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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【20】羽化

フライングスイーパーの推力を最大まで上げて敵機を追いかけるライガ。

しかし、敵機も全力でとばしているのか思ったほど追い付くことができない。

そこで彼は一つのアイデアを思いつく。

現状デッドウェイトになっているスパイラル8号機を投下し、少しでもフライングスイーパーを軽くしようというのだ。

幸い距離的には投下しても問題ない数値になっており、敵機が1機なら対処も容易だ。

運が良ければスパイラル8号機へ気を取られている隙に撃墜できるかもしれない。

東洋には「案ずるより産むが易し」ということわざがある。

とにかく、やってみる価値があるなら即座に実行しよう。

「聞こえるか、サニーズ! 機体を今から落とすぞ!」

「……何? 何を……って!?」

MFとスマートフォンの相互通信が最適化されていないためか、特にスマートフォン側のノイズが酷い。

ライガがサニーズの声を聞き取れていないように、彼女も彼が何を言っているのか分かっていない可能性が高い。

通信能力の安定化をリリカ先輩に頼もうと思いつつ、今度は分かり易いようゆっくりと話す。

「お前の機体をエアボーンさせる。出撃前に教えた方法で座標を指示してくれ」

「この距離で……にエアボーンでき……か?」

相変わらずノイズが混じっているものの、サニーズが何を言いたいかは大体分かる。

「援護は任せろ。少なくとも機体を戦闘状態へ持っていくまではサポートできる」

「おい! ……は……機いる!?」

「1機だ。1対1なら絶対に負けない」

「……そうだな、貴様の……を信じよう。援護……むぞ!」

その言葉を境にノイズが悪化したため、これ以上の通信は不可能と判断し回線を切る。

HISを確認すると指定座標の情報が届いたことを知らせるメッセージが表示されていた。

それを見たライガはすぐに投下のための作業を始めるのだった。


フライングスイーパーのウェポンベイが開き、内部に格納されているスパイラル8号機が姿を覗かせる。

同機(スパイラル)を支えるフレキシブルアームを外へ伸ばし、完全に機外へ露出させてから切り離す。

こういった方式になっているのは投下した物体が母機へ直撃する事故を防ぎ、安全且つ確実に任務を遂行するためである。

スパイラル8号機の自由落下を確認後はフライングスイーパーを無人操縦モードへ移行させ、ライガの乗るスパイラル2号機も続けて飛び降りた。

敵機は案の定8号機のほうへ注目していたが、2号機の存在を確認すると一瞬だけ行動に迷いが生じた。

その瞬間を見逃さないライガはレーザーライフルの弾幕を一気に浴びせる。

だが、8号機への流れ弾を避けたためか狙いが少々甘く、ユーケディウムに対しては一発も命中しなかった。

「(お前が何をしたいかは分かっている!)」

敵機が戦闘能力の無い8号機を攻撃すると判断したライガはレーザーライフルを連射しつつ距離を詰め、ビームソードで一気に斬りかかる。

今は少しでも敵機を8号機から遠ざけ、可能なら撃墜するのが先決だ。

妨害を食らったユーケディウムは新装備のレーザーライフルで8号機を狙撃しようとしたが、これはライガ機がシールドでライフルをはじいたため失敗に終わった。

彼が戦っている間にも8号機は徐々に指定座標へ近付いており、既に着陸態勢へ突入していた。


8号機が着陸態勢に入っていることは地上のサニーズからも視認でき、着陸後すぐに搭乗できるよう彼女はタイミングを見計らい隠れていた道場から飛び出す。

飛び出すとほぼ同時に視線の先へ8号機が降り立ち、申し訳程度に付いているグリップを掴みコックピットへ滑り込む。

ヘルメットを被りながら起動シーケンスのチェックを行い、シートベルトの装着も確認しスラスター推力を最大まで上げる。

その間にも敵機が攻撃を仕掛けてくるが、ライガが援護してくれたことで無事に飛び立つことができた。

ベースモデルよりも軽量化されたスパイラル8号機の上昇力は凄まじく、あっという間に戦場へ辿り着く。

「08、交戦(エンゲージ)!」

先程のお返しと言わんばかりにアサルトライフルの銃撃でユーケディウムへ襲い掛かる。

「おいおい、誤射で当てるのは勘弁してくれよ?」

「貴様がちょこまかと動き回らなければ当たらん!」

何だかんだ言いつつもライガとサニーズは巧みな連携攻撃で一気に形勢を逆転し、敵機を追い詰めていく。

そして、ライガ機の一刀と斬り返しがユーケディウムの両腕を切り落とし、戦闘力を奪うことに成功した。

「どうする、ライガ? トドメを刺すのか?」

「いや……選択権は奴に与えよう。別にバイオロイドが憎いワケではないからな」

そう言ってバイオロイドの乗るユーケディウムを睨み付けていると、彼女は機体を労わりつつ戦闘空域から離脱していった。


「さーて、あとは『アイツ』を拾って帰るだけだが……」

「結局リゲルはスターライガに引き入れるのか? 無理強いするのは嫌なんだけどな」

道場でリゲルと話をしていた限り、彼女が今の暮らしに充足感を覚えているのは明白だった。

だから、その環境を破壊したくないとサニーズは考えている。

「俺だって本心はお前と同じだよ。だが、リリーの妹を助け……バイオロイドとの戦いを終わらせるには少しでも戦力が欲しい」

何度も繰り返すが、現状ではバイオロイドと戦うための戦力が根本的に足りていない。

オリエント国防軍の協力を得られる可能性が無くなった今、戦力はスターライガが自前で用意する必要がある。

現役ドライバーの引き抜きは国防軍が強く警戒していることから非常に難しく、かといって日本空軍やアメリカ空軍のMFドライバー程度の技量ではライガたちとの連携が取れないだろう。

そもそも、他国の軍隊から人材を引っこ抜くと国際問題に発展しかねない。

だから、即戦力が欲しいのなら国防軍の退役軍人に頼るのが現実的な方法となる。

「しかし、私たちの技量なら1小隊レベルの戦闘力を発揮できるはずだが?」

オリエント国防空軍における1小隊はMF3機で構成されている。

つまり、単独で3機分の戦闘力を持つというのは相当な事である。

「おいおい、戦いは数だぜ? たとえ俺たちが小隊レベルの戦闘力を持っているにしても、いつかは物量作戦に出なくちゃいけない時が来る。指揮系統が維持できる範囲であれば戦力を充実させるに越したことはない」

