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【14】THE RIDE(前編)

「……本当だよ、僕は『スターライガ』に関わっていない。まあ、有名だから単に名前を拝借したのだろうが……」

昨日、久々に母レティと食事をした際に彼女から振られたのは「最近『スターライガ』なる新興PMCが話題になっている」という話だった。

当然の如くスターライガとの関係性について息子に追及してきたが、ライガはあくまでも無関係だとはぐらかした。

それよりも彼はスターライガの存在が既に軍上層部へ知れ渡っていることに驚いていた。

一応、軍を刺激しないよう露出は控えて活動していたのだが……それとも、レガリアが一枚噛んでいる時点で隠しようが無かったか?

「ふふっ……あなたって子どもの時から嘘が下手ね」

ライガを女手一つで育ててきたレティは息子の性格を誰よりも理解していた。

彼は実の親へ嘘をつけるほど器用な人間ではないのだ。

時にはその純粋さが諸刃の剣となることも珍しくない。

「……母さんの目は誤魔化せないな。確かに、僕はスターライガの創設に少なからず関わっている」

これ以上言い訳を重ねても無駄だと判断し、ライガは降参して真実を明かした。

「そうね、MFをあれほど上手く乗りこなせる人間は今の時代あなた達ぐらいしかいないものね」

別に現在のオリエント国防空軍のドライバーたちがヘタクソというワケではないが、一昔前にライガやレガリアというずば抜けた天才が現れたことでドライバーの評価基準は一変してしまった。

