空を飛ぶもの
私は空を飛んでいた 地上を見下ろすと焼野原に人の屍が無数に倒れていた。
戦か 人間どもも飽きぬものだな そんなことを考えながら地面に降りていくと
黒焦げになった桜木の根元に母子の死体があった。母親は子を庇い黒焦げになっていたが
子供の体は綺麗なものだった。が煙で息ができなかったのだろう。
母親の腕の中で冷たくなっていた。
子供の魂は母親の亡骸から離れることができず、独りで泣いていた
もうそこに母の魂はないというのに。
死してなお人の世の悲しみで苦しむ必要もなかろう。
私はその子供の魂をそっと抱き上げ、桜の種に入れた。
桜の精に転生して長い時間を使い苦しみを癒すがよい。
そう言うと泣き止んだ子供の魂は私に尋ねた。
「お母さんにまた会える?」
「また会えるよ いい子で寝ていると春が来るからね
そうしたら桜を見に来た母上に必ず会えるさ」
母親の魂は輪廻の世界に還っていた。
時間はかかるだろうが、一度会えたものに二度と会えない道理はない
桜の精の時間は悠久だ。後は人の世の苦しみから離れのんびり休めばよいだけのこと。
良い土地を見つけたら、そこにお前を埋めてやろう。
私は桜の種を胸にしまいその場を飛び去った。