「うーむ、確かに……前の戦争では数的不利に苦しめられたな。攻めるにしても守るにしても、数が多ければ楽にはなるか」

ライガたちが軍にいた頃に経験した戦いは国防軍側の準備不足もあり、戦争末期まで不利な状況が付きまとった。

侵攻してくる大量の敵機を迎撃する戦力が根本的に足りなかったからだ。

劣勢だった最も大変な時期を経験しているからこそ、彼らは戦力の重要性を理解しているのである。

「それに、あんなボロボロになった道場じゃ雨風をしのげないぞ」

そう言いながらライガは機体のマニピュレータで道場を指し示す。

確かに、穴だらけの建物で暮らすのは酷かもしれない。

そもそもこの状況を作ったのはスターライガなので、彼らが責任を負うというのが筋であろう。

「せめて道場の修復が済むまでの間だけでもリゲルを連れて行けないかな?」

ライガの必死の説得を聞いたサニーズはこれ以上反論しなかった。

「責任者は貴様だろ? 自分の意志で決めてくれ」

この言葉を聞いた途端、彼はニンマリと笑う。

「……ありがとう、俺の意志は自らの行動で示す」

「一応道場から離れるようにとは言ったが、具体的な避難場所は知らん」

「マジかよ、どうやって探そう―って、あれは誰だ?」

ふと地上へ視線を移すと、道場への階段を駆け上がっていく人影が見えた。

「あれはリゲルだよ! なんで戻って来たんだ!?」

人影を確認したサニーズは急いで高度を下げる。

「やったぜ。探し回る手間が省けたな」

彼女に続いてライガもヘルメットを外しながら機体の高度を落とすのだった。


戦闘の終わりを確認し、道場へ戻って来たリゲルは途方に暮れ膝をついていた。

「はぁ……勘弁してくれ、これじゃ師匠に怒られてしまうだろ……!」

改めて被害状況を確認すると、思っていた以上に建物はダメージを受けていた。

というより、避難した時よりも損傷が酷くなっている気もする。

道場は22世紀では希少な完全木造建築であり、もしかしたら下手に修復するより建築し直したほうが安上がりかもしれない。

だが、この道場はリゲルの師匠が自らのアイデアを取り入れさせた建物だ。

そもそも、修復するにしろ再建するにしろ今のリゲルに資金的余裕は無い。

そんな事を考えていると、突然後ろの方からスラスターの爆音―それに続いてガシャンという音が聞こえてきた。

振り返ると彼女が見たことの無いMFが2機鎮座しており、片方から見慣れた人物が降りてくる。

「すまないね、私たちのせいで大切な道場を壊してしまって」

「サニーズか……そのMFは?」

「こいつ? ああ、これは新しい相棒だ―まあ、私の所有物じゃないがな」

そう言いつつサニーズはスパイラル8号機の装甲をコンコンと叩く。

機体から降りる途中のライガは完全にスルーされている。

「そ、そうだ! サニーズはあくまでも『被雇用者』だからな!」

蚊帳の外に置かれていたライガがようやく会話へと加わった。

発言自体はともかく、彼の姿をリゲルは驚いたような表情で見つめる。

「どうした? 何か顔に付いてるのか?」

「いや……名前から想像は付いていたが、まさか君が関わっていたとはね」

ライガとリゲルは同じ時期に軍に所属していたが、二人は所属部隊や勤務地が違っていたため直接会う機会はほとんど無かった。

もしかしたら対面して会話すること自体が初めてかもしれない。