二人が出てくる以前はエースドライバーと評されていたのに、それ以後は「現在の基準では大したこと無い」と評価を下げられた者も少なくない。

ライガたちの世代が退役したのを最後に彼らを超えるドライバーは出ていないと言われている。

「まあ、息子の人生にいちいち口出しするほど過保護な親でもないし、あなたが正しいと思う『信念』を貫くべきね。ただ……」

一息入れた後、レティは言葉を続けた。

「あなた達の行動如何では『オリエント国防空軍総司令官』として(しか)るべき対応を取らせてもらうわ」


昨日の会話を思い出しながらライガは車をセントハイムに向けて走らせていた。

彼の愛車はメイヤがMFで持ち上げた際に少々へこみ修理中であるため、レガリアが所有している日本製スーパーカーを貸してもらっている。

目的地のセントハイムは単独の市ではなく、「ウェルメンハイム市」というより大きな自治体に属する「区」である。

今回コンタクトを取る人物はライガの元同僚であり、現在はセントハイム区内のバイクショップで働いているという。

「そういえば『あいつ』はバイク好きだったなあ」と思い出しつつ、彼の乗る車はハイウェイを降り市街地へ入っていくのだった。


ルミア・オズヴァルト―。

かつてライガやレガリアと共に戦ったオリエント国防空軍の元MFドライバーである。

最終的な撃墜スコアこそトップエースには及ばないが、それでも上位に位置し尚且つ無傷で戦い抜いたという点において高い実力を持っていた。

軍にいた時から日本製スポーツバイクを乗り回すなどバイク好きの一面は有名だったが、退役後地元セントハイムのバイクショップで働いているというのは知らなかった。

「ルミア? ああ、彼女はお客さんのバイクのテスト走行で今はいないよ」

「なるほど、そういう業務もあるんですか」

ライガが店を訪ねた時、ルミアは仕事で外に出ていたため店内にはいなかった。

すぐ戻ってくるということで店長の解説を聞きながらバイクを眺めていると、外からスポーツバイクらしいエキゾーストノートが聞こえてくる。

「お、帰ってきたんじゃないかな」

そう言った店長と共に外へ出ると、確かにスポーツバイクを押す女性ライダーの姿があった。

「んんっ? お前ひょっとして……ライガ・ダーステイじゃないかい?」

女性ライダーはバイクを止め、バイザーを上げながらライガへ顔を近付ける。

燃えるように紅い瞳と190cmへ届くほどの長身はまさしくルミア本人だ。

ヘルメット越しでくぐもっていたものの、声も最後に会った時から全く変わっていない。

「そうだよ、久しぶりだな。まさかお前の『ドライバー』としての能力に再び頼る時が来るとは思わなかった」

その言葉を聞いた瞬間、ヘルメットを外していたルミアは怪訝そうな表情を浮かべた。

「……どうせ深い事情があるんだろ? 話くらいは聞いてやるよ」

彼女は店長へ仕事を上がることを伝え、オススメだという近くの喫茶店で改めて話し合いを持つことにした。


喫茶店のマスターの計らいによりライガは関係者以外の邪魔が入らない場所で交渉に臨めたが、結局ルミアを説得するには至らなかった。

「悪いけど、私は今の生活に満足しているんでね。お前やレガリアに協力したいのはやまやまなんだが、誰かのハンディキャップにはなりたくない」

彼女はスターライガの活動自体には賛同してくれたが、現役を退いてから久しいため協力することは否定した。

「そうか……いや、俺の方こそ無理に引き込もうとして申し訳ない。お詫びにコーヒー代ぐらいは奢ってやるよ」

「はははっ! そうやってシュンとするのは昔と変わんないな! コーヒー代に困窮するほど貧乏じゃねえし、今日は割り勘で構わんよ」

首を横に振って落ち込むライガの姿を見たルミアは思わず吹き出してしまった。

「そうだ! せっかくこっちの方まで来たんだから、世界最新のダムを見に行かないか?」

彼女が言っているのはウェルメンハイム市の西側を流れるサンズ川に建設された「カルロヴァンダム」のことである。

2099年に完成したこのダムは現在世界で最も新しいダムの一つであり、名称はかつて小さな隕石が極めて浅い角度で衝突したことにより生まれたとされる「カルロヴァン渓谷」に由来する。

21世紀末当時の最新技術を駆使し建設されていることからマニアの注目度が高く、観光地としても市の財政を支えている。

「いいね! 写真やニュース映像じゃ何回も見てるけど、実際に行くのは初めてなんだよ」


喫茶店のマスターに礼を述べつつ会計を済ませ、ルミアの「愛車」を取りに行くため一旦バイクショップの方へ戻る。

「俺の車―いや、正確にはレガリアから借りたヤツだけど、アレに一緒に乗ったほうが良くないか?」

「ダメだね。私は背が高いから絶対窮屈だもん」

世の中では背の高い人間は妙にチヤホヤされる傾向にあるが、彼女ほどの高さになると日常生活ではむしろ不便さが増すだろう。

だから、ライガは身長がリリーと同程度で良かったとさえ思っている。

何事もやり過ぎは考え物なのだから。

「んじゃ、私がYRZで前を走るから、お前は借り物の車でついてこい」

YRZとはルミアの愛車である日本製スーパーバイクのことだ。

大柄な彼女は小型バイクに体格が合わず、やむを得ず大型バイクに乗っている。

「分かった、借り物で知らない場所を走るのは怖いからな……ん? 着信が来てるぞ」

これはライガの演技に過ぎず、実際は隣のヴォヤージュ市で待機するサニーズへ逆に電話を掛けていた。


「こちらサニーズ、何か問題でも起きたか?」

「いや、問題じゃないんだけど……今から指定する位置まで移動してくれないか?」

「移動? 機体も?」

「ああ、指定位置はカルロヴァンダム周辺だ。可能なら道路や上空から見えない森の中で、尚且つダムを視認できる場所を見つけてくれ」

実は出発前にレガリアから聞いた噂なのだが、バイオロイドは日本で行われる国際科学サミットの襲撃と並行してカルロヴァンダム攻撃を計画しているらしい。

ダムを訪れた際にちょうど鉢合わせしてしまう可能性を考え、緊急事態の際にライガを援護することになっているサニーズを呼び寄せることを決めたのだ。

「きついオーダーだが……まあ、いい。場所取りは任せておけ」

通話を終えるとライガたちは目的地へ向けて走り始めた。

おそらく、ルミアは楽しいツーリングだと思っているのだろう。


残念ながら彼の予想は的中してしまうのであるが。

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