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【11】オフィシャルテスト

2101年6月4日土曜日。

スターライガ創設後初となる公式テストがサニーメル郊外の工場跡地で行われる。

「公式」と謳っているのはこのテストが自治体や警察に許可されているからである。

テストドライバーとして参加するのはライガとブランデルの2名のみ、機体も実際に運用するのは2号機と3号機だけだ。

今回のテストの目的は2号機にライガの操縦データを蓄積させること、ブランデルが本格的なドライバー復帰プログラムをこなすことの2点を重視している。


「そういえばさ、姉さんが鹵獲してきたバイオロイドの機体については聞いた?」

リリーを巻き込んだ戦いの際にレガリアは戦利品としてバイオロイドの搭乗機を鹵獲することに成功していた。

「ユーケディウムだろ? 聞いたことの無い機体だが、見た感じではスターブレイズをベースにしているみたいだった」

ユーケディウム―型式番号RFA-20。

オリエント古語で「審判」を意味する言葉を冠した機体。

技術者たちの分析によるとスターブレイズをベースに別の機体のパーツを部分的に組み込んでいるらしく、機体性能ではストック仕様のスパイラルに匹敵するという。

メーカーは不明だったが、ベース機のことを考えると恐らくアークバード製と思われる。

これまでスターライガがバイオロイド相手に優勢だったのは、本格的な戦闘が少なく技量の差も大きかったからとされている。

「―もしバイオロイドと本格的に戦うのなら、人材だけでなく機材も良くしていかないとね」

「ん? 貴女がスパイラルのアビオニクスを担当する人?」

聞き慣れない声にブランデルが思わず振り返る。

一方、その人物はライガにとっては慣れ親しんだ女性であった。


「……リリカ先輩! お久しぶりです!」

「ああ、君は高校時代から全く変わってないね」

数十年ぶりに再会したライガとリリカ・オロルクリフは握手を交わし、喜びを分かち合った。

「ライガの先輩なの?」

ブランデルはライガと同じ高校に通っていたが、クラスが違っていたため彼の知り合いとは基本的に面識が無い。

「彼とは部活動が同じでね……まあ、私の姉と付き合っていたというのもあるが」

「へえ……あ、私の名前はブランデル・シャルラハロート。ブランと呼んでもらって構いませんよ」

「私はリリカ・オロルクリフ。本職はコンピュータ技術者なんだが、君のお姉さんと契約を交わしスパイラルのアビオニクス開発へ参加することになった」

互いに自己紹介を終えた後、両者は信頼の証として握手とグータッチを交わす。

じつはレガリアの方も独自に人材集めを行っており、ライガの知らない間にリリカとコンタクトを取りスターライガへ加えていたのだ。

これは即戦力となる人材どころか傑出したスキルを持たない民間人(リリー)を厄介事へ巻き込んだライガへの意趣返しも多分に含まれていた。


プラットフォーム内部の更衣室でコンバットスーツへ着替えたライガとブランデルはそれぞれの機体へ乗り込んだ。

2号機は運動性を向上させるためにスラスター推力が強化されているほか、高出力レーザーライフルを扱えるようE-OSドライヴも緻密な調整が図られている。

カラーリングもライガのヘルメットに似た白+蒼+銀の3色を用いるパターンへ塗り替えられた。

一方、3号機は中身こそストック仕様からほとんど変わっていないが、カラーリングは1号機よりもさらに深い紅色へ変更されている。

主兵装は以前の戦いで用いたバスタードソードを正式に採用する。

なお、乗り手(レガリア)のいない1号機は地上でアビオニクス試験に用いられる。

今回のテストでは火力演習も行う予定であり、2号機と3号機は全武装を使用できるようにセーフティが解除されている。


「さて、フィジカルトレーニングに関してはしっかりこなしてきたけど、MFの操縦は身体が覚えているかな?」

脳震盪から快復した後、ブランデルはドライバー復帰のためにトレーナーを雇ってトレーニングを重ね、現役時代と同程度の身体能力を取り戻した。

MFドライバーに必要とされるのは「Gへ耐えられる『必要最低限』の筋力」「全身に血液を送れる強心臓」「余分な脂肪を削いだスリムな身体」「戦況や機体状態を把握できる頭脳」「戦場という極限状況下における精神力」であり、奇しくもこれらの要素は自動車を駆るレーシングドライバーに求められるモノと変わらない。

MFというものは民間人がいきなり乗りこなせるほど簡単な兵器ではなく、訓練を積んだ選ばれし者のみが扱える存在なのである。

「あー、02より03へ。ちゃんと俺の声は聞こえているか?」

「チェック、チェック……嫌になるほど聞こえるね」

機体を発進させる前にライガたちは無線の確認を行う。

テストとはいえ、無線を利用した連携は安全性の点でも重要である。

「機体に振り回されて地面とキスは勘弁してくれよ?」

「ははっ! 平気平気、流石に初っ端から無茶はしないっての!」

ブランデルは笑いながらライガに向かってサムズアップしている。

バイザー越しなので表情は分からないが、おそらくいい笑顔なのだろう。

「そうだといいんだけどな……ん、レーダーに反応?」

機体の最終チェックを行っていたライガはレーダーへ視線を移す。

「ライガ? どうかした?」

「……招待していないお客様がおいでなすったみたいだ。ユーケディウムが6機、IFFへの反応は無い」

どうやら、スターライガがテストを行うという情報を何かしらの方法で嗅ぎ付け、戦力が分断されている今のうちに潰すつもりらしい。

6機送り込んできたということは、スターライガ1機に対し2機で相手取る作戦なのであろう。

だが、それでは2機が手持ち無沙汰になってしまうのだが……。

「ブランデル! 俺が4機は引き付けてやるから、お前は残りの2機をやってくれ!」

性能が強化されたスパイラル2号機とライガの技量なら、ユーケディウム4機と互角以上に渡り合うことができる。

しかし、色を塗り替えただけの3号機と復帰明けのブランデルに同じ仕事をさせるのは難しい。

「了解! スターライガの『公式戦デビュー』を勝利で飾ろうじゃないの!」

まず、気合十分なブランデルが機体を空へ飛び立たせる。

「バイオロイドたちめ……戦力の見積もりが甘かったことを教えてやるぜ!」

続いてライガ機が最大推力で飛翔し、ブランデル機を追い越して敵機へと向かっていった。


同じ頃、サニーズはグロサリーストアの駐車場からスターライガの出撃を眺めていた。

「(あっちの6機がバイオロイドとやらの機体か……まさか、ライガは2機で相手をするつもりか!?)」

そう確信した彼女はすぐに双眼鏡をしまい、車に乗り込むと戦場へ向かって走らせるのだった。

オリエント古語

現代オリエント語が普及する以前に用いられていた言語。

現在では固有名詞としてのみ使用されている。


ストック仕様

MFにおいては工場出荷状態から何も手が加えられていない機体を指す。


グロサリーストア

オリエント連邦におけるコンビニエンスストアのような小売店のこと。

コンビニと同じく24時間営業であるが、

深夜帯は店内設置の自動販売機による無人営業となる。

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