「そう思うよな? やっぱり『スターライガ』って名付けたヤツのネーミングセンスはどうかしてるぜ」

当人がいないのをいいことにライガはレガリアのネーミングセンスをディスり始めたが、サニーズが彼の耳を強くつねったことで中断させられてしまった。

「時間がおしているぞ! とっとと話の本題に入れ!」

「痛い痛い痛い! 痛いって言ってるだろ!」


サニーズの手を何とか払いのけ、自慢の耳を撫でながらライガはようやく本題を切り出す。

「……えーと、お前の道場を滅茶苦茶にしちゃったのはある意味俺たちの責任だから、リフォーム費用とその間の住居はこっちで用意する」

リゲルは静かに相槌を打ちながら話に耳を傾ける。

「ただ、一つだけ条件がある」

「条件?」

「……俺たち―スターライガの一員として共に戦ってくれないか?」

その言葉を聞いた瞬間、リゲルの視線がライガの瞳へ突き刺さる。

「……それはできない。あの戦争を最後に、僕は二度と人殺しのために自らの力は振るわないと決めたんだ」

「リゲル! 奴らは……バイオロイドは人間では―」

彼女を何とか説得しようとするサニーズを制止し、ライガは話を続けた。

「頼む……被害者であるお前を巻き込むのは本当に申し訳ないが、バイオロイドをこれ以上野放しにするのはこの世界のためにならない」

そして、彼はリゲルに対し頭を下げるのだった。

「待て! 頭を下げる必要は無いだろう?」

その姿に狼狽した彼女は思わずこう告げ、顔を上げさせる。

「うーん……そこまで言われるとなあ……確かに、道場の修復費用とかを負担してくれるのはありがたいが」

顎を撫でながらしばらく考え込んでいたリゲルであったが、どうやら結論を出したらしい。

「……分かった、条件に応じよう」

「本当か!? ありがとう、こちらこそ助かる!」

「だが、その前にやるべき事がある」

そう言いながらリゲルは正門の方へと向かっていく。

「なるほど……弟子の子たちにしばらく別れを告げるんだな」

「ああ、噂通り鋭い直感を持ってるね。全くその通りだよ」

自身の行動をライガが言い当てたのにさほど驚くことも無く、彼女は道場を出て子どもたちを避難させている場所へ向かっていった。

「おーい! 10分ぐらい経ったら迎えに行くからなー!」

リゲルに対し叫ぶライガの背後からサニーズが肩を叩く。

「なあ、アイツが具体的に向かった場所を聞かなくてよかったのか?」

それを聞いた彼は笑いながら彼女の手を肩からどけた。

「ははっ! 言われなくても分かるから―って、あれ? どうして俺はそこまで自信を持てるんだ?」

とぼけた表情を見せるライガとは裏腹に、その姿をサニーズは深刻そうな表情で見ていた。

「(ライガ……やはり貴様は『私たち』とは『違う』のか……?)」


ちょうど10分後、MFに乗り込んだライガたちはリゲルを拾い一旦ヴォヤージュ宇宙基地へ戻ることにした。

基地までやって来る予定のブランデルへ任務を引き継げば今回の仕事は終わりだが、ライガは何とも言えない不安を抱いていた。

リゲルの言う「直感」に起因するモノである。

「(このまま無事に終わればいいが……まだ一波乱ありそうだぜ、サニーズ)」

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