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【12】ライク・ザ・ウィンド

サニーメルの青空で相対するスターライガとバイオロイド。

先に動いたのはスターライガの方であった。

「ブランデル! 地表ギリギリまで降下して何機か引き付けろ!」

ライガは当初の予定通り4機をまとめて相手取ることを決め、残る2機を孤立させるため相方へ指示を出す。

「了解! 地面が軟らかくなっている場所に誘導するよ!」

テスト当日は早朝まで雨が降っていたため、地表には所々ぬかるんでいる場所が存在する。

総重量550kg程度のMFなら自動車よりもハマる可能性は低いかもしれない。

「左端の2機! あんた達の相手は私がやる!」

オープンチャンネルで堂々と叫び、それと同時に機体を急降下させるブランデル。

バイオロイドたちの編隊も律儀に2機がフォーメーションを離れ、ドロップタンクを切り離し追撃態勢へ移行する。


「(奴らが捨てたドロップタンク、かなり軽かったな。どのくらい遠い場所から湧いて来やがった?)」

落ちていくドロップタンクを眺めていたライガの意識は、けたたましい警告音によって現実へと引き戻された。

咄嗟に操縦桿とペダルを操作し、機体をバレルロールさせて正面から襲い掛かるマイクロミサイルの弾幕を切り抜ける。

敵機とすれ違う際にレーザーライフルを数発放ったが、横を掠めただけで命中弾を与えることはできなかった。

だが、正確に狙いを定めて放った次の一撃はマイクロミサイルポッドを貫き、敵機の攻撃力を奪うことに成功する。

ライガはブランデルとは逆に高高度へ敵機を誘導するべく、機体を一気に上昇させる。

スパイラル2号機は機動力自体はそこまで強化しておらず、垂直に近い角度で高度を上げると推力不足で徐々に失速していく。

しかし、失速するほどの低速域では運動性が飛躍的に向上するという特性を持ち、高機動戦闘を得意とするライガとの相性は抜群であった。

逆にバイオロイドたちが搭乗するユーケディウムは空力特性が違うらしく、戦闘開始時より若干動きが鈍ったように見える。

その弱点を見抜いたライガは機体を制御可能なギリギリの速度まで減速し、隙をうかがう。


チャンスはすぐにやって来た。

ライガ機をしつこく追い回していた1機が失速状態に陥り、一瞬だが硬直したのだ。

「彼女」はスラスターを噴かして速度を戻そうとするが、時すでに遅し。

反応速度自体は非常に素早かったが、ライガ機の放ったレーザーはそれ以上の早さでユーケディウムの脚部を撃ち抜いていた。

推力を失ったユーケディウムは高度を維持できずに降下することを余儀無くされる。

ライガはそちらの方には目もくれず、距離を詰めてきた別の敵機へ対処する。

ビームソードを左手で抜刀し、敵機のビームブレードと空中鍔迫り合いを繰り広げた。

地面に機体を固定できる地上戦とは異なり、足場の無い空中や宇宙では純粋に推力の高いほうが有利となる。

その点ではユーケディウムの方が優勢であったが、スパイラル2号機も柔軟に力を受け流して対抗し、ついに敵機の姿勢を崩すことへ成功する。

そして、一瞬だけ生じた隙を逃さないよう鋭い斬撃で敵機を仕留めた。


同じ頃、地上戦を展開していたブランデルは予想以上の苦戦を強いられていた。

敵機を誘い込んだ場所が思っていたよりも軟らかく、考え無しに脚部を動かすとあっさり足を取られてしまうのだ。

条件的には敵機も変わらないのだが、マシンガン以外に有効な遠距離武器を持たないスパイラル3号機は攻撃するために移動しなければならず、その点では不利と言える。

「ちょっ、ここら辺は深い! 深いから! 押すも引くもできないなんて!」

ブランデルはそれでも敵機と近距離戦を繰り広げていたが、運悪く接地した場所が非常に軟らかかったため足を取られて後ろへ転倒してしまった。

「くそぉっ! こんなところで……何やってんだ、私はっ!!」

戦闘開始からすぐに無線の調子も悪くなっており、ライガに救援を要請することもできない。

もっとも、仮に呼べたとしてもこの状況では間に合わないかもしれないが。

敵機はそんな事など御構い無しにブランデル機へアサルトライフルを向け、トドメを刺そうとする。


楽観的な性格のブランデルも流石に死を覚悟した。


だが、運命は決して彼女を見捨てなかった。

気が付くとアサルトライフルを構えていた敵機はビームジャベリンによって貫かれていた。

「立て、ブランデル! 冷静に機体を動かすんだ!」

レーダーを見ると本来いないはずのスパイラル1号機が表示されている。

しかし、先程の声は明らかにレガリアとは異なる。

つまり、スパイラルに乗っているのは彼女ではない。

「その声……あんた、サニーズね!?」

「話は後だ! 目の前にいるアレをやればいいんだろ?」

サニーズの言葉に反応したのか知らないが、「アレ」を呼ばわりされたユーケディウムはビームブレードを強く握り締めていた。


