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【完結済み】MOBILE FORMULA 2101 -スターライガ-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部

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【19】蛍光の輝き(後編)

サニーズとリゲルの予想通り、雑木林の中にはバイオロイドのスナイパーが潜んでいた。

彼女は頑丈な木の枝に座ってスナイパーライフルを構え、狙撃の指示を待っている。

だが、木の幹から伝わってくる衝撃のせいでイマイチ集中できない。

下の様子を確認しようとした時、強烈な振動がバイオロイドを襲い地面へ叩き落とした。


敵に気付かれないよう慎重に林の中を行動していたリゲルはスナイパーの陣取る木を発見し、クワガタムシを捕まえる時の要領で幹を蹴りつけバイオロイドを叩き落としたのだった。

落ちてくる敵の落下点を正確に見極め、鳩尾(みぞおち)へ強烈なアッパーカットを放つ。

強化された肉体を持つバイオロイドとはいえ急所へのクリティカルヒットを耐えきれるはずも無く、落下時の衝撃も合わさり地面で苦しみ悶えていた。

スナイパーライフルも地面に落ちた影響で若干破損していたが、確実に使用不能とするべくリゲルは脚で思いっ切り踏み潰すのだった。

「トドメは刺さない。だが、戦闘能力だけは奪わせてもらう」

とにかく、これでスナイパーを潰し懸念事項は一つ減ったのである。


雑木林での異変は既に他のバイオロイドたちやサニーズも気付いていた。

意識が短時間だけそちらへ逸れたのを見逃さず、サニーズはハンドガンを握り締めたまま一番手前―子どもを盾にしたバイオロイドへ肉薄する。

そして、確実に命中させられる距離へ近付いたところでトリガーを引いた。

放たれた弾丸はバイオロイドの眉間に向かって吸い込まれていき、そのまま頭部を貫くのだった。

「君! ケガは無い!?」

人質に取られていた子どもはその場でへたり込むが、すぐにサニーズが駆け寄り肩を支えてあげる。

恐怖で固まっているためか、彼女からの返事は無い。

「……逃げられるわね? 君は強い子でしょ? さあ、友達のところへ走りなさい!」

そう言ってサニーズが子どもの肩を押すと、彼女はよろよろと走り出すのだった。

「……どうする? もう貴様しか残っていないぞ」

「僕もいるぞ!」

雑木林の中から出てきたリゲルも合流し、サニーズと二人でバイオロイドを睨みつける。

だが、バイオロイドの表情はそこまで追い詰められているようではなかった。

「この状況は想定済みだ。予備の戦力などいつでも展開できる」

彼女の発言を最初は理解できなかったサニーズたちだが、すぐにそれが分かった。

「……信号弾、発射」

「やらせるか!」

バイオロイドの意図を瞬時に把握したサニーズは銃弾を放つ。

確かに、彼女の射撃は敵の胸腔を貫いていた。

しかし、コンマ数秒の差で信号弾が上空へ放たれ、昼間の空に軌跡を残す。

それを見たサニーズはスマートフォンを取り出しライガへ連絡を行う。

「ライガ、指定座標まで来てくれ! 私の機体も一緒に頼む!」

「分かった、10分以内にはそちらへ向かう。何とか持ちこたえてくれよ」

電話を切った後、リゲルに向かってこう告げる。

「あんたは子どもたちを安全な場所へ連れて行きなさい!」

「待て! 君はどうするつもりだ?」

「さっきの奴が呼んだ増援を片付ける。MF相手に生身じゃ戦えんぞ」

そういう話をしている間にもMFらしきE-OSドライヴの駆動音が聞こえてくる。

自身やリゲルはともかく、全く無関係な子どもたちだけは決して事態に巻き込みたくない。

また、大人は最悪金を差し出せば口封じができるが、子どもはそうもいかないというのもある。

「子どもたちを守るのは大人としての義務だ。自分の身を守りながらそれを果たせ」

「……ああ、君もあまり無茶するんじゃないぞ」

再会した時と同じくグータッチを交わし、リゲルは子どもたちを連れて石造りの階段を下りていく。

あんなに蒼かった空が知らないうちに曇り空へ変わっていた。

「来いよバイオロイド……経験と実力の差を教えてやる!」

サニーズが空を鋭く睨み付け叫んだ時、MFの音が一層近付いて聞こえるのだった。


信号弾の発射を目撃したバイオロイドたちは「プランA」の失敗を確信し、MFを用いる「プランB」の実行へ移った。

そのために信号弾の発射地点へ向かっているのだが、彼女らの機体のレーダーには編隊から外れた光点が映し出されていた。

