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プロローグ

―少し、歴史のお話でもしましょうか。

私の生きている「世界」と貴方の生きている「世界」が如何に異なるかを教えるためにもね。


まず、私たちの世界で用いられている紀年法は「栖歴(せいれき)」というの。

今年は2100年だけど……あと数日で21世紀も終わってしまうわね。

この歳になると時の流れを早く感じるわ。

そして、あの「災厄」からも100年が経過しようとしている……。


栖歴2000年3月2日、太陽系が銀河系有数の密度を持つアステロイドベルトへ突入。

地球を含む太陽系の各惑星に大量の隕石が降り注いだ。

当時有効な対策手段を実行へ移せなかった地球にも5日間にわたって容赦無く隕石が落下し、世界規模での被害が生じた。

アフリカ大陸やユーラシア大陸のほぼ全域、中東地域は人間を含むあらゆる生物が死滅し現在は「禁断の大地」と呼ばれ手付かずのまま放置されている。

ユーラシア大陸西部に位置するロシア共和国は隕石災害によって領土の3分の2を失い、国際的な影響力も大きく損なわれた。

また、オーストラリア周辺では隕石に含まれていた鉱物の成分によって綺麗だった海が有毒化し、多大な経済損失を被った。


しかし、本当の地獄はここからだった。

辛うじて無事に残った資源を巡り各地で紛争が勃発。

国内で頻発する暴動により自棄を起こした国家が周辺国へ武力侵攻を行い、逆に返り討ちに遭って「浄化」される―という事態まで発生した。

2000年末には被害が少なかった国々が協力し合ったことで情勢が落ち着き始め、

翌年には各地で本格的な復興作業が開始される。

ところが、隕石は予想外の「傷痕」を地球へ残していたのだ。


災害からの復興と並行して各国の専門家たちはクレーターの調査を開始したが、

彼らはウラル山脈の麓にある都市ウファ近辺にて奇妙な出来事に遭遇する。


ウラル山脈より東へ行くことができない。


当初は「専門家たちは遭難したのでは?」と言われていたが、同じルートから山脈越えを目指した別グループや日本からサハリン島経由でユーラシア上陸を目指した者たちもやはり行く手を阻まれた。

当時の人々は知る由も無かったが、これは隕石落下の衝撃で空間に歪みが生じ見えない壁ができたためである。

今日ではこの見えない壁は専門用語で「世界線」と呼ばれている。

世界線の内部に存在する場所は外部から観測することができず、地図で表現しようとすると該当部分だけが空白になってしまう。

こうして、世界線で隔たれたユーラシア大陸の一部と宇宙に浮かぶ「月」は時代から取り残され、やがて存在していた事実は忘れ去られていく―かと思われた。


栖歴2027年、人類史上最大規模の隕石災害「終末の5日間」を乗り越えた地球へさらなる試練が訪れる。


かつてフィクションの世界でしか語られなかった異星人の襲来である。


「フロリア星人」を名乗る彼らは地球におけるパワードスーツのような新機軸の

兵器「プロトタイプマシン(PM)」の特性を活かした電撃戦によって各地の戦闘で勝利を収め、一時期は地球全土のうち約85%の地域を支配していた。


じつはフロリア星人は全員が地球侵攻を望んでいたわけではなく、一枚岩の体制でないことによる弊害が徐々に出始めていた。

開戦から9ヶ月ほど経過した頃、とあるPM設計者が軍拡へ突き進む母星の行く末に危機感を抱き、地球へ亡命するという大事件が発生する。

「彼」が追っ手を振り切り辿り着いたのは世界線の内部に人知れず存在していた「オリエント連邦」という国だった。

2020年代になると世界線が弱まり始めており、ごく一部の地球人はオリエントの存在について把握していた。

とにかく、亡命に成功した「彼」は見返りとしてフロリア星人が持つ数々のオーバーテクノロジーをオリエント連邦軍の技術者たちへ授け、戦争を終わらせることを託した。


―私もフロリア星人のオーバーテクノロジーを授けられた一人よ。

彼らの技術力は確かに凄かったわ。

当時地球では研究段階に過ぎなかった光学兵器に空間投影技術、巨大な軍艦を浮揚させる重力制御システムやそれを動かす核融合炉……あの亡命事件が無ければ地球人は終わっていたかもね。

まあ、一番の収穫はPMに関する技術を多数得られたことかな。

それを基に私たちは地球版PMと呼べる新兵器「モビルフォーミュラ(MF)」を開発し、反攻作戦への準備を整えつつあったわ。


しかし、技術格差が一気に縮まったところで新たな問題が発生する。

MFの運用ノウハウ及び人材の不足である。

幸い人材に関しては戦闘機パイロットの一部を転科させることで確保したが、運用ノウハウばかりは訓練や実戦を重ねなければどうにもならかったはずだった。

2029年2月、各地の戦線で活躍し敵味方双方に名を知られていたフロリアのエース部隊が突如オリエントの領空内へ現れ、国内の空軍基地で投降した。

彼らは民間人を巻き込む無差別攻撃作戦へ反発した結果、督戦隊(とくせんたい)に追われていたのだった。

部隊を率いていた男は15年近くPMに乗り続けていた大ベテランであり、彼は「自身及び部下たちの安全を確保してくれるなら、MFの運用に協力したい」と申し出た。

これをオリエント連邦軍が快諾したことで奇妙な混成部隊が誕生したのであった。


2029年3月、史上初のMF専門部隊が本土防空作戦のため出撃し、開戦以来初めてとなる地球側の勝利を掴んだ。

これで勢いを得た地球側は各地の戦線を徐々に押し返し始め、同年12月の第2次オリエント本土防空戦を経てついにフロリア星人を地球から撤退させることに成功する。

その後戦場は宇宙へと移行し、フロリアが建設していた宇宙要塞の陥落を以って約3~4年に及ぶ戦争は終結した。

戦争の勝利に貢献したオリエント連邦は一気に国際的な発言力を高め、先進国の仲間入りを果たした。


その後、地球に潜伏していたフロリア星人残党との戦いが続いたが、それも2050年代に大規模武力蜂起が失敗したことで終わりを告げた。

地球はようやく本当の平和を取り戻し、科学文明を極めた人類は宇宙を目指すのであった。


―この通り、私たちの世界は大規模な災害や戦争を何回も経験しているわ。

そして、これからも人類は決して戦いを忘れることはできないでしょう。


長い昔話を聞いてくれてありがとう。

……私が何者かって?

ふふっ、いずれは正体を知ると思うけど、今はその時じゃない。


さあ、「彼ら」が歴史を動かす瞬間を見ていきましょう。

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