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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【21】オリオンのトライスター(前編)

スパイラル2号機の推進剤不足を懸念したライガたちは結局フライングスイーパーを呼び戻し、それにサニーズ機と一緒に乗って帰還することとした。

リゲルは当初サニーズの機体に掴まっていたが、流石に苦しかったためかフライングスイーパーの小さなコックピットへ移っている。

「しかし……ルミアにリゲルと昔一緒に戦った仲間たちが揃いつつあるな」

MFのコックピットに待機しているとはいえ、すっかりくつろいでいるサニーズが感慨深げに呟く。

「もしかしたらお前の嫁さんも仲間になったりしてな!」

「馬鹿言うんじゃない、彼女は今の生活に満足しているはずだ。今さら死と隣り合わせの世界へ戻ってくるほどバカではないだろう」

サニーズの妻も元オリエント国防空軍所属のMFドライバーであり、ライガたちには及ばないものの高い実力を持っていた。

現在は子どもの頃からの夢であったパティシエとして活動しているらしく、ライガもお土産として彼女が創ったであろうスイーツを貰ったことがある。

オリエント特産のミントを用いたジェラートは普通に美味しかったが、その時は店の名前を聞き損ねていたのだ。

「確かに、アイツのジェラートをもう一度食べたいし早死にしてもらうのは困るぜ」

「ん、妻のスイーツを食べたことあるのか?」

無線越しなので表情こそ窺えないが、声音(こわね)を聞く限りサニーズは結構嬉しそうだ。

やはり本来は愛妻家で家族思いな心優しい人物なのだろう。

「ああ、甘い物は好きだしな」

「そうか……少し意外だ」

「辛い料理は口の中が痛くなって苦手なんだよ」

いかに激辛料理が苦手であるかを力説するライガだったが、突然彼の脳内を電撃のようなモノが襲う。

「どうした、ライガ? 激辛料理の話で頭まで痛くなったか?」

「いや……ここ最近色々な事がありすぎて、少し疲れているのかもしれない」

一応サニーズにはこう説明したものの、疲れた時の頭痛とは明らかに感覚が異なっていた。

「(頭痛―じゃないんだ。もっとこう……何かの前兆みたいな……)」

彼の疑問が払拭される瞬間は目前に迫っていた。


総司令部直属部隊―。

オリエント国防軍においては通常の指揮系統から独立し、総司令官が直接指揮を執る部隊を指す。

立場上秘密作戦に従事することも多いため、その存在は軍内部でも厳しい情報統制が敷かれている。

少なくとも存在自体は確実であり、軍の公文書でも組織図に含まれている。

国防空軍は対バイオロイド戦闘を国内の基地に駐屯する部隊へ任せる一方、調査及び本拠地捜索を直属部隊に行わせている。

普通の実戦部隊がバイオロイド相手に戦えているのは直属部隊が収集したデータの存在も大きい。

だが、直属部隊の一つである第2航空師団第12特殊遊撃隊―通称オリオン隊には他の部隊と異なる任務が与えられた。

オリオン隊はその任務を遂行するため、普段所在しているラッツェンベルグ空軍基地から遠路遥々ヴォヤージュ宇宙基地までやって来たのだ。

隊長であるエレナに率いられたMF小隊は既にヴォヤージュ宇宙基地を発ち、スターライガとの会敵に備えていた。

「全機、機体状態の最終チェックを行え」

「オリオン2、完調とは言えませんが戦闘に支障はありません」

「こちらオリオン3、いつでも戦えます!」

エレナの部下であるオリオン2―レムリーズ・ラドルクス大尉とオリオン3―マルキ・コテツ大尉の応答を聞きつつ、彼女も自身の機体を確認していく。

燃料、弾薬―全て問題無い。

「レム、マルキ……いいか、相手は相当の手練れだぞ。戦闘力を確認してデータに収めたら素早く撤退だ」

いくら消耗しているとはいえスターライガの技量は非常に高い。

真正面から戦って勝てる保証は無い。

それに、今回の任務にスターライガを倒すことは含まれていないのだ。

必要以上に相手を深追いしないのがエレナのポリシーでもある。

「ふう……流石にスターライガと戦うとなると心臓がドキドキしてくるよ」

「平気平気! スターライガの人たちだって人外じゃないし、多分殺されはしないって!」

緊張を隠さないレムリーズをマルキが励ましている。

こういった行為が必要なあたり、彼女らはまだ若い。

だからこそ、少し年上であるエレナが精神面でもフォローしなければならない。

「もうそろそろ相手のレーダーも私たちを捉えているはずだ。全機、交戦(エンゲージ)しろ!」

その言葉と同時に暗色系の迷彩を纏う3機のMFが推力を一気に上げ、スターライガへと牙を剥いた。


一方、ライガたちも敵機の接近自体は把握していた。

予想外だったのはレーダー上では第三勢力を意味する緑色で表示されているにもかかわらず、IFFには応答しない敵機となっている点である。

つまり、接近してくる連中―オリオン隊は第三勢力の皮を被った敵機なのだ。

そして、懸念事項はもう一つ存在する。

「困ったな、高機動戦闘ができるほど推進剤は残ってないぞ」

先程の戦闘でライガのスパイラル2号機は既に推進剤を消費しており、迂闊にスラスターを使えなくなっていた。

地上ならともかく、空中戦での推進剤切れは文字通り「的」になる可能性がある。

どんなに技量が高いドライバーでも姿勢制御能力が低下した機体で空中戦を行うのは難しい。

「ライガ、貴様はフライングスイーパーと一緒に退避しろ!」

「おいおい、一人で1小隊を相手するつもりか!?」

確かに、サニーズのスパイラル8号機は推進剤も弾薬もあまり消費していない。

だが、未知の敵小隊へ挑むのは相当リスクが高い。

機体のほうはともかく、余計な仕事をしてドライバーを失うのだけは勘弁したい。

「心配するな、相手に少しちょっかいを出して撤退―これで構わんのだろう?」

「自信があるなら別に倒してしまってもいいぞ」

「……リゲルのことは任せた。またヴォヤージュで合流しよう!」

そう言うとサニーズはMFとフライングスイーパーの密着状態を解除し、自ら空中へ機体を投げ出す。

「(さて、バイオロイドの連中より歯応えのある相手なら嬉しいんだがな!)」

スラスター推力を最大まで上げ、蒼い光跡を残しながら戦場の空へ奔るのであった。

ラッツェンベルグ

オリエント連邦の首都。

英語圏では「ラッツェンバーグ」とも呼ばれる。

規模的にはヴワルより小さいが、首都機能を全て持つ都市である。

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