表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/75

【30】太陽の娘

「ぜえ……ぜえ……! この屋敷、人探しをするには広すぎるんだよ!」

苦しそうに肩で息をしていたライガは従業員用休憩スペースのベンチに腰掛ける。

見た目は青年のようでもオリエント人としては決して若くなく、あちこち走り回るのはやはり辛いのだ。

「ライガさん、何か手掛かりはあった?」

自販機で買ったミルクココアを飲んで一息ついていると、上のフロアを担当していたメイヤも休憩スペースへ帰ってきた。

「いや、少なくとも下のフロアでは目撃情報はありませんでした」

「困りましたね……上のフロアでもそれらしき人物を見たという話は無いみたいです」

1階以降の地上フロアにはいない……ならば地下か屋上ということになるが、この屋敷の屋上は現在工事中のため関係者以外は入れないはずだ。

そうなると最終目的地はおのずと地下―スターライガ本部の入り口に絞られる。

「メイヤさん、貴女は念のために屋上を確認してください。俺が地下まで行ってきます」

紙カップのミルクココアを飲み干したライガは立ち上がって軽くストレッチをした後、エレベータへ向かって駆け出すのだった。


今から1時間ほど前、シャルラハロート邸へ珍しい来客があった。

客人の名前はメルリン・オロルクリフ―ルナールの妹でリリカの姉、所謂「オロルクリフ4姉妹」の次女である。

4姉妹の末っ子で難病を患うレイナード・オロルクリフがヴワル市内の大学病院に入院しているため、妹の見舞いついでに足を運んだらしい。

無論、メルリンの目的は事情を話してくれないルナールとリリカが何をしているかを知ることだ。

「―ですから、ルナールさんとリリカさんは今は手が離せない状況なのです」

来客対応を任されたメイヤは現状を丁寧に説明するが、メルリンは不満そうに頬を膨らませる。

「えー……さっき電話した時は大丈夫だって言ってたよ? ほんの2~30分前の話なのに、急に状況が変わるモノなの?」

「我々の業界は変化が早いので……とにかく、本日はお引き取り願います」

「ぐぬぬ……!」

これ以上相手をしていても埒が明かないと判断し、メイヤは大変失礼と思いつつも話を強引に切り上げた。

メルリンは一瞬声を荒げようとしたが、とりあえず落ち着き胸中へとどめる。

「そうだ、ヴワル中央駅まで私が送りましょう。車のキーを取りに行くのでここで待っていてくださいね」

「……もし、イヤだって言ったら?」

「そうですね……その場合、状況によっては『然るべき対応』を取らざるを得ないかもしれません」

声のトーンを落として威嚇するようにそう告げると、メイヤは車のキーを置いている部屋へ向かった。

「(『待っていて』って言われて『はい、そうですか』って従うヤツなんかいないっての)」

メルリンが脱走したのはその直後、メイヤが別の部屋にいたわずか2分程度の間であった。


その頃、人目に付かないよう歩き回っていたメルリンは完全に迷子となっていた。

気が付いたら地上フロアとは全く雰囲気の異なる地下フロアへ入り込んだしまったらしい。

無機質な床や壁、天井は億万長者の屋敷というよりさながら軍事基地のようだ。

非常灯以外の光源が一切無いのもそれに拍車を掛けている。

「(どうしよう……やっぱあのメイドさんの言いつけを守るべきだったかなあ)」

後悔の念を抱きながら暗い廊下を歩き続けると、やがて非常口のような鉄の扉へと辿り着いた。

「やったー! 出口見っけ! ……って、これ開かないし!」

そう喜んだのも束の間、よく見ると扉には取っ手が無い。

右の壁面に設置されている装置でカードキーを読み取らせないと先に進めないらしい。

当然ながらメルリンはカードキーを持っていない。

試しに運転免許証を読み取らせてみたが、やっぱりダメだった。

「えーと、こっちのキーパッドをポチポチ押すと……」

今度は隣のキーパッドを操作してみるが、あまり夢中になって背後の警戒を怠っていると……。

「……ここにいましたか、メルリン先輩。少し眠ってもらわないといけないみたいだ」

「……! ライ―!?」

次の瞬間、後頭部に強い衝撃を感じたメルリンの意識は暗闇へ落ちてしまった。


数十分後、ようやく意識を取り戻したメルリンは取調室のような場所にいた。

両腕は腰掛けている椅子の後ろで縛られており、そう簡単に動けそうにはない。

「……やっと目を覚ましましたか、メルリン先輩。少し話に付き合ってもらうと助かる」

