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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【24】幻奏(前編)

サイヨウ市―。

オリエント連邦中部と南部を隔てる「オリエントアルプス山脈(別名テング山脈)」の北側の(ふもと)に位置する都市で、広大なヴワル湖を見渡せることから景勝地として人気が高い。

また、オリエント建国時から存在する5市(ラッツェンベルグ、ヴワル、サイヨウ、エソテリア、スワ)の一つであり、市内には歴史的建造物も多数現存している。

これら歴史的建造物は「上流階級」と呼ばれる名家が維持管理しており、そのためサイヨウ市に屋敷を構える一族も少なくない。

ルナールやリリカの家系であるオロルクリフ家もそういった一族であり、郊外のストラディア区に私有地を持つオロルクリフ家は元々ヴワル市郊外をルーツとしていた。

そのルナールが今回演奏会を行う「サイヨウ国際コンサートホール」は収容人数1994人を誇る国内最大のシューボックス型コンサートホールで、外観は周囲の歴史的建造物に合わせた古風なデザインを採用している。

内部で非常事態が発生した際に行動するライガ、メイヤ、リゲルの3人は観客に扮してコンサートホール内へ潜入しており、屋外でMF戦に対応するレガリアとルミアはプレハブ小屋に偽装された場所で昼食をとりながら待機していた。

ちなみに、この2人は出入口の監視も担当しているため2箇所に分かれて陣取っている。


「へぇ、凄い客入りだな。ありゃ客席に収まり切れないんじゃないか?」

マク○ナル○で買ってきたビッグ○ックを頬張りながらルミアはコンサートホールの出入口を眺めていた。

「本来は午前と午後の2回公演だったみたいだけど、客が多いから急遽夜を加えた3回公演に変更したみたいよ」

一方のレガリアはメイヤの手作り弁当を食べていた。

たこさんウインナーやうさぎリンゴで飾られた中身はまるで小学生のお弁当だが、栄養価と量はオリエント人の成人女性に見合う非常に優れたメニューだ。

「なるほど、流石は『世界のルナール』ってワケね。昼からぶっ通しで入ってる3人組は音圧で死ぬんじゃないか?」

当初の予定では午後の部だけ(午前の部はリリカがいたため)活動するつもりだったが、演奏会自体のスケジュール変更により昼から夜までコンサートホールにいなければならなくなった。

無論、その点については既に対策済みである。

「大丈夫よ、夜の部は私たちが入ればいいからね」

世界一の億万長者であるレガリアには当然「オロルクリフ家から」招待状が届いており、仮にバイオロイド襲撃の可能性が無くとも演奏会自体には足を運ぶつもりであった。

また、演奏会の主役たるルナール名義の招待状も存在しているらしく、ライガはそちらを受け取っていたらしい。

何故かVIP待遇の来賓として扱われている彼はともかく、他の2人を酷使するつもりは無い。

そこで夜の部に関してはメイヤたちと入れ替わりでレガリアが入るつもりなのだ。

「……もうそろそろ始まるな。ま、こっちは監視を怠らないよう気楽に待機するかぁ」

無線越しでも分かるほど声音がリラックスしているルミアに対し、レガリアは何とも言えない不安を抱いていた。

「(内部の事は頼んだわよ。白兵戦はそっちに賭けているのだから)」

現地時間の14時、世界最高のヴァイオリニストの一人による演奏会が始まった。


護衛対象になっているルナール・オロルクリフは「選りすぐりの警察官が付いている」とだけ聞かされており、スターライガの事は全く知らない。

そのため、正式に招待を受けているライガ以外はステージ裏など見えない場所で待機している。

一方、VIP待遇の来賓であるライガはステージ正面という最も護衛に適した位置を陣取っていた。

ただ、ライガがこの席を取ったのはそんな実務的な理由ではない。


開演直前、ルナールは控え室でリリカと談笑していた。

彼女らの間にはもう一人姉妹がいるのだが、仕事の都合で今回は演奏会自体へ訪れていない。

「そういえば、姉さん。さっき来賓席を気にしていたけど誰か探しているの?」

答えは分かっているものの、リリカはワザとらしく姉へ質問をぶつける。

「ん、いや……来賓席の状況について確認していただけだ」

確かに、ルナールは嘘をついているわけではないが、本心はどこか別の場所にあるのだろう。

言葉の歯切れが悪い時、人は大抵何かしらの隠し事をしている。

「……ふふっ、本当はライガを探していたんでしょ?」

「ああ……相変わらず君は人の考えを読むのが上手いな。彼は小柄だから少々見つけ辛いんだ」

降参したと言わんばかりにルナールは笑った後、彼女は控え室に設置されているテレビへ視線を移した。

今回の演奏会は主要動画サイトでストリーミング配信されており、演奏が行われる際には大勢の人々がルナールの奏でる音へ耳を傾けることになる。

残念ながら会場のカメラマンは観客席をズームアップしてくれず、来賓席にいるはずの一個人を探し出すのは無理がある。

「彼ならちゃんと来ているよ。ステージ正面―姉さんが立つ位置の目と鼻の先を探してみて」

リリカはライガが来賓席の中でも一番の特等席を与えられていることを知っていたのだが、なるべく姉に対して教えないようにしていた。

後輩且つ元恋人である彼の事を思い浮かべている時のルナールの演奏は極限まで研ぎ澄まされ、その時に初めて「世界のルナール」と評されるほどの音色を奏でるからだ。

別に最初からバラしてもよかったが、自分で探させた方が良いと思いあえて情報を伏せていたのだった。

「そうか……いや、何も言うな。私は常に100%の演奏を行えるよう努力している……だが、今日は100%を越える―『∞の音』を奏でられるかもしれない」

そう語るルナールの瞳は絶対的な自信に満ち溢れていた。

今日彼女の演奏を聴く人々はとても幸運に違いない。

自信を持っている時の「∞の音」は言葉では言い表せないモノだからだ。


「ルナールさん、開演5分前です」

控え室でやって来たコンサートホールのスタッフがそう伝えると、ルナールは傍に置いていたヴァイオリンケースを持ち上げつつ席を立った。

「姉さん、今更言うまでもないと思うけど……頑張って」

「妹からの応援はいつだって嬉しいものだよ……」

リリカの言葉を聞いたルナールは少し微笑んだ後、自らへ言い聞かせるようにこう告げるのだった。

「さて、最高の大舞台へ上がるとするか……!」


当時のルナールは知る由も無かっただろう。

これから起こる出来事が彼女の人生―この世界の未来を大きく変えることを。

エソテリア、スワ

オリエント連邦の都市。

エソテリア市はヴワル市とウェルメンハイム市の間、

スワ市はサイヨウ市の南に位置している。

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