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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【22】オリオンのトライスター(後編)

レムリーズとマルキが放つ攻撃を全てかわしながら、サニーズは隊長機へ向かって突き進んでいく。

時間稼ぎだけを狙うなら指揮官を素早く仕留め、連携を切り崩すべきだと判断したからだ。

「どこの部隊かは知らんが、立ちはだかるなら容赦はしない!」

スパイラル8号機の主兵装である光学格闘武装「ビームレイピア」の凄まじい連撃が指揮官―エレナの駆るMFへ襲い掛かる。

ビームレイピアは刺突(しとつ)に特化したビームを形成し、貫通力は光学格闘武装の中でもトップクラスに位置する。

使いこなすには相応の技量が要求される武装だが、サニーズは誰よりもこの武装の扱いに長けていた。

「「隊長っ!?」」

サニーズの圧倒的実力を目の当たりにしたレムリーズたちは思わず叫んだが、エレナはあくまでも冷静に連撃を捌いていく。

だが、彼女にも余裕があるワケではなかった。


「(流石は元エースドライバー……一瞬でも隙を見せれば、致命的な一突きを放ってくる!)」

総司令部直属部隊が運用するマドックス・SPTL-17S スラッガーフェイスは非常に高い性能を持つ少数量産機だが、ドライバーに合わせた綿密な調整が行われているスパイラル8号機と真正面から戦うのは厳しい。