声を聞いて顔を上げると机越しにライガがいた。

「ライガ君……君なら話が早いわ。姉さんとリリカはどこにいて、何をしているの?」

かつてライガとルナールが付き合っていたことはオロルクリフ姉妹全員が知っており、会う機会が減った現在でも関係は良好である。

「それが知りたいのなら……俺たちのところへ来てください。スターライガを知った者を生かして帰すわけにはいかない」

現時点ではレガリアの方針によりスターライガは情報開示を最小限にとどめている。

しかも、開示されている情報もほんの一握りであり、所属するメンバーや運用する機材の詳細は伏せられている。

インターネット上での情報漏洩対策として偽造文書を意図的に公開しており、某オンライン百科事典などに載っている情報は大抵この偽造文書がソースとなっている。

つまり、この世界でスターライガの「正しい情報」を知っている―いや、知っていいのは関係者だけなのだ。

「ねえ、もし私がイヤだって言ったら君はどうするつもり?」

「俺はどうするつもりも無いが、俺の『相方』は秘密を知った者を殺せと言っている」

「ええ!? 私、殺されるの!?」

あまりに唐突な殺害予告に当然メルリンは動揺する。

「いや……だから、俺は先輩の命を奪いたくないから言う事を聞いてくれと繰り返しているんです」

憂いの表情を見る限り、ライガが本心を打ち明けているのは明白だ。

「もしも……もしもだよ? それでもイヤだって言う事を聞かなかったら?」

しばらく顔を伏せて考え込んだ後、やがて彼はこう答えた。

「そうなったら観念して死んでもらうしかない。あるいは……俺も男だ……」

その後の言葉が続かないのか口をもごもごさせていたが、何とかライガは言うべき事を絞り出した。

「先輩の弱みを握って……いや! 何でもありません!」

言葉の途中で彼は首を横に振り、懸命に発言を否定しようとする。

彼の中にある「欲望」を察したメルリンは不憫な姿に哀れみさえ抱いていた。

そして、これが彼女が覚悟を決めるキッカケとなった。

「分かったわ、君たちが何をしてどのような道を進むかは知らないけど、私もその先にある『何か』を見たいと思う」

別にスターライガに感化されたわけではない。

ただ、ライガの悲しむ姿などルナールが望んでいないからだ。

それに、ここで正しい選択を行わなければ一生姉妹と再会できなくなると悟ったからである。

「メルリン先輩……ありがとう! またルナール先輩たちと一緒になれるなんて……高校時代を思い出すと……あの頃が懐かしいんです、平和だったあの日々が……!」

気が付くとメルリンの腕は既に束縛が解かれていた。


50年以上も前の話だ。

国内屈指の名門高校に入学したライガはオロルクリフ4姉妹やシャルラハロート姉妹と出会い、彼の人生で最も豊かな時間を過ごした。

学生生活の中で2歳年上のルナールに恋焦がれ、人生で大切な事の多くを彼女から学んでいる。

互いに惹かれ合っていた二人は将来結婚することを夢見ていたが、やがて始まった戦争により関係は破局を迎えた。

その後ライガは別の女性(=今の妻)と知り合い結婚したものの、復縁を信じていたルナールは見合いの話を断ってまで独身を貫いていたのだった。


「うんうん、やっぱライガ君は笑顔が一番だよ!」

そうやって二人で笑い合っていると突然部屋の扉がガチャリと開かれ、「相方」ことレガリアがひょっこりと顔を覗かせていた。

「どうやら穏便に解決したみたいね」

彼女にしては珍しい少々イジワルな笑みを浮かべている。

「げっ、レガリア!? いつからいた!?」

「ずっと扉の前にいたわよ。どうせ今日は暇だった……わけじゃないけど」

メルリンと話していた時に感じていた微かな気配はどうやらレガリアのことだったらしい。

部屋に入ってきたレガリアはメルリンへそっと右手を差し出した。

「お久しぶりです、メルリン・オロルクリフさん。今更名乗るまでもありませんが、レガリア・シャルラハロートと申します」

「ええ、まだ状況が飲み込めていないんだけど……とりあえずよろしくね」

「本当ならスターライガ加入にあたって私が説明を行うべきですが、あいにく大きな仕事のブリーフィングがあるので……ライガ!」

「大きな仕事だって? 俺はそんなの初めて知ったぞ」

ライガは肩をすくめながら呆れたように首を横に振る。

「元々はそれを伝えるためここに来たんだけどね。とりあえず、今日のところはメルリンさんを帰してあげなさい。それが終わったらブリーフィングルームにリリカさんとリリーを連れて……ああ、そうだ」

