20世紀の音楽を聴くために作ったのだが、じつはデジタルラジオも受信可能な代物である。


「現在、ルドヴィレ区の全域とアルトガ区の一部に避難命令が出されています。当該地域の住民の皆様は警察や消防、軍の指示に従い速やかに区外へ避難してください。繰り返します、ルドヴィレ区南部で発生した化学兵器テロにより―」

スタークルーザー

オリエント連邦で2番目の規模を誇る航空会社で、スターライナーとは同じ「スターエアグループ」に所属している。

隣国ロシアへの短距離国際便や東ヨーロッパ行きの国際便に注力しているのが特徴。


スーパーテック

ヴォヤージュ市ヴィルヌーヴ区に本社を置くエンジンメーカー。

オリエント国防空軍向けアメリカ製航空機のジェットエンジンは一部がスーパーテック製に換装されているほか、E-OSドライヴの自社開発ができないRMRやマドックス向けにE-OSドライヴの設計開発を請け負っている。

ちなみに、アークバードとカワシロの機体はどちらも自社製のE-OSドライヴを搭載する。


ラスヴェート

航空機及びMF用の射出座席を設計開発する軍需企業。

社名は創業者の姪でオリエント人として初めて宇宙へ上がった飛行士のファミリーネームに由来する。

RMRとマドックスの機体は全てラスヴェート製の射出座席を採用しており、実際使用された際の生存率は非常に高いという。

なお、アークバードとカワシロは射出座席まで自社製となっている。

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