【27】ニンジャ見参!(前編)
霧に包まれた森の中をリゲルとルミアのスパイラルが奔る。
彼女らの機体は暗色系の塗装を施しているため、高度を上げるよりも地上に留まる方がカモフラージュ効果が高い。
一方、敵機もバイオロイドのユーケディウムとは異なる黒色を纏っており、濃霧の中を低空飛行している姿を時折視認できた。
「リゲル、私が援護射撃をしてやるよ! どうせお前は拳一つで戦うんだろ?」
ルミアの駆るスパイラル7号機は強襲戦を想定した「Esステルスパック」を装備している。
ADVPの恩恵で高い推進力を誇る7号機は本来近距離戦に向いているが、今回はアサルトライフルや無反動砲といった射撃武装を携行しているため援護射撃に徹することもできる。
もっとも、乗り手のルミア自身は格闘戦を得意としているのだが。
「ならば僕は急上昇してからのダイブ攻撃で仕掛ける。その間の牽制は任せたよ」
リゲルの搭乗するスパイラル6号機に装備されるADVPは「Esインファイトパック」。
レガリアのスパイラル1号機が装備する「インファイトパック」の量産型にあたり、一部のサブスラスターを塞いだ代わりに防御力を高めた形状へ変更されている。
また、6号機は胸部及び手足の末端部に増加装甲を施す特別な改修が行われており、ある意味ストック仕様から最もかけ離れた機体となった。
「よし、任された……行ってこい!」
ルミアの返事と同時にスパイラル6号機はフルスロットルで急上昇、その間に彼女は無反動砲へ持ち替え敵機を照準に捉える。
肉眼での照準修正がほぼ不可能な中、ルミアは自身の経験と機体側の電子制御を頼りに最適な発射タイミングを探る。
そして、「勘」が囁いた瞬間、彼女はトリガーを引いた。
オリエント国防軍には「国家戦略室」と呼ばれる諜報特務機関が存在する。
一般部隊や総司令部直属部隊とは異なる独自の指揮系統を有するこの組織は、主に正規軍が行なえない汚れ仕事を引き受けていると認知されている。
例えば、3年前に発生したアメリカ前大統領の交通事故死は公には「不慮の事故」とされているが、彼は反オリエント・親日政策を掲げていたことから「国家戦略室が影響力を危惧し暗殺した」という都市伝説がまことしやかに囁かれている。
ただ、真相は結局のところ公式な声明が出ない限り不明である。
……とにかく、国家戦略室も何かしらの意図が有って研究施設跡地を狙っているらしい。
「ふっ……この天候は隠密行動が要となるニンジャには極めて好都合でござる」
以前サイヨウ市の一件でライガたちを助けてくれたドラオガ・イガ。
彼女の正体は国家戦略室に所属するMFドライバー兼エージェントだったのだ。
「へぇ、ニンジャってそんなものなんですか?」
忍者を知らないであろう部下―ドレイク・ハウリングが尋ねる。
迂闊に忍者関連の話を隊長へ振ってしまうと……。
「そう、そもそもニンジャというのはアスカ時代やエド時代のニッポンで活躍した―」
こうなってしまう。
全員に当てはまるワケではないが、マニアという人種は話が長いのである。
「隊長、ウンチクはいいので指示をお願いします」
もう一人の部下であるフェンケ・ヴァン・デル・フェルデンが冷静にドラオガの話を遮る。
事実、レーダーでは敵機を既に捕捉しており、片方が急上昇していった意図も見抜いていた。
「むぅ……研究施設など拙者一人で十分。ドレイクとフェンケには雑兵の相手を頼みたい」
ニンジャマニアなのが玉に瑕であるが、ドラオガの軍人としての能力は非常に高い。
総司令部直属部隊を率いるエレナと互角の操縦技術を持つとされており、両者の拮抗した戦いは総司令部直属部隊と国家戦略室の権力争いにも影響している。
「心眼センサー発動! 全機、散開して各個撃破に努めよ!」
残念ながら彼女らの駆るカワシロ・NGDN-XF105 シャドウブラッタに「心眼センサー」なる機能は搭載されていない。
だが、ドラオガの「心眼センサー」は複数方向からの攻撃を完璧に把握していた。
「無粋な……そのような攻撃、当たりはせぬ!」
地上から放たれた無反動砲の砲弾を最小限の動きでかわす。
次の瞬間、砲弾が破裂し無数の炸薬がシャドウブラッタに襲い掛かる。
「榴散弾だと!? なかなかやるじゃないか!」
最小限の回避運動を行ったことが災いして炸薬をもろに受けるカタチとなったが、命中精度が低かったため一部の装甲が剥がれる程度で済んだ。
「榴散弾による対空射撃の次は……高高度からの強襲であろう!」
彼女の予想通り、濃霧の中にハッキリとスラスターの蒼い光跡が輝いて見えた。
それからわずか数秒後、蒼い流星がシャドウブラッタに降り注ぐ。
が、ドラオガはこの攻撃さえ完璧にかわしてみせた。
「なにィ!? 私の流星キックが掠りもしなかったのか!?」
リゲルが驚愕するの無理はない。
これだけの濃霧だと視界に入った時は既に手遅れの可能性が高く、そこから回避運動をとっても大抵間に合わない。
しかし、ドラオガはわずか情報から敵の戦法を予測し、それを見事的中させて被害を最小限に抑えた。
これはベテランドライバーであっても極めて難しい行動である。
……まあ、急減速による強烈なGが掛かる中で冷静に状況を考察するリゲルも相当のバケモノなのだが。
「隊長、ここは私たちが引き受けます! 早く研究施設へ!」
ドレイクとフェンケがフォーメーションを崩し、各個撃破へと移行する。
部下の献身的な行動に応えるべく、ドラオガはスロットルペダルを踏み込み機体を急がせるのだった。
カワシロ
重工業を中心とする複合企業「ナトリ重工」のMF部門のブランド名。
他には造船部門の「ナガラ造船」や自動車部門の「NITORI」が存在する。
フェンケ・ヴァン・デル・フェルデンは現代オリエント語に従うと「フェンケ」がファーストネーム、「ヴァン・デル」がミドルネーム相当、「フェルデン」がファミリーネームとなっています。
ちなみに、オランダ語における「ヴァン・デル(オランダ語読みだとファン・デル)」は前置詞ですが、現代オリエント語とは違う言語ということにしておいてください……。