戦闘が始まったのを確認したサニーズはテスト場へ車を走らせ、半ば強引にスパイラル1号機へ乗り込んでいたのだ。

戦闘発生自体はライガが無線でプラットフォームへ知らせていたため、そちらでは撤収作業が急ピッチで進められていた。

当然1号機も撤収させることが決まっていたが、具体的にどうやって移動させるかでリリカたちは議論していた。

その間にサニーズは稼働状態にあった機体へ忍び込み、周囲の制止を振り切って出撃したというワケである。

ブランクがあるといえ操縦方法は身体が覚えているらしく、初めて乗った機体でありながら破綻することなく乗りこなしていた。


サニーズはビームサーベルを抜刀し、ビームブレードを構えたユーケディウムと睨み合う。

ブランデル機の退避を確認したサニーズはビームサーベルを構えたまま突撃し、敵機を一閃する。

最初の一撃は外したものの、彼女は機体を素早く方向転換して回転蹴りを放つ。

単純に蹴っただけでは流石に決定打にはならないが、敵機の姿勢を乱してチャンスを作るには十分である。

ここからサニーズは現役時代に得意としていたビーム刀剣類による連続攻撃へとコンボを繋ぐ。

絶え間無い斬撃によって敵機の行動を制限し、必殺の一撃を与える隙をうかがう。

そして、敵のリズムがわずかに狂った瞬間を見逃さずに狙い澄ました斬撃を放つ。

「……貴様の負けだ。命が惜しければ今すぐ脱出しろ」

相手の命を奪うまでも無いと判断したサニーズはあえてコックピットを外していた。

彼女はオープンチャンネルで脱出を促す。

だが、バイオロイドはそれに応じなかった。

「……断る! 情けを掛けられるくらいなら、私は潔く死ぬ!」

「何だと!?」

驚くサニーズをよそにバイオロイドは機体のコックピットにあるスイッチを操作する。

次の瞬間、半壊していたユーケディウムはドライバーごと爆発四散していった。

「『塵は塵に』か……馬鹿野郎、命は投げ捨てるモノじゃないんだぞ……!」

一部始終を見ていたサニーズの悲痛な声も、死に逝く者へは届かない。


地上での戦いが終結していた頃、空中戦を繰り広げていたライガは最後の1機を撃墜するべく追い詰めていた。

「彼女」はこれまで戦ってきたバイオロイドの中でも特に技量が高く、ライガの正確な攻撃を(ことごと)くかわし続ける。

「(何か決定打は……そうだな……!)」

状況を打開するため、ライガはドッグファイトを止め一旦敵機から距離を置く。

その後の敵機の動きを見てから次の一手を決めるのである。

撤退するのならそのまま見逃せばいいし、追って来るようであれば迎え撃つまでだ。

「(今、選択権はお前にあるぜ……好きに動いてみろ)」

バイオロイドはしばらくライガ機の動きを探っていたようだが、最終的に飛来した方角へ戻っていった。

たった2機の戦力へ6機で挑んだにもかかわらず返り討ちに遭い、何の成果も得られず撤退となると大目玉を食らうであろうが、彼女へ同情する必要など無い。

「ま、こんなもんか……なあ、ブランデル。無線の調子はどうだ?」

無線の設定を細かく調整し、何とか相方との通信を確保する。

ザザッというノイズ音が数回鳴った後、ようやくブランデルの声が聞こえるようになった。

「やっ……通信……ったか。いやー、直ったのは……しいけどちょっと遅……かな」

相変わらずノイズが混じっているものの、とりあえず生存確認が取れたので少し安心できた。

そして、ライガは無線のチャンネルをスパイラル1号機へ切り替えて語り掛ける。

「スパイラル1号機のドライバー、聞こえるか? まあ、誰かは分かっているんだが、とりあえず地上で話をしようぜ」


「……んで、貴女は何の成果も得られずにおめおめと帰ってきた……そういうことでしょう?」

「はい……まさか、スターライガの3機目にリザーブドライバーがいたとは想定外でした……」

スターライガの見逃したバイオロイドは彼女らの「創造主」がいる場所へ戻ってきた。

「5人いた味方を見殺しにした挙句、自分は敵前逃亡……普通の軍隊だったら銃殺刑ものね」

そう言いながら創造主はデスクチェアから立ち上がり、部下の前へと歩み寄る。

彼女は「粛清」の恐怖に怯えて顔を上げられなかったが、掛けられた言葉は意外なモノであった。

「もっとも、『ここ』は軍隊じゃないし企業でもない。それに、私はミスを犯した部下をすぐに切り捨てるほど非情ではない」

創造主は屈みこんでバイオロイドへ顔を上げるよう促す。

「名誉挽回、汚名返上―言い方は色々あるけど、貴女にチャンスを与えましょう」

「チャンス……ですか?」

キョトンとするバイオロイドをよそに創造主はコンピュータを操作し、何人かの人物のデータをピックアップしてスクリーンへ表示する。


その中にはバイオロイド及び創造主と瓜二つの人物も含まれていた。


「ここに挙げられている娘たちはスターライガがスカウトする可能性の高い人たちね。正確には右端の金髪はうちの娘なんだけど、仮に私との関係が世間に知られたら長女共々保護する方向へ進むでしょう」