事実、ビームレイピアの連撃を受け止めたシールドは既にズタズタとなり、防御性能が大きく低下していた。

本来ならスラッガーフェイスとスパイラルの性能は同程度のはずだが、それだけでは説明しようの無い「差」をオリオン隊へ突き付けた。

「10回遅い! 100回遅い!」

「くそっ、まだ終わらんよ!」

エレナは最早使い物にならないシールドで辛うじて攻撃を防ぎ、ビームソードによる反撃で逆にスパイラルの装甲を切り裂いた。

当たったのは攻撃力が低下する先端部であったが、軽量化の代償として装甲を薄くしているスパイラル8号機の場合は駆動系までダメージが届いたらしい。

「悪いね、あまりにも技量差がありすぎて少々遊び過ぎたみたいだ」

動作が鈍い右腕を労わりつつもサニーズは不敵な笑みを浮かべ、鉄屑同然となったシールドを投げ捨てたエレナを挑発する。

本当に遊んでいたワケではないが、まだ若いうえに真面目な性格のエレナは見事に乗せられてしまった。


「遊び……? 戦いは遊びじゃないんだぞ!」

「挑発を挑発と見抜けないほど熱くなって……貴様、まだ青二才だな!」

ここからキレたエレナによる怒涛の反撃が始まる―しかし、彼女の攻撃は明らかに冷静さを欠き、ビームレイピアを利き手と異なる左へ持ち替えたサニーズに全て捌かれていた。

「ヤバいな、隊長を助けないと!」

「レム! 高度差を活かして挟撃を掛けるよ!」

エレナを援護できる範囲まで近付いたレムリーズとマルキは高空と低空にそれぞれ別れ、上下からの同時攻撃でスパイラル8号機を狙う。

「ちっ、挟撃とはやってくれる!」

流石のサニーズでも二方向からの攻撃を回避しつつ敵機を狙うのは難しく、距離を取るため一旦低空へと逃げた。

幸い、彼女が大立ち回りを演じたおかげでライガたちが逃げるだけの時間は稼げた。

目的を達成した以上、最早戦闘を続ける必要は無い。


「(さて、推進剤の残量もきついしそろそろ撤退するか……)」

高度を落としていたサニーズはそのまま方向を変え、ヴォヤージュ方面へと機体を急がせた。

ただ、普通に飛行すると恐らく道中で推進剤が尽きてしまう。

かと言って地上を移動するのでは帰るまでに日が暮れるだろう。

そういった状況を想定し、オリエント国防軍出身のMFドライバーは推進剤を節約しつつ飛行状態を維持する「リフト&コースト」という操縦技術を学んでいる。

大気圏内では揚力と惰性を活かして飛躍的に航続距離を延ばせるが、当然ながら機動力が低下し戦闘中は敵機に追い付かれるリスクが生じる。

敵を振り切るため地表を掠めるほどの超低空飛行を行っていたサニーズだが、そんな彼女へ聞き慣れた声の通信が入ってくる。

「サニーズ! サニーメルの時の借りを返してやるよ!」

声の主はヴォヤージュ宇宙基地にいるはずのブランデルであった。


「お前……ちゃんとライガと合流したのか!?」

「合流したも何も、アイツの頼みで助けに来てやったんだけど」

「なるほど、彼はここまで状況を想定していたというわけね」

ブランデルの援護―ではなく、それがライガの指示であったことにサニーズは内心驚いていた。

確かに、彼は軍にいた時から一手先を読む「直感」に長けていたが、それはあくまでも戦術レベルの話であり戦略レベルの視野では無かったからだ。

「それはともかく、フライングスイーパーに乗せてやるから何とかして高度を上げて!」

フライングスイーパーはその形状ゆえ空力的に少々敏感な傾向があり、考え無しに地表へ近付くと体勢を乱す恐れがあった。

安全性を考慮するなら25m以上の高度で合流するのが望ましい。

「言いたいことは分かるが、後ろの奴が鬱陶しいんだ!」

反転した時は1機しかいなかったのに、気が付くとオリオン隊全機がスパイラル8号機を追いかける状況になっていた。

さすがにヴォヤージュ宇宙基地へ戻るまで彼女らを引き連れるワケにはいかず、どこかのタイミングで追い払う必要がある。

「OK、私がちょっと遊んでやるかな。ちょうどスパイラルのテストもやりたかったしね」

サニーメルでのテスト後、ブランデルが乗るスパイラル3号機は修理を兼ねた改修が施された。

接近戦を得意とする彼女に合わせて装甲を厚くし、バックパックのADVPは2基のフレキシブルアームを持つ「クローアームパック」を採用している。

両腕とは異なる可動範囲を有するフレキシブルアームはドライバーの発想次第で様々な戦法に応用可能であり、現状ではMFの装備として普及するか否かの過渡期にあるといえる。

だが、ブランデルは既にフレキシブルアームを用いた新たなMF戦のヴィジョンを思い描いていた。

「相手の連携が少しでも崩れたらすぐに合流だ。このままじゃ地べたを這いずり回るしかなくなる」

事実、スパイラル8号機の推進剤残量は限界値まで減少しており、サブスラスターの利きも明らかに悪くなっていた。

「了解、それじゃアンタのお望み通り連携を崩してくるよ」

そう言いながら首と肩をほぐし、ブランデルは気合を入れ直した。

「03、交戦(エンゲージ)!」

深紅に染められたスパイラルはオリオンの三連星(トライスター)へ突撃するのだった。


「来た! 1機増えたところで!」

「待て、作戦目標は既に達成された。撤退するぞ」

はやる気持ちを抑えられないレムリーズをエレナが窘め、撤退を促した。

当然ながら彼女は隊長の指示に対し不服を申し立てる。

「ですが……敵機はたかが2機です! まだ我々のほうが有利なのでは!?」

レムリーズの言いたい事も分からなくは無い。

見た目の数ではまだオリオン隊のほうが優勢だからだ。

だが、それは彼我(ひが)の実力が同等の場合である。

「こっちはたかが1機に3機で挑んで全く致命傷を与えられなかったんだぞ。敵機が増えたら逆に追い詰められるのはこちらかもしれん。3対2ではもはや数的有利など存在しない」

スターライガと戦ううえで最も留意すべきこと―それは彼女らの単機での戦闘力がMF1小隊に匹敵するという事実である。

スターライガのMF2機を相手にするのはMF小隊2つ(6機)と戦うのに等しい。

ここまで説得を受けたことで、レムリーズはようやく隊長の指示に納得するのだった。

「……了解、もっと長期的な視野で戦況を見るよう精進いたします」

「目に見える結果が欲しいのは分かるが、敵を落とすより生き残ることのほうが大事だぞ」

エレナは僚機へ撤退を促し、自身を殿(しんがり)とするフォーメーションを取らせて北へ進路を変える。

それを見たブランデルはすぐにオリオン隊の意図を察した。

「あっ! 逃げるのか!?」

完全に戦う気であった彼女はいきなり出鼻を挫かれてしまった。


「今回は様子見だったんだな。私たちも戻るぞ、ブランデル」

サニーズの言う通り、今回のオリオン隊は手を抜いたとは言わないまでも、確かに本気で戦っていたとは思えない。

おそらく、次に戦う時こそ彼女らは本気で殺しに掛かってくるだろう。

軍を敵に回したという事実をレガリアへ教えなければならない。

「ええ、地上に降りるからちょっと待ってて」

フライングスイーパーを慎重に開けた場所へ着陸させ、スパイラル8号機を乗せた後再び離陸しヴォヤージュ宇宙基地を目指す。

そこで待っているはずのライガやリゲル、ルミアと再合流し、使用した機材とは別ルートでヴワル市まで戻る予定だ。


ライガたちが不在の間も進んでいた秘密基地建設と合わせ、スターライガの戦力は着々と整備されつつあった。

機動力

MF分野における機動力とは主に速度性能を指す。

旋回性能や姿勢制御能力が「運動性」と呼称され、

機動力と運動性を総称して「動力性能」という。


ブランデルやレムリーズのように愛称があるキャラは、

地の文では原則として略さないようにしています。

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