味方機であれば光点は青く表示されるが、不自然な動きをしている奴は「敵味方どちらにも該当しない」ことを示す緑色で表示されている。

しかし、それ以上に気になるのはMFのわりに光点のサイズが大きいことである。

手動でデータベースから機種特定を行うと、HISには「RM5-20」の情報が表示された。

だが、RM5-20―スパイラルの全高は平均的な数値でレーダー上のサイズと釣り合わない。

そして、肝心の光点もMFとは思えないほどの巡航速度でこちらへ近付いている。

バイオロイドたちの間で「相手は普通のMFとは違うのでは?」という意見が挙がる中、彼女らの駆るユーケディウムをレーザーの弾幕が襲った。

一発は機体のバックパックを正確に撃ち抜き、もう一発は別の機体の脚部を引き裂いた。


「全機、散開(ブレイク)! 散開(ブレイク)!」

編隊を崩し臨戦態勢へ入るユーケディウムを追いかける機体―スパイラルに乗るライガは出力リミッターを解除する。

「(今やった奴を除いて残りは3機か……サニーズの所へ着くまでに2機は削りたいな)」

フライングスイーパーを利用するスパイラルと素の状態のユーケディウムでは巡航速度に決定的な差があり、その点ではスパイラルが有利となる。

しかし、フライングスイーパーに乗った状態では小回りが利かなくなるため、自ずと一撃離脱戦法を取らざるを得なくなる。

当然、相手もそれを分かったうえで反撃に転じてくるはずだ。

「(ヒット&アウェイか……面白味には欠けるが、ここは確実に行くべきだな)」

高機動戦闘を得意とするライガにとって一撃離脱戦法は何の魅力も感じないが、彼は元職業軍人である。

アマチュアと違い状況に応じて戦法を変えることなど造作も無い。

散開していく1機に狙いを付け、フライングスイーパー側の推力を一気に上げ肉薄する。

速度差を活かして攻撃を仕掛けるが、間合いが中途半端なため上手く命中しない。

だが、次の一手を確実に決めるためのデータは取れた。

敵機がレーザーライフルの最低射程且つ狙いやすい射線に入った時、ライガは躊躇せずにトリガーを引く。

完璧なタイミングで放たれたレーザーは敵機を見事撃ち抜き、火の玉と化して落ちていった。


「(さて、次はどう来るかな?)」

レーダーで残る敵機の位置を把握したライガは一番近い相手のほうへと向かう。

命中すれば御の字という程度にレーザーライフルを放つが、案の定かすりもしなかった。

「(敵機のうち片方は陽動だろう。奴はどっちだ?)」

そう思っていると近いほうの敵機が反転して距離を詰めてくる。

おそらく、こいつが「陽動」に違いない。

このまま行けばヘッドオンになると予想し、レーザーライフルを左手に持ち替え右手でビームソードを抜刀し待ち構える。

HISに表示される相対距離を確認し、ここぞというタイミングでライガはレーザーライフルを敵機の進行方向へ発射した。

だが、このレーザーはユーケディウムのシールドを破壊しただけで本体には命中しなかった。

そこまで予想していたライガはビームソードですれ違いざまに斬りかかるが、距離と敵機の回避運動によりこれも外れる。

普通のドライバーならここで一旦仕切り直すだろうが、彼は最初からヘッドオンを「牽制」と割り切っていた。

本命となり得る攻撃を行うため、フライングスイーパーの機首を上げインメルマンターンのマニューバに入る。

ところが、ライガはターンの頂点にさしかかった時点でスパイラルとフライングスイーパーの密着を解除し、自ら空中へ放り出される。

こうすることで旋回にかかる時間を削り、ドッグファイトにおける運動性不足を多少なりとも補えるのだ。

そして、敵機が下方にいるということは優位なポジションを取れることを意味している。

自由落下とスラスター推力を活かしてダイブし、先程すれ違った敵機へ再攻撃を仕掛ける。

反応した敵機と空中で激しい鍔迫り合いを演じるが、3度目の攻撃でスパイラルのビームソードがユーケディウムをバックパックごと貫いた。

あらかじめ入力しておいたプログラムに沿って戻ってきたフライングスイーパーへ再搭乗し、すぐにその場を離脱する。


これで残る敵機は1機だけとなったが、視認できる範囲からは既に離れていたらしい。

レーダーを広域表示に切り替えてようやく位置が掴める感じだ。

幸いサニーズがいるはずの地点とは若干距離があり、全速力で行けば追い付いて攻撃できるだろう。

ただ、彼女の機体を投下するのであればもう時間に余裕は無い。

フライングスイーパーのスロットル開度を最大まで上げ、急いで追撃に向かうのだった。

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