創造主が指しているのは右端に表示されているサレナ・ラヴェンツァリという人物だ。

彼女は同じファミリーネームを持つリリーの双子の妹―そして、創造主の実の娘でもある。

「単刀直入に言うと、貴女にはうちの娘の身柄を確保してもらいたいの」

「しかし……創造主様は身内を巻き込みたくないとおっしゃっていませんでした?」

「そうねえ……だけど、『彼』は長女を戦いへ引き込んでしまった」

創造主の言う「彼」が誰の事かは言うまでもない。

「サレナにはちょっと『安全な場所』へ避難してもらうだけよ。詳しいデータは後で渡すから、今は存分に英気を養うことね」

そう言い残すと創造主は部屋から立ち去って行った。


一方、テストを欠席したレガリアは南部の都市スワにあるアークバード本社を訪れ、同社の社長フェニシア・アークバードと交渉を行っていた。

レガリアの目的はスパイラルのADVPを設計できるほど優秀な技術者を獲得する事である。

彼女は目ぼしい人物を既にリストアップしており、それを旧知の仲であるフェニシアへ渡しに来たのだ。

「うーむ、困ったねえ。ここに挙げられている社員はみんな重要プロジェクトに関わっていて、手を離せないよ」

リストを眺めながらフェニシアは唸る。

アークバード社はMFのみならず自動車や航空機の生産も行っており、複数の部門にまたがって活動する技術者も少なくない。

ただでさえ多忙な彼女らを実績の無い民間軍事会社へ移すなどもってのほかである。

友人の経営能力の高さは認めているものの、フェニシアは頼みを断るつもりでいた。


しかし、レガリアが「ジョーカー」を切ったことで事態は一変する。


「ところでさ、バイオロイドが搭乗していた機体について独自調査を行ったのだけど……」

「!?」

バイオロイドの機体―ユーケディウムの話題が挙がった瞬間、フェニシアの表情がこわばっていく。

それを見たレガリアは一転攻勢へ打って出た。

「もし、世界有数の軍需企業様がテロ集団へ兵器(オモチャ)を提供しているとメディアに嗅ぎ付けられたら……どうなるか分かるわよね?」

「くっ……何が言いたい」

苛立つフェニシアをあえて無視し、さらに言葉を畳み掛ける。

「それに、貴女の会社って最近は経営難に陥っているらしいじゃない」

「そんなことっ! 経済を多少かじるヤツなら見りゃ分かる!」

「航空宇宙部門への投資にF1チームの莫大なコスト、アメリカ製航空機のライセンス料……どれだけ総収益を挙げたとしても、結局それらに費やして貴女や社員にはあまり回ってこないってもっぱらの噂よ」

「だから……それがどうしたっ!!」

回りくどい態度を取るレガリアへついに怒りが爆発したのか、フェニシアは思いっ切り机を叩き叫んだ。

彼女の怒号と渇いた音が社長室で反響する。

が、肝心のレガリアは驚くどころか逆に不敵な笑みを浮かべていた。

交渉の主導権は既に彼女が握っていたのだ。

「フェニシア、物事というのは先にしびれを切らした方の負けなのよ」

そう言いながらレガリアは持ってきていたアタッシュケースを机の上に置き、特に躊躇すること無く開いた。

「経営難の社長様とは『これ』で話をつけましょう」

アタッシュケースの中には札束がギッシリと詰まっていた。

ざっと確認しただけでも1億クリエンは確実にある。

「どうしてもって言うならこの100倍の額を出すなり、株式を買収して経営権を握ることもできるけど」

世界有数の億万長者であるレガリアは、その気になればイタリアの高級自動車メーカーやオーストリアのエナジードリンクメーカーを買収できるほどの財産を持っている。

先程の彼女の発言は決してブラフではないのだ。

「……さっきのリストから欲しいヤツを好きなだけ選べ」

ついに観念したのか、フェニシアはソファへ面倒くさそうに腰を下ろす。

「好きなだけって言ってもねえ……私はこの娘がいれば十分かな」

笑顔を浮かべるレガリアはリストに載っている名前を指差した。


そこ記されていた名前は……ロサノヴァ・コンチェルト。

リザーブドライバー

本来のドライバーの代わりに機体へ搭乗する代役のこと。

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