winter prison ~ただもう一度逢いたくて~
一歩、また一歩、私はただ歩き続ける。
4つの異空間が触れ合って、安定を保つことができるこの世界。
私はその一つである、winter prisonに投獄されている。
この空間は永遠に振り続ける雪が白く染めた氷の牢獄。
一度入ると二度と出てこられないと言われている罪人を押し入れるための場所。
私はそこに魔女として投獄された。
身分差を考えず、国の第一王子に恋をしてしまった。
きっかけは偶然、だけど惹かれあうことは必然だった。
ただ、王子は貧民街に住む私たちのために、国を豊かにするために協力してくれただけに過ぎない。
その時、王子と一緒に、貧民街の代表として協力したに過ぎない私は、懸命に頑張ってくれる王子の姿に憧れた。
どうしたらこの人のようになれるだろう。そう思っていたのだけど、それは次第に恋心に変わっていく。
気が付けばいつも王子のことを考える日々。
だけどそれだけでも幸せだった。
どうせかないっこないのだから。心に留めておこう。そう誓ったはずだった。
幸運か不運か、王子も私のことを思ってくれて、私たちはお付き合いをすることになる。
だけど、それは国が許してくれるはずがない。
私は魔女として、この氷に閉ざされた白い世界に押し込まれた。
ここに来た時も、諦めようとした。何度も、何度も、何度も。
だけど諦めきれなかった。
不意に浮かぶ彼の笑顔。忘れようと思えば思うほど、彼との記憶が蘇る。
ただもう一度逢いたくて。私はこの世界を脱出することを決意した。
歩いて、歩いて、歩いて、ただひたすらに歩いて。
途中、いろんな出会いがあった。
私と同じ理由で投獄された魔女の遺産。
彼女が沢山のものを残してくれたおかげで、私は今、ここにいる。
彼女は同じような運命をたどるであろうものに道しるべを用意してくれた。
彼女は成し遂げられず、半ばで倒れてしまった。だけど、彼女が残してくれたものは大きかった。
二度と出られないと言われているこの場所は、異空間が触れ合っているために、脱獄することが可能であること。
だけど、出口付近には『氷の悪魔』と呼ばれる不気味な化物が存在すること。
この世界はどういうものなのか。存在する生物は?
ありとあらゆる事が書かれていた彼女の手記。そして、私の旅路を助けてくれた彼女の魔法。
あともう少し、あともう少し歩いたら、ここから出られるはずなんだ。
一歩、また一歩、彼に会うことを目指して。
雪が足を重くする。進むたびに奪われる体力。
霞んでくる目、だけど歩みは止めない。
もう一度会いたいから。一人、孤独に死んで行くより、彼に会うことを目指し、ここを脱獄することを選んだ。
絶対に会うと決めたから。
だけど、この世界がそれを許してくれなかった。
降り積もる雪が私の足を邪魔しげ、大きく転ける。
寒さのせいでかじかんで、体の感覚がなくなってくる。
「あと……あとちょっとなのに……」
感覚のない腕を動かそうとするが、全く動かない。
体が動くことを拒絶する。もう、一歩も動くことができない。
私はこのまま死ぬのだろうか。
そう思うと涙が溢れてくる。もう一度会うって決めたのに。あともうちょっとなのに。
動いてくれない体に文句を言って、動けないことに絶望して、私はただ泣くだけ。
空から降ってくる雪が私の上に降り積もってきた。
きっとこのまま雪のしたに埋もれてしまうんだろう。
そして私は凍死する。
少し、眠くなってきた。もう諦めよう。このまま静かに眠れば、きっといい夢が見られるはず。だから……もう。
私は瞳を閉じて、その場で眠ろうとする。
冷たいという感覚も次第になくなってきたおかげで、この場が心地よいと感じられるようになった。
ズスゥーーーーーン
地響きみたいな大きな音。まるで歩いているようにゆっくりとこちらに近づいてくる。
唯一動かせる顔を音が鳴った方に向ける。
そこで見えたものは『氷の悪魔』と呼ばれる化物だった。
ああ、神よ。あなたは私に安らぎを与えてはくれないのですね。
あの『氷の悪魔』に食われて、無残に引き裂かれ、私はきっと死ぬだろう。
もう体の感覚がなくなっているけど、牙が突きつけられ、体を引き裂かれたとき、痛いと感じるのだろうか。
これで私の人生はおしまい。もう一度会いたかった。
私は静かに目を瞑る。きっと殺されると分かっていても、見るのが怖いから。もしかしたら夢なのかもしれない。そう思っても、グルルとうなる声とポタポタと垂れるヨダレが現実であることを証明している。
だから私は見ない。きっとそのほうがいいと思った。
だんだん近づいてくる獣のような息遣い。
なにかが私の体を掴んだ感じ。触られたのはよくわからないけど、体を動かされたので、感覚でなんとなくわかる。
もうすぐ食べられる。そう思ったのに、それがなかなかやってこない。
「……………?」
私は静かに目をあける。そこに映っていたのは、切り裂かれた『氷の悪魔』だった。
そして、後ろから現れた影が、私を支えてくれた。
「ガーヤ! しっかりしろ。ガーヤ」
私は夢でも見ているのだろうか。
私の目には、王子であるアルカ様の姿が映る。
手から次第に感じられる温もり。必死に声をかけてくれる姿。
それはまさしく本物で、私は再び出会うことができた。
「アルカ……様。本当に……」
「ああ、お前を助けに来た。待っていろ!」
アルカ様が私を背負い、この世界の出口に向かって歩んでくれる。
私は、次第に戻ってくる感覚を頼りに、アルカ様の背中を抱きしめる。
「死なせない、絶対に死なせないぞ!」
アルカ様は、周りを気にしながら急いで出口を目指す。
先ほど『氷の悪魔』を倒した。その影響で、ほかの悪魔たちが群がってくる可能性がある。死にかけの私なんかを背負っている場合じゃない。
だけど、アルカ様は見捨てなかった。
絶対に私を落とさないと言わんばかりに、腕に力が入っているのがわかる。
「アルカ様。私はもう……だから……」
「そんなこと言うな!」
「で、でも……」
「でも……じゃない!」
アルカ様は私に怒鳴りつけるようにそう言った。
少し怒ったような、だけど絶対にあきらめないと決意したその顔。きっと私が死んだら悲しみの顔になるだろう。
だけどこのままじゃ……、私の命がないのは私自身わかっている。
でも、私のせいでアルカ様が死んでしまったら……私はどうすればいいのか、それがわからないから怖かった。だけど、アルカ様は違った。
「お父様も、国のみんなも、妖精たちも全てのものに俺とガーヤのことを認めさせてやった。あとは帰るだけなんだ。帰ったら、一緒にいられるんだ。だから捨ててなんて言わないでくれ。
絶対に助けてやる。もし、ここを出ることができたら……」
アルカ様は、急ぎ足に何ながらも、息を大きく吸い、覚悟を決めた表情になる。
そして、大きな声で叫んだ。
「俺と結婚してくれ、ガーヤ!」
その言葉がたまらなく嬉しかった。
私たちの想いは一緒でも、周りが認めてくれるはずがなかった事。
だけど、それが全て解決しているのだ。
そして、結ばれるはずがないと思っていたアルカ様と結婚ができる。
そう思ったら、心の奥が暖かくなってくる。
私は弱りきった体にムチを打ち、アルカ様を強く抱きしめて、小さく「はい」と返事をした。
読んでいただきありがとうございます!