何かを思い出したかのようにレガリアはメルリンの方を振り向き、優しく微笑んだ。

「ごめんなさい、感動の再会は別の機会でよろしいかしら?」

「仕方ないわ。見た感じ貴女もライガ君も忙しそうだし、今日は帰ってから色々考えないとね……」

その後、ライガに連れ出されたメルリンは今度こそメイヤに駅まで送ってもらったという。

だが、彼の仕事はまだ終わらないのだ。


スターライガ本部に新たに設置されたブリーフィングルーム。

この部屋にレガリア、ライガ、リリカ、リリーの4人が集まっていた。

「さて、まず最初に断っておくと今回ライガを使う予定はありません」

本人が反応するよりも早くリリカとリリーの視線が突き刺さる。

「え!? 出撃しないのに連れて来られたのかよ?」

「出撃も何も今度の仕事は災害復旧よ。貴男を連れて行ったら戦闘力が過剰になるじゃない」

今から一週間ほど前、オリエント連邦東部を襲った季節外れの大雨により山地で土砂災害が発生した。

山地は住宅が少ないため死傷者こそ出なかったものの、再発防止のためには早急な対策が必要である。

被害を受けた自治体は既に行動を開始しており、重機が使用できないような場所では軍と協力して対策工事を行っている。

こういった状況でこそMFの人型と機動性が利点として現れ、「戦うための道具」以外の使い道が見い出せるのだ。

「なるほど……でも、軍人さんたちがいるならリリーたちが出る必要は無いんじゃない?」

リリーの言う通りこれだけならわざわざスターライガに頼む必要性は薄い。

自治体との連携は当然軍のほうが得意としているからだ。

だが、オリエント連邦には上流階級の所有する「私有地」が数多く残っていることを忘れてはならない。

たとえ政府であっても無許可で私有地へ立ち入るのは望ましくない。

上流階級はそれほどまでに多大な影響力を持っているのである。

今回、スターライガへ依頼してきたのもオリエント連邦東部のヘルヴェスティア市を牛耳る一族であった。

「ヘルヴェスティアに拠点を置く一族ねえ……ということは依頼主は『あそこ』だね」

これまで黙って話を聞き、専用タブレットPCに表示されるテキストデータを眺めていたリリカがそう呟く。

上流階級同士の交流は結構な頻度で行われており、彼女の言う「あそこ」とオロルクリフ家は100年以上の長きにわたる同盟を結んでいるほど縁が深い。

そして、「あそこ」とシャルラハロート家も同じくらい強固な同盟関係で政府と互角に渡り合ってきた歴史を持つ。

「正直な話、今回の仕事は我が一族と依頼主のプライベートなものよ。そういった事に触れたくない人は降りても構わないわ」

時に政府へ介入できるほどの影響力を持つ上流階級を好く思わない人たちはいないことも無いが、オリエント連邦では少数派である。

「俺は降りないぜ。まあ、今回はベンチ入りだから関係無いが……」

「私は……降りると言っても無駄だろうね。オロルクリフ家の人間が参加することはスターライガの社会的信用を確立するうえで重要だから」

さて、残るは4人の中で唯一の非上流階級出身者であるリリーの決断だ。

「別にリリーは上流階級のことには興味無いけど、『仕事』としてはちゃんと参加するよ」

彼女のようにオリエント人は上流階級の存在をそこまで意識することは少ない。

むしろ、上流階級の是非に執着しているのは国外の知識人たちであろう。

「よし、ではこれより詳細な説明に入るわ―あ、ライガはもう帰ってもいいわよ」

残念ながら今回出番の無いライガは本部で引き続きお留守番である。

ただ、彼にはルナールとメルリンの面倒を見てもらわなければならない。

「ああ、じゃあ帰る」

「大丈夫、リリカさんたちは責任を持って私が守るから」

彼が帰った後も残る3人はブリーフィングを続け、夜遅くまで来たるべき仕事への準備を進めるのであった。


新たなる仲間と最後の適格者、約束の時は既に近付いていた。

ヴワル中央駅

オリエント連邦の鉄道網の中心となる国内最大の駅。

地下には高速鉄道の車両基地が設置されている。


上流階級

オリエント連邦は21世紀に入った直後まで貴族社会で成り立っていた。

2024年の法改正によって貴族制は廃止されたが、かつて貴族として扱われていた一族による政財界への影響力は今でも強い。

シャルラハロート家やオロルクリフ家、ライガの母方の家系であるシルバーストン家は旧世紀まで遡れるほど長い歴史を持っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