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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【31】秋めく大地

ヘルヴェスティア市―。

オリエント連邦最東端の都市であるサンリゼ市の南西に隣接し、国内最大の穀倉地帯として知られている。

短い夏が終わり秋が近付くと市内の麦畑が一斉に収穫時期を迎え、夕陽に照らされた麦畑が「黄金の秋」と称されるヘルヴェスティアの有名な風景を生み出す。

収穫された極めて良質な小麦や大麦、ライ麦、燕麦(えんばく)などは国内とスペースコロニーの人口だけでは消費し切れないため、諸外国へ積極的に輸出することで外貨獲得に一役買っている。

今ではオリエント産の麦が世界中に流通し、様々な国でパンやパスタとして食されているのである。

そして、今回の依頼者はヘルヴェスティアに存在する全ての麦畑を長きにわたって守り続ける一族の当主―言うなれば「豊穣の女神様」とでも呼ぶべき人物だ。


「綺麗ねぇ……金のインゴットなんかより、ずっと美しいわ」

自家用ヘリコプターから地上を眺めていたレガリアが感慨深げに呟く。

彼女の所有するビジネスジェットは3人組を乗せてラッツェンベルグ空港からヘルヴェスティア空港へ飛行し、その後は自家用ヘリコプターで依頼者の邸宅へ直行していた。

広大な敷地を有する依頼者の邸宅にはヘリポートが設置されているため、自動車で地上を行くよりも大きく時間短縮ができるのだ。

これも億万長者だからこそ為せる業である。

「そういえば子どもの頃、家族旅行でトウキョウに行ったんだ。ヘリコプターに乗るのはその時の遊覧飛行以来だな。その時は父さんがまだ首相じゃなかったし、ボディーガードが付いていたとはいえ結構自由に観光を楽しめたよ」

リリカぐらいの家庭になると長期休暇中の旅行先は大抵外国である。

オリエントの上流階級において異国の文化に触れることは教育上極めて重要とされ、最高の教育を受けた若者は「子どもから大人への転換点」として大学卒業後に諸外国を巡り、これは「グランドツアー」と呼ばれている。

グランドツアーによって国内にいるだけでは得られない経験を積んだ若者がオリエント連邦を発展させ、彼女らの子どもたちも両親と同じようにグランドツアーを行う。

オリエント人の国民性とされる旺盛な好奇心を如何無く発揮するのがグランドツアーといえるだろう。


「へぇ、やっぱり上流階級の人は格が違うね。リリーのママは科学者だったから本人は結構外国に行ってたけど、リリーたちはライガの家に預けられていたの」

リリーのママ―ライラック・ラヴェンツァリ博士はオリエント連邦を代表する科学者であり、その卓越した天才的頭脳と2101年時点でも先進的な思想は「アインシュタインの再来」「女版エジソン」「21世紀のニュートン」「現代のガリレオ」「ダ・ヴィンチの生まれ変わり」と称賛されていた。

代表的な功績としてはMFの基礎理論の構築が知られており、世界初のMFから現在の最新鋭機に至るまで全ての機体の根幹をなしている。

彼女の存在が無ければMFは生まれなかったと言われている。

ライラック博士は「優れた発明は賢い人間が使うべき」という思想を持ち、他者に迎合することを嫌う彼女は世俗を離れて研究を続けているらしいが、現在の居場所は娘のリリーにさえ伝えていない。

「そりゃあ、ママはいつも研究の事ばかり考えていて理想的な母親ってわけじゃないけど、私とサレナを大学卒業まで面倒を見てくれたのは感謝しているよ」

発明の独占に抜かり無かったライラック博士は数多くの特許を取得しており、研究の傍らライセンス料を元手に投資を行うことで莫大な富を築き上げた。

だが、彼女は高額なライセンス料を巻き上げる一方で金に対する執着は薄く、殆どを研究への投資と娘たちの養育費へつぎ込んでいたという。

……正確には「頭の悪い人」が金を持つことを気に食わないだけかもしれないが。


「リリーのお母様って元々は遺伝子工学や航空力学を専攻して―はっ!?」

その時、レガリアの脳裏に電流が奔った。

「(高い能力を持つ人工生命体と彼女ら専用に開発された最先端のMF……間違い無い、これらの要素には繫がりがある! そして、今回の出来事の裏で糸を手繰(たぐ)っている人物はやはり……)」

「……どうしたの、レガ? 自家用ヘリコプターで乗り物酔い?」

「いや、MFを何食わぬ顔で乗りこなす女がヘリコプターで酔うわけ無いだろう」

心配そうな表情を浮かべるリリーが声を掛けるが、何故かリリカのクソ真面目なツッコミが続く。

「大丈夫よ、ちょっと思い出した事があっただけ」

「ふーん、ならいいんだけど」

とにかく、確信を持てるまでこの予想をリリーに言うべきではないだろう。

今は胸の内にしまっておき、来たるべきタイミングで皆へ話そう。

そういったやり取りをしていると、眼下に依頼主の広大な邸宅が見えていた。

「これ、全部私有地なの?」

「ああ、レガリアの島を除けばおそらく国内最大の私有地だろうな」

よくよく考えたら島を政府から購入したレガリアも十分凄いが、今回の依頼者は市内の全ての麦畑と眼下に広がる丘陵地帯を所有しているのだ。

「はぁ、上流階級のスケールってワケが分からないよ」

残念ながらこういった話に縁の無いリリーは理解できなかったらしい。

「もうそろそろ着陸するみたいよ。ふたりとも、万が一の時に生命保険が下りるようシートベルトぐらいは着けときなさいな」

レガリアはそう言って脅しを掛けていたが、幸いヘリコプターはほとんど揺れることも無くヘリポートへ着陸した。


ヘリポートのそばではレガリアやリリーと同年代の女性―今回の依頼者が手を振っていた